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世界の相違点②
しおりを挟む誰と誰が、そこに居た。
誰と誰が、ここに在る。
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この世界の真昼が起きてまず見たのは、覚えのない天井の色だった。
「ここ、は?」
真昼は寝ぼけた頭のまま、ぼうっと天井を見続けた。寮のベットではない。しかし、無機質なのは一緒だが、材質が違って見えた。
周囲に漂っている匂いまで違っていた。柔軟剤の柔らかい匂いはは微塵も感じられず、漂ってくるのは薬品の匂いだけだ。
真昼は一度だけ、この匂いを嗅いだことがあるのを思い出した。確か、自分が怪我をした時のこと。
その時に案内されていた場所に重なる、真昼は、そうして、ようやくここが医務室だということに気づいた。
真昼はそこまで思い出して。そして、自分が先ほどまでどこに居たのかを思い出した。
「………っ、そうだ、デストロイヤーは!?」
戦っていたはずで、帰投した記憶もない。なのに何故自分はここに居るのか、真昼は必死に思い出そうと記憶を辿っていくが、思い出せない。
死にそうになっていた記憶だけ。
(そこから先は目の前が真っ白になって………駄目だ、思い出せない)
いくら頑張っても、そこから先の記憶は暗闇に閉ざされているかのように浮かんでこなかった。
筋肉痛も思考を邪魔する。いつもの比ではない痛みが全身にはしゃぐように飛び回っているのを真昼は感じた。しかし、五体は満足で。だから自分は誰かに助けられたのだと、真昼は結論づけた。
その時入り口のドアが、がらりと開いた。ノックの後に部屋に入ってくる。その人物を見て、真昼は安堵の息をついた。
「あっ、お姉様」
「良かった、目が覚めたのね」
柊シノアは真昼が帰って来てから今まで、ろくに眠ることができない程に心配していたのだった。絶対的な安堵だった。
近づき、身体を起こした真昼の頭をぽんと叩く。
「身体は大丈夫なの? 精神的疲労が主に軽症って聞いてますけど」
「は、い。……筋肉痛がすごいきついですけど」
真昼は基礎訓練の時にシノアに教わった要領で手足の動きをチェックした。関節部を動かし、痛みの有無と可動範囲を見た。
そして問題がないことが分かると、笑顔でシノアに返答した。
「大丈夫みたいです、問題ないです」
「そう」
柊シノアは安堵の息を吐いて、真昼の頭をぽんと叩いた。
―――その手が震えていたことに、真昼は気づかなかったが。
そこから二人はゆっくりと言葉を交わした。ここが横浜衛士訓練校の病室にあること。
真昼は大爆撃の後に気絶して運んだこと。そして、大爆撃から逸れた残存デストロイヤーは他の訓練校の援軍と共に撃滅できたこと。
最後に横浜衛士訓練校の衛士は全員生存できたこと。
「全員無事、良かったです。でもあの大爆撃は何なのでしょう?」
「それについては情報を精査した後に発表があるみたい」
あれから2日も経つし、結論は出ているだろう。シノアがそう告げると、真昼は驚きシノアに問い詰めた。
「え、もう2日も経ってるんですか!?」
「ええ。極まった緊張感が、知らない内に溜まっていた疲労を爆発させたと言っていたわ。………心配したわ、意識不明だと告げられた時は」
シノアはそう言って、また真昼の頭を撫でた。幼子にするような行為に、真昼は何だか気恥ずかしくなり、優しく手を握った。
それを見た夢結は、苦笑しながらもまた手でわしゃわしゃとした。
「ありがとう。真昼。貴方達が踏ん張ってくれたおかげで、私達も生き延びることができた」
命を助けられて、ありがとう。その言葉に、真昼は目をむいた。
「激戦だった。誰もが最善を尽くしてもそれでも危なかった。それでも生き残れたのは貴方の頑張りがあったから」
「いえ! 私は足を引っ張ってばっかりで」
「大丈夫。貴方の頑張りを私は見ていたわ」
ぽん、と頭を叩いてシノアは時計を見た。
名残惜しいものがあるが、時間だと言いながら立ち上がった。
「悪いけれど、そろそろ会議があるからいなかないと………すぐに別の見舞いが来るそうだから、寂しくないわね」
「はい………ありがとうございます。お姉様も無理しないように」
「大丈夫よ、慣れているから」
シノアは最後まで真昼のことを気にしながら退室していった。
その梨璃はドアが閉まる音を聞くなり、ベッドの上に寝転がって天井を見上げた。
そして声のなくなった病室の中で、自分の呼吸音を数度聞いた後に、湧いてきた実感を呟いた。
「………帰ってこれたんだ」
真昼は気絶する直前までに自分の周囲を占領していた鮮烈な戦場の光景が衝撃的だったせいか、いまいち現実だと思えなくなっていた。だが、じっと落ち着けば段々と頭の切り替えもでき始めていた。
そうして、自分がどこに居るのか、何をやったのかが分かると達成感も湧いてきた。
自分は、戦場に出て戦い、生き残ったのだ。そして熟練に衛士になる為の激戦を生き残った。
「やったぁ!」
喜ぶのと同時にズキン! と全身の筋肉痛が響いた。は収まらない痛みに、涙目になっていた。そのまま、数分を何とか耐えぬく。
そして、ちょうど収まった頃、再び入り口のドアが開いた。真昼は顔を上げた。涙が流れた。
「失礼しますわ………ってえ、なんで泣いてるんですの!? 真昼さん!?」
入ってきた人物、茶髪の衛士、風間はベッドの上の真昼を見て、あわあわとする。真昼は痛みのあまり声が出せない。しばらくして、葉風と愛花が入ってきた。
「失礼しま――――あ」
「どうしたんですか? 葉風さん? あ」
葉風と愛花さんが顔に手を当てる。
「遂にやってしまいましたね、風間さん」
「自首しよう、今ならまだ罪は軽い」
「いえ、私は何もしてませんことよ!?」
視線をそらし、残念そうにいう愛花と葉風に、風間は誤解だと慌て、反論した。
「こ、これはたまたま!」
「ふふ、冗談です。いくら風間さんでも部屋に入って、10秒程度で――――いや、有り得ないとも言い切れないですね」
「違いますわよ!? ぶっ飛ばしますわよ!?」
「風間、自分のやった責任は取らないと」
「葉風さん!? 貴方は天然なのかマジなのか分からないから怖いんですけど!?」
それを見て真昼は笑った。そもそもが、どうしてこうなったのか。真昼が訊ねると、二人は普通に答えた。
「お見舞いにきたんです。目覚めたって聞いたから」
「起き抜けですみません、真昼さん」
「無事なようで何よりでしたわ!」
「2日も寝てたから心配した」
「ありがとう、みんな」
少しの間、雑談をしたあと、警戒任務があると言って退室していった。
◆
アールヴヘイムの面々は警戒任務に当たりながら、雑談をしていた。
「ねぇ、阿頼耶ちゃんおかしくない?」
「そうだねぇ。いつものキレがないっていうか」
「惚けてるわね」
「例のラプラスさんに助けられてからだよね」
「ガチ恋?」
「くすみにも手を出さなくなったし、マジかも」
「別世界の真昼さんことラプラスさんは格好良かったですね」
「あれは相当な死線を潜ってるっぽいからね。二日前のアレが日常っぽいよ?」
「うわぁ」
「なんでこっちの世界に持ってきちゃうんですかねぇ」
「まぁ、うん、そう思うよね。ヘイトが向いちゃうの仕方ないよね」
「血の雨に、異世界デストロイヤーですからね。文句も出るよ」
「でもラプラスさんの戦術機の情報を解析して、かなり有益な情報が手にい入ったって聞きましたけど」
「その割にアーセナルの人たちは喜んでなかったけど」
「あー、たぶん非人道的な感じだったんじゃない? 第4世代戦術機って脳の負担が大きいのが最大の障害で実用できていなかったのに、をああも簡単に複数操作して、その上でマギリフレクターがあるとか強化衛士確定だろうし」
「向こうの世界では強化衛士が当たり前ってことですか」
「強化衛士はG.E.H.E.N.Aくらいしかしてないだろうし、横浜衛士訓練校が強化衛士を積極的に運用している時点で、かなり切羽詰まってるんだろうね」
「確かにあの異世界デストロイヤーは強いし数が多いですからね」
「しかも世界規模で血の雨が降ったってことは、どこにあの異世界型デストロイヤーが現れてもおかしくないってことだし。横浜衛士訓練校で苦戦する敵が全世界に現れるって、かなりやばいよ」
「そういえば、大爆撃を行った二人の衛士について情報はないんですか?」
「それも今、会議中らしいよ。秘匿されてる」
「全く、何が起きているんだろうね」
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