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ー前世記憶保持者専用収容所・特別会議室ー
本間忠史〈ホンマ タダシ〉。
彼はここの現総管理官、リンカーン保有者である。
この男の傍らには女。
藤森和葉〈フジモリ カズハ〉。
現管理官補佐、ヒトラー保有者。
二人は資料を片手に『パラダイス』の概要を説明していた。
傍聴者は国のトップを担う者たち。
それほどまでに、この『パラダイス』は重要な計画であった。
「それではスクリーンを見ながらご説明させていただきます。」
和葉が操作しながら詳細を話し出す。
忠史はそのスキル故に会議での演説行為が出来ない。
よって、こういった会議の際は和葉が、進行を行っている。
「近年、この前世記憶保持者を戦争の傭兵として利用する国々が増加しています。
日本は先立って第一保持者を発生させた国であるというのに、未だ管理の枠に留まっています。
今、日本が第四次世界大戦に突入することがあったら…。
確実に敗戦の道が待っています。」
国の要人たちは揃って顔をしかめる。
第三次世界大戦を経て、完全なる独立国となったこの国。
自国で賄う力が備えられ、一種の鎖国状態になっていた日本は此度の情勢には目を光らせていた。
何にも侵されることなく自由を得たばかりなのに、このままではどこかの国に隷属する羽目になる。
それを恐れているのだ。
「そこで、我々より一つの提案があります。それがこの『パラダイス』計画。すなわち、日本での前世スキル保有者による特殊部隊の新設です。」
ほぅ。と息が漏れる音。
一人が吠える。
「他国の猿真似をするのか。この国ではせっかくスキルによる犯罪が管理されているというのに、また荒れるのが関の山だ。」
「では。このまま侵略される時を甘んじて受け入れると?」
和葉の鋭い眼光に思わず圧倒される要人たち。
「ご心配なく、犯罪者たちの管理は引き続きしっかりと徹底していきますので。
今回はその部隊新設の為の、言わば実験案です。
『パラダイス』は現在収容されている犯罪者たちから選出した者たちで特殊部隊を編成する計画です。」
ざわつく会議室。
国民が黙っているだろうか。
いや、それよりもメディアが。
そもそも、人権はどうなる。
「…何も、犯罪者で編成せずとも国が独自の部隊を作るだろう。」
誰かがボソリと漏らした言葉を拾い、和葉は答える。
「それは国が設立することですので、この収容所とは関係がありません。私たちが提示しているのは『特殊部隊』です。それは、いわゆる特攻部隊。命を奪うことも自分の死すらも恐れない、代えの効く人員で構成された部隊です。」
その声は冷たく、要人たちを黙らせる。
忠史はその様子を静かに眺めていた。
(やれやれ。うるさい奴らだ。貴様らが考えている不安材料に我々が対策を取ってないわけが無いだろう。)
和葉に先を促す。
「少し話は逸れますが。ここで今一度、改めてスキルについてお話しさせていただきます。スクリーンにご注目ください。」
和葉が画面を切り替えると、そこにはスキルの分類表が映し出される。
・直接型
自分の肉体を強化し、自分の体そのものを使う。
制限時間や一定の条件を満たすと発動するタイプが多い。
・召喚型
何かを召喚して、そのものを使う。
媒介になる道具、召喚されたものの消失時間が定められていることが多い。
・操作型
相手の精神を通して、何かしらの効果を与える
効果範囲、発動条件に縛りがあるものが多い。
「大まかに分けるとこのようになります。私や本間は『操作型』に当たります。
人によっては何かしらの媒介が必要であったり、時間や範囲等の情報で無効化することも可能です。よってスキル保有者は無敵。というわけではありません。」
こと、ここの収容所に送られてくる犯罪者たちは発動条件をことごとく対策されている。
必要な道具の没収、対人させない為の独房、牢自体にも特殊な装置を施してあり、そもそものスキルを抑え込んである。
忠史と和葉はそれぞれのスキルを使い、更に厳重な予防を行う。
そのための『リンカーン』と『ヒトラー』なのだ。
収容されてきた犯罪者たちにヒトラーのスキルで力の封鎖をした後、リンカーンのスキルで『脱獄=死』の洗脳を施す。
そのため、犯罪者たちは脱獄が不可能となる。
もちろん。
そこまでやっても侮れないのがスキル保有者なのだが。
要人の一人が納得顔で尋ねる。
「例えば、本間君のスキルは君の演説を物理的に聞かなければ無効。ということかな?」
忠史はその要人を一瞥する。
「そうですね。鼓膜を破り、目を潰せば…。無効化できるでしょうね。何せ私の声はよく通るようにできている。
民衆を前に何かを訴える時、言葉だけではなく発せられる熱意も『演説』のひとつです。それを耳で感じるか、目で感じるか。
はたまた、全身の皮膚でも削ぎ取りますか?」
ひっ…。
質問を投げかけた男の小さな悲鳴。
慌てて目を逸らす。
犯罪者たちは牢獄で死ねば、新たな前世記憶保持者が転生されるだけである。
要は、悪人は死んで更生。といった理論。
そして現在の日本では、この形が最も安定している。
『パラダイス』はそれを壊す。
よって、国の要人たちは警戒しているのだ。
