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playback 8years ago
⑪少年は孤独と戦う(前編)
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ミズカミに早退を強要され、レイは家の都合と称して学校を出てきた。
校門をくぐり抜ければ、窓にスモークが貼られた黒塗りの車が停車していた。
こんなところに停めるなんて有り得ない。このまま乗り込めば、何かあったと言わんばかりである。
レイは大きな溜息をついた後、何事も無かったかのように通り過ぎた。案の定というべきか、制服のポケットに入れた携帯が騒ぎ出すのがわかった。無視したかったが、仕方なく取り出して右耳に当てる。
『なぜ乗らない? 君の迎えのために用意した車だ』
「俺が高校生だってこと、忘れてるんですか。制服着ているのに、学校を出てすぐこんな車に乗ったら怪しまれるって、わかりませんかね」
この様子だと、ミズカミは一般的な生活を送ってきていないらしい。
『若いのに君は用心深いんだね。気に入ったよ』
それでも、レイが歩くスピードに合わせて、黒塗りの車をついてきた。早く乗れと言わんばかりである。
「そこの角を曲がったら、学校の通学路から外れます。そこに車を停めるように言ってください。すぐ乗りますから」
『わかった』
指示通り、車はレイを追い越して、角を曲がった。
レイは歩きながら携帯をブレザーのポケットに通話状態のまま突っ込み、鞄の中から眼鏡ケースを取り出して、学校で使用している黒縁の眼鏡をかける。不審な行動ではないためか、何も言われなかった。
そうこうするうちに、指定の場所に停められた車に近づく。レイはポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。
「携帯の電源、切ってもいいですよね」
『かまわないよ。但し、中の者に渡すように』
やっぱりバカだな、こいつ。携帯の電源は切るだけじゃダメなんだぜ。
ここまでの行動は、ある仕掛けを施すものでもあったから。
後部座席の扉を開けて車に乗り込むと、助手席に見慣れた顔があった。すぐさま頭に拳銃を突きつけられる。
「授業はどうしたんですか、赤崎先生」
「よく化けたものだ。学校一の天才がハナムラの人間だったとはね。携帯を渡せ」
レイは電源を切った携帯を赤崎に手渡す。赤崎は電源が切れていることを確認すると、そのままポケットに突っ込んでくれた。とても有り難かった。
『ようこそ、ヤスオカレイ君。また君と話せて嬉しいよ』
車に備えつけられたモニターにミズカミの姿が映る。ほとんど同時に車が走り出した。
「俺なんかのことを覚えていて下さって光栄ですよ、ミズカミさん」
『若いとは思っていたが、まさか高校生だったとはね』
「お会いしたパーティー会場でも、酒は口にしませんでしたよ。驚きましたね、あなたが高校生を使って悪事を働くとは」
『心外だな。赤崎は拾ってやっただけだ』
「ハナムラの標的だったから、ですよね」
ミズカミは自信に満ちた表情で笑った。
『早速で悪いが、昨日の貸しを返してもらいたい』
「それはまた、ずいぶん早いんですね」
『蓮見優衣。とても可愛らしい女の子じゃないか。一緒に住んでるみたいだし、君の彼女かな?』
やはり蓮見のことは調べられている。和美が口を割っただけではなさそうだ。昨日の今日で、安岡の家にいることも把握していたから。
「プライベートなことなので、答えたくありません」
『彼女の友人からとても仲良しだと聞いている。早く会いたいともね』
正直なところ、加藤和美は切り捨てるべきだと思っている。助けたところで手遅れだ。表の世界には二度と戻れやしないだろう。
「蓮見は渡しませんよ」
だからこそ、同じ目に遭わせたくはなかった。
『君の大切なものを汚すことなど、造作もない』
ミズカミの威圧感が増したことは、モニター越しでもはっきりわかった。
『ハナムラはコロシには定評はあるが、それ以外のことは甘い。我々はそちらが専門だからね。警察に目をつけられたところで、使い捨てればいいだけだろう』
ミズカミは暴力で全てを支配出来ると思っている。幼少期からそのように教育されてきたのだろう。今更変えられるものではなさそうだ。
「何が言いたいんですか」
