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18話:アーセナルという存在①
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アーセナルとは魔導杖をつくる工廠科の人間である。
ユグドラシル魔導学園の工廠科研究棟の地下には多数のアーセナルの工房がある。
ユグドラシル魔導学園とはモンスターと呼ばれる人類に脅威をもたらす巨大生命体を倒す為に設立された軍需系特殊学校だ。そしてそこで戦闘訓練を受ける少女達は魔導士という称号で呼ばれる。
ではその少女達が使う武器はどうするのか? その答えがアーセナルと呼ばれる武器職人である。工廠科に属して自身の工房を与えられ、武器のメンテナンスやカスタマイズを担当する。または改造や改修をして新型機の実験をする。
そこに所属するエミーリアが、クローバーに頼み事をしていた。
「すまん、クローバー様。荷物運び手伝ってはくれんかのぅ」
「ん? お引越し?」
「わしの研究用の機材を寮に置いておいたのじゃが、いいかげん、余計な荷物は工房に移せと先生に急かされてしもうてな」
ユグドラシル魔導学園の寮内にある食堂。エミリーリアは偶然、学年の違うクローバーとユグドラシル魔導学園は二人で朝食を取っていた。
二人は学年も違えば普通科と工廠科なのでレギオン関係以外ではほぼ接点はない。
「まぁ、どのみちユグドラシル魔導学園様達を支援する為にもきちんとした工房が必要だったがのぅ」
「うん、エミリーリアちゃんが工房を持ってくれたらとても助かるよ。専属アーセナルの有無はレギオンの強さに直結するから」
レギオンというのは魔導士が九人以上集まる事で構成される戦闘部隊の名前だ。
「専属の工房ときくとテンション上がるよね。プロフェッショナルって感じがする」
「そうなのじゃがのう。その機材を運び込むのが一人では中々困難でな」
「それで最初の話に繋がるわけだね。良いよ、手伝うよ」
「ありがとうなのじゃ」
二人は朝食を食べ終えると、エミーリアの量から機材を持って工廠研究棟の地下を訪れていた。ガチャガチャと黒い大きな機材が揺れている。魔導士は普通の女の子ではない。
数十キロくらいなら持ち運びができるのだ。
「ところで、マネッティアやルドベキアはどうしたんじゃ? いつもならクローバー様クローバー様とひっついてくるじゃろ」
「二人とも家の用事でいないみたい。マネッティアちゃんは詳しくは知らないけど、ルドベキアちゃんは魔導杖開発会社の御令嬢だからね。忙しいんだよ」
「なるほどのぅ」
マネッティアとルドベキアはクローバーに惚れている。それはもうすごい感じで惚れている。いつもそばにいて彼女の全てを触れていたい、とばかりにひっついている。それはまるで飼い主に構ってほしい犬猫を想像させた。
「36番、ここじゃな」
指定された工房の前に立ち、鍵を差し込む。
36番工房。
ここがエミーリアに与えられた専用の部屋である。
中には何もなかった。
全て研究のために使う為に特化しており、芝生やテラス、娯楽室まである学生寮と比べるとそれはもう殺風景な部屋だった。
「この機材はどこに置いたら良いかな?」
「あー、部屋に隅に置いて置いてくれ。後で自分で改造する」
ここの目的は戦術機の研究改良開発改修だ。魔導士達の日常を彩るようなお嬢様然とした設備は必要ない。
そこでひょこっと顔を出した生徒がいた。
「あら、クローバーじゃない」
「百由ちゃん、もしかしてここ百由ちゃんの部屋もこの近く?」
「近くも何もこの隣よ。なに、クローバーも工廠科に入る気になった?」
「ううん、違うよ。エミーリアちゃんの付き添いだね」
「エミーリア?」
「わしじゃ。すまんのぅ、片付けたら引っ越しのバームクーヘンでも持って行こうと思っていたんじゃが」
「面白い喋り方するのね。気を遣わないで、挨拶できただけで十分だから。もし良かったらエミーリアちゃんのお部屋を見ても良い? 貴方がどんな研究をしているか興味あるし」
「おう、構わんぞ。もてなしはできんが勝手に見ていってくれ」
百由は片付いていない部屋を見ながら興味を持つ。
(へぇ、新入生なのに色々揃えているのね)