和葉は咳払いをすると、再び話し始めた。
本間忠史〈ホンマ タダシ〉。
彼はここの現総管理官、リンカーン保有者である。
この男の傍らには女。
藤森和葉〈フジモリ カズハ〉。
現管理官補佐、ヒトラー保有者。
二人は資料を片手に『パラダイス』の概要を説明していた。
傍聴者は国のトップを担う者たち。
それほどまでに、この『パラダイス』は重要な計画であった。
「それではスクリーンを見ながらご説明させていただきます。」
和葉が操作しながら詳細を話し出す。
忠史はそのスキル故に会議での演説行為が出来ない。
よって、こういった会議の際は和葉が、進行を行っている。
「近年、この前世記憶保持者を戦争の傭兵として利用する国々が増加しています。
日本は先立って第一保持者を発生させた国であるというのに、未だ管理の枠に留まっています。
今、日本が第四次世界大戦に突入することがあったら…。
確実に敗戦の道が待っています。」
国の要人たちは揃って顔をしかめる。
第三次世界大戦を経て、完全なる独立国となったこの国。
自国で賄う力が備えられ、一種の鎖国状態になっていた日本は此度の情勢には目を光らせていた。
何にも侵されることなく自由を得たばかりなのに、このままではどこかの国に隷属する羽目になる。
それを恐れているのだ。
「そこで、我々より一つの提案があります。それがこの『パラダイス』計画。すなわち、日本での前世スキル保有者による特殊部隊の新設です。」
ほぅ。と息が漏れる音。
一人が吠える。
「他国の猿真似をするのか。この国ではせっかくスキルによる犯罪が管理されているというのに、また荒れるのが関の山だ。」
「では。このまま侵略される時を甘んじて受け入れると?」
和葉の鋭い眼光に思わず圧倒される要人たち。
「ご心配なく、犯罪者たちの管理は引き続きしっかりと徹底していきますので。
今回はその部隊新設の為の、言わば実験案です。
『パラダイス』は現在収容されている犯罪者たちから選出した者たちで特殊部隊を編成する計画です。」
ざわつく会議室。
国民が黙っているだろうか。
いや、それよりもメディアが。
そもそも、人権はどうなる。
「…何も、犯罪者で編成せずとも国が独自の部隊を作るだろう。」
誰かがボソリと漏らした言葉を拾い、和葉は答える。
「それは国が設立することですので、この収容所とは関係がありません。私たちが提示しているのは『特殊部隊』です。それは、いわゆる特攻部隊。命を奪うことも自分の死すらも恐れない、代えの効く人員で構成された部隊です。」
その声は冷たく、要人たちを黙らせる。
忠史はその様子を静かに眺めていた。
(やれやれ。うるさい奴らだ。貴様らが考えている不安材料に我々が対策を取ってないわけが無いだろう。)
和葉に先を促す。
「少し話は逸れますが。ここで今一度、改めてスキルについてお話しさせていただきます。スクリーンにご注目ください。」
和葉が画面を切り替えると、そこにはスキルの分類表が映し出される。
・直接型
自分の肉体を強化し、自分の体そのものを使う。
制限時間や一定の条件を満たすと発動するタイプが多い。
・召喚型
何かを召喚して、そのものを使う。
媒介になる道具、召喚されたものの消失時間が定められていることが多い。
・操作型
相手の精神を通して、何かしらの効果を与える
効果範囲、発動条件に縛りがあるものが多い。
「大まかに分けるとこのようになります。私や本間は『操作型』に当たります。
人によっては何かしらの媒介が必要であったり、時間や範囲等の情報で無効化することも可能です。よってスキル保有者は無敵。というわけではありません。」
こと、ここの収容所に送られてくる犯罪者たちは発動条件をことごとく対策されている。
必要な道具の没収、対人させない為の独房、牢自体にも特殊な装置を施してあり、そもそものスキルを抑え込んである。
忠史と和葉はそれぞれのスキルを使い、更に厳重な予防を行う。
そのための『リンカーン』と『ヒトラー』なのだ。
収容されてきた犯罪者たちにヒトラーのスキルで力の封鎖をした後、リンカーンのスキルで『脱獄=死』の洗脳を施す。
そのため、犯罪者たちは脱獄が不可能となる。
もちろん。
そこまでやっても侮れないのがスキル保有者なのだが。
要人の一人が納得顔で尋ねる。
「例えば、本間君のスキルは君の演説を物理的に聞かなければ無効。ということかな?」
忠史はその要人を一瞥する。
「そうですね。鼓膜を破り、目を潰せば…。無効化できるでしょうね。何せ私の声はよく通るようにできている。
民衆を前に何かを訴える時、言葉だけではなく発せられる熱意も『演説』のひとつです。それを耳で感じるか、目で感じるか。
はたまた、全身の皮膚でも削ぎ取りますか?」
ひっ…。
質問を投げかけた男の小さな悲鳴。
慌てて目を逸らす。
犯罪者たちは牢獄で死ねば、新たな前世記憶保持者が転生されるだけである。
要は、悪人は死んで更生。といった理論。
そして現在の日本では、この形が最も安定している。
『パラダイス』はそれを壊す。
よって、国の要人たちは警戒しているのだ。
和葉は咳払いをすると、再び話し始めた。
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