そんな人間と話したところで、平行線を辿るのは目に見えている。本題に入るべく、レイは先を即した。
『ハナムラの頭脳である君が欲しいんだよ』
レイは目は伏せた後、小さく笑ってみせた。
「買い被りすぎですよ。俺はまだ高校生で、ハナムラでは半人前の域を出ていません」
『我々は君を一人前として扱う。何不自由ない環境を提供しよう。勿論、君の彼女も丁重に扱うことにする。条件については、これから会って直接話をしようじゃないか』
俺が欲しいのは、そんなもんじゃねえんだよ。
これ以上、ミズカミと話していると気分が悪くなる。
レイは眼鏡を直すフリをして、テンプル部分を指で触った。そこには小さな突起があり、仕掛けた盗聴器を遠隔操作するスイッチでもあった。眼鏡は骨伝導のイヤホンも兼ねてある。
【……優衣ちゃんさ、俺達に嘘ついてない?】
安岡の家でひとりにさせておくのが不安で、蓮見の携帯に盗聴器を仕掛けておいた。スイッチを入れた途端に聞こえてきたのがシラサカの声だったので、レイは驚いた。
なんでこんな時間から、家に来てんだよ、あいつ。
これではますます気分が悪くなるではないかと、レイはげんなりした。
【昨日フードコートで、俺達の話、聞いてたでしょ?】
まさかと思った。蓮見の答えは聞こえなかったが、その後のシラサカの言葉がそれを決定づけた。
【君はどこから話を聞いていたのかな?】
【人殺しの手伝いをしてるって、そこしか聞き取れなくて】
【そっか、やっぱりか。あのときのレイは周りが見えてなかった。あいつらしくないミスだよ。しかも、女の嘘を見抜けないなんてね】
こればかりは、シラサカの言葉に同意せざるを得ないだろう。
レイは唇を噛んだ。その後のやり取りと盗聴器から聞こえてくる声の感じからして、シラサカはかなり蓮見に密着しているようだった。
まさか、変なことするつもりじゃねえだろうな。
自分のことより、蓮見のことが気になって仕方がないレイ。そうこうするうちに、シラサカは大きな爆弾を落とした。
【なんだ、こっちも気づいてないの。レイは君のことが好きなんだよ】
余計な事言うんじゃねえっつーの!
これ以上聞いていられなくなり、レイは電源を切った。
柳によって気づかされたばかりの気持ちを、まだ認めたくはなかった。それに、蓮見はレイとは違う世界の人間である。
校門をくぐり抜ければ、窓にスモークが貼られた黒塗りの車が停車していた。
こんなところに停めるなんて有り得ない。このまま乗り込めば、何かあったと言わんばかりである。
レイは大きな溜息をついた後、何事も無かったかのように通り過ぎた。案の定というべきか、制服のポケットに入れた携帯が騒ぎ出すのがわかった。無視したかったが、仕方なく取り出して右耳に当てる。
『なぜ乗らない? 君の迎えのために用意した車だ』
「俺が高校生だってこと、忘れてるんですか。制服着ているのに、学校を出てすぐこんな車に乗ったら怪しまれるって、わかりませんかね」
この様子だと、ミズカミは一般的な生活を送ってきていないらしい。
『若いのに君は用心深いんだね。気に入ったよ』
それでも、レイが歩くスピードに合わせて、黒塗りの車をついてきた。早く乗れと言わんばかりである。
「そこの角を曲がったら、学校の通学路から外れます。そこに車を停めるように言ってください。すぐ乗りますから」
『わかった』
指示通り、車はレイを追い越して、角を曲がった。
レイは歩きながら携帯をブレザーのポケットに通話状態のまま突っ込み、鞄の中から眼鏡ケースを取り出して、学校で使用している黒縁の眼鏡をかける。不審な行動ではないためか、何も言われなかった。
そうこうするうちに、指定の場所に停められた車に近づく。レイはポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。
「携帯の電源、切ってもいいですよね」
『かまわないよ。但し、中の者に渡すように』
やっぱりバカだな、こいつ。携帯の電源は切るだけじゃダメなんだぜ。
ここまでの行動は、ある仕掛けを施すものでもあったから。
後部座席の扉を開けて車に乗り込むと、助手席に見慣れた顔があった。すぐさま頭に拳銃を突きつけられる。
「授業はどうしたんですか、赤崎先生」
「よく化けたものだ。学校一の天才がハナムラの人間だったとはね。携帯を渡せ」
