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24:発露
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クラウディアは頭を抱えたい気持ちだった。
アルフレッドから話をしようと言われて、彼の話をきかされた。
それは彼の想いとクロードを出産した時の話だった。
「信じられません。王太妃さまがそのようなことをなさるなんて」
「信じられなければ、シャルモン伯爵や母上に直接きくといい」
王太妃は未だに存命であり、王宮から遠く離れた城で老後を過ごしている。
「そんな話を今さらされて、私はどうしろというのですか? このやるせない気持ちは! 貴方の愛を受け入れようとし、貴方を愛そうとした過去の私は、それを手放した今の私は、どうしたらいいのですか? 」
ずっと憎ませて欲しかった。
その方がずっと楽だっただろう。一つの感情だけで済んだのだから。
「貴方を憎むこともゆるされず、愛せる勇気もない。どうしたらいいのですか!」
ハラハラと涙が止まらなくなった。
感情がぐちゃぐちゃになってにじんでいく。
「憎めばいい。君の気持ちも考えずに、楽になるために自分勝手にこの話をした俺を」
そうできたらよかったのに。
馬鹿正直に全てを話して、不利益を被っている彼にそんなことできなかった。
「ただクロードを責めないであげてくれ。君もクロードを憎くはおもっていないはずだ」
クロードに対して愛着は薄いが、それでも我が子だ。愛したことがないわけではない。
ただ我が子を可愛く思えない自分が嫌で、醜くて、滑稽で、不安定な気持ちになった。
そうなりたくなくて遠ざけた。クロードに厳しく接した。その全てが間違いだった。
「……胸をかしてください」
クラウディアがそう言うと、アルフレッドは無防備に手を広げた。
「うわぁぁぁぁーん!」
アルフレッドの腕の中で声をあげて泣いた。どんどんと胸を叩いて憎しみをこめて殴った。
「本当は嫌よ! 浮気も不倫も大嫌い! 腐りきった社交場にうんざりよ。なのにもう、私も綺麗な人間じゃなの」
ずっとたまっていたものを吐き出すようにクラウディアは一つ殴って言葉をこぼした。
「でも、王妃だもの。国を背負って嫁いだのよ。そういうものよ。利用価値があるととどめていても、本当は不快よ! でも、それでも、義務であり権利だもの。人が死ぬのは嫌だし、子どもを見捨てることもできないじゃない! 貴方に似ている子を、初めてみた肖像画に似た子どもを放置できないわよ」
クラウディアの振り下ろす拳の力がどんどんと弱くなる。そして少しの沈黙に満ちた。
「……どうせ私たちは離れられない運命です。死ぬまでともにいるのですから」
宗教として離婚は重大な罪であり、一度誓い合えば死が二人を別つまでともにするのだ。
それに王国の結婚は外交なのだから離婚などできるはずもない。
「私にあまり多くを望まないでください。貴方のすべてにこたえられる自信はありません」
「何も望まない。君が健やかに笑っていられればそれでいい。王宮を、社交をはなれて休むのもいい。時間はいくらでもあるんだから」
クラウディアも時間がこの複雑な気持ちを解決してくれると信じたい。
だが、目の前の課題は山積みで逃げることはゆるされない。
「クロードはどうしていますか?」
「謹慎している。とても反省しているようだった」
「そうですか。あの子の選択を尊重しましょう」
クロードが王位を選ぶのか、愛した女を選ぶのか。どちらを選ぼうとクラウディアは止めはしない。
だが、どうもあのアンナという娘の行動が不可解だ。まるで過去も未来も全てを知っているかのようだ。
ジョレアン公爵の内情も、クロードとテオドールの確執と親子の問題も、田舎の子爵家の養女が知り得るはずもない事だ。それに今回のパーティーでセリーヌ嬢を断罪したときも動揺していなかった。
「気になることがあります」
「なんだ」
クラウディアはベッドボードと柔らかなクッションにもたれながらパーティーで起きた予期せぬ出来事を思い出す。
「クロードは決して浅薄な子ではありませんでした。きっと誰かが焚き付けたのかもしれません」
あの茶番劇のような断罪は誰かが描いたシナリオがあるようなそんな周到さがあった。その人物はジョレアン公爵が確実に捕縛されることを知っていなければならない。
「わかった。こちらで調べておこう」
「それとオートゥイユ夫人をそろそろ追い出そうと思います」
今までオートゥイユ夫人を王宮に留め置いていたのは、風評避けだのなんだのと理由をつけていたが、アルフレッドに後ろめたくそして罪の意識を持っていて欲しかったからだ。
だが、クラウディアもアルフレッドもその負の楔からそろそろ解放されたかった。
「どういった理由でだ?」
「彼女は叩けば埃が出るような人です。最近の散財を新聞社に匿名で売るのです」
最近得た話によれば、王の愛妾である身でありながら、若い伯爵令息と逢い引きし、かつその令息に貢こんだが、それは詐欺であったという内容だ。
「これで庶民たちの関心をそちらへ向けましょう。王宮を追い出されればさらに話は盛り上がるでしょう」
要するに今回のクロードが引き起こした断罪劇とジョレアン公爵の件のカモフラージュとするのだ。他国へこの話が広がることを先延ばしにしてくれるといいのだが。
「そうしよう。目が赤くなっている」
アルフレッドはクラウディアの目元を軽くなでて、冷すものを持ってくるよう指示した。
そして、濡れたタオルを目元に当てて再び横になる。
「ゆっくり休んでくれ。あとの処理は任してくれ」
