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10.可愛いは何でも許される
先生、来ないんじゃなかったのか。
『おぅ、よく来たのぅ統吾』
犬神様が先生を知ってる!? しかも呼び捨て。
「いらっしゃい統吾さん」
「お久しぶりです亜子さん。相変わらずお綺麗ですね」
「まぁ、貴方も相も変わらず、ね」
先生が苦笑を浮かべる。
何その意味深な言葉。
「部屋にご案内しますわ、皆様こちらへ」
畳に座るのは半年振りか。この和風の質感と香りがとても好きだ。座布団に犬神様がちょこんと座っている。
『さて、ここへ来たのは、董一郎と言ったか、お主の桃の気を押さえていた槐の木のブレスレットが破壊した故に、新たなものを求めて来たんじゃったな』
「はい、まさか友樹のこの御実家にあるなんて驚きました。先生に数が少ないと聞いていたので」
『うむ。この槐の木はな、昔桃太郎に頼まれて植えて、ずっと子孫代々絶やさずに受け継がれて来たその一本じゃ』
「桃太郎に頼まれて・・・」
『そうじゃ。桃と鬼を繋ぐ優しい木だと言っていた』
犬神様は桃太郎とどういう関係なんだろう。
『さて、ブレスレットが弾け飛んだ、そうじゃな?』
「はい」
『それはの、まず一つ目。ただお主の力が強まって抑えきれなくなっただけじゃ。自分に合った鬼が現れると、桃はそのフェロモンを色濃く出し、その鬼を自分の虜にしようと誘惑する。自分の子孫を残すための自己防衛じゃ』
自分に合った鬼?
犬神様が俺の周囲を見て、視線を先生に送った。
『分かりやすいよの統吾。桃も一途やて』
嘘。え? つまり、え?
「それだけだったらどっ・・・・・・・れだけっいいか! オレは別の要因でこいつに会ってからずっとフェロモンに付きまとわれてます」
「別の要因?」
『二つ目。まぁ、正確には、この董一郎を媒介に流し込んでいる、というわけじゃが』
「え?」
「そうです。それが不快でならなくて」
どういう意味だ?
『董一郎』
「はい」
『お主、兄妹がいるのではないか』
「え、あ、はい。妹が」
『名は?』
「陽菜です」
『もしや、桃巫女。桃源郷の当主かのぅ』
「! は、はい。さすが犬神様ともなるとおかわりになるんですね」
犬神様の青いビー玉の瞳が俺を映す。
『見える、見えるぞ。兄を餌に釣りあげようとする愚かな女狐がな』
「え?」
『おまえさんの力が強くなった。それを引き金に、桃巫女との同調が、絆が強くなった。結果、おまえさんの体を通して妹君が統吾を見つけ、巫女自身のフェロモンを送ったせいで、その大量で濃いフェロモンにブレスレットが耐えきれなくなったんじゃ』
俺の中に陽菜が?
「なんでそんなこと? 妹は桃源郷にいるんですよ? できるわけ」
ー陽菜は凄い力を持っている。歴代の最高な桃巫女だ。
ー比べてなんだ兄の方は。桃なのにただの人間じゃないか。
『出来るから当主に選ばれるのだ。桃源郷は外界との交流をしない。恐らく、兄の外界への進出を許したのは』
「オレがその妹君の目に止まったから、でしょうね」
「? 先生、陽菜と会ったことあるのか」
「夢でね。夢渡りをしてきたんだ彼女は。でも彼女は桃巫女、桃源郷を出ることが許されない。だから喜んで君の外界進出を許した。本来、先祖返りは桃源郷を出ることは許されない掟だけれど、桃巫女の彼女がイエスと言えば、皆誰もが納得するでしょう」
先生は俺を凝視した。
「出来損ない。桃の能力なし。このレッテルを貼れば桃源郷にいる意味は無いからね。そうでしょう」
『出来損ないとは酷いのぅ。今はその鬼倉家の秘石でジャミングして妨害しとるようだけど、いつまで持つかのぅ』
「そう、なので早急に槐の木とこの秘石を、後はこの紐で括りたい」
先生が紫色の紐をテーブルに置いた。
『縁切りの紐か。よく手に入れたのぅ』
「知り合いに蜘蛛女がいるので」
「まぁ、縁結びならぬ縁切りの紐なんて初めて見ましたわ」
「えぇ。こちらからあの桃巫女との縁を切るにはこれしかないんです」
『左様な。このまま行くと、董一郎は桃巫女の操り人形じゃしな』
「え」
「君は全くのお鈍ちゃんだからね。君の能力は恐らく受容体。だからすぐに壊れない。桃巫女にとっていい媒介なんだよ」
「受容体・・・」
「桃巫女が鍵なら、君は鍵穴だ。実にエッチだ」
お兄ちゃんだから鍵が良かったのに・・・って。エッチっ!?
