禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)

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終 : 誘拐

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「どうしたんだ、カルロ。調子が悪そうだな」

カルロはまた禁断の祈祷での護衛にあたっていた。

隣で軽い口調で話しかけるのは、同年代のグイドだ。

「いや、なんでもない。ただ、ここの護衛は次から断りたいんだ」

「なんでだ? ここの護衛は一番人気があるんだぞ。神をもっとも近くに感じられるんだからな。あ!わかったぞ。お前の愚息が我慢することができないんだろう。終わったら抜いてやろうか」

グイドはいつものように軽口を叩くが、カルロはその軽口に怒る気もわかなかった。


見てしまったのだ。

アメデアと交わる神の姿を。

帰るように言われたのに、茂みから覗き見たのだ。

帰ってきたアメデアからお咎めは受けなかったが、カルロは一方的な気まずさを感じていた。


「おい、黙るなよ。というか、最近の猊下は少し変だよな。まるで死期が見えているみたいに後任を指名して、殆どすべての業務を引き継いじゃったんだからさ」

「縁起でもないことをいうなよ。猊下はまだお若いんだぞ。亡くなるなんてことあり得ない」

「まあ、そうなんだけどさ」

だがグイドの言う通りでもあった。

アメデアは東部から戻ってくるとすぐに身辺整理をし始めた。

後任は大神官ニッコラオを指名し、あまり表舞台にたつことがなくなった。些細なことでも救いの手をのばしていたのに、その姿もみなくなった。


「今日は静かだな」

異様な静けさを不審に思ったグイドが話しかけた。

もともとグイドはおしゃべりな性質で護衛の際も暇ならば口を閉じることをしない。


「声も吐息も物音さえしてないぞ。何度かここの護衛にあたったことがあるが、こんなことは初めてだ」

グイドのおしゃべりにはうんざりしたが、彼のいうことも一理ある。

こう言う時、先輩であるオルドがいたら何かわかったのかもしれない。

「今日の担当が先輩ならよかったのに」

「なんだよ、不満かよ。悪かったな、団長じゃなくて。団長は次期神官長のニッコラオさまの護衛兼教育係としてついてるんだからさ」


ニッコラオもまだ若い。10代で神官長になったアメデアには劣るが、才能豊かな人物だ。今神官長の座につけば、その若さからアメデアの次に歴史に名を残すだろう。


「だが、本当におかしい。グイド、先輩に報告しに行ってくれ。ニッコラオさまを連れてもいいから」

なんだか嫌な予感がする。


中から嬌声も肌を合わせる音もしない。

極めつけは、祈祷室に入っていったアメデアの格好だ。あの一枚布のワンピース状の服装ではなく、神話の人物のような格好をしたいた。

キトンの上に色鮮やかなヒマティオンを重ねて、百合と月桂樹でできた冠を被っていた。


「おう、わかった」

グイドもこの異様さに何かを感じたのか、急いでオルドを呼びに行った。


カルロはただ扉の前でじっとしていることしかできない。許しがないかぎり、何人もこの扉を開けることはできず、立ち入ることもできない。


焦燥感に苛まれると、耳元で鈴の音らしきものがなる。

ちょうど良いタイミングでグイドがオルドとニッコラオを連れてきた。

「今、合図がありました!」

「こっちにも聞こえた。扉を開けろ」

早足で近づいてくるオルドの指示によって扉を開ける。


扉を飽けた瞬間、眩しい光がさす。まるで後光のような美しさと神秘性がある。

視界が良好になったときには、その部屋には誰もいなかった。

「猊下!?」

「誰もいない」

「そんな馬鹿な」


祈祷室には神像に聖典そして燭台しかない。窓も何もない場所からいったいアメデアは何処に消えたというのだろう。

「リュアオス神が猊下を連れていかれたのです」

ニッコラオはその場に跪き感涙した。


神官長アメデアがリュアオス神によって神界へと登ったことは神殿をこえ国王の耳にまで入った。その知らせに民は歓喜した。


歴代のリュアオス神殿の神官長の誰もがアメデアを見習い、禁断の祈祷室で祈りを捧げたが何も起きなかった。

そして禁断の祈祷はいつしか閉められた。

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