アルフレッドの声は心を優しく撫でた。
泣きつかれたのか、そのまま沈むように眠りについた。
アルフレッドから話をしようと言われて、彼の話をきかされた。
それは彼の想いとクロードを出産した時の話だった。
「信じられません。王太妃さまがそのようなことをなさるなんて」
「信じられなければ、シャルモン伯爵や母上に直接きくといい」
王太妃は未だに存命であり、王宮から遠く離れた城で老後を過ごしている。
「そんな話を今さらされて、私はどうしろというのですか? このやるせない気持ちは! 貴方の愛を受け入れようとし、貴方を愛そうとした過去の私は、それを手放した今の私は、どうしたらいいのですか? 」
ずっと憎ませて欲しかった。
その方がずっと楽だっただろう。一つの感情だけで済んだのだから。
「貴方を憎むこともゆるされず、愛せる勇気もない。どうしたらいいのですか!」
ハラハラと涙が止まらなくなった。
感情がぐちゃぐちゃになってにじんでいく。
「憎めばいい。君の気持ちも考えずに、楽になるために自分勝手にこの話をした俺を」
そうできたらよかったのに。
馬鹿正直に全てを話して、不利益を被っている彼にそんなことできなかった。
「ただクロードを責めないであげてくれ。君もクロードを憎くはおもっていないはずだ」
クロードに対して愛着は薄いが、それでも我が子だ。愛したことがないわけではない。
ただ我が子を可愛く思えない自分が嫌で、醜くて、滑稽で、不安定な気持ちになった。
そうなりたくなくて遠ざけた。クロードに厳しく接した。その全てが間違いだった。
「……胸をかしてください」
クラウディアがそう言うと、アルフレッドは無防備に手を広げた。
「うわぁぁぁぁーん!」
アルフレッドの腕の中で声をあげて泣いた。どんどんと胸を叩いて憎しみをこめて殴った。
「本当は嫌よ! 浮気も不倫も大嫌い! 腐りきった社交場にうんざりよ。なのにもう、私も綺麗な人間じゃなの」
ずっとたまっていたものを吐き出すようにクラウディアは一つ殴って言葉をこぼした。
「でも、王妃だもの。国を背負って嫁いだのよ。そういうものよ。利用価値があるととどめていても、本当は不快よ! でも、それでも、義務であり権利だもの。人が死ぬのは嫌だし、子どもを見捨てることもできないじゃない! 貴方に似ている子を、初めてみた肖像画に似た子どもを放置できないわよ」
クラウディアの振り下ろす拳の力がどんどんと弱くなる。そして少しの沈黙に満ちた。
「……どうせ私たちは離れられない運命です。死ぬまでともにいるのですから」
宗教として離婚は重大な罪であり、一度誓い合えば死が二人を別つまでともにするのだ。
それに王国の結婚は外交なのだから離婚などできるはずもない。
「私にあまり多くを望まないでください。貴方のすべてにこたえられる自信はありません」
「何も望まない。君が健やかに笑っていられればそれでいい。王宮を、社交をはなれて休むのもいい。時間はいくらでもあるんだから」
クラウディアも時間がこの複雑な気持ちを解決してくれると信じたい。
だが、目の前の課題は山積みで逃げることはゆるされない。
「クロードはどうしていますか?」
「謹慎している。とても反省しているようだった」
「そうですか。あの子の選択を尊重しましょう」
クロードが王位を選ぶのか、愛した女を選ぶのか。どちらを選ぼうとクラウディアは止めはしない。
だが、どうもあのアンナという娘の行動が不可解だ。まるで過去も未来も全てを知っているかのようだ。
ジョレアン公爵の内情も、クロードとテオドールの確執と親子の問題も、田舎の子爵家の養女が知り得るはずもない事だ。それに今回のパーティーでセリーヌ嬢を断罪したときも動揺していなかった。
「気になることがあります」
「なんだ」
クラウディアはベッドボードと柔らかなクッションにもたれながらパーティーで起きた予期せぬ出来事を思い出す。
「クロードは決して浅薄な子ではありませんでした。きっと誰かが焚き付けたのかもしれません」
あの茶番劇のような断罪は誰かが描いたシナリオがあるようなそんな周到さがあった。その人物はジョレアン公爵が確実に捕縛されることを知っていなければならない。
「わかった。こちらで調べておこう」
「それとオートゥイユ夫人をそろそろ追い出そうと思います」
今までオートゥイユ夫人を王宮に留め置いていたのは、風評避けだのなんだのと理由をつけていたが、アルフレッドに後ろめたくそして罪の意識を持っていて欲しかったからだ。
だが、クラウディアもアルフレッドもその負の楔からそろそろ解放されたかった。
「どういった理由でだ?」
「彼女は叩けば埃が出るような人です。最近の散財を新聞社に匿名で売るのです」
最近得た話によれば、王の愛妾である身でありながら、若い伯爵令息と逢い引きし、かつその令息に貢こんだが、それは詐欺であったという内容だ。
「これで庶民たちの関心をそちらへ向けましょう。王宮を追い出されればさらに話は盛り上がるでしょう」
要するに今回のクロードが引き起こした断罪劇とジョレアン公爵の件のカモフラージュとするのだ。他国へこの話が広がることを先延ばしにしてくれるといいのだが。
「そうしよう。目が赤くなっている」
アルフレッドはクラウディアの目元を軽くなでて、冷すものを持ってくるよう指示した。
そして、濡れたタオルを目元に当てて再び横になる。
「ゆっくり休んでくれ。あとの処理は任してくれ」
アルフレッドの声は心を優しく撫でた。
泣きつかれたのか、そのまま沈むように眠りについた。
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