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〈戦い・8〉
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伸矢の最大の力は頭脳にあった。
腕っぷしは二の次で、冷静ささえ備わっていれば、まさに鬼に金棒。
伸矢は、今しがた見てきた数々の遺体の状態から分析させた情報を目まぐるしく処理していく。
(俺はまだ誰とも戦っていない。しかし、もうすでに多くの人間が死んでいた。)
軍服の胸ポケットから先程記した簡易的な地図のメモを取り出し、情報を書き足していく。
まず、森の中。
首のない女の遺体。
すぐ近くに男女の遺体。
ここは乱戦、もしくは、出くわして戦闘になったのか。
いずれも死因はバラバラであり、その損傷箇所にも統一性がなかった。
そこから少し先の海岸。
遺体の数が最も集中していた場所。
めちゃくちゃになった遺体。
腹が裂けた遺体が二体。
どれも女だ。
それから割りと綺麗な男の遺体。
毒殺だろうか。
その隣には、首の骨が折り潰された女の遺体。
全部で八体だ。
(…ということは。いよいよ俺とあと一人だけって事か。そして、恐らくそいつは、織田信長…。)
海岸の女の遺体の一つはまだ殺されて間もなかった。
(被害箇所は違うが、損傷の仕方からして物理的な攻撃方法が取られている遺体が二体。きっと同じ人間の仕業。そいつは森から海外へ出たんだ。ってことは、森に戻るよりも…。)
その先には、昔人が住んでいたのであろう。
廃れた廃村があった。
伸矢はこの島に来てからすぐ、戦闘よりも地形の把握を優先にしていた。
そうこうしている間に潰し合いをしていてくれた、ってわけだが。
残る一人のおおよその居場所の目星をつけ、伸矢は歩みを進めた。
(ビンゴ、だな。)
着物姿の男を認めるなり、伸矢は声をかける。
「残りは俺たちだけだぜ?信長さんよぉ。」
「つまんねぇなぁ。この計画に乗りゃ人をバンバン殺せるって思ってたのに。戦闘ともいえねぇ殺しが二つ。たったの二つだぜ?つまんねぇよ。」
保は伸矢を見ることもなく一人ぼやく。
「俺にはそんな特殊な趣味はねえな。」
保は一瞥するとまたそっぽを向く。
「お前もつまんねぇな。」
「戦は頭だ。先走って潰し合ってくれりゃラッキーだよ。」
「気が合わねぇ。」
「同感だな。かの有名な信長さんなら俺を惚れさせてくれると思ったけど、見当違いだったな。」
保つの目が光り、ほぅ。と声を漏らす。
「やってみなきゃわかんねえよ。」
そう言うと姿が変わっていく。
信長のスキル…『鳴かぬなら殺してしまえ』
能力…一定の時間肉体を強化させ無敵状態となる。スキルによる攻撃は有効だが、物理攻撃は全て無効化できる。
つぎの発動までの時間が長いため連用はできない。
伸矢は脇に差した刀を抜く。
すると全身を茨が包み込む。
伸矢のスキル…『バラガキ』
能力…刀から出た茨で全身を覆う。刀は鞭のように使うことも可能。その棘に触れるもの全てを傷付ける。
刀が手から離れるとスキルは消失する。
保は伸矢のその姿を見据えて、にやりと笑う。
(ここにきてようやく正真正銘の肉弾戦が出来るとは。)
彼らの能力はいたってシンプル。
己の肉体を使い戦うのみだ。
先に攻撃を仕掛けたのは保。
全力の拳が飛んでくる。
刀で何とか受け止め、その流れで斬り返す。
急所を狙ったつもりだったが、斬れたのは腕。
しかし。
(ガードされたか。しかし硬いな。大した傷になってねぇ。パワーだけの強化じゃないって事か。ただ、スキルは有効ってとこだな。)
すかさず右から回し蹴り。
反対に体をひねるが、今度は左から蹴り込まれる。
紙一重で鞘を使い受けると、腹に強烈な一撃が響く。
瞬時に茨が腹部を守ったが、その衝撃はしっかりと届いている。
生身で受ければ穴が空くでは済まない。
伸矢は息を整える。
保は血が滴り落ちる拳を見て高らかに笑う。
「はは!何だよ。お前。楽しいじゃねぇか!!」
「俺は楽しくねぇよ。」
ケホケホとむせ込み、唾を吐く。
「つくづく合わねぇなぁ。」
そう軽口を言いながらも手は止まらない。
受けの一方になっている伸矢の額に滲み出る汗。
(防戦一方じゃ勝てない。どうにか攻撃に回らねぇと。)
まるでマシンガンのように、拳から繰り出される打撃。
それを刀と鞘を使い受け流す。
スパートの最後の一撃は全力の蹴り。