現行の制式魔導杖を中心したパーツが目に入る。この時期の新入生は座学に専念している場合が多いがエミーリアは実践派だったのが見て取れた。
「あ、そこに魔力クリスタルがあるから気をつけてくれ」
「クリスタル? って事は魔導杖を完全分解しているの?」
「んぁ、当然じゃろ。魔導杖を修理するにも制作するにしても、ますば分解せねば始まらん」
「それって学校から推奨されていないって事は承知なの?」
対モンスター兵器とはいえ魔導杖もまた兵器の一つだ。ユグドラシル魔導学園などの魔導士養成機関での改造、製造は許可されてあるもののその取り扱いは注意が必要だ。
その為、魔導杖の完全分解は十分な経験を積んでからと指導されている。
「魔導杖の分解なら八歳の頃からしておったわい。そのせいで部屋を吹き飛ばした事はあるがの」
「八歳!? 凄いわね。頭おかしいんじゃないの?」
「誰の頭がおかしいんじゃ! 喧嘩売っとんのか!」
「百由ちゃんにも遂に頭おかしい仲間ができたんだね、お母さん嬉しい」
「いやいや、クローバー様。いくらわしでもそのまとめ方は異論あるぞ」
「もしよければ私の工房も見て行かない? 自分の工房を片付ける前にうちのを覗いてみるのも悪くないでしょ?」
「ふむ、そうじゃな、百由様の工房を見せて貰えば何かの参考になるかもしれん。お言葉に甘えるとしようかのぅ」
「ええ、余ってるパーツとかならプレゼントしてあげる」
「おあ、それはありがたい。パーツはいくらあっても困らんからのぅ。早速お邪魔させてもらうぞ」
その部屋は異様だった。
魔導士の人形。よくわからない生物の標本。不定期に蒸気を噴き出している謎の機械。意味不明な紋様が書かれた書物。一体何を研究しているのか全くわからない。
「魔導杖は魔力を扱う兵器だから魔術的なアプローチもしているんだよね。その成果はありそう?」
「うーん。微妙かなぁ。どちらかと言うと素粒子とかナノマシンに近いかもしれない」
部屋を見ていると一振りの剣と一丁の銃があった。
「懐かしい。第一世代の魔導杖の撃震だ」
「クローバーは今、ストライクイーグル使っているんだっけ?」
クローバーはGE.HE.NA.の研究に協力しているので、魔導士バトルクロス・UCモデルも多く使用しているが、それは限られた人しか知らない。
「そうだね。ストライクイーグルが主かな」
「今は第二世代魔導杖の方が普及率が高いもんね」
ストライクイーグルと不知火といった現行型は第二世代の魔導杖と呼ばれる。
「第二世代の登場した今となっては練習機としての意味しかないな」
「そんな事ないわよ、使い方によっては今でも十分一線級で扱える武器よ」
「ん?」
「あら?」
クローバーを間に、エミーリアと百由がお互いの様子を伺う。
「何を言ってるんじゃ、百由様。第一世代の魔導杖は確かに優れた発明だったかもしれんが、その上位互換として第二世代があるんじゃぞ。残念ながら今更旧式に出番があるとは思えん」
「あら、エミリーリアちゃんったら第一世代の有用性を理解できてないなんて意外だわ」
「カビ臭い機体に思い入れを持つのは勝手じゃが、性能評価を私情で、左右するようでは、おしまいじゃ!」
「旧式じゃないわよ、第一世代は今でも立派な現行機です」
「第二世代が誕生した現在、第一世代の出番は無くなってきておる。これは事実じゃ」
それを聞いて、クローバーは呟く。
「うーん、どっちが上か下か比べる話じゃないと思うなぁ。好みだよね。使い慣れた第一世代を使い続ける魔導士もいるし。20以上の魔導士に多いかな」
「ガンシップで出撃する場合は、メイン魔導杖が壊れた際に対応する為に戦術ポットが設置されるでしょ? それに入ってるのは安価で頑強でメンテナンスが容易な第一世代の魔導杖よ」
「だけど第二世代も優秀だよね。長所が違うって言うのかな。機体性能だけで言えば第二世代だけど、整備性と安価で壊れにくい第一世代も使われている。第二世代はユニーク魔導杖までは行かなくても高価だから、財政が厳しい国では第一世代が使われるよ」
「ふぅむ、なるほどのぅ」
そこで百由は思い出したように言った。
「なら、その二つの優秀性わかる映像を見ればいいじゃない!」
「えっ!?」
クローバーは苦々しく驚いた顔をした。
「それは別に良いんじゃないかな?」
「いやいや、見ましょうよ。エミリーリアちゃんも気になるわよね」
「うむ、気になるところではある」
