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一章:絶望の中で芽生えたもの
3.破滅と光
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「ゼフッ!! ゼフッ!!!」
温かい。なのに、止まってる。
薄茶色の瞳は開いたまま。
鼓動も、もう聞こえない。
「ごめん……っ、ごめんね……」
――任務に出てから半月後。
僕らは人型の魔物に襲われた。
緑豊かだった村は火の海に。
聖女様は囚われ、部隊は全滅した。
周囲には、ゼフをはじめとした仲間達の死体が転がっている。
気さくに声をかけてくれたジルさんも、モリーさんも……もういない。
生きているのは、レイ殿とこの村で知り合った勇者の卵 ユーリだけだ。
せめて、あの二人だけでも守らないと。
「…………」
見上げれば、そこにそれはいた。
黒髪に赤い瞳。
男性のような姿をしているけれど、背には黒い翼が生えている。
着ている軍服はボロボロ。
白い肌は所々焦げて、紫色の血を滴らせていた。
レイ殿の雷撃を受けたからだ。
眼下に広がる直径、深さ共に十メートルはある大穴。
あれはその攻撃の跡だ。
そんな攻撃を受けてもなお、アイツはあの通りピンピンしてる。
まったく……とんでもない化け物だ。
「見込みはある。だが、まだまだだな」
「……は? っ!」
「励め。期待しているぞ」
魔物が翼をはためかせて、空高く飛び上がった。
まさか逃げる気か?
「待て!」
「幼き勇者と、賢者ガッファー――いや、レイモンドに伝えよ。『常世の森』の我が城にて待つ。聖女 エレノアを取り戻したくば、辿り着いてみせろとな」
「お前の目的は一体――っ!?」
視界が歪んだ。
これは……転移か。
「ここは……?」
気付けば僕らは、立派な建物の中にいた。
石造りだ。何だか見覚えがあるぞ。
壁面には、黒鉄の燭台と戦勝の旗が。
大階段の踊り場には、重騎士が持つような大きな盾が飾られている。
その盾の中心には、特徴的なシンボルが刻まれていた。
中央に一本の剣。
その周囲を二重の環が囲んでいる。
『双環の剣』
僕ら中立派の筆頭 フォーサイス辺境伯家の家紋だ。
そうか! ここはフォーサイスの城砦か。
「ビル!? これは一体……?」
初老の車椅子の男性が声をかけてくる。
ご当主のハーヴィー様だ。
肩と膝を覆う深緑色のブランケット。
左右で異なるおうとつを目の当たりにして、僕は堪らず目を伏せた。
「すまない。まずは手当だな。君、治癒術師をここへ」
フォーサイス専属の治癒術師達が、僕らの手当てをしてくれる。
そのうちに、レイ殿が目を覚ました。
僕と違って、瞬時に状況を把握されたみたいだ。
横になったままハーヴィー様に目礼をして、報告をし始める。
「人語を操る魔物から襲撃を受けました。ヤツは生きていた」
「エルヴェと刺し違えたという、あの?」
レイ殿は静かに頷いた。
あの魔物は、レイ殿の先生の仇でもあったのか。
「伝承にある『魔王』か、それに近い高位の魔物なのかもしれません」
「勇者の光魔法でなければ、討伐は叶わぬということか」
ハーヴィー様は酷く悔し気だ。
それもそのはず。ハーヴィー様は勇者だった。
半年前、魔物との戦闘で右腕と左脚を失うまでは。
僕は守れなかったんだ。
あの時も、今日も。
「国王派の奴らは当てにならんだろうな」
「ええ。何せ師匠でも敵わなかった魔物です。御託を並べて戦闘を避けるか、俺達 λ を盾にして、形ばかりの遠征をするぐらいのもんでしょう」
