余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。【改稿前/完結】

降矢菖蒲

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余命2年

27.繋がる想い

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「聖女様、貴方は魂をべられたようですね」

「っ! レイ」

 レイは構わず続けていく。ユーリに「残れ」と指示するかのように。

「体力、魔力共に著しく低下している。……症例にもある通り、このまま衰弱されていくものと考えられます」

「余命は……」

 ミラがそれとなく説明を引き継いだ。彼女もまたレイと同意見。ユーリにもきちんと明かすべきだと考えているのだろう。

「ミラ……っ」

 エレノアはミラの腕を掴んだ。けれど、彼女は止まらない。沈痛な面持ちで続けていく。

「静養されるのなら2年。1日でも長く生きることを希望されるのなら、魔法は……っ、程度を問わず使用をお控えいただかなければなりません」

「…………くそっ……」

 ユーリは顔をうつむかせた。白い二つの拳が小刻みに震えている。

 十中八九、自責の念に駆られているのだろう。

(……やはりこうなってしまうのね)

 いくら言葉を尽くしたところで後悔は残ってしまう。故に伏せて置きたかった。必要最低限の人間にだけ明かす形を取りたかった。

(……悲観してばかりもいられないわね)

 エレノアは意を決して口を開いた。
 
「ユーリ、貴方が気に病むようなことではないわ」

「いえ。俺がもっと早くに助けに行けていたら――」

「これは報いなのです」

 ユーリの栗色の瞳が大きく揺れた。

 エレノアは遠く10年前の記憶を手繰たぐり寄せながら続ける。

「あの日、わたくしは降伏しました。皆の忠義を無碍むげにしたのです」

「違います! あれは、~~っ、あれはアタシや村の皆を守るために――」

「戦意を喪失したに過ぎません」

「~~っ、違う!!」

 ミラの濃緑色の瞳が歪んでいく。あの日の自分を恥じているのだろう。

 何も出来なかった。ただ翻弄されるばかりだった過去の自分を。

「…………」

 レイは何も言わない。唇を引き結んで顔を俯かせている。

 真面目な彼のことだ。ミラ同様にあの日の自分を恥じているのかもしれない。

お優しいのですね」

 口火を切ったのはユーリだった。栗色の瞳は伏せられた状態に。眉間には薄くしわが寄っている。

……。そう。ご存知なのね」

「ええ」

 夢を見ながらも端から諦めていた。時が解決してくれるだろうと高をくくっていた。

 そういったエレノアの真意はミラを始めとした仲間達に伝えてある。ユーリが耳にしていたとしても不思議ではない。

「ごめんなさい」

 怒りか、それとも悲しみか。

(しっかりと受け止めましょう)

 覚悟を決めてユーリの言葉を待つ。

「エレノア様」

 ユーリがゆっくりと顔を上げる。

 優し気でありながら、何処か負けん気の強さを感じさせる。そんな栗色の瞳がエレノアを捉えた。

「不躾ながらお願いがございます」

「何でしょう?」

「貴方の本当の気持ちをお聞かせ願えませんでしょうか?」

「……聞いての通りよ」

「俺が聞きたいのは貴方の純粋な気持ちです。諸々の事情は排してください」

 ユーリが一歩一歩と近付いてくる。レイとミラが後方に下がってユーリに道を譲った。

(……っ)

 ユーリが近付く度にエレノアの喉が干上がっていく。

「俺のことが嫌いだと仰るのなら、その時はキッパリ諦めます。ただ……もしも変わらず、俺に夢を見てくれるというのなら」

 ユーリの足が止まった。彼は今ベッドの横に。手を伸ばせば触れられる距離にいる。

「俺は未来永劫、貴方だけを愛すると誓います」

「……っ」

「俺はどちらでも構いません。貴方の選択に従います」

 その物言いには一片の曇りもなかった。

 改めて思う。何処までも眩しく、真っ直ぐな人であると。

 叶うことならこのままその胸に飛び込んでしまいたい。

 だが、それは赦されない。決して赦してはいけない選択だ。

(これ以上、貴方を不幸にするわけにはいかない。……いかない……のに……っ)

 堪らず顔を俯かせた。白いシーツとそれを握り締める手が視界を占める。

「それは拒絶ですか? それとも不審ですか?」

「……っ、これは」

 衣擦れの音がした。ユーリの体温を一層近くに感じる。

「っ!」

 かと思えば、栗色の瞳と目が合った。

 ユーリの視線は上から下へ。しゃがんだ状態で見上げてくる。その瞳は挑発的でもあり、悪戯っぽくもあって。

(ああ、……何ってこと……)

 力強くも温かな光がエレノアの心を照らしていく。不安も恐れすらも呑み込むように。

(自警団の皆様も、ご両親も同じ思いだったのかしら?)

 父への説得。

 死別した後のことについて。

 課題は山積。その上難解だ。

 にもかかわらず、エレノアの口元からは笑みが零れた。

「ユーリと共に在りたい」

 気付けば本音を口にしていた。

「俺と……?」

「ええ。貴方と」

 ユーリの色白な頬が赤らんで――緩んでいく。

「俺と……ですか……」

 彼の口元から笑みが零れた。爽やかで甘酸っぱい笑みが。

「どうしよう。すっげー嬉しい」

 あどけなさの残る言葉。10歳の頃の彼を彷彿とさせるような言葉で喜んだ。

(本当に貴方なのね)

 こんな日が来るとは夢にも思っていなかった。エレノアの目尻がじんわりと熱くなっていく。

だな」

 茶化してきたのはレイだった。皮肉の効いた彼らしい物言いではあるものの、そのタイミングについては心底意外で。

「いつものことだろ」

 ユーリは座ったままケラケラと笑った。対するレイは呆れながらも口角を上げる。

 ――足掻きに足掻いて勝利を手にする。

 ユーリの歩みはそんな類のものであるのかもしれない。

(そんな貴方だからこそ皆は貴方に夢を見るのね。……御多分に漏れずわたくしも)

「~~っ!!! よしよしよーーーーし!!!!」

「ミラさん……?」

「ミラ……?」

 ミラが唐突に駆け出した。何処に向かうのかと思えば――ベッドの反対側へ。

 白いナイトテーブルの上に置かれた花瓶に手を伸ばす。

 カットが無数に施されたミルクグラスの花瓶には、一輪の花が生けられていた。

 10年前、ユーリがエレノアに贈った野花・ハルジオンだ。

「ユーリ! もう一回!!!!」

 ミラは花を手にするなりユーリの元へ。野花を受け取るよう促した。

「なっ……!?」

 ユーリの顔が真っ赤に。罰が悪そうに表情を歪めた。


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