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二章:二人の僕を抱くキミ
4.始まる共同生活
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「着いたぞ」
目の前には、古びた木造の家が建っている。
ここはフォーサイス領にある深い森の中。
最寄りの村まで一日はかかる。
人の手が及んでいないせいか、周囲は魔物だらけだ。
とは言っても、近付いてくる気配はない。
たぶん、レイ殿や僕の魔力に気圧されてるんだろう。
「おえっ……うぷ……やっと着いたか~」
僕の背中の上で、小さな体がもぞもぞと動いた。
勇者の卵 ユーリ。十歳。
紅髪に、金色がかった茶色の瞳をしている。
この子は端的に言えば、夢とガッツに溢れる子だ。
我流で剣を覚えて自警団に入団したり。
聖女 エレノア様に一目惚れして、即日プロポーズ ⇒ OKを貰っちゃったり。
その行動力には目を見張るものがある。
間違いなくこの子は、僕ら中立派と王弟派を導く存在になるだろう。
「ユーリ、立てる?」
「けっ! よゆーだっつーの!」
ユーリは勢いよく地面に降り立った。
ふふっ、頭に葉っぱが付いてる。
そっと取って、愛おしさのなすままに頭を撫でた。
「っ! 何すんだよ!」
「ごっ、ごめん。つい……」
「ったく……ガキ扱いすんなよな!!」
悪い癖だな。
このぐらいの年頃の子を見ると、つい重ねてしまう。
殺された……いや、守れなかった弟妹達と。
「にしても、すっげぇとこだな~。田舎通り越して秘境じゃん。不便じゃねーの?」
「町の生活は性に合わなくてな」
「ああ、オッサン外人だもんな」
「まぁ、そんなところだ」
レイ殿は怒るでもなく、何でもないことのように答えた。
どれだけの差別と偏見の中で生きてきたんだろう。
想像するだけで、胸が痛んだ。
彼はデンスター王国の極東に位置する『ガシャム』と言う国の生まれだ。
巨大な砂漠に囲まれた国で、渡航は非常に困難。
王国でもほとんど見かけることがない。
そんなガシャム人の評判はというと……正直なところ、あまり良くない。
『野蛮だ』『怪しげな民族だ』と言われて、背を向けられてしまっている。
国力が乏しく、教育も行き届いていない所謂『後進国』であることに加え、催眠術や呪術といった奇妙な術の発祥地でもあるから。
「にーちゃん! 剣聖のにーちゃん!」
「っ! 何?」
「稽古つけてくれよ」
ユーリはそう言って、青い顔のまま剣を抜いた。
「今日はやめとこう。移動で疲れたでしょ?」
「こんなんへっちゃらだ!」
「でも――」
「付き合ってやれよ。晩飯は俺が作っておくから」
「えっ……? あ、じゃあ……ご飯が出来るまでね」
「おっしゃ! んじゃ、いっくぞー!!!」
レイ殿に促されるまま、ユーリの相手をしていく。
彼はとても熱心だった。
頼もしく思う反面、少し心配になる。
……自分の身を軽んじているような気がして。
「これで、どうだ――」
「飯、出来たぞ」
「はい、じゃあおしまい」
ユーリの攻撃を躱しながら、そう宣言した。
だけど、ユーリは構わず突っ込んできて。
「まだまだ――っ!」
その時、腹の虫が鳴いた。
「ぐぅ~」っと可愛らしい声で。
途端にユーリの顔が赤くなる。
「ふふっ、素直でよろしい」
「~~っ、うせえ!」
ぷんすか怒りながら小屋へと駆けていく。
僕も笑いながら、その後を追った。
テーブルの上には、湯気を立てるシチューが置かれていた。
でも、座席は二つ、置かれている器は二つだけだ。
「お前らはここ使え。俺は奥の書斎で――」
「オレがそっちに行く!」
「あ゛? っ! おい!」
ユーリは皿とスプーンを掴むと、そそくさと走っていってしまった。
「人見知りをするような子には、見えなかったんですけど……」
「あれは自衛だ。ああやって突っ張りでもしねえと、立ってらんねえんだろうよ」
ユーリもあの魔物と戦った。
けど敵わなくて、気を失っている間にすべてを失った。
家族も、友達も、村さえも。
悔しくて、申し訳なくて、仕方がないんだろう。
こんな僕でも、その気持ちは痛いほど分かる。
レイ殿も強く共感されているみたいだ。でも……。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「仇を取ったら、その後はどうするんですか?」
浅ましくも期待していた。
レイ殿は復讐に生きている。
だから、ユーリと違って未来がない。
僕と同じなんじゃないかと思って。
「猫を飼う」
「……えっ?」
「笑いたきゃ笑え」
「いえ、……そんな……」
「そういうアンタは?」
「え? ああ……。僕も猫を飼いたいかな」
「っは、テキトーこきやがって」
「本心ですよ」
「嘘だな」
そう。嘘だ。
僕にはその先のビジョンなんてない。
バカだな。何を期待していたんだろう。
同じなわけがない。
この人もユーリと同じ。
生きるために、仇を取ろうとしている。
僕だけが死を見ているんだ。
「ほんとはイヌ派ってオチだろ」
「ヤダな。僕もちゃんと猫派ですよ。実家では五匹も飼ってたんですから」
「……詳しく教えろ」
案の定食いついてきた。
僕は得意になって話を続けていく。
身勝手に抱いた寂しさを、覆い隠すように。
目の前には、古びた木造の家が建っている。
ここはフォーサイス領にある深い森の中。
最寄りの村まで一日はかかる。
人の手が及んでいないせいか、周囲は魔物だらけだ。
とは言っても、近付いてくる気配はない。
たぶん、レイ殿や僕の魔力に気圧されてるんだろう。
「おえっ……うぷ……やっと着いたか~」
僕の背中の上で、小さな体がもぞもぞと動いた。
勇者の卵 ユーリ。十歳。
紅髪に、金色がかった茶色の瞳をしている。
この子は端的に言えば、夢とガッツに溢れる子だ。
我流で剣を覚えて自警団に入団したり。
聖女 エレノア様に一目惚れして、即日プロポーズ ⇒ OKを貰っちゃったