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さよなら全回転
⑥
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「柳君の様子はどうだ?」
深夜になって、相次郎は自分の部屋に高橋を呼び出した。
「昼過ぎに目を覚まされましたが、花梨様のことを心配していましたよ。今日のところはなんとか折れていただきましたけど、明日はもう無理でしょうね」
「そうか。やはり、彼らの手を借りるしかないか」
彼らという言葉で高橋の顔色が曇る。
「家に来ていた彼のことは、よく知っているんじゃなかったのか?」
「ええ、よく知っていますよ。だからこそ心配になるのです」
普段ポーカーフェイスといっていい高橋が、あからさまに動揺している。そんな様子を見て、相次郎が苦笑する。
「身内のことになると、君も顔色を変えるのだな」
「彼、レイは特別ですよ」
異なる姓を名乗っているが、高橋の父親は安岡元太といい、裏社会でひっそりと生きている。昔気質の情報屋で人脈は広く、今尚たくさんの秘密を握っている。思春期に父の仕事がなんであるかを知り、物心つく前に母が亡くなったのもそのせいだと知ってから、高橋は荒れに荒れまくった。汚い金で自分が生かされていることに強い憤りを感じていたから。
そんなある日、父が小学生を連れて帰ってきた。それがレイだった。頭が良く、小学生でありながら高校の授業についていける天才だった。子供らしさがまるでなく、当時荒れまくっていた高橋を見下していた。
(どんな金であろうが、てめえは親の庇護の下で生かされているんだ。文句を言うのは独り立ちしてからにしろ)
これは小学五年生のレイが、高校生の高橋に放った言葉である。小学生に正論で言いくるめられ、何も返すことが出来なかった高橋は、これを機に態度を改めることになったのである。
「味方であっても怖い存在ですから。柳君を完全に振り回しているようですし」
「安岡さんが推しただけのことはあるということか」
「ところで相次郎様、例の件は麻百合様にはいつ?」
「今日話すつもりだったのだが、本家の連中が来ている以上、ぶっつけ本番でいくしかないようだな」
「そうですね。何も知らない方がいいかもしれません」
そこで相次郎は大きな溜息をついた。
「つくづく嫌になる。あの家に生まれたことだけは、恨まずにはいられないよ」
浅田という家の人間でなければ、こんな苦労はしなくて済んだ。捨てようとしても、血縁だけは一生ついて回ることを相次郎は嫌というほど思い知らされていた。
『感傷に浸っている暇はないようだぜ、ご当主さん』
どこからともなくレイの声が聞こえてきて、高橋は周囲を見渡す。
『こっちは仕事として、あんたらの話を聞いているだけだからな』
「この部屋に盗聴器を仕掛けたのか、レイ」
丁寧な話し方だった高橋の声色が初めて変わった。
『それが俺の仕事なものでね、オニイサン』
高橋に名前を呼ばれ、嫌味全開で返すレイ。
『頃合を見て、柳を引き取りに行かせる。それまで絶対あいつを外に出すな』
「言わなかったか、おまえはおまえの仕事をしろと」
『だからこそ、早々にネズミを片づけてやったんだ。そんな顔するなよ、イケメンが台無しだぜ』
余裕綽々で一部の隙も感じさせない。どうやら盗聴器だけじゃなく、モニターもされているらしい。
「ネズミ? まさか、そこまでして花梨を!?」
『お嬢様に一日でも早く死んでもらいたいと思っている連中がいることは、確かだぜ』
「言葉遣いがなってないぞ、レイ。相次郎様はおまえの雇い主に当たるはずだ」
『俺の雇い主は浅田花梨だろう。お嬢様にはきちんと挨拶を済ませてある』
レイが花梨に会いたいと言い張ったのは、そのためだったようだ。
『そういうわけだから、裏で色々とひっかき回すが、あんたらはお嬢様をみててやれ。後のことも全て手筈通りにな』
それを最後にレイの声は途切れた。
「申し訳ありません、相次郎」
高橋は丁寧な言葉遣いに戻ると、すぐさまレイの振る舞いを詫びた。
「なかなか面白い男じゃないか、気に入ったよ。彼が言うように、私は橋渡しをしただけで、雇い主は花梨だ。おそらく、ふたりの間で話がついているのだろう」
レイがこの家に出入りしたのは三日間。その間に家中に盗聴器やモニターを仕掛けたのだろう。レイなら何食わぬ顔でやってのけるはずだから驚きはしないが、花梨と面会したのは初日だけだったはず。それとも高橋がいないところで、会う機会を設けていたのだろうか。
「やはり先手を打っておいて正解だったようだ」
いつかのように、大切な家族を奪われることだけはしたくなかった。そのためなら、多少のことには目をつぶる覚悟は必要だ。
「これ以上の犠牲は出してはならない。そのためなら、協力は惜しまないよ。遠慮なくやりたまえ」
どこかで聞いているレイに向けて、相次郎は強い気持ちで言い放った。
深夜になって、相次郎は自分の部屋に高橋を呼び出した。
「昼過ぎに目を覚まされましたが、花梨様のことを心配していましたよ。今日のところはなんとか折れていただきましたけど、明日はもう無理でしょうね」
「そうか。やはり、彼らの手を借りるしかないか」
彼らという言葉で高橋の顔色が曇る。
「家に来ていた彼のことは、よく知っているんじゃなかったのか?」
「ええ、よく知っていますよ。だからこそ心配になるのです」
普段ポーカーフェイスといっていい高橋が、あからさまに動揺している。そんな様子を見て、相次郎が苦笑する。
「身内のことになると、君も顔色を変えるのだな」
「彼、レイは特別ですよ」
異なる姓を名乗っているが、高橋の父親は安岡元太といい、裏社会でひっそりと生きている。昔気質の情報屋で人脈は広く、今尚たくさんの秘密を握っている。思春期に父の仕事がなんであるかを知り、物心つく前に母が亡くなったのもそのせいだと知ってから、高橋は荒れに荒れまくった。汚い金で自分が生かされていることに強い憤りを感じていたから。
そんなある日、父が小学生を連れて帰ってきた。それがレイだった。頭が良く、小学生でありながら高校の授業についていける天才だった。子供らしさがまるでなく、当時荒れまくっていた高橋を見下していた。
(どんな金であろうが、てめえは親の庇護の下で生かされているんだ。文句を言うのは独り立ちしてからにしろ)
これは小学五年生のレイが、高校生の高橋に放った言葉である。小学生に正論で言いくるめられ、何も返すことが出来なかった高橋は、これを機に態度を改めることになったのである。
「味方であっても怖い存在ですから。柳君を完全に振り回しているようですし」
「安岡さんが推しただけのことはあるということか」
「ところで相次郎様、例の件は麻百合様にはいつ?」
「今日話すつもりだったのだが、本家の連中が来ている以上、ぶっつけ本番でいくしかないようだな」
「そうですね。何も知らない方がいいかもしれません」
そこで相次郎は大きな溜息をついた。
「つくづく嫌になる。あの家に生まれたことだけは、恨まずにはいられないよ」
浅田という家の人間でなければ、こんな苦労はしなくて済んだ。捨てようとしても、血縁だけは一生ついて回ることを相次郎は嫌というほど思い知らされていた。
『感傷に浸っている暇はないようだぜ、ご当主さん』
どこからともなくレイの声が聞こえてきて、高橋は周囲を見渡す。
『こっちは仕事として、あんたらの話を聞いているだけだからな』
「この部屋に盗聴器を仕掛けたのか、レイ」
丁寧な話し方だった高橋の声色が初めて変わった。
『それが俺の仕事なものでね、オニイサン』
高橋に名前を呼ばれ、嫌味全開で返すレイ。
『頃合を見て、柳を引き取りに行かせる。それまで絶対あいつを外に出すな』
「言わなかったか、おまえはおまえの仕事をしろと」
『だからこそ、早々にネズミを片づけてやったんだ。そんな顔するなよ、イケメンが台無しだぜ』
余裕綽々で一部の隙も感じさせない。どうやら盗聴器だけじゃなく、モニターもされているらしい。
「ネズミ? まさか、そこまでして花梨を!?」
『お嬢様に一日でも早く死んでもらいたいと思っている連中がいることは、確かだぜ』
「言葉遣いがなってないぞ、レイ。相次郎様はおまえの雇い主に当たるはずだ」
『俺の雇い主は浅田花梨だろう。お嬢様にはきちんと挨拶を済ませてある』
レイが花梨に会いたいと言い張ったのは、そのためだったようだ。
『そういうわけだから、裏で色々とひっかき回すが、あんたらはお嬢様をみててやれ。後のことも全て手筈通りにな』
それを最後にレイの声は途切れた。
「申し訳ありません、相次郎」
高橋は丁寧な言葉遣いに戻ると、すぐさまレイの振る舞いを詫びた。
「なかなか面白い男じゃないか、気に入ったよ。彼が言うように、私は橋渡しをしただけで、雇い主は花梨だ。おそらく、ふたりの間で話がついているのだろう」
レイがこの家に出入りしたのは三日間。その間に家中に盗聴器やモニターを仕掛けたのだろう。レイなら何食わぬ顔でやってのけるはずだから驚きはしないが、花梨と面会したのは初日だけだったはず。それとも高橋がいないところで、会う機会を設けていたのだろうか。
「やはり先手を打っておいて正解だったようだ」
いつかのように、大切な家族を奪われることだけはしたくなかった。そのためなら、多少のことには目をつぶる覚悟は必要だ。
「これ以上の犠牲は出してはならない。そのためなら、協力は惜しまないよ。遠慮なくやりたまえ」
どこかで聞いているレイに向けて、相次郎は強い気持ちで言い放った。
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