RED〜キズナノイロ〜(世界をとめて特別番外編)

makikasuga

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⑪少年は孤独と戦う(後編)

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 それからまもなく車は停まった。目的地に到着したらしく、助手席の赤崎が車を降りて、後部座席の扉を開けた。
 潮の香りがすることからして、海が近いことがわかる。目の前にそびえ立つのは、こういうときにお決まりといっていい古びた倉庫だった。
「降りろ。荷物は置いていけ」
 すっかり不機嫌になってしまったレイは、眼鏡を外して鞄の中に突っ込み、腕時計と学校指定のネクタイを外して放り投げた。
 運転手がボディチェックをしようとして近寄ってきたので、その手を払いのけてやる。
「触んな。体一つで来いってことぐらい、わかってる」
 学校帰りなので銃器の類いは持っていないし、情報屋は人殺しをしないので、通常持ち歩くことはしない。仕事の際、護身用として身につけることはあるそうだが、レイはまだそれを許されていなかった。
「そんな態度を取っていられるのも、今のうちだけだ」
 赤崎は不敵に笑い、扉を開け放った。

「……やめて、もう、いやぁ!?」
 最初に耳に飛び込んできたのが嫌がる女の声だったので、レイの不機嫌レベルは更に増した。
 見たくもなかったが、一応声のする方に視線を向けてみる。和美は複数の男から性的暴行を受けていた。レイはすぐに視線を外した。
「金が払えないというから、それ相応の対価をもらっているのだよ」
 レイを出迎えにやってきたミズカミは、昨日同様の黒いブランド物のスーツを着ていた。
「女をいじめ倒すのが、そんなに楽しいんですかね」
「ああ、楽しいね。こんな映像でも欲しがる人間がいるものでね」
 レイは赤崎を見た。ここにはミズカミがいるからなのか、妙に自信あり気だった。今更正義を気取るつもりなんてないけれど、こんな腐った人間だけにはなりたくない。
 ハナムラは殺しを専門とするため、こういったことはしない。
 始末屋のクロトリだけは、残虐な殺し方をするらしいと聞いているので同じようなことをしているのかもしれないが、少なくとも、シラサカは絶対こんなことはしない。
「君の彼女をこんな風にしたくはないだろう?」
「させるわけ、ないじゃないですか」
 朝、家の玄関で蓮見にかけられた言葉が蘇る。

(もし和美ちゃんに会ったら、私が心配してたって言っといてね)

 おまえの頼みじゃなきゃ、こんなこと絶対やらねえんだからな。

 レイは隙をみて、赤崎が手にしていた拳銃を奪い取る。間髪入れず、和美を暴行している男達に向かって発砲した後、天井の蛍光灯を全て壊して撹乱した。
「なるほど、これが君の答えかい」
「俺を手に入れたいのなら、汚い手を使わず、力づくで来い」
 情報屋とはいえ、銃器の扱いの訓練は受けていた。シラサカにマキより筋がいいと言わせただけのことはあって、ここまではなんとかうまく行ったが、圧倒的に不利な状況であることに変わりない。
「いいね、ますます気に入ったよ。どうしても手に入れたくなった」
「おまえには無理だよ。俺にはハナムラの首輪がついてるからな!」
 そう言うと、レイは自分の左腕に向かって発砲する。埋め込まれたGPSに強い衝撃を与えるためだった。
 こうすれば、安岡が動く。GPSの反応が消えたことを、すぐシラサカに伝える。シラサカはレイが蓮見の携帯にウイルスを入れたことを知っているから、どうにかならないかと彼女の携帯を操作するはず。

 蓮見、思い出せ、そして俺の携帯に電話しろ。そうすれば、おまえの友達を助けられるかもしれない。

「それは自分で首輪を切ったということかな? 有り難いことをしてくれる」
 手段が無かったとはいえ、至近距離で自分の腕を貫いたのだ。激しい痛みと出血で意識が朦朧としてきた。
「首輪は、簡単には、外れねえんだよ」
「それなら、無理矢理にでも外すまでだ」
 ミズカミが目で合図を送る。しばらく静かだった和美がまた声を上げ始める。
「やだ、やめて、殺さないで、たすけて、たすけて!?」
 ひとりの男が和美の腹を撃った。途端に彼女は静かになった。撃たれた場所からして、すぐ病院に運ばないと間に合わないだろう。
「言ったはずだ、汚い手は使うなって」
 そのとき、どこからか携帯のバイブレーション音が聞こえてきた。
「おい、電源は切っておけと言ったはずだぞ!」
 赤崎のポケットに入っていたレイの携帯からだった。
 車の中で電源を切ったことを確認していたのに、そう思いながら赤崎は電源を切ろうとしてボタンを触る。それでバイブレーションは止まったが、何度やっても電源は切れなかった。
「ほら、君が早く素直にならないと、彼女はどんどん苦しめられる」
 バイブレーション音が止まったことで、ミズカミは再びレイに向き合った。
「……だから、俺に何をしろって言うんだよ」
 あのバイブレーション音は、蓮見の携帯が電話をかけた合図なのだ。
 ウイルス感染させた蓮見の携帯の着信により、レイの携帯に自動的に電源が入るのは勿論、電話を取らなければ、安岡の元に連絡が入り、ここの音声が向こうに伝わる仕組みになっている。
 会話は安岡達に聞かれている。彼のことだから、すぐ位置情報を探ってくれるはず。
「聞こえていなかったようだから、もう一度言うよ。彼女を助けたかったら、今すぐハナムラの情報を流せ」
「何のために?」
「赤崎から聞いたよ、君は天才なんだろう。その頭脳を我々のために使いたまえ」
「俺の頭脳は、俺が許可した人間にしか使わせねえ」

(あんたらにやる、俺の頭脳。人殺しの手伝いに使えよ)

 レイが自らその頭脳を差し出したのは、たったひとりしかいない。
「言いたいことは山程あるが、とりあえず一言だけにしておく。さっさと来い、シラサカ!」
 今回ばかりは、彼を頼るしか道はなかった。
 思い切り叫んだことで限界がきた。レイはがくんと膝をついた。血を流しすぎたせいだろうか、息が上がって目の前が霞んでいく。
「シラサカねえ、確かハナムラの殺し屋だったっけ。彼も一緒なら、尚更嬉しいよ」
 ミズカミの不敵な笑みがどんどん近づいてくる。逃げなくてはと思うのに、レイの体は全く動かない。

 ヤバい、マジで死ぬかも。

 こんなときなのに、レイは妙なことが気になり出した。
 思えば、蓮見には一度も名前で呼ばれたことがない。安岡がいても、彼女はいつもレイを「安岡君」と呼ぶから。

 今度から名前で呼ばせてやる、じゃなきゃ許さねえ。

 偽りじゃない本当の名前で呼ばれたい。好きな女なら尚更だと思ったとき、ようやくレイは観念した。

 見た目小学生でも、天然バカでも、俺、蓮見のこと、すげえ好きだわ。
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