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71話:指名依頼①
しおりを挟む一ノ瀬真昼様へ。
今回の依頼はクレスト社ならびに東京統一防衛連合からの依頼です。
今回の大規模戦闘で大きな被害が出ました。それを悼んで追悼式を行う予定です。同時に神凪高校のライブステージや各企業が出資する出店などで東京復興祭としての側面も持っています。
問題なのはデストロイヤーです。
だいたいのデストロイヤーは掃討されましたが、まだ残っているデストロイヤーが存在します。そのデストロイヤーは特定の歌に反応して襲ってくると報告がありました。
歌、つまりライブステージの開催が危うい、ということです。このライブには多数の企業が出資し、取りやめることはできません。
ですので、事前に倒していただきたいです。
どうか、東京とその市民のため、よろしくお願いします。
◆
真昼は、そんな依頼があり、真昼は神凪藝術高校へやってきていることを比呂美という少女に伝える。
「貴方、情報を知っているよね」
「はい、私はヤツを、例のデストロイヤーをずっと追っていました。姉を殺されてからずっと」
「復讐か」
「はい。けど、状況がこうなった以上、細かいことは言ってられません。誰かが確実にとどめを刺す必要があります」
「具体的な特徴は、歌に反応する、飛行する、集団で飛び回り、ボスと呼ばれるデカいのがいる。くらいです。他は普通のデストロイヤーと大差ありません」
「分布図もあるんだね」
「はい。小型デストロイヤーが出現した位置を細かく記録してあります」
「なら、罠を張るならこの公園が良いかな。隠れやすくて被害が出ない」
「わかりました。そしてその、歌を歌う子なのですが」
比呂美は顔を厳しくさせて言った。
「歌が、歌えないんです」
その言葉に真昼は耳を疑う。
「歌が歌えない? それだとこの作戦が根本からひっくり返っちゃうけど」
「正確には人前では歌えない子なんです。友達や周囲の助けがあって、やっと歌える、そんな感じです」
「なるほど。その子の名前はみぞれ、綾波みぞれ、です」
「取り敢えず本人にその話をしてみようか」
綾波みぞれにその話をすると、帰ってきた反応は至ってシンプルなものだった。
「私の歌が、皆さんの助けになるなら、みぞれも頑張ります」
好意的な反応に意外な感想を抱く。もっと、「はわわわ無理です無理です」みたいな印象があったのだが。
「東京の人が多く亡くなりました。その人達を送り出すためのライブです。成功させなくちゃいけないんです」
「よく言ったみぞれっち!」
彼女のレギオンメンバーであるフレデリカが、みぞれの肩を叩いた。そして他のメンバーも覚悟を決めた顔でいる。
フォーミュラフロントドを代表として、今流星は言った。
「彼女一人に歌わせません。みんなで歌います。そうすれば効果も上がることでしょう」
「確かに自信を持って歌った方が成功率は高いけれど」
「なら決まりだね! 作戦決行日はいつ?」
「なら、明日の12時に始めましょう」
わいわい、と戦いに関して前向きな姿勢を崩さないフォーミュラフロントに、イェーガー女学院から出向してきていた金色一葉は面を食らったようだった。
真昼は問いかける。
「イェーガーとは違う?」
「はい、イェーガーは殺すためだけの組織でした。しかしこうやって仲間を支え合うのは新鮮な気分です」
「その気持ち、大切にね。自分がピンチの時に助けてくれるのは仲間なんだから」
「はい、わかりました」
そして、作戦決行当日になった。
戦術機を起動させた状態で待機させ、隠れる。フォーミュラフロントは公園の中心で、スピーカーから流れる音楽に合わせて歌い始めた。
それを察知したのか小型のデストロイヤー達が現れる。しかしまだ攻撃は加えない。大型のボスがやってくるまで待つのだ。
『来ました! ヤツです!』
大型の翼を持った紫色のデストロイヤーが現れた。
普通道路を走る自動車よりも速くやってくる、直撃すればビルさえも倒壊させるだろう飛行するスモール級の群れでの突進。その前面に躍り出て、的確なポジショニングを取るまでの時間は僅か10秒程度だった。
それだけでもう、迎撃の態勢は整っていた。遠距離よりやや近く、中距離と言うにはやや遠い。その距離に突撃級が達すると、真昼は狙いを定めシューティングモードした銃を斉射した。
ドドドド、ドドドド、ドドドド、ドドドド、と。リズミカルに放たれた弾丸の全ては、まるで冗談のようにミドル級の脚に命中した。機動力が売りであるミドル級はその強みを永久に封じられると同時に転倒し、鼻先を地面にこすらせていった。
