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68話:刻まれた英雄の証②

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 一ノ瀬真昼は東京防衛前線基地の一室に座り、息を吐いた。
 デストロイヤーによる大規模攻撃によって被害は甚大だ。東京の七割は更地になり、人的被害もかなり多かった。
 何より、衛士や防衛隊の士気の低下が激しかった。
 英雄を祭り上げる事でなんとかやり過ごしてはいるが、東京が陥落し掛けた事実と、人が死んだ事実は変わらない。
 しかし――。

『悪い顔をしているね、真昼』
「酷いです、お姉様。私はそんな顔をしませんよ。でも最悪じゃないのは事実です」
『あの時点での最悪とは?』
「エヴォルヴの最終進化。今回は自壊しましたが、あのまま進化し続ければ魔力スフィア戦術でも倒せないデストロイヤーが誕生するかも知れなかった。そうすれば手をこまねいている間に、種の固定化によって世界の終わりの始まりです」
『その点で言えば、東京の避難民が死んだ程度で済んだのは最善かもしれないね』
「はい。運が良かった」

 窓の外ではアーマードコアⅡが重機として活用されて巨大な建造物が建築されていく。衛士が周囲を警戒しつつ、防衛隊が建物の再建を進めているようだ。
 何もない大地から大都会へ進化したみたいな情景で、高層建築の建物が密になっている。
 いま作っている建物の半分ほどは電源ビルで民間のビルではないらしい。これを機にGE.HE.NA.が土地を買い取ってGE.HE.NA.ラボの増設を進めているようだ。
 戦いになって都市機能を失って最終的に避難した人々はこれまでの生活を失うわけだ。今回は死んだが。

「希望の神と理想の夢が結ぶ衛士と、最新鋭のアーマードコアⅡでその性能を示して、防衛隊や衛士候補を奮い立たせた深顯という個人」
『幸運のクローバーに続く英雄達だね』
「そうなれば良いですね。高い練度を誇る日本の大都市でこれほどの規模の戦いと被害。世界は驚いているでしょうね。それにGE.HE.NA.が回収した戦闘データを共有すれば、更に腰を抜かす」
『デストロイヤーによって薄れてしまったが、GE.HE.NA.の技術力の高さが全世界が知ることになった。もうただの多国籍企業には収まらない。国際的な研究機関になる』

 デストロイヤー大戦が始まってから数十年。禁忌を犯した研究は何度も行われた。
 昔からそうなのだ。
 世界が破滅に向かっていた時も。
 人間はデストロイヤーから人類救いたいと思ってた。だから、研究を進めた。でもそのたびに、人間の中から邪魔者が現れた。人間の作ろうとする兵器を、壊してしまう者。
 人間は困惑した 。
 人類は救われることを望んでいないのかって。
 でも人間は、人類を救ってあげたかった 
 だから、先に邪魔者を見つけ出して、殺すことにした。

「邪魔者は全て消えた。XM3強化手術は好意的に広がり、人造衛士はフルアーマーで防衛隊所属と偽り労働力と爆弾として活用して、アーマードコアⅡは量産体制に入っている」
『衛士の大半はGE.HE.NA.の技術を導入して実質的な支配下に置いた。あとは衛士訓練校同士の連携だけど、今回の件で強化するルールが更に強くなるだろう。全ては君の理想通りだ』
「肝心の結梨の右手もGE.HE.NA.ラボで保管して、様々な用途で役立てられている。そのお陰で東京は復興している。次だ。この敗戦の雰囲気を吹き飛ばす何かが必要です」
『大磯海底ネストかい?』
「はい。次はそこを狙います」

 真昼と時雨はお互いの思考を確認するように語り合う。

「大磯海底ネストは日本を苦しめていた大元だ。これを破壊すれば士気は大きく上がります。更に日本の陥落地域への奪還作戦もより効率的に行えます」
『物資と人員はどうするんだい? 東京で失ったばかりでどこも欲しがっているし、次を恐れて戦力がある場所は保守的になるだろう』
「少数精鋭で行きます。ここは危険を冒してでも前へ進むべきです。大磯ネストの破壊は早急にしなければならない。ちょうど、良い因縁があるんですよ」
『因縁?』

 真昼は端末を操作して愛花の情報と、台北が陥落した時の状況、そして大磯ネスト付近の情報を立体表示させる。
 そこにはデストロイヤー識別名称クシャトリアのデータもある。

「ちょうど、大磯ネスト付近に小型の攻撃しないケイブが大量発生しているんです。衛士訓練校に外征依頼が来る程に。そして台北が陥落した時も小型の無抵抗デストロイヤーが襲来し、油断したところをクシャトリア型が一撃で焼き払ったんです」
『つまり大磯海底ネストとクシャトリア両方倒さないといけないわけだ』
「そうです。そしてこの情報を流せばこのまま放っておけば日本が陥落すると予想して戦力を派遣します。必ずです。これみて研究を続けるような人達は全て消しました。戦略的に価値があるなら、行動する。そうする組織にGE.HE.NA.はなっています」
『具体的な戦力予定は?』
「私とヴァルキリーズは全員出陣するでしょう。東京は手が回りませんからね。私達と防衛隊と補欠衛士を回してくれるか、といったところでしょうか」
『それで攻略できるかな?』
「横浜基地で入手したデータをもとに対ネスト攻略訓練を徹底させます」
『うん、それなら良いかな。頑張ってね、真昼』
「勿論です、お姉様」

 夕立の幻覚が消えて、真昼は長い息を吐いた。
 その時だった。部屋にノックする音が響く。

「どうぞ」

 そこにいたのはシノアと愛花だった。

「どうしたの? 二人とも」
「今回、民間人の救助を名乗り出て大きな被害を出しました」
「XM3強化手術を受けて、死傷者を出さないつもりでした。私は驕っていたんです」
「英雄の一人として泣いて立ち止まることはしたくありません」
「もっと強く、次は誰も傷つけさせないように」
「「強くなりたいんです」」

 二人の迫力に押されながらも、真昼は冷静に頷いた。

「二人とも凄いね。立ち向かえる力が残っているなんて」
「一時は心が折れそうでした。けど、私は貫き通すんです! 故郷を奪還する夢を結ぶ為に!」
「私は真昼様が神様でした。その真昼様がくじけなかったんです。私も、黙っているなんて出来ません」
「わかった。強くなる方法を教えるよ。二人だけじゃない。衛士訓練校にいるヴァルキリーズのみんなで」
「よろしくお願いします」
「具体的にはどんな方法で強くなるんですか?」
「まずはXM3強化、そして戦術機の改良、あとは防衛軍や補欠衛士との連携協力訓練かな。一番は必要なのは対人戦。人間理解、対人理解、うーん、相互理解? かな。お互いに敵対してどういう動きをしてくるか予想して動く」
「それはデストロイヤー戦とは違うんですか?」
「より深い深度で相手を理解できるようになるからオススメだよ。デストロイヤー戦より予想という面で頭を使うからね」
「わかりした」
「戦術機はどうするんですか?」

 真昼は端末を操作して立体映像を開いて二人に見せる。

「戦術機強化アタッチメント。第二世代機を二.五世代機に性能を上昇させるアタッチメントだ。名前をジェスタD装備。全部の戦術機に使えるアタッチメントだからこれはXM3以上の威力があるよ」

 真昼はそう言って笑った。
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