RED〜キズナノイロ〜(世界をとめて特別番外編)

makikasuga

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①少年は夢を見ない

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「おかわり」
 平然と茶碗を差し出すこと三回目。安岡零やすおかれいことレイは怒りを通り越し、呆れることしか出来なかった。
「いい大人が、何杯飯を食えば気が済むんだよ」
「だって、レイが作る飯、うまいんだもん」
「おまえはここの住人じゃねえ。特別に食わせてやってるんだ。少しは自重しろ」
 茶碗を差し出した男の名はシラサカと言う。長身で見栄えもいい。青い目をしているのはクォーターだから。最近三十になったばかりだが、暇を見つけては夕飯を食べにやってくるのだった。
「つーか、ヤッサン、こういうことはおまえが言え。世帯主だろうが」
 シラサカの横で温和な顔でニコニコと笑っている中年の男が、ヤッサンこと安岡元太やすおかげんただ。公私共に親代わりとして、レイの面倒を見ている存在でもある。
「いいじゃないか、大勢で食べる方がうまくなる。何より、シラサカ君が来てくれると、レイが色々話してくれるからね」
 現在高校三年生であるレイは、高校生活の傍ら、ある仕事に従事していた。それは決して世間に顔向け出来ない仕事、すなわち犯罪行為であり、一言で表現するならば、人を殺すことだ。いわゆる殺し屋稼業であるのだが、その実態は分業制であり、以下のように役割分担がなされている。

 依頼を受けて人を殺すのが始末屋。
 その死体を片づけて何もなかったようにするのが掃除屋。
 殺す人間の下調べから死んだ後の戸籍改ざんといったありとあらゆる情報操作をするのが情報屋。
 三つの仕事が重なり合って、死んだ人間は闇に葬られる。殺人が発覚することは決してないのだ。
 シラサカは始末屋のリーダーで、幼なじみのタカハラマキは彼の下にいるという話だった。そしてレイも情報屋のリーダーである安岡に預けられ、仕事を教わっている。年齢に差はあれど、彼らとは仕事仲間に当たるのだ。

「そっか、レイも反抗期に突入か。もう高校生だもんな。俺も年を取るはずだよ」
 三十になったという事実を、なかなか受け入れられないシラサカは、こうして溜息ばかりをついている。
「まだまだこれからだよ、シラサカ君。私なんてもう五十手前だからねえ」
「何言ってんすか、ヤスオカさん、まだまだ若いですって」
 レイからすれば、どちらも年寄りにしか見えないが、そんなことを口にすれば、安岡はともかくシラサカの愚痴が酷くなるだけなのでやめておく。
「戯れ言はどうでもいい。別に反抗期ってわけじゃねえ。飯は静かに食いてえだけだ」
 レイが安岡と暮らし始めたのは十歳のとき。そのときからずっと、用事があるとき以外、レイからは何も話さない。安岡の問いかけに素っ気ない返事をするのが日常である。
「飯は静かに食いたいだあ? バカじゃねえの、飯のときに話さなくていつ話すんだよ」
「部外者は口出すな。黙って食え」
 文句を言いながらも、レイはシラサカの茶碗にご飯を山盛り装って、突きつけてやる。食べることに集中すれば、少しは静かになるだろうと思ってのことだった。
 しかしそれも数秒のこと、シラサカは半分程ご飯を口に放り込んだ後、何かを思い出したかのように、顔を上げてレイを見つめた。
「もしかしておまえ、女嫌いなわけ?」
 年齢と食事の話から、どうして女嫌いという思考にたどり着くのか。レイには理解出来なかった。
「色々教えてやったし、女も紹介してやっただろ。なのに、全部スルーしやがって」
 人生経験だと言われ、シラサカにその手の店(風俗)に連行されたのは高校二年の春だった。未成年をそんな場所に連れて行くこと自体が犯罪であるのだが、彼らの仕事を思えば、こんなことはなんでもないことだった。
 そこで初めて女を知った。レイは何事にも天才肌であるらしく、数回の経験で女の体の構造を知ってしまい、すぐに飽きてしまった。
「スルーしたわけじゃない。やることはやった」
「それきり連絡取れないって俺に泣きついてくるんだが」
 女は抱けば変わる。自分が特別だと言わんばかりにまとわりついてくる。レイはそれが嫌で仕方なかった。
「未成年相手に本気になられても、困るだけだろう」
「それはそうだけど。もう少し優しくするとか出来ないわけ?」
「興味ねえな」
 レイの発言を受け、シラサカは大きな溜息をついた後、こう呟いた。
「なんだ、ロリコンかよ」
「違う。人を変態扱いすんな」
「つーか高校生だぞ、青春真っ盛りだぞ、やりたくてたまらん世代だぞ! それを興味がねえって」
 シラサカの声のトーンはどんどん上がっていき、最後にまた大きな溜息をついた。
「優しくすることに興味がねえだけで、やりたくないとは言ってねえだろ」
 変な心配されるのが嫌でレイはむきになった。そのせいで、言わないでおこうと思っていたことを、つい口にしてしまった。
「つーか、今日告られたし」
 独り言のように呟いただけだったが、シラサカは目を輝かせ、食事を放置してレイに詰め寄った。
「告られただと!? 相手は誰だ、可愛い奴か、それとも美人か?」
「クラスの女。速攻で断った」
「断っただと!? もったいねえ、もったいねえよ。相手は現役高校生、JKだぞ!」
 シラサカの異常な食いつき具合に、レイは呆れを通り越し、憐れみの視線を向けた。
「そういうところがオッサンなんだよ、シラサカ」
 レイから「オッサン」と断言されたシラサカは、顔をひきつらせる。今の彼に年の話はタブーなのだが、ここぞとばかり、レイはたたみかける。
「JKって元々は隠語だろ。十年以上前に流行った言葉を、今も平気で話すなんて、オッサン以外の何者でもねえよ」
 JK=女子高生。今も普通に使われている言葉だが、そこは敢えて無視して、レイはシラサカを追い込んでやった。
「マジか、俺やっぱ、オッサンなのかよ」
 大きなショックを受けたらしいシラサカは、すっかりしぼんでしまい、黙り込んだ。

「断ってよかったのかな?」
 ふたりのやり取りを見守っていた安岡は、話が一段落するや、レイに優しく問いかけた。
「少しくらい、羽目を外してもいいんだよ」
「出来るわけねえだろ、俺は普通の高校生とは違うんだから」
 十歳のとき、レイの人生は一変した。両親を殺され、幼なじみのマキと共に難を逃れたものの、死体を片づけにきた掃除屋のクスノキに見つかってしまう。彼の気まぐれのおかげで、マキと共に生かされたものの、生きる道は彼らと同じ暗闇の世界しかなかった。
「それでも、思い出ぐらいは」
「どうせ消えるんだから、そんなもんいらねえ」
 安岡零という人間は、アメリカの大学へ進学するため渡米するも、まもなく事故死することになっている。こうすれば、同級生達にも怪しまれずに消えることが出来るはずだ。
「だとしても、まだ時間はある。よく考えなさい」
 安岡は納得していない様子だった。
「今日は疲れたからもう寝る」
 食事もそこそこに、レイは席を立ち、自室へ向かった。
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