「じゃあ、資料室に行きましょう」
資料室に行くと、りー18番をプロジェクターにセットして映像を記録を投影し始める。
「因みにこれ、クローバーの初陣なのよ」
ユグドラシル魔導学園の工廠科研究棟の地下には多数のアーセナルの工房がある。
ユグドラシル魔導学園とはモンスターと呼ばれる人類に脅威をもたらす巨大生命体を倒す為に設立された軍需系特殊学校だ。そしてそこで戦闘訓練を受ける少女達は魔導士という称号で呼ばれる。
ではその少女達が使う武器はどうするのか? その答えがアーセナルと呼ばれる武器職人である。工廠科に属して自身の工房を与えられ、武器のメンテナンスやカスタマイズを担当する。または改造や改修をして新型機の実験をする。
そこに所属するエミーリアが、クローバーに頼み事をしていた。
「すまん、クローバー様。荷物運び手伝ってはくれんかのぅ」
「ん? お引越し?」
「わしの研究用の機材を寮に置いておいたのじゃが、いいかげん、余計な荷物は工房に移せと先生に急かされてしもうてな」
ユグドラシル魔導学園の寮内にある食堂。エミリーリアは偶然、学年の違うクローバーとユグドラシル魔導学園は二人で朝食を取っていた。
二人は学年も違えば普通科と工廠科なのでレギオン関係以外ではほぼ接点はない。
「まぁ、どのみちユグドラシル魔導学園様達を支援する為にもきちんとした工房が必要だったがのぅ」
「うん、エミリーリアちゃんが工房を持ってくれたらとても助かるよ。専属アーセナルの有無はレギオンの強さに直結するから」
レギオンというのは魔導士が九人以上集まる事で構成される戦闘部隊の名前だ。
「専属の工房ときくとテンション上がるよね。プロフェッショナルって感じがする」
「そうなのじゃがのう。その機材を運び込むのが一人では中々困難でな」
「それで最初の話に繋がるわけだね。良いよ、手伝うよ」
「ありがとうなのじゃ」
二人は朝食を食べ終えると、エミーリアの量から機材を持って工廠研究棟の地下を訪れていた。ガチャガチャと黒い大きな機材が揺れている。魔導士は普通の女の子ではない。
数十キロくらいなら持ち運びができるのだ。
「ところで、マネッティアやルドベキアはどうしたんじゃ? いつもならクローバー様クローバー様とひっついてくるじゃろ」
「二人とも家の用事でいないみたい。マネッティアちゃんは詳しくは知らないけど、ルドベキアちゃんは魔導杖開発会社の御令嬢だからね。忙しいんだよ」
「なるほどのぅ」
マネッティアとルドベキアはクローバーに惚れている。それはもうすごい感じで惚れている。いつもそばにいて彼女の全てを触れていたい、とばかりにひっついている。それはまるで飼い主に構ってほしい犬猫を想像させた。
「36番、ここじゃな」
指定された工房の前に立ち、鍵を差し込む。
36番工房。
ここがエミーリアに与えられた専用の部屋である。
中には何もなかった。
全て研究のために使う為に特化しており、芝生やテラス、娯楽室まである学生寮と比べるとそれはもう殺風景な部屋だった。
「この機材はどこに置いたら良いかな?」
「あー、部屋に隅に置いて置いてくれ。後で自分で改造する」
ここの目的は戦術機の研究改良開発改修だ。魔導士達の日常を彩るようなお嬢様然とした設備は必要ない。
そこでひょこっと顔を出した生徒がいた。
「あら、クローバーじゃない」
「百由ちゃん、もしかしてここ百由ちゃんの部屋もこの近く?」
「近くも何もこの隣よ。なに、クローバーも工廠科に入る気になった?」
「ううん、違うよ。エミーリアちゃんの付き添いだね」
「エミーリア?」
「わしじゃ。すまんのぅ、片付けたら引っ越しのバームクーヘンでも持って行こうと思っていたんじゃが」
「面白い喋り方するのね。気を遣わないで、挨拶できただけで十分だから。もし良かったらエミーリアちゃんのお部屋を見ても良い? 貴方がどんな研究をしているか興味あるし」
「おう、構わんぞ。もてなしはできんが勝手に見ていってくれ」
百由は片付いていない部屋を見ながら興味を持つ。
(へぇ、新入生なのに色々揃えているのね)
現行の制式魔導杖を中心したパーツが目に入る。この時期の新入生は座学に専念している場合が多いがエミーリアは実践派だったのが見て取れた。
「あ、そこに魔力クリスタルがあるから気をつけてくれ」