それは伸矢の腹に入り、ミシリと嫌な音を立てた。
(あばらがいったな…。)
精神を集中させ、茨で骨の周辺の補強していく。
刀を構え直し上段のフェイント。
後ろに回り込み、背中の中心、心臓部を狙い深く突く。
が、刃先は入ったものの、筋肉により止められてしまう。
保は肉体の強度を更に上げていく。
スキルの時間切れが迫っている。
(あと数分か。)
刺さった刀を奪おうと体を大きく動かすが、茨の棘によって肉片を抉られただけである。
体から抜けた刀が首をめがけて振り下ろされる。
保はそれを大きく避けると、踏み込んで体当たりを決める。
伸矢はその威力を後ろ足で耐えつつ、刀を振ると鞭のように伸びでた茨が保の首を捕らえた。
保は力を入れ弾き切る。
「お前、前世は何だ?」
「…土方だよ。」
「新選組か。どおりで。お前らの敗因は何だったかわかるか?」
そう言うと、伸矢の額に何かが飛んできた。
反射的に躱す。
それは、小石だった。
強化された肉体から弾き飛ばされたそれは、まるで弾丸。
「古い戦い方に拘り続け。規則やら何やらとガッチガチに凝り固まった思考のお固さよ。それがてめぇらが勝ち残れなかった理由だ。俺が肉弾戦だけしか脳がねぇとでも思っていたか?」
伸矢はフッと笑う。
「確かにな。」
すると茨がみるみる銃を形成する。
棘を弾丸にして発射。
それは確実に保の目を撃ち抜いた。
「古いやり方に拘っていた。には同感だ。俺は新しいもんが案外好きなんだよ。刀だけだとでも思っていたか?」
溢れ出す血を垂れ流し、保は笑った。
「初めて気が合ったな!」
再び小石を弾くと、それを揺動に伸矢の懐に入り込む。
みぞおちに一発。更に一発。
が…。その瞬間。
保のスキルは消えた。
「くっそ。時間切れかよ。」
伸矢はこの時を待っていた。
よろめく体を何とか支え、力を入れ直す。
全神経を刀だけに集中させると、全身を覆っていた茨が刀へと移動していく。
固く鋭い棘で覆ったその刀の刃先が狙うのは、保の首。
それを振りかぶると思いっきり横に一閃。
「あぁ…また…てっぺんに…とどかな…かっ…」
吹き出す血を己で浴びながら、保はゆっくりと血の海に沈んだ。
「肉体強化には解除条件がある。あんたは媒介を持ってなかった。ってことは時間だと思ったんだよ。戦は頭だって言ったろ?」
そう囁くと、伸矢はその場に倒れた。
勝者…久保伸矢
腕っぷしは二の次で、冷静ささえ備わっていれば、まさに鬼に金棒。
伸矢は、今しがた見てきた数々の遺体の状態から分析させた情報を目まぐるしく処理していく。
(俺はまだ誰とも戦っていない。しかし、もうすでに多くの人間が死んでいた。)
軍服の胸ポケットから先程記した簡易的な地図のメモを取り出し、情報を書き足していく。
まず、森の中。
首のない女の遺体。
すぐ近くに男女の遺体。
ここは乱戦、もしくは、出くわして戦闘になったのか。
いずれも死因はバラバラであり、その損傷箇所にも統一性がなかった。
そこから少し先の海岸。
遺体の数が最も集中していた場所。
めちゃくちゃになった遺体。
腹が裂けた遺体が二体。
どれも女だ。
それから割りと綺麗な男の遺体。
毒殺だろうか。
その隣には、首の骨が折り潰された女の遺体。
全部で八体だ。
(…ということは。いよいよ俺とあと一人だけって事か。そして、恐らくそいつは、織田信長…。)
海岸の女の遺体の一つはまだ殺されて間もなかった。
(被害箇所は違うが、損傷の仕方からして物理的な攻撃方法が取られている遺体が二体。きっと同じ人間の仕業。そいつは森から海外へ出たんだ。ってことは、森に戻るよりも…。)
その先には、昔人が住んでいたのであろう。
廃れた廃村があった。
伸矢はこの島に来てからすぐ、戦闘よりも地形の把握を優先にしていた。
そうこうしている間に潰し合いをしていてくれた、ってわけだが。
残る一人のおおよその居場所の目星をつけ、伸矢は歩みを進めた。
(ビンゴ、だな。)
着物姿の男を認めるなり、伸矢は声をかける。
「残りは俺たちだけだぜ?信長さんよぉ。」
「つまんねぇなぁ。この計画に乗りゃ人をバンバン殺せるって思ってたのに。戦闘ともいえねぇ殺しが二つ。たったの二つだぜ?つまんねぇよ。」
保は伸矢を見ることもなく一人ぼやく。
「俺にはそんな特殊な趣味はねえな。」
保は一瞥するとまたそっぽを向く。
「お前もつまんねぇな。」
「戦は頭だ。先走って潰し合ってくれりゃラッキーだよ。」
「気が合わねぇ。」
