世界をとめて

makikasuga

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死神は告知する

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 花梨の部屋の扉をノックしようとしたとき、向こう側から聞こえてきた声に、柳は愕然とした。

(……あいつを生かしたのは、利用価値があると思ったからさ)

 レイだった。こんなに早く花梨に接触してくるとは思わなかった。
 花梨の身の安全を考え、割って入ろうとドアノブに手をかければ、ほとんど同時に扉が開き、眼鏡をかけたレイが姿を現した。柳がいることをわかっていたかのようにニヤリと笑う。
「花梨と何を話した?」
 花梨にレイを会わせたくなかった。彼らは平気で人を殺せるし、それを生業としている。そんな汚い世界を知ってほしくなかった。
「聞かれたことに、いくつか答えただけだ」
「あのときのこと、話したのかよ!?」
「話すかよ。だが、俺のことはわかっていたようだぜ。まあ当然っちゃ当然か。元を辿れば、今回の雇い主はあのお嬢様になるわけだし」
「どういうことだ、なんで花梨がおまえなんかに──」
 抑えていた感情が溢れ出し、柳の声が大きくなっていく。徐にレイは柳の胸倉を掴み、顔を近づけて言った。
「だったらおまえはなんだ? 俺と同じだろうが」
 頭から氷水を浴びせられたかのように、一気に心が冷え切った。柳は俯き、強く唇を噛んだ。おとなしくなった柳を見て、レイはふっと笑みを浮かべ、こんな言葉を囁いた。
「おまえは俺の言う通りに動けばいい。余計な事をすれば、おまえの周りに危害が及ぶことになるぞ。例えば、何も知らないあの子とかにな」
 最後の言葉にはっとした柳は、拘束を振り切って、後ろを振り返る。部屋から出て来たらしい麻百合がそこにいた。
「おまえ、いつから!?」
「いつって、今さっきだけど……」
 柳の背後に佇むレイに向かって麻百合が会釈すれば、レイは柳の前へと進み出た。
「先程もお会いしましたね、お嬢さん。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ、はい。金田麻百合です」
「麻百合さんですか。お名前からして、とても可愛いらしいですね」
 猫かぶりのレイの声と態度が気持ち悪くて、柳は目を背けた。唯一の救いは、さっきまでのレイと会話を聞かれていなかったことぐらいか。
「いや、可愛くないです、全然可愛いくないですから!?」
 レイにからかわれたというのに、麻百合は真っ赤になって否定している。その無邪気さが柳の胸を強く締め付ける。そんなときだった、二度と思い出したくない人物の声が突然聞こえてきたのは。
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