だが、それで終わるはずもなかった。更に10体以上のスモール級が、転倒した突撃級を迂回して後から後からやってくる。狙いは既に定まっていた。
『射撃は苦手なんだが――――この距離なら』
中距離にまでスモール級が近づいてくると同時、一葉も弾丸をばら撒いていく。命中精度こそ低いものの、何発かはスモール級の翼に命中。比呂美も見よう見まねだが加わる。やや荒いレベルでの斉射がスモール級を襲い、次々にその脚が撃ち貫かれていった。
犠牲はゼロではあり得ない。ほんの少しであるが衛士の守りを掻い潜ったデストロイヤーが衛士に飛び掛かり、衛士の戦術機問わずに肉を噛み千切る。その度に金切り声が、激しい嘔吐音のような断末魔が通信に響き渡る。
そして5分後には、スモール級の脅威は消えていた。見えるのは、地面に這いつくばるように歩いている無様な姿だけ。
「あとは、大物だけだ」
空より次々にやってくるデストロイヤーの数と、上陸した後に倒されているデストロイヤー。その総数が、前もって告げられていた数より多いのだ。それどころか、まだまだ増えそうなぐらいだ。それを裏付けるかのように、更なる赤の光点が海より増え始めた。
『更に増援………!? このままじゃあ、いくらなんでも………』
『金色一葉より真昼様へ! 敵の増援が見えないんですか!』
『見えていない筈がないでしょ! この忙しい時に、何の用!』
『このままじゃ維持は難しい、弾薬だって無限じゃありません! このままじゃ、後方に居るはずの機甲部隊もまとめて全滅します、後退して一時的に――――』
『貴方に言われなくても理解している………っ!』
冷たい声には、苛立ちが含められていた。それは戦いが始まる前までの比ではなく、一葉が一瞬だが言葉を失うほどのものだった。だが、直後に一葉は大声で叫んだ。
『このままじゃ拙いって分かっているはずです! ベテランなら、私より分かる筈! このまま命令なんて待ってたら全員が………』
『分かっている。だが、後退命令は出ていな――――』
言葉の途中で、真昼は黙り込んだ。
『今ならまだ間に合う………逆に言えば、今しかないんだ………っ!』
一葉は目の前の光景が耐えられなかった。デストロイヤーの見た目の不気味さと、言い知れぬ圧迫感ではない。それを前にして何も出来ない自分に対してだ。機甲部隊の損害はゼロではない。通信越しとはいえ、その断末魔を僅かなりとも聞いているのだ。なのに自分はのうのうと後方に居るだけで、一発も撃つことができない。見れば、
それだけで、これが衛士にとっては耐え難い、許されないことであると感じていた。
戦闘の地響きが、遠すぎることが許せない。他国の人間がどうかなどとは関係がない、自分の衛士としての矜持がこの状態を許容できないのだと。故に絞りだすような声で、懇願した。
『お願いだ、頼みます………っ!』
『………確かに』
現状を把握するに、違和感だらけだった。元々の状況がおかし過ぎたのだ。あのレベルの援護が無ければ、機甲部隊が全滅していた可能性もある。今でも、航空支援なしで戦えば甲部隊が半壊する恐れがある。それなのになぜ、司令部は何の指示も出さないのか。命令は遵守するものという、軍の根幹たる意識に対する信頼さえ揺るがしてしまいかねない行為なのに。
『まさか………なるほど、そういうことか』
そこで、気づいた。司令部の思惑は、一ノ瀬真昼を消耗させたくないのだ。
そのためだけに機甲部隊や、自分達を含めた戦術機甲部隊を捨て駒にしようとしている。この配置でまず損害を被るのは衛士だ。部隊が戦闘能力を失い、いよいよ拙い状況になった所を航空支援部隊で片付けるつもりだろう。
『そうはさせるか………っ』
怒りと焦りを絞り出すような声。真昼は、味方に大声で告げた。
『真昼より各機! これより防衛線を二分する、各中隊ごとに指示座標へ後退!』
『了解! あ、でも、支援砲撃無しでは………!』
返ってきた声は、まだ少女の面影が強い。
真昼はそれを受け止めながら、柔らかい口調で告げた。
『分かっている―――大丈夫』
視線の先。そこには、巨大なアタッチメントを装着した戦術機ジェスタDをスタンバイしている一葉の姿があった。
『この最悪の状況を、あの少女が何とかしてくれるそうだ』
『えっ? でも、新兵器なんて………』
『それを保証したのが、あの馬鹿げた戦術機を持っている1人だ』
守るためにと、一人派遣された衛士と戦術機の質。それが証拠になるのが分からないが、と言いながら真昼は声を大にした。
『どちらにせよ時間が無い、後退急げっ!』
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