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【番外編】21.究極の二択
しおりを挟むレディアンがニルエを見て思わず口を開けた。
「なっ? その格好・・・? ニルエ?」
「わっ」
ニルエ君は瞬時に僕の隣に、そして腰をガシッと抱いた。はたから見たら、王子様に抱かれるの図、だろう。背丈もあって、あぁ、まつ毛も長い。引っ越し業者の格好をしていてもこれ。そうじゃなかったら、さらにどんなに美しくカッコいいことか。
「おれの兄さんは返して貰います」
「っ!?」
俺の動揺を想定していたかのように、ニルエ君は僕にウインクしてみせる。
「大丈夫だよ兄さん。おれの家があるから、そこで暮らそう。両親から護るよ」
そして額にチッス。
「~っ!」
惚れてまう! ダメだ! こんなイケメンな弟だったなんて!
「うぅ、ごめんこんな兄で」
「え?」
「普段は引き籠り。仕事と言えばインターネットの世界のバーチャルライバーっていうのやってて、好きなゲームを実況してるゲームのオタクなんだよ」
「知ってる。”黒ずきん”でしょう?」
「うんそうそう、黒・・・」
え?
「え?」
「ん?」
「え、えっ!? 何で知って・・・」
にっこーと微笑むニルエ君。
「おれの特技は情報収集、裏で情報屋してるんだ」
「何ソレカッコいい!?」
「それで、元王レディアン様の元でこっそり働いてたんだ」
「うぇっ!?」
「レディアン様のハレムは皆、裏家業を持ってる者達の集まりなんだ」
な、な、何だってぇっ!?
「じゃじゃじゃじゃじゃぁ僕、ハレムチガウ! ハレムハイレナイ!」
何故かカタコトになった。
「・・・だから」
ニルエ君はレディアンを見つめる。
「ハレムに初めての"普通の子"を入れたから、皆が不審がってね?」
レディアンはあぁ~と項垂れる。
「そりゃおかしい・・・ね?」
「うん、だからどんな子、なのかなって。そしたら、おれのずっと探してた兄さんだったから・・・」
ぎゅっと腰を抱かれた。
「レディアン様、おれは契約の際、言いましたよね?」
契約?
「貴方のハレムに入り、貴方の駒になる。その代わり、兄を探す協力をすること、兄を見つけること、と」
「・・・・・・あぁ」
罰が悪そうな顔を浮かべるレディアン。
「おれ、怒ってるんです」
「「え」」
僕とレディアンの声が重なる。
「兄さんを見つけたらすぐに報告する約束でしょう?」
レディアンの耳がピンッと立った。
「そ、それはそうだが・・・」
「レディアン様、まさか彼がおれの兄だと知らなかったはずはないでしょう?」
「・・・・・・あぁ」
「貴方様のお気に入り、だとしても、契約違反です。ビジネスに私情を入れないで頂きたい」
彼が僕の弟? カッコ良過ぎるんだけど。
「聞いてくれ、伝えるつもりだったんだ」
「ただの言い訳です」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が流れる。
えっと、僕はどうしたらいいんだろう。どうすれば円満解決・・・できるのだろう。
「・・・頼む、金は払う。アーニャを返してくれ」
お金で解決しようとする元王。あの、そもそも僕は貴方のものじゃないんですけども。
「話を聞いていましたか? おれの気持ちを汲んで下さっているなら、お金で解決する話じゃないでしょう? それと、元より兄さんは貴方のものじゃありません。クロエ家の血縁者のものです」
あの、僕はその、もの、じゃないんですよね・・・。
刹那、レディアンの雰囲気が一変する。
え?
「ニルエ」
レディアンがボフンッと、赤茶色の熊の姿になった。牙を向き、鋭利に瞳を光らせた。
「さっきから・・・」
何、何、どうしたんだ!?
「ハレムと言えど、我が家に入ることは絶対に許されないぞ」
毛を逆立てフシャーッする元王がいた。
あれ? あまり沸点のないあのぽやんレディアンが、怒ってる? のか。
それに忘れていたけど、さっきから普通にニルエ君は玄関と言えど、家の中に入っちゃってたな。
「へぇ? 初めて拝見しました、その御姿。ベッドでは絶対にその御姿にはならなかったのに」
僕も初めて見た。本当に熊してるんだ。
「はは、熊人のハイブリッド種は、本当に孕ませたい雌にしかそのお姿を見せないんですよね?」
「? ハイブリッド種?」
「あ、兄さんは知らなかった? ハイブリッド種っていうのは、自在に人の姿と獣の姿を操れる獣人のことだよ。重宝されててね、特に雄の精子が強いんだ」
「・・・精・・・強・・・」
また?
精子が強いってどういうこと? どういうことか教えて欲しい。
まぁ、獣人の中でも凄い存在なのは分かったけれども。
「だからって、兄さんは渡さない! 兄さんを幸せにするのはこのおれだ!」
「えっ」
キラキラの瞳で、ニルエは僕を見つめる。
それは・・・ダメだろう?
それはあかんやつだろう弟よ。
「両親が兄さんを勘当したのは、正直、おれには好都合だった」
「えっ・・・」
「だって! 兄さんと、養子縁組して、新たに家族になれるんだから!」
「そっ・・・」
そんな簡単にいくのだろうか?
「一緒に、おれも"黒ずきんの弟"として、バーチャルライバーになって稼ぐんだ。あ、勿論情報屋は続けるよ、いい収入源だから」
何と言う将来設計だ。
「・・・・・・まぁ、それもいいかも」
「! でしょうっ!?」
「よくないだろうっ!?」
レディアンの怒号が響く。
「養子縁組とはいえ、アーニャ、君は彼の嫁になるつもりかっ!?」
「・・・え?」
「届けには親子の他に、夫婦にもできる。ニルエは百バーセント後者だ」
「え?」
ニルエ君を見やると、にまぁっと満面の笑みが溢れ零れて来た。
「絶対に幸せにするね兄さ・・・じゃない、アーニャ」
「えーっ!?」
ニルエを引き剥がそうとするも、ビクともしない。
「兄さんは、おれとレディアン、どっちを取るの?」
「はぃ!?」
「勿論、おれ、だよね?」
「今さっき今日ナウ! 会ったばかりですがっ!?」
「レディアンの時もそうだったんでしょう?」
「・・・そ? そうだね・・・」
「じゃぁ一緒じゃない」
「え・・・何が?」
「何って、夫候補だよ」
「チッ」
初めて、レディアンから舌打ちなるものを聞いた。これは、本当に怒っている。
「同じ舞台に立ってるよレディアン様。この際、ここできちんと選んで貰いましょうよ」
ようやく、ニルエ君の手が離れ、体が解放された。
「おれを選ぶか」
何で。
「レディアン様を選ぶか」
何でこんな究極の二択になってるんだ!?
というか、さっきから、僕、「え?」しか言ってなくね?
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