この国では一定以上の技量を持つ人達のことを、二つのカテゴリに分類している。
λ――
『一代限りの才』
所謂、突然変異。
その才は決して子に引き継がれることはない。
低位貴族や、平民にだけ見られる。
Ω――
『血筋由来の才』
実子への継承が低確率ではあるものの可能。
王族、公爵~侯爵/辺境伯家といった、高い身分の人達にしか見られない。
だから、国王派の Ω は λ を支配する。
λ を食い物にして、分不相応な名誉や収入を得ているんだ。
ほんと……腹立たしい限りだ。
「ですが、希望はあります」
レイ殿が目配せをした。
その先には、治療を終えて眠る紅髪の少年 ユーリの姿がある。
「あのガキは λ の勇者です」
「なに……!?」
「鍛えましょう。我々三人で」
「ああ、そうだな」
「まずは、私とウィリアムで基礎を固めます。その後、ハーヴィー様から光魔法のご指導を」
「無論だ。それとユーリの存在は秘匿としよう。国王派に知られたら、死ぬまで搾取されることになる」
「ええ」
「お前の家で匿ってやってくれるか」
「……は?」
「あそこはまさに秘境。人の目が届くことはないだろう」
「………………承知しました」
「…………」
こうして僕とレイ殿は、辺境の地でユーリを育てることになった。
逃げられない理由がまた一つ。
解放への道はまだ遠い。
翌朝。僕は城近くの墓地に訪れていた。
小さな森の中を進んで、黒い長方形の墓石の前で立ち止まる。
刻まれた名は――アーサー・フォーサイス。
ハーヴィー様の長男。享年二十三歳。
半年前、ハーヴィー様が再起不能となったあの遠征で命を落とした。
『はっはっは! 身分なんて関係ない! お前は俺の親友だ!』
青みがかった黒髪に、瑠璃色の瞳。
父親譲りの精悍な顔立ちをしていたけど、とても豪快で、いつも笑ってて。
一緒にいると楽しくて……気付けば、父のことを忘れてた。
本当に明るくて、太陽みたいな人だった。
そんな君だから、僕は『盾』になりたいと思った。
君を守ることが僕の天命だと、本気でそう思ってたのに。
「僕は君を守れなかった。……いや、君だけじゃない。ゼフも、他のみんなも守れなかったよ」
もう疲れた。
漏れかけた言葉を、ぐっと飲み込む。
「……行かないと。またね、アーサー」
あと少し。あと少し。
必死に自分に言い聞かせて歩いていく。
今日から共同生活が始まる。
ちゃんと立て直さないとね。
温かい。なのに、止まってる。
薄茶色の瞳は開いたまま。
鼓動も、もう聞こえない。
「ごめん……っ、ごめんね……」
――任務に出てから半月後。
僕らは人型の魔物に襲われた。
緑豊かだった村は火の海に。
聖女様は囚われ、部隊は全滅した。
周囲には、ゼフをはじめとした仲間達の死体が転がっている。
気さくに声をかけてくれたジルさんも、モリーさんも……もういない。
生きているのは、レイ殿とこの村で知り合った勇者の卵 ユーリだけだ。
せめて、あの二人だけでも守らないと。
「…………」
見上げれば、そこにそれはいた。
黒髪に赤い瞳。
男性のような姿をしているけれど、背には黒い翼が生えている。
着ている軍服はボロボロ。
白い肌は所々焦げて、紫色の血を滴らせていた。
レイ殿の雷撃を受けたからだ。
眼下に広がる直径、深さ共に十メートルはある大穴。
あれはその攻撃の跡だ。
そんな攻撃を受けてもなお、アイツはあの通りピンピンしてる。
まったく……とんでもない化け物だ。
「見込みはある。だが、まだまだだな」
「……は? っ!」
「励め。期待しているぞ」
魔物が翼をはためかせて、空高く飛び上がった。
まさか逃げる気か?
