余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。【改稿前/完結】

降矢菖蒲

文字の大きさ
21 / 59
出会い編

21.魔王

しおりを挟む
『なっ、何を――』

「案ずるな。大賢者と同じ場所に飛ばしただけのこと。危害は加えていない」

『フォーサイス邸に? ……っ!!?』

 不意に暗くなった。ここは屋内か。石造りの部屋の中であるようだ。かなり広い。少なく見積もっても500人は収容出来そうだ。

(ここが城? ……城? っ!?) 

 心臓が早鐘を打つ。

 城に住まう高位なる存在。

 今更になって思い至る。

 この悪魔の正体は――。

「やれやれ、少々はしゃぎ過ぎたな」

 悪魔は翼をしまうと、ドカッと音を立てて腰かけた。

にドヤされる。……面倒だ」

 豪奢ごうしゃな椅子だ。玉座と形容しても過言ではない程に金銀宝石等で装飾がなされている。

『まっ、……? 貴方は魔王、なの……?』

 問いかける声は激しく揺れた。対する悪魔は嘲り顔だ。

「当たらずといえども遠からずといったところか。吾輩はこの世界の統治を存在だ」

『任された……?』

「この世界は謂わば『属国』のような位置づけとなる。つまりは、ということだ」

『そんな……』

「その者は吾輩の父にあたる存在で、その名は………む? …………はて? 人語では何と発音すれば良いのだろうな………?」

 悪魔はぶつぶつと不可解な単語を口にし出した。何かひらいたような顔をしたが、結局しっくりとはこなかったようだ。終いには諦めて「くだらん」と投げ出してしまう。

『……ふざけているの?』

 安心感からか悪魔はどこかお茶らけているように見えた。エレノアからすれば腹立たしい限りだ。

 何せこの悪魔はつい今ほど、エレノアの護衛騎士やユーリの両親、村の人々といった罪なき者達の命を奪ったばかりであるのだ。

 悪びれもしないこの態度は彼らの命を軽んじていると言わざるを得ない。

「そうだな。……うむ。吾輩は浮かれているのだろうな」

『最低よ』

「褒め言葉として受け取っておくとしよう」

 悪魔は言いながら自身の膝に魔法をかけ始めた。彼の手元から紫色の魔法陣が展開される。

「良い機会だ。今日より吾輩は『魔王』となろう。国主ではないが、その類の頂点にあるという要件は満たしている。不足はないだろう。くっくっくっ……む……」

 魔王の表情が曇り始める。傷の治りが悪いようだ。

(回復魔法は不得手であるのかしら? あるいはレイが負わせた傷が深いのか……)

 いずれにしろ好都合だ。魔王がもたらす被害は甚大であるから。何かしらな形で足止めが叶うのならそれに越したことはない。

「やれやれ」

 魔王は深く溜息をつくと渋々といった具合に指を鳴らした。

『っ!!?』

 暗闇からゴブリン大の小さな老人が姿を現す。深緑色のローブ姿で、顎の下に伸びる豊富な白髭を蝶結びにしている。

 その老人の背後には複数の魔物の姿があった。紅色の狐、小型の青い龍、山羊や狼に似た獣人など多種多様だ。

「  !!     。    !!」

『っ!?』

 突如、老人が怒鳴り出した。それを受けてか魔王が反論する。

「………、    。    ――」

「     !!!!」

「…………………」

『えっ?』

 魔族の言語であるためか、エレノアには彼らが何を話しているのかまるで分からなかった。

 ただ、何となくではあるが魔王がこの老人から責められているらしいことは分かった。おそらくは彼が『じぃ』であるのだろう。響きからして世話役か。

 魔王はぐうの音も出ないようだ。唇を尖らせて不貞腐れている。威厳もへったくれもない。

(っ!)

 不意に老人と目が合う。身の気がよだつ。死すら覚悟したが、拍子抜けするほどあっさりと視線を外された。

 興味がない。

 くだらない。

 そんな言葉が聞こえてくるようだった。

 間もなくして老人は去り、配下と思われる魔物達による治療が開始された。魔王の体が紫色のオーラに包まれていく。必然的にエレノアの視界も。

『……っ』

 背筋が凍る。これは本能的なものだ。人族が最も苦手としているのが闇魔法。生命を脅かす象徴のようなものであるから。

『っ! えっ……?』

 不意に体が浮いた。次の瞬間、魔王の体は頭上ではなく横に。眼下には丸いテーブルが広がる。頭上には天井に向かって伸びる黒い棒のようなものが見えた。

(十字型のスタンド? わたくしを遠ざけて……まさか気遣ってくれたの?)

 胸がざわつく。不快だ。エレノアは逡巡した後に――問いかける。

『……貴方の目的は何?』

「ん?」

『不可解でならないわ。貴方の行動、その一つ一つが』

「不可解。くっくっく……そうであろうな」

(……?)

 ほんの僅かだが哀愁を帯びているような気がした。理由は――分からない。

「魔族の寿命は果てしなく長い。故に刺激を求める。ただそれだけのことだ」

 本心だとは思えなかった。はぐらかされた。そんな印象を抱く。

「吾輩は少し休む。精々励むが良い。……ああ、ただ早まるなよ。自死したところで吾輩が得するだけのこと。貴様の望む結果にはならん」

『体を乗っ取るから?』

「吾輩がその望みを叶えるに必要な条件は2つ。その1・対象が死すること。その2・肉体を吾輩の瘴気で染め上げること……だ」

『……………』

「順序が逆転したところで結果は変わらぬ。少なくとも人族相手であればな」

(……そうね。瘴気に触れ続ければ死んでしまうもの。染め上げることと死することは同義だわ)

「疑うも良し、信じるも良しだ」

 魔王は言うなり目を閉じた。静かだが寝息が聞こえる。宣言通り眠ったようだ。

『っ!』

 瘴気が迫ってくる。魔王が就寝しても術は展開されるようだ。

(耐えなければ)

 この体が乗っ取られれば少なからず人々に、家族に危害が及ぶ。自死の選択が消滅した今、耐える他ない。

『…………』

 不安に心が揺れる。堪らず『よすが』を求めた。心を寄せる何かを。

『エレノアを返せ!!!!』

 思い浮かんだのはユーリの姿だった。連鎖的に心が華やぐ。思い至ってしまったからだ。一つの甘い可能性に。

(ユーリが勇者として育つのには少なく見積もっても5年、いえ……10年はかかるのではなくって……?)

『エレノア!』

 ――20歳に成長したユーリが手を差し伸べてくる。

 そんな稚拙なビジョンが思い浮かんだ。

『魔王を倒した『救国の勇者』であれば、あるいはお父様も――』

 慌てて首を左右に振る。

(バカね。こんな時に何を考えているのかしら)

 自嘲気味に嗤いつつ、肩肘をついて眠る魔王に目を向けた。

(皆はこの悪魔が魔王であることを知らない。けれど、その力が賢者であったエルヴェ叔父様やレイをも凌ぐものであるという事実は広く知れ渡るはず。……かつてないほどの強大な敵よ。悠長に構えてなどいられない。王国も一丸とならざるを得ないはず――)

 エレノアの頬が強張る。望み薄だと思ってしまったから。これまで重ねてきた落胆が、失望が、希望を覆い隠していく。

(諦めてはダメ。信じて待つのよ。魔王が倒れるその時を)

 エレノアは祈りを捧げた。力が伴うものではない。ただひたすらに願い乞う。希望の光を胸に灯し続けるために。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

処理中です...