レイは電源を切った携帯を赤崎に手渡す。赤崎は電源が切れていることを確認すると、そのままポケットに突っ込んでくれた。とても有り難かった。
『ようこそ、ヤスオカレイ君。また君と話せて嬉しいよ』
車に備えつけられたモニターにミズカミの姿が映る。ほとんど同時に車が走り出した。
「俺なんかのことを覚えていて下さって光栄ですよ、ミズカミさん」
『若いとは思っていたが、まさか高校生だったとはね』
「お会いしたパーティー会場でも、酒は口にしませんでしたよ。驚きましたね、あなたが高校生を使って悪事を働くとは」
『心外だな。赤崎は拾ってやっただけだ』
「ハナムラの標的だったから、ですよね」
ミズカミは自信に満ちた表情で笑った。
『早速で悪いが、昨日の貸しを返してもらいたい』
「それはまた、ずいぶん早いんですね」
『蓮見優衣。とても可愛らしい女の子じゃないか。一緒に住んでるみたいだし、君の彼女かな?』
やはり蓮見のことは調べられている。和美が口を割っただけではなさそうだ。昨日の今日で、安岡の家にいることも把握していたから。
「プライベートなことなので、答えたくありません」
『彼女の友人からとても仲良しだと聞いている。早く会いたいともね』
正直なところ、加藤和美は切り捨てるべきだと思っている。助けたところで手遅れだ。表の世界には二度と戻れやしないだろう。
「蓮見は渡しませんよ」
だからこそ、同じ目に遭わせたくはなかった。
『君の大切なものを汚すことなど、造作もない』
ミズカミの威圧感が増したことは、モニター越しでもはっきりわかった。
『ハナムラはコロシには定評はあるが、それ以外のことは甘い。我々はそちらが専門だからね。警察に目をつけられたところで、使い捨てればいいだけだろう』
ミズカミは暴力で全てを支配出来ると思っている。幼少期からそのように教育されてきたのだろう。今更変えられるものではなさそうだ。
「何が言いたいんですか」
そんな人間と話したところで、平行線を辿るのは目に見えている。本題に入るべく、レイは先を即した。
『ハナムラの頭脳である君が欲しいんだよ』
レイは目は伏せた後、小さく笑ってみせた。
「買い被りすぎですよ。俺はまだ高校生で、ハナムラでは半人前の域を出ていません」
『我々は君を一人前として扱う。何不自由ない環境を提供しよう。勿論、君の彼女も丁重に扱うことにする。条件については、これから会って直接話をしようじゃないか』
俺が欲しいのは、そんなもんじゃねえんだよ。
これ以上、ミズカミと話していると気分が悪くなる。
レイは眼鏡を直すフリをして、テンプル部分を指で触った。そこには小さな突起があり、仕掛けた盗聴器を遠隔操作するスイッチでもあった。眼鏡は骨伝導のイヤホンも兼ねてある。
【……優衣ちゃんさ、俺達に嘘ついてない?】
安岡の家でひとりにさせておくのが不安で、蓮見の携帯に盗聴器を仕掛けておいた。スイッチを入れた途端に聞こえてきたのがシラサカの声だったので、レイは驚いた。
なんでこんな時間から、家に来てんだよ、あいつ。
これではますます気分が悪くなるではないかと、レイはげんなりした。
【昨日フードコートで、俺達の話、聞いてたでしょ?】
まさかと思った。蓮見の答えは聞こえなかったが、その後のシラサカの言葉がそれを決定づけた。
【君はどこから話を聞いていたのかな?】
【人殺しの手伝いをしてるって、そこしか聞き取れなくて】
【そっか、やっぱりか。あのときのレイは周りが見えてなかった。あいつらしくないミスだよ。しかも、女の嘘を見抜けないなんてね】
こればかりは、シラサカの言葉に同意せざるを得ないだろう。
レイは唇を噛んだ。その後のやり取りと盗聴器から聞こえてくる声の感じからして、シラサカはかなり蓮見に密着しているようだった。
まさか、変なことするつもりじゃねえだろうな。
自分のことより、蓮見のことが気になって仕方がないレイ。そうこうするうちに、シラサカは大きな爆弾を落とした。
【なんだ、こっちも気づいてないの。レイは君のことが好きなんだよ】
余計な事言うんじゃねえっつーの!
これ以上聞いていられなくなり、レイは電源を切った。
柳によって気づかされたばかりの気持ちを、まだ認めたくはなかった。それに、蓮見はレイとは違う世界の人間である。
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