「何がっ!? 何処にそんな要素あった!?」
「何にせよ、一卵性の双子、だから繋がりが強い」
「なんで知って」
「本人が言ってたからだよ。いい子ぶってるが飛んだ尻軽女だよ」
「俺の妹をそんな風に言うなよ!」
「分からない知らない君じゃないでしょう?君は知ってる」
陽菜の部屋に毎夜違う鬼が入っていくのを知ってる。愛想振りまいて、可愛い子ぶってるのも知ってる。でもでも!
「知ってるよ! でも可愛いんだもん! 可愛いから許されることだ! それの何が悪い!?」
「・・・呆れたこのシスコンが」
「うるしゃい! 陽菜は、陽菜はすっごく可愛いんだ」
「君がそんなだから上手いこと手の平で転がされてるでしょう」
「あぁっ」
突然寡黙だった友樹が声を荒げた。
「桃の巫女? 長髪ピンクの紅い着物着た女?」
「? おまえ何で知って・・・まさか」
「昨晩夢でヤったわおれ、ガッ」
亜子さんの鉄拳を喰らい吹っ飛んで行った。
「全くこれだから雄は。ホイホイ誘われて合体したがるんだから」
まさか。陽菜が友樹と。もうそんな関係?
先生が頭を抱える。
「犬は言ってはなんだが忠犬と呼ばれるだけあって、催淫されてないといいんだけれど」
なんかうちの妹がすいません。まさか俺の妹が絡んでるなんて・・・。
「てか先生」
「なんだい」
「先生は何で無事なの?」
ギロリと睨まれた。
「無事じゃあ無かったでしょうが」
俺の両頬をグイグイと引っ張る。
「ふぇー?」
「オレにされたこと、もう忘れたのかい?」
先生に、された?
「あ~・・・あ?」
なんかあったっけ?
「君はぁ! 無意識に桃巫女に操られて、初めての処女のくせにこなれたビッチみたいになったでしょう!」
な、なんだってぇ!? ビッチ!? それはさすがにない!
「ほんなほとひてはぁい」
「なんかおかしいと思ったんだよね。自分から腰振るなんて、処女がありえないし」
「なっ」
そんな腰を振るなんて淫乱な!
「オレが男を抱けるはずがないのに」
まだ言ってる。
「まぁ、推測がこれで合点したからスッキリしたけどね」
『ふぉっふぉっふぉ。鬼倉というものが、一本取られたのか』
「オレとしたことが不甲斐ない。だけどもう桃巫女と彼の味の違いは分かったのでっ」
「いっひゃい」
ようやく頬を解放された。
『さて。早急にブレスレットを作らせよう。その組紐と秘石を組み合わせるならば、その秘石を預からないといけないんじゃが。それなしで彼は大丈夫かのぅ?』
「大丈夫です。この間、桃巫女のフェロモンを排出させたので。その後栓したんで」
「栓?」
『栓、か。どおりで董一郎からおまえさんの匂いがプンプンとマーキングしておるわけよぅ』
マーキング!? そう言えば友樹も言ってたな。
「蟲頭が走るんで」
ひっ。偶にこうやって笑ってないくせに微笑むの止めて欲しい、怖いんだけど。
『ほぅ?』
「先に見つけたのはオレの方なんで」
「?」
まとめよう、つまり。
先生は折角の陽菜のフェロモンが一旦俺という大嫌いな男の体に入って穢れてしまい、それを俺から食事しないといけないわけで。俺に栓をすれば陽菜のフェロモンが入ることなく、彼女が穢れることはない。
「夢より現実で会いたいものだね」
やっぱりーっ! なんだ、俺の為に皆動いてくれて感動かと思いきや、違う。
先生は妹に会いたいんだ。
ってなんでこんなショックなのかな俺。
「どうかした?」
「え、いや、ううん! 早く作って身に着ける。そしたら先生は嬉しいんだよな」
「? まぁ、手はかからないよね」
「おけ。分かった」
ブレスレットを外して、犬神様に差し出す。
「お願いします」
『うむ』
「ああぁん」
いやらしい声が聞こえたかと思ったら、亜子さんが倒れた。
「亜子さんっ!?」
『こりゃまた凄い濃ゆいのぅ』
「犬神様!?」
何処から出した!? 犬神様が何故か防護マスクをしている。
「これ、凄いでしょ。栓してこれなんです。オリジナルなんですよ。正直、桃巫女よりクる」
俺のフェロモンがまた漏れているのかっ!?
「董一郎」
「はい」
「荒療治だけど、ごめんね」
「? は・・・」
先生の顔が近づいて来たかと思うと。
ガブリ。
「っ!?」
右肩を鬼モードの先生に噛みつかれた。
「せ・・・」
あ・・・れ?
先生の鬼モード。結構好きなんだよな。いいなぁ大人のエロさ。下唇舐めるところとか。あれ? この光景前にも見たような?
力が抜けて、意識が・・・飛んだ。
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