「待て!」
「幼き勇者と、賢者ガッファー――いや、レイモンドに伝えよ。『常世の森』の我が城にて待つ。聖女 エレノアを取り戻したくば、辿り着いてみせろとな」
「お前の目的は一体――っ!?」
視界が歪んだ。
これは……転移か。
「ここは……?」
気付けば僕らは、立派な建物の中にいた。
石造りだ。何だか見覚えがあるぞ。
壁面には、黒鉄の燭台と戦勝の旗が。
大階段の踊り場には、重騎士が持つような大きな盾が飾られている。
その盾の中心には、特徴的なシンボルが刻まれていた。
中央に一本の剣。
その周囲を二重の環が囲んでいる。
『双環の剣』
僕ら中立派の筆頭 フォーサイス辺境伯家の家紋だ。
そうか! ここはフォーサイスの城砦か。
「ビル!? これは一体……?」
初老の車椅子の男性が声をかけてくる。
ご当主のハーヴィー様だ。
肩と膝を覆う深緑色のブランケット。
左右で異なるおうとつを目の当たりにして、僕は堪らず目を伏せた。
「すまない。まずは手当だな。君、治癒術師をここへ」
フォーサイス専属の治癒術師達が、僕らの手当てをしてくれる。
そのうちに、レイ殿が目を覚ました。
僕と違って、瞬時に状況を把握されたみたいだ。
横になったままハーヴィー様に目礼をして、報告をし始める。
「人語を操る魔物から襲撃を受けました。ヤツは生きていた」
「エルヴェと刺し違えたという、あの?」
レイ殿は静かに頷いた。
あの魔物は、レイ殿の先生の仇でもあったのか。
「伝承にある『魔王』か、それに近い高位の魔物なのかもしれません」
「勇者の光魔法でなければ、討伐は叶わぬということか」
ハーヴィー様は酷く悔し気だ。
それもそのはず。ハーヴィー様は勇者だった。
半年前、魔物との戦闘で右腕と左脚を失うまでは。
僕は守れなかったんだ。
あの時も、今日も。
「国王派の奴らは当てにならんだろうな」
「ええ。何せ師匠でも敵わなかった魔物です。御託を並べて戦闘を避けるか、俺達 λ を盾にして、形ばかりの遠征をするぐらいのもんでしょう」
この国では一定以上の技量を持つ人達のことを、二つのカテゴリに分類している。
λ――
『一代限りの才』
所謂、突然変異。
その才は決して子に引き継がれることはない。
低位貴族や、平民にだけ見られる。
Ω――
『血筋由来の才』
実子への継承が低確率ではあるものの可能。
王族、公爵~侯爵/辺境伯家といった、高い身分の人達にしか見られない。
だから、国王派の Ω は λ を支配する。
λ を食い物にして、分不相応な名誉や収入を得ているんだ。
ほんと……腹立たしい限りだ。
「ですが、希望はあります」
レイ殿が目配せをした。
その先には、治療を終えて眠る紅髪の少年 ユーリの姿がある。
「あのガキは λ の勇者です」
「なに……!?」
「鍛えましょう。我々三人で」
「ああ、そうだな」
「まずは、私とウィリアムで基礎を固めます。その後、ハーヴィー様から光魔法のご指導を」
「無論だ。それとユーリの存在は秘匿としよう。国王派に知られたら、死ぬまで搾取されることになる」
「ええ」
「お前の家で匿ってやってくれるか」
「……は?」
「あそこはまさに秘境。人の目が届くことはないだろう」
「………………承知しました」
「…………」
こうして僕とレイ殿は、辺境の地でユーリを育てることになった。
逃げられない理由がまた一つ。
解放への道はまだ遠い。
翌朝。僕は城近くの墓地に訪れていた。
小さな森の中を進んで、黒い長方形の墓石の前で立ち止まる。
刻まれた名は――アーサー・フォーサイス。
ハーヴィー様の長男。享年二十三歳。
半年前、ハーヴィー様が再起不能となったあの遠征で命を落とした。
『はっはっは! 身分なんて関係ない! お前は俺の親友だ!』
青みがかった黒髪に、瑠璃色の瞳。
父親譲りの精悍な顔立ちをしていたけど、とても豪快で、いつも笑ってて。
一緒にいると楽しくて……気付けば、父のことを忘れてた。
本当に明るくて、太陽みたいな人だった。
そんな君だから、僕は『盾』になりたいと思った。
君を守ることが僕の天命だと、本気でそう思ってたのに。
「僕は君を守れなかった。……いや、君だけじゃない。ゼフも、他のみんなも守れなかったよ」
もう疲れた。
漏れかけた言葉を、ぐっと飲み込む。
「……行かないと。またね、アーサー」
あと少し。あと少し。
必死に自分に言い聞かせて歩いていく。
今日から共同生活が始まる。
ちゃんと立て直さないとね。
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