世界をとめて

makikasuga

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神様がくれた保留連

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「麻百合さん、あなたのおかげで命拾いしました。ご恩は一生忘れませんよ」
 会場を出た麻百合は、レイを見送るべく玄関近くにやってきた。
「私は、カネモトさんの言うとおりに動いただけですから」
 全てはイヤリングに仕込まれていた通信機によるものだ。ハナムラコーポレーションの名前を出すタイミングも、レイの指示だった。花村に対して放った言葉だけは、麻百合の独断によるものだったが。
「色々覚悟していたんですよ、このバカのせいで。それがまさか全て不問になるとは。いやはや、あなたは凄い人ですな」
 いつになく興奮した様子のレイは、両手で麻百合の手を握りしめ、振り回す。途端に、後ろにいるコウが不機嫌になった。
「いつまで手握ってんだ、さっさと離れろ」
 コウが後ろから割って入ろうとすれば、すぐさまレイが阻止する。
「うるせえ、バカは黙ってろ」
「バカって言うな!」 
「だったら、もう二度と諦めるな」
 レイは厳しい顔つきで言った。
「ボスの言った通り、次はねえぞ。まあそうなったら、俺が麻百合さんをいただくから問題ねえけどな」
 レイは不敵に笑った後、麻百合の手の甲にそっとキスをした。
「麻百合さん、このバカが嫌になったら、いつでもおっしゃってくださいね。そこのショウヤの部屋ならモニターされませんので、どうぞごゆっくり」
 煽るだけ煽って、レイは去っていく。麻百合が呆然としながら、レイの後ろ姿を見送っていると、コウに手を掴まれ、有無を言わせず部屋の中へと引き入れられる。
「ここ、高橋さんの部屋……!?」
 扉が閉まると同時に、コウに唇を押しつけられる。今の感情をそのままぶつけてきたような激しさだった。
「レイに渡すくらいなら、今すぐ俺のものにする!」
 至近距離で見つめられ、麻百合の胸は高鳴った。再び唇が重なろうとした瞬間、小さな咳払いが聞こえ、我に返る。
「お取り込み中のところ、失礼しますよ」
 声がした方向に顔を向ければ、苦笑いを浮かべた高橋が佇んでいた。
「高橋さん!?」
「なんでここに!?」
 麻百合とコウは同時に言葉を放った。その様子を見て、高橋がクスリと笑う。
「報告会への出席は許可されませんでしたが、会場のセッティングは私の仕事だったもので。皆様がお帰りになられたら、片づけなくてはならないので、ここで待機しているのですよ」
 レイはこの部屋ならモニターされないと言っただけで、高橋がいるとは言わなかった。
「レイの奴、確信犯だろ」
 コウは舌打ちした後、長く大きな息をついた。高橋に見られていたことが恥ずかしく思えて、麻百合は俯いた。
「これ以上お邪魔するのは忍びないので、私はこれで」
 高橋はふたりを気遣って部屋を出ようとするが、扉を開ける直前で振り返り、こんなことを口にした。
「この部屋はモニターされていませんが、屋敷内のありとあらゆる場所には、以前レイが仕掛けた盗聴器がまだ残っていると思われます。レイに探られないよう、気をつけてくださいね」
 言うだけ言って、高橋は部屋を後にする。
「がっつくなってことかよ、全く!」
 コウは苛立ち紛れに髪をかきむしったが、ふと我に返り、麻百合に頭を下げた。
「悪い。俺の気持ちばっか押しつけてた。今すぐじゃなくていいって言ったくせに、何やってんだろ」
「謝らないで。私、嫌じゃないよ」
 麻百合の言葉に、コウは頭を上げた。ひどく驚いた顔をしていた。

(麻百合もさ、今すぐじゃなくていいから、自分が幸せだと思うことを見つけてくれよ)

 あのとき、コウに言われるまでもなく、答えは出ていた。それを口にする勇気がなかっただけで。
「私の幸せも、あなたの側にいることだから」
 柳広哲は死んでしまったけれど、コウという名の亡霊は、麻百合の側にいる。
「約束して、もう二度と離れないと」
 大切な人が生きて側にいること。それが一番の幸せなのだから。
「約束する。麻百合、俺と一緒に生きてくれ」
 大きく頷いて、麻百合はコウの胸に飛び込んだ。

(……麻百合、コウちゃん、幸せになってね)

 どこからともなく、花梨の声が聞こえてきた。まるでふたりを祝福しているかのように。
「花梨の声が聞こえたね」
「うん、聞こえた。さっきも言われたんだ、生きろ、こっちに来るなって」
 そう言って、コウはよりいっそう強く、麻百合を抱きしめた。
「やっぱさ、俺の部屋行かね?」
「でも、盗聴器やモニターがあるんじゃないの?」
「探してぶっ壊すんだよ。これ以上、見張られてたまるかってーの」
 全て言い終わらないうちに、コウは麻百合を抱き上げる。
「まさか、このまま外に出る気じゃ!?」
「これ以上、他の男に触られてたまるかよ」
「ダメだって、まだ外に人が!?」
「いいんだよ、見せつけてやるんだから」
 自信たっぷりに言い放って、コウは扉を開けた。
 新たな世界に踏み出すのはひとりではなく、ふたり。だからもう怖くない。

 the end
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