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35:後悔と呪詛と愛
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「何があったのだ」
王はアヒムの顔を見て言った。
アヒムの顔にはガーゼが当てられ包帯で左半分が覆われている。微かに血がにじんでいるように見える。
「そなたがやったわけではないだろうな」
王の猜疑の瞳がヨーゼフをとらえた。
威圧的で恐ろしいその視線にヨーゼフは縮こまった。
「ちがいますよ。僕自身がやったんです」
アヒムは堂々と言った。
そこにヨーゼフを庇うとかそういった気概はなく、単に事実を告げる以外の意味しかない。
「……なぜ、そのようなことをした」
王は理解できないといった顔をした。
それはここにいるアヒム以外の全員がそうだ。なぜ自分の肌を焼き笑っていられるのだろうか。
「いくら美しいものでも、焼けた絵画は飾らないでしょう。ヒビが入った瓶や割れた壺は捨てるでしょう。僕が割ったあの磁器の壺のように手放してしまうべきだ」
アヒムが王の相手をするようになった決定的な出来事である磁器の壺。王はお気に入りと称していたが、簡単に割って手放してアヒムに与えた。
「余にそなたを手放せというのか?」
王の声音は怒りよりも哀しみに満ちていた。
アヒムは肯定の言葉は述べなかったが、笑顔を更に深くした。
「……。アヒム以外みな退がれ」
王の言葉で、死にそうな顔をした医者は安堵し、ヨーゼフは未だに怯えていた。ジークは心配そうにアヒムを見た後で、謁見室を出た。
「アヒム。そなたがどのような傷を負おうと手放すことはない」
王はアヒムの焼けていない頬に触れてそういった。
「何故です? へいかは僕の顔に、肌に執着をしているだけではないですか」
王はその言葉に眉根を寄せ複雑な顔をした。
「余はそなたを愛している」
「愛ですか」
アヒムは鼻で嗤った。王の言葉全てを否定し、馬鹿にするように。
「あなたのそれは愛ではない。僕は本当の愛を知っている。叔父さまに教え与えられたものこそ本当の愛だ」
アヒムが言葉を吐くために開く口はそこの見えない暗闇だった。
「一方的な執着で、翼を折り鳥籠に閉じ込めて幸せな鳥などいない。叔父さまは、手をとり足をかかえ教え導き育んでくれた。どんなことでもしてくれたし、どんなことでもしてあげれた。愛していたから」
「余は愛していないというのか。あれほど体を重ね、睦言を交わしたというのに」
「諦めと妥協でしかありません。今ここでキスをしろと言われれば致しましょう。へいかの昂りを鎮めろと言われればこの口で奉仕致しましょう。股を開けといわれれば従い甘い声をあげましょう。けれど、そこに僕の意思はない。命じられ、なすがまま。あなたがいつか飽きて手放してくれることを祈ったいた」
リタの死後、オスヴァルトに言われたように従順に王が抱いては捨てていく女のように媚びた。
死ぬこともできずに、搾取され続けることに慣れてしまえば、酒で麻痺した脳はそれを受け入れていた。
まわりを魅了して、男を受け入れ、腰を振る。快楽に溺れて、笑っている。
希望を見いだしては、奈落に突き落とされて、磨耗する。
「あなたは僕を殺さないし、手放さない。僕はあなたを愛さないし、ものにもならない。ああ、不幸になってしまえ。僕が死ぬときに呪ってあげます」
アヒムは目を細めて、呪詛を吐く。
「ふふふ。そういえば、あなたの息子。あなたに似てずいぶん立派ですよね。王子のフランツも、私生児たちも。あなたに負けず劣らない盛んだ」
その言葉に王は目をカッと開いた。
自分の愛人と息子たちの淫らな関係を示唆されて黙っていられない。
誰を責めれば正しいのだろうか。
息子たちか?
アヒムか?
それとも彼をこんな風にしてしまった自分か?