「同感だな。かの有名な信長さんなら俺を惚れさせてくれると思ったけど、見当違いだったな。」
保つの目が光り、ほぅ。と声を漏らす。
「やってみなきゃわかんねえよ。」
そう言うと姿が変わっていく。
信長のスキル…『鳴かぬなら殺してしまえ』
能力…一定の時間肉体を強化させ無敵状態となる。スキルによる攻撃は有効だが、物理攻撃は全て無効化できる。
つぎの発動までの時間が長いため連用はできない。
伸矢は脇に差した刀を抜く。
すると全身を茨が包み込む。
伸矢のスキル…『バラガキ』
能力…刀から出た茨で全身を覆う。刀は鞭のように使うことも可能。その棘に触れるもの全てを傷付ける。
刀が手から離れるとスキルは消失する。
保は伸矢のその姿を見据えて、にやりと笑う。
(ここにきてようやく正真正銘の肉弾戦が出来るとは。)
彼らの能力はいたってシンプル。
己の肉体を使い戦うのみだ。
先に攻撃を仕掛けたのは保。
全力の拳が飛んでくる。
刀で何とか受け止め、その流れで斬り返す。
急所を狙ったつもりだったが、斬れたのは腕。
しかし。
(ガードされたか。しかし硬いな。大した傷になってねぇ。パワーだけの強化じゃないって事か。ただ、スキルは有効ってとこだな。)
すかさず右から回し蹴り。
反対に体をひねるが、今度は左から蹴り込まれる。
紙一重で鞘を使い受けると、腹に強烈な一撃が響く。
瞬時に茨が腹部を守ったが、その衝撃はしっかりと届いている。
生身で受ければ穴が空くでは済まない。
伸矢は息を整える。
保は血が滴り落ちる拳を見て高らかに笑う。
「はは!何だよ。お前。楽しいじゃねぇか!!」
「俺は楽しくねぇよ。」
ケホケホとむせ込み、唾を吐く。
「つくづく合わねぇなぁ。」
そう軽口を言いながらも手は止まらない。
受けの一方になっている伸矢の額に滲み出る汗。
(防戦一方じゃ勝てない。どうにか攻撃に回らねぇと。)
まるでマシンガンのように、拳から繰り出される打撃。
それを刀と鞘を使い受け流す。
スパートの最後の一撃は全力の蹴り。
それは伸矢の腹に入り、ミシリと嫌な音を立てた。
(あばらがいったな…。)
精神を集中させ、茨で骨の周辺の補強していく。
刀を構え直し上段のフェイント。
後ろに回り込み、背中の中心、心臓部を狙い深く突く。
が、刃先は入ったものの、筋肉により止められてしまう。
保は肉体の強度を更に上げていく。
スキルの時間切れが迫っている。
(あと数分か。)
刺さった刀を奪おうと体を大きく動かすが、茨の棘によって肉片を抉られただけである。
体から抜けた刀が首をめがけて振り下ろされる。
保はそれを大きく避けると、踏み込んで体当たりを決める。
伸矢はその威力を後ろ足で耐えつつ、刀を振ると鞭のように伸びでた茨が保の首を捕らえた。
保は力を入れ弾き切る。
「お前、前世は何だ?」
「…土方だよ。」
「新選組か。どおりで。お前らの敗因は何だったかわかるか?」
そう言うと、伸矢の額に何かが飛んできた。
反射的に躱す。
それは、小石だった。
強化された肉体から弾き飛ばされたそれは、まるで弾丸。
「古い戦い方に拘り続け。規則やら何やらとガッチガチに凝り固まった思考のお固さよ。それがてめぇらが勝ち残れなかった理由だ。俺が肉弾戦だけしか脳がねぇとでも思っていたか?」
伸矢はフッと笑う。
「確かにな。」
すると茨がみるみる銃を形成する。
棘を弾丸にして発射。
それは確実に保の目を撃ち抜いた。
「古いやり方に拘っていた。には同感だ。俺は新しいもんが案外好きなんだよ。刀だけだとでも思っていたか?」
溢れ出す血を垂れ流し、保は笑った。
「初めて気が合ったな!」
再び小石を弾くと、それを揺動に伸矢の懐に入り込む。
みぞおちに一発。更に一発。
が…。その瞬間。
保のスキルは消えた。
「くっそ。時間切れかよ。」
伸矢はこの時を待っていた。
よろめく体を何とか支え、力を入れ直す。
全神経を刀だけに集中させると、全身を覆っていた茨が刀へと移動していく。
固く鋭い棘で覆ったその刀の刃先が狙うのは、保の首。
それを振りかぶると思いっきり横に一閃。
「あぁ…また…てっぺんに…とどかな…かっ…」
吹き出す血を己で浴びながら、保はゆっくりと血の海に沈んだ。
「肉体強化には解除条件がある。あんたは媒介を持ってなかった。ってことは時間だと思ったんだよ。戦は頭だって言ったろ?」
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