「クリスタル? って事は魔導杖を完全分解しているの?」
「んぁ、当然じゃろ。魔導杖を修理するにも制作するにしても、ますば分解せねば始まらん」
「それって学校から推奨されていないって事は承知なの?」
対モンスター兵器とはいえ魔導杖もまた兵器の一つだ。ユグドラシル魔導学園などの魔導士養成機関での改造、製造は許可されてあるもののその取り扱いは注意が必要だ。
その為、魔導杖の完全分解は十分な経験を積んでからと指導されている。
「魔導杖の分解なら八歳の頃からしておったわい。そのせいで部屋を吹き飛ばした事はあるがの」
「八歳!? 凄いわね。頭おかしいんじゃないの?」
「誰の頭がおかしいんじゃ! 喧嘩売っとんのか!」
「百由ちゃんにも遂に頭おかしい仲間ができたんだね、お母さん嬉しい」
「いやいや、クローバー様。いくらわしでもそのまとめ方は異論あるぞ」
「もしよければ私の工房も見て行かない? 自分の工房を片付ける前にうちのを覗いてみるのも悪くないでしょ?」
「ふむ、そうじゃな、百由様の工房を見せて貰えば何かの参考になるかもしれん。お言葉に甘えるとしようかのぅ」
「ええ、余ってるパーツとかならプレゼントしてあげる」
「おあ、それはありがたい。パーツはいくらあっても困らんからのぅ。早速お邪魔させてもらうぞ」
その部屋は異様だった。
魔導士の人形。よくわからない生物の標本。不定期に蒸気を噴き出している謎の機械。意味不明な紋様が書かれた書物。一体何を研究しているのか全くわからない。
「魔導杖は魔力を扱う兵器だから魔術的なアプローチもしているんだよね。その成果はありそう?」
「うーん。微妙かなぁ。どちらかと言うと素粒子とかナノマシンに近いかもしれない」
部屋を見ていると一振りの剣と一丁の銃があった。
「懐かしい。第一世代の魔導杖の撃震だ」
「クローバーは今、ストライクイーグル使っているんだっけ?」
クローバーはGE.HE.NA.の研究に協力しているので、魔導士バトルクロス・UCモデルも多く使用しているが、それは限られた人しか知らない。
「そうだね。ストライクイーグルが主かな」
「今は第二世代魔導杖の方が普及率が高いもんね」
ストライクイーグルと不知火といった現行型は第二世代の魔導杖と呼ばれる。
「第二世代の登場した今となっては練習機としての意味しかないな」
「そんな事ないわよ、使い方によっては今でも十分一線級で扱える武器よ」
「ん?」
「あら?」
クローバーを間に、エミーリアと百由がお互いの様子を伺う。
「何を言ってるんじゃ、百由様。第一世代の魔導杖は確かに優れた発明だったかもしれんが、その上位互換として第二世代があるんじゃぞ。残念ながら今更旧式に出番があるとは思えん」
「あら、エミリーリアちゃんったら第一世代の有用性を理解できてないなんて意外だわ」
「カビ臭い機体に思い入れを持つのは勝手じゃが、性能評価を私情で、左右するようでは、おしまいじゃ!」
「旧式じゃないわよ、第一世代は今でも立派な現行機です」
「第二世代が誕生した現在、第一世代の出番は無くなってきておる。これは事実じゃ」
それを聞いて、クローバーは呟く。
「うーん、どっちが上か下か比べる話じゃないと思うなぁ。好みだよね。使い慣れた第一世代を使い続ける魔導士もいるし。20以上の魔導士に多いかな」
「ガンシップで出撃する場合は、メイン魔導杖が壊れた際に対応する為に戦術ポットが設置されるでしょ? それに入ってるのは安価で頑強でメンテナンスが容易な第一世代の魔導杖よ」
「だけど第二世代も優秀だよね。長所が違うって言うのかな。機体性能だけで言えば第二世代だけど、整備性と安価で壊れにくい第一世代も使われている。第二世代はユニーク魔導杖までは行かなくても高価だから、財政が厳しい国では第一世代が使われるよ」
「ふぅむ、なるほどのぅ」
そこで百由は思い出したように言った。
「なら、その二つの優秀性わかる映像を見ればいいじゃない!」
「えっ!?」
クローバーは苦々しく驚いた顔をした。
「それは別に良いんじゃないかな?」
「いやいや、見ましょうよ。エミリーリアちゃんも気になるわよね」
「うむ、気になるところではある」
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