王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)

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18:家族との時間①

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子供の成長というものは早いもので、産んだばかりの小さい生物がいつの間にか大きくなって、自分の膝の上に座っている。

「ディア、辛くないかい? やはり、ジルベールは俺が抱こうか」

「いいえ、座っているのですから辛いはずがありません。それよりも動かない方がはやく終わるでしょう」

クラウディアは自身の膝の上にジルベールをのせて大人しく座っていた。

その隣にはアルフレッドがいて、間に挟まるようにクロードとレティシアがいる。

今はまさに、宮廷画家に家族の絵を描かせている。

「お母様、これが終わったら一緒にお庭でお散歩ですわ」

「ええ。今日は家族で過ごす約束ですから」

レティシアの言葉に微笑ましくこたえた。

まさに絵に描いたような仲のよい国王一家の姿に画家は憧憬を抱き、それを惜しみ無く表現しようとした。

「父上、その前にお話があるのですが」

「わかった。ディア、そういうことだから先に行っててくれ」

「わかりました」

クロードがどのような話をするのか知らないが、母親には、いやクラウディアには聞かれたくない話であることは確かだ。

「終りました。完成まで今しばらくお待ちください」

画家がクロッキーを終えたことを告げると、ジルベールが元気よく膝から飛び降りた。

「はやく、いきましょう!」

「そう慌てないで。貴方の絵を楽しみにしていますわ」

クラウディアは画家にそう声をかけて、ジルベールとレティシアに手を引かれながら庭へ向かった。

一方のアルフレッドとクロードは神妙な面持ちで執務室の方へと行った。



クラウディアの庭園は、王妃の庭園と呼ばれ、その中に入ることは大変な光栄とされている。

「お兄様がね、プレゼントをくれたんです」

レティシアが嬉しそうに頭を飾る小さな一つのピンをさした。

花の形をもしたそれにはアメジストが飾られており、宮廷のモードが手掛けるものと雲泥の差である。それでもレティシアは兄がくれたものだと喜んでいた。

「それはよかったわね。レティのシナモンのようなブルネットにとても似合っているわ」

誉めてあげるとレティシアは嬉しそうに笑った。純真な子だ。自分も昔はそうだっただろうかと、遠くなった祖国を思い出す。

そう言えば、お見合い用の肖像画を描くといわれたとき、両親がクラウディアが機嫌よくいられるようにと愛犬を側においてくれた。

「僕もお兄さまにもらった」

ジルベールは手をあげて、袖のカフスを見せつけた。

「素敵ね。もうすっかりムッシュね」

兄弟仲は悪くないらしい。その姿にどこか安心をおぼえた。

季節の花が咲く庭園を歩きながら子どもたちとおしゃべりする。目的地は並木に囲まれた散歩道の奥にあるガゼボだ。

だが、そう簡単に物事は運ばなかった。

「お母さま、あの人も招待なさったのですか?」

前方からは何故か王太子の婚約者セリーヌ嬢がやってきた。

なぜ彼女がここにいるのか疑問に思ったレティシアは少し不快そうに聞いた。

「迷い猫のようですね」

「ねこ?」

ジルベールは何のことかわからないようだが、人見知りなのかクラウディアの後ろに隠れた。

セリーヌ嬢がわざとらしく気がついた振りをしてカーテシーをした。

「ごきげんよう、セリーヌ嬢。どうしてこちらに?」

「ご機嫌麗しゅう、王妃陛下ならびに王子、王女殿下」

セリーヌ嬢は勝ち気な顔をあげて微笑んでみせた。

「素敵な庭園ですね」

「しっかりと剪定された庭ですもの。だけど、時折迷い猫が入ってきて荒らしていくのよ」

どうしてこの庭園には招かれざる客が頻繁に出入りするのだろうか。

セリーヌ嬢を一度だけ王太子の婚約者として招いたことはあったが、それは過去の話であり、自由に出入りを許したことはない。

それなのにセリーヌ嬢は微笑むだけで庭園を見渡していた。

「なぜ貴女がここにいるのかと聞いているのよ、マドモアゼル」

「レティシア殿下、もうじき家族となるのですからそのようなこと気になさらなくてもよろしくって」

レティシアの言葉を流すようなセリーヌ嬢に敬意は感じられない。幼いレティシアでもそのことがわかるのだから、クラウディアが気づかないわけがない。

「何処で貴女と一緒に豚のお世話をしていたというのですか? 馴れ馴れしさ軽蔑をうみますよ」

セリーヌ嬢の顔がすこし歪んだ。

セリーヌ嬢の素行があまり良くないことは聞き及んでいたが、これ程だとは思わなかった。

彼女が次期王妃になると考えると頭がいたい。本格的に婚約者の解消を考えなければならない。

「まあ、心の欠点は顔の欠点と同じですわよ。歳を重ねたくはありませんこと。庭園の花と同じように美しいほうがよくありませんか?」

セリーヌの失礼な発言と引き下がらない態度にどうしたものかと悩んだ。

「それならば、王妃に欠点などないな。いくつになっても美しい。いや、歳月が更に君に美を与えている。マルナ」

後ろからアルフレッドとクロードがやって来た。

「モンソレイユ、そのように褒められては照れてしまいますわ」

アルフレッドとクラウディアが茶番劇をやっている間に、クロードはセリーヌ嬢の方を向いた。

「セリーヌ嬢、今日は帰ってくれ。数少ない家族だけの時間なんだ」

ただでさえ好感度の低い婚約者であったのに、目の前で母親を侮辱されれば不愉快になるのは当然だろう。

「ですが、殿下は私がお誘いしても何かしら理由をつけてお断りになるじゃないですか」

「そなたはこの国の王と王妃と同列とでもいいたいのか? 傲慢にも程がある。その態度をなおさない限り、そなたと会うつもりはない」

クロードがはっきりと拒絶の言葉を述べるが、セリーヌ嬢は引き下がらない。

「私にはさく時間がないのに、あの下賎な女には頻繁に会っているではありませんか! 知らないとは言わせませんわ。あの女は他の殿方にも接して……」

「黙らないか! 両陛下の御前で世迷い言ばかりいって。そっこく立ち去れ。さもないと衛兵によって強制的に立ち退かせるぞ」

罰の悪いことを、とくに王妃の前でアンナの話をさけたかったために、最後の言葉は脅し同然のものになった。

貴族の令嬢が衛兵に捕まるように外に出されるなど恥でしかない。しかも王妃の庭園とよばれる誰もが憧れる場でそのような事が起きれば、すぐさま話は広がり社交界で笑い者になるだろう。

「……失礼しました」

セリーヌ嬢は悔しげな表情を隠しもせずに立ち去った。

立ち去る姿は流石は公爵家のご令嬢である。オートゥイユ夫人とは異なり優雅さを保っていた。

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