世界をとめて

makikasuga

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次回予告「再会」

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 浅田家から自宅に送ってもらうまでの道中、レイから柳が死んだと聞かされた麻百合は、高橋がいるにも関わらず、盛大に泣いた。花梨と柳を失って、目の前が真っ暗になってしまったから。
 そんな麻百合を見て放っておけないと思ったのだろう。高橋から毎日のように電話やメールが来るようになった。塞ぎ込んでいた麻百合を励ますためにと、何度も食事に連れ出してくれた。その際、高橋は花梨や柳の話はせず、自分の過去について語った。女性の多い看護学校での苦労話や、高校時代はひどく荒れて何度も警察の世話になっていた意外なエピソードまで。クールに見えていた高橋の話はとても面白く、麻百合は彼と会って話をすることを楽しいと思うようになっていた。

「麻百合様、お話ししなくてはならないことがございます」
 その日も高橋に誘われ、麻百合は駅前にあるカフェで昼食を共にしていた。食後のコーヒーが出されたとき、高橋は神妙な顔つきで話を切り出した。
「花梨様の遺言書の検認が終わりました。本日、相次郎様と浅田の顧問弁護士が家庭裁判所に出向いております。今頃、遺言書を開封している頃かと思われます」
 花梨が亡くなって一ヶ月が過ぎた。少しずつではあるが、傷は癒えつつあった。だが久しぶりに名前を聞くと、やはり穏やかではいられない。
「私は行かなくてよかったんですか?」
 動揺を悟られないようにと、麻百合は冷静を装った。
「家庭裁判所には、相続人全員が行かなくてもかまわないようなので。ですが、その後の報告会には出席していただきたいとのことでした」
「報告会?」
「花梨様のご遺志を、浅田の本家の方々にお伝えしなくてならないそうです。麻百合様は、その場に同席いただくだけでかまわないそうですが」
 正直、浅田家とは関わりになりたくないし、和子や隼人と顔を合わせたくはなかった。嫌でも花梨や柳のことを思い出してしまうから。
「報告会には、高橋さんも一緒に行ってくださるんですよね?」
「そうしたいのは山々なのですが、部外者の私は立ち入りを許可されませんでした。別の者が麻百合様を迎えに行くことになっています」
「誰なんですか、その人は」
 相次郎が迎えに来るわけはないし、高橋以外で迎えに来られそうな人間を麻百合は知らない。
「大変言いにくいのですがね、レイです」
 ここでレイの名前が出てくるとは思わなかった。よりによって、麻百合に柳が死んだことを告げた張本人と、また顔を合わせることになるとは。
「でも、カネモトさんって……」
 彼自身が言っていた、真っ当な人間ではないことを。
「どうせわかることなので、お話ししておきますが、レイは浅田の直系である花村謙三氏の会社の人間なのです」
 レイが花梨をお嬢様と呼んだ理由が、これでわかった。
「表向き、レイはハナムラコーポレーションの情報企画部のリーダーという立場にあります。その実態は、世間に顔向け出来ないことを仕事にしています。私からは、これ以上お話し出来ませんがね」
 麻百合が知る限り、レイはパチンコの不正、マンションのオートロック解除、盗聴に至るまでを難なくこなしていた。
「その報告会はいつなんですか?」
「実は明日なのです。遺言書の検認のことも、昨晩レイに聞かされたばかりで、私も困惑しているのですよ」
 高橋は本当に困っているようだったが、それよりも彼が何も知らされていないことの方が麻百合には驚きだった。
「高橋さんは、今もあの家にいらっしゃるのではなかったんですか?」
「私は花梨様専属の執事として雇われておりましたので、花梨様がお亡くなりになられたと同時に契約終了になっているのです。現在はフリーなんですよ」
 しょっちゅう食事に誘ってくれたのは、そういう事情があってのことかと麻百合は納得した。
「相次郎様は直接麻百合様に連絡するよりは、私を挟んだ方がいいと思われたのでしょうね。私自身、麻百合様のことが気掛かりでしたし、次の仕事は花梨様のことが全て終わってからにしようと決めていたので、時間が有り余ってしまい、こうして度々お誘いしていた次第です」
 高橋は麻百合よりもずっと長く花梨の側にいた。何も言わないけれど、高橋だって辛かったに違いない。
「誘っていただいて嬉しかったですよ。ひとりでいると、余計な事を考えてしまうので」
 寂しさには慣れてきた。仕事を探して働けば、もっと気が紛れるだろう。花梨や柳と出会う前の生活に戻ればいいだけだとわかっているのに、麻百合はまだ動けずにいた。
「報告会のことですがね、麻百合様が嫌なら、無理に出席されなくてもかまいませんよ」
 あからさまに落ち込んだ麻百合を励ますように、高橋が言った。
「私から相次郎様にお話ししますから」
 高橋が一緒でないと聞いて、気が滅入ったのは確かだった。彼の申し出に甘えたとしても、相次郎は何かいったりしないだろうが、これを機に花梨や柳のことに一区切りつけるのも悪くないと思った。
「大丈夫です。カネモトさんが一緒なら心強いですよ」
 レイに柳が死んだと言われたことは、ショックではあったけれど、きっぱり言ってもらえてよかったと今は思う。
「あいつは口が悪いので、麻百合様に失礼なことを言わないか、気が気でないんです。迎えだけでも私が行くと言い張ったのですが、拒否されてしまいましてね」
 そう言って、高橋は大きな溜息をつく。
「高橋さんは、カネモトさんが苦手みたいですね」
 なんでもそつなくこなす高橋が、レイの話をするときだけは様子が一変する。
「そうですね、彼には一生敵いそうにありませんから」
 素直に負けを認め、高橋は笑う。車内では砕けた口調で言い合って、仲が悪そうに見えたが、それは心を許し合っているからこそ、出来ることではないのだろうか。
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