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8:過去ー幸せと絶望

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身籠ってからまわりはより丁重にクラウディアに接した。

というのも王家の直系がアルフレッドを除き悉く夭逝しており、国王の病状も芳しくない。そんな中での懐妊は国をあげての慶事であった。

多くの祝いの品が届き、首都では祭りがおこなわれ、国民には恩赦や支給、宮殿庭園の一般開放などがおこなわれた。

一方で、侍女などの側仕えの数をふやし、厳重な体制がとられた。

「動いた」

「ええ、動きましたね」

「元気がいい。きっと男の子だ」

「そうだといいのですが」

大きく膨れる腹にアルフレッドは耳をあてて嬉しそうに言った。

「名前はクロードにしよう。きっと君に似た愛らしい子だ」

「まだ男の子だと決まったわけでもないのに気がはやいですわ。女の子ならアデライドにしましょう。貴方に似た優しい子になりますわ」

そう言いながらもクラウディアには漠然とした不安があった。すでに子持ちであるリゼットから色々な話を聞いていただけに不安が先走っているだけだと信じたかった。

「男の子でも女の子でも嬉しい。はやく元気な姿を見せておくれ」

しかし、クラウディアの不安が現実となった。


クラウディアの初産は難産となった。

日が昇り、暮れ、空が明るんだ途方もないと体感するほどの時間をかけてやっとのおもいで子供を出産した。

我が子を抱き抱える暇も、性別すら聞く猶予もないまま意識を手放した。

そのまま高熱にうなされ、生死の境をさ迷って目覚めた時に知らされた内容は産褥期のクラウディアには酷なものであった。


「妃殿下がお目覚めになりました」

リゼットの声が一番に聞こえ、自分は生きているのだと実感した。

「子どもは?」

「男の子であらせられます。現在は王妃陛下のお手に」

男の子であるならば、名はクロードであるのだと思いながら辺りを見ればアルフレッドの姿がなかった。

「アルは?」

「……」

リゼットは口をつぐんだままクラウディアを起こし水を手渡した。

その様を怪しまないわけがなく、クラウディアは一番口が軽そうな侍女をじっと見つめた。

赤毛の侍女はその視線に堪えられなくなったのか口を開いた。

「妃殿下、実は」

「お黙りなさい!」

リゼットが声を張り上げた。

初めてそのような姿をみて、確実に何かあることがわかった。

「よい。続けなさい」

「カ、カトリーヌが殿下と床をともにしました」

鈍器で頭を殴られたような衝撃をうけた。


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