世界をとめて

makikasuga

文字の大きさ
41 / 69
運命の突然確変

しおりを挟む
「柳、出るぞ、準備しろ」
 別室にいたレイの厳しい声で、柳は寝てしまったことに気づいた。
 麻百合は深い眠りの中にいるようで、握りしめていた手をそっと外しても起きる気配がなかった。
「出るってどこへ? 麻百合はどうすんだよ」
 部屋を出て、廊下でレイと話す。麻百合には、聞かれたくない話をするようである。
「決まってんだろ、浅田の家だよ。そいつはおまえが抱えりゃいい。お嬢様がマジでヤバい」
「ヤバいって……花梨は生きてんのか!?」
 思わず声が大きくなり、柳はレイに詰め寄った。
「ああでも言わないと、お嬢様のところへ行くって聞かなかっただろうが」
「そっか。そういうことか……」
 花梨が生きていたと知ってほっとしたものの、柳の気持ちは複雑だった。
「なんだ、あんなにお嬢様のところに行きたがってたくせに、今になって尻込みかよ」
 花梨に対する気持ちが恋愛ではなかったことに気づかされ、どれほど彼女を傷つけてきたのかを考えると、会わせる顔がなかった。
「てめえの気持ちなんかどうでもいい。あの子にとって、お嬢様はたったひとりの妹だ。最期を看取らせてやろうと思わないのか?」
 はっとした。麻百合は自分の体が動かないにも関わらず、花梨に会おうとしていた。ましてや彼女達は双子だ。互いを求め合うのは本能的なことだろう。
「レイ、俺を殴れ」
「は?」
「全部おまえの言う通りだから、一発殴れって言ってんだよ」
 この期に及んでも、柳はまだ自分のことしか考えられないでいる。不甲斐ない自分が腹立たしかった。

「だったら、これを持て」
 レイはスーツの内ポケットから拳銃を取り出した。
「俺仕様にセッティングされているが、おまえでも持てるはずだ。セーフティはここ。撃ち方は元刑事なんだから知ってんだろ」
 渡された拳銃はシグザウエルP229。米国のシークレットサービスが装備しているといわれているものだった。
「ほら、さっさと持てよ」
 ずしりと重い感触が柳の手の平に沈み込む。一発の弾丸が人の命を奪う凶器。それをまた手にする日が来るなんて、思いもしなかった。
「これで人を殺せっていうのかよ」
 肌身離さず持っている銃器を柳に預けるなんて、レイは何を考えているのだろう。
「出来るものならやってみろ。どうせ出来やしねえだろうけど」
「だったら、なんで俺に預けるんだよ」 
「シラサカからの連絡で、向こうにネズミが紛れ込んでいることがわかった。俺のことはシラサカに護らせる。おまえはそれでその子を護れ」

 護る? 俺が麻百合を?

「どうせ死ぬなら一刻でも早くってことらしいぞ。お嬢様の持っている財産が欲しくてたまらないのさ」
「やっぱり花梨は、麻百合に自分の財産を譲るつもりでいるのかよ」
 花梨が麻百合に何かを託そうとしていることは、柳にもわかっていた。
「浅田花梨が持つ資産は、今住んでる屋敷と裏山の土地、当主の相次郎とで三分の二を取得しているある会社の株だ」
「相次郎と花梨で持ってる株? つーか、そんだけあれば会社の実権を握ってんのと同じじゃねえか」
「そう、ネズミの狙いは株さ。取り決めとして、仕事内容には口を出さないことになっているが、株主からの依頼だけは、問答無用で従うことになっている」
「何やってんだよ、その会社とやらは」
 柳の問いかけを受け、レイが不敵に笑った。
「ハナムラコーポレーション。社長の花村謙三は政財界と密な繋がりがあり、裏の顔は俺達の仕事を取り仕切るボスでもある」
「おい、それって!?」
「金も理由もいらねえ。自由自在に人をバラして情報を操作する。悪魔の権利みてえなもんだな。ドクターである相次郎が当主に指名されたのは、そういう事態を危惧してのことだったんだろう」
 相次郎は人の命を救うのが仕事である。彼の人柄からしても、悪魔の権利を気まぐれに使うことは絶対にしないだろう。
「確か、相次郎の妻子は殺されたって話だったよな。おまえらを自由に動かせる立場にあったのなら、おまえらに護らせればよかったんじゃねえのか?」
「相次郎は甘かった。俺達以外の人間を雇って妻子をバラすとは考えなかったし、ましてや浅田の人間がそこまで腐ってるとは思いもしなかったのさ。だからお嬢様が正式に養女と認められるまでの間、こっちの人間が張りついた。おまえらが暮らしていたあの家には、誰も近づかせないようにと、相次郎はほとんど出入りしなかったんだよ」
 相次郎が花梨と同居しなかったのは、身の安全を考えてのことだったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...