「ああ、痛い」
肩に置いた手に無意識に力をいれると、わざとらしい声をアヒムが上げた。
「叩きますか? 快楽しか感じないこの体を。いっそのこと、首を締めるなり、剣で突き刺すなりして殺してくださいな」
アヒムの言葉一つ一つが王を取り囲み陥れていく。一種の恐怖を覚えた王はアヒムを突き飛ばした。
アヒムはバランスを崩して床に倒れた。
表情を一切かえず微笑んでいる姿は恐ろしく、またいやらしい。
その顔を変えたくて、現実から目を背けたくて、王はアヒムの衣服を剥ぎ取り、手荒く抱いた。
だが、アヒムは表情をかえることなく、人形のように微笑んで抱かれていた。
腰を打ち付けても、弱いところを攻めても、絶頂をさせても、何をしてもわざとらしい喘ぎ声と嘘で塗りかためられた言葉を言うだけだった。
王はアヒムの顔を見て言った。
アヒムの顔にはガーゼが当てられ包帯で左半分が覆われている。微かに血がにじんでいるように見える。
「そなたがやったわけではないだろうな」
王の猜疑の瞳がヨーゼフをとらえた。
威圧的で恐ろしいその視線にヨーゼフは縮こまった。
「ちがいますよ。僕自身がやったんです」
アヒムは堂々と言った。
そこにヨーゼフを庇うとかそういった気概はなく、単に事実を告げる以外の意味しかない。
「……なぜ、そのようなことをした」
王は理解できないといった顔をした。
それはここにいるアヒム以外の全員がそうだ。なぜ自分の肌を焼き笑っていられるのだろうか。
「いくら美しいものでも、焼けた絵画は飾らないでしょう。ヒビが入った瓶や割れた壺は捨てるでしょう。僕が割ったあの磁器の壺のように手放してしまうべきだ」
アヒムが王の相手をするようになった決定的な出来事である磁器の壺。王はお気に入りと称していたが、簡単に割って手放してアヒムに与えた。
「余にそなたを手放せというのか?」
王の声音は怒りよりも哀しみに満ちていた。
アヒムは肯定の言葉は述べなかったが、笑顔を更に深くした。
「……。アヒム以外みな退がれ」
王の言葉で、死にそうな顔をした医者は安堵し、ヨーゼフは未だに怯えていた。ジークは心配そうにアヒムを見た後で、謁見室を出た。
「アヒム。そなたがどのような傷を負おうと手放すことはない」
王はアヒムの焼けていない頬に触れてそういった。
「何故です? へいかは僕の顔に、肌に執着をしているだけではないですか」
王はその言葉に眉根を寄せ複雑な顔をした。
「余はそなたを愛している」
「愛ですか」
アヒムは鼻で嗤った。王の言葉全てを否定し、馬鹿にするように。
「あなたのそれは愛ではない。僕は本当の愛を知っている。叔父さまに教え与えられたものこそ本当の愛だ」
アヒムが言葉を吐くために開く口はそこの見えない暗闇だった。
「一方的な執着で、翼を折り鳥籠に閉じ込めて幸せな鳥などいない。叔父さまは、手をとり足をかかえ教え導き育んでくれた。どんなことでもしてくれたし、どんなことでもしてあげれた。愛していたから」
「余は愛していないというのか。あれほど体を重ね、睦言を交わしたというのに」
「諦めと妥協でしかありません。今ここでキスをしろと言われれば致しましょう。へいかの昂りを鎮めろと言われればこの口で奉仕致しましょう。股を開けといわれれば従い甘い声をあげましょう。けれど、そこに僕の意思はない。命じられ、なすがまま。あなたがいつか飽きて手放してくれることを祈ったいた」
リタの死後、オスヴァルトに言われたように従順に王が抱いては捨てていく女のように媚びた。
死ぬこともできずに、搾取され続けることに慣れてしまえば、酒で麻痺した脳はそれを受け入れていた。
まわりを魅了して、男を受け入れ、腰を振る。快楽に溺れて、笑っている。
希望を見いだしては、奈落に突き落とされて、磨耗する。
「あなたは僕を殺さないし、手放さない。僕はあなたを愛さないし、ものにもならない。ああ、不幸になってしまえ。僕が死ぬときに呪ってあげます」
アヒムは目を細めて、呪詛を吐く。
「ふふふ。そういえば、あなたの息子。あなたに似てずいぶん立派ですよね。王子のフランツも、私生児たちも。あなたに負けず劣らない盛んだ」
その言葉に王は目をカッと開いた。
自分の愛人と息子たちの淫らな関係を示唆されて黙っていられない。
誰を責めれば正しいのだろうか。
息子たちか?
アヒムか?
それとも彼をこんな風にしてしまった自分か?
「ああ、痛い」
肩に置いた手に無意識に力をいれると、わざとらしい声をアヒムが上げた。
「叩きますか? 快楽しか感じないこの体を。いっそのこと、首を締めるなり、剣で突き刺すなりして殺してくださいな」
アヒムの言葉一つ一つが王を取り囲み陥れていく。一種の恐怖を覚えた王はアヒムを突き飛ばした。
アヒムはバランスを崩して床に倒れた。
表情を一切かえず微笑んでいる姿は恐ろしく、またいやらしい。
その顔を変えたくて、現実から目を背けたくて、王はアヒムの衣服を剥ぎ取り、手荒く抱いた。
だが、アヒムは表情をかえることなく、人形のように微笑んで抱かれていた。
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