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14:アンナの慰め

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「クロード? どうしたの?何か嫌なことでもあった?」

アンナが心配そうにクロードの顔を覗いた。

「昔の事を思い出したんだ」

「それは辛かったでしょうね」

アンナは包み込むような優しさでクロードを慰めた。

「母上は俺に興味がなかったのに、突然ガヴァネスを解雇して、いつものようにティオゾ伯爵を引き合いに貶めてくる。母上は俺のことが心底嫌いなんだ」

母に優しく抱き締められた記憶も、手を繋いで並んで歩いた記憶さえもない。

ただ息のつまるような食事と、ティオゾ伯爵が功績をあげるたびに比較されるような言葉が並べられる。

「でもチューターにシャルモン伯爵がついたのでしょう? シャルモン伯爵は王さまの腹心で、その夫人は王妃さまと親しいんだもの。嫌いな人に自分の身近な人はつけないわ。それに実の子を愛さない親なんていないわ」

アンナはクロードを抱きしめて、これまで与えられなかった愛情を与えてくれる。

アンナの言葉を受け入れながらも、母親が自分を愛しているということは信じなかった。

ティオゾ伯爵であるテオドールはずっと幼い頃からシャルモン伯爵の娘をガヴァネスにしている。しかもシャルモン伯爵令嬢が断っていたならば王妃自身が養育していたという話しも聞いている。

「塞ぎ混んでいても気が滅入っちゃうばかりだわ。気分転換に街へお出かけしましょう」

アンナは無垢な笑顔を向けてそう言った。

クロードは彼女のそんな貴族社会とは関わってこなかった裏のない表情に魅了されたのだ。

「そうだな」

ふと、年のはなれた幼い弟妹たちを邪険に扱ってしまったことを思い出した。

「妹たちにも何かお土産を買ってかえろう」

「弟妹思いなのね」

「そんなことはないさ」

「もう、謙遜しなくてもいいのに」

アンナは都合よく解釈してくれたが、本当に純粋な気持ちで贈るものではない。

妹のレティシアは、数々の夭逝や流産の中で十を数えるまでに育った唯一の王女であり、王妃のお気に入りだ。

弟のジルベールはまだ幼く庇護が必要な年であり、末の子どもを両親は相応に愛していた。

打算的な行動なのにアンナはそれを好意的にとってくれた。それに対する罪悪感を感じた。

「新しくできたカフェがあるの。きっとクロードも気に入るわ」

アンナは青い瞳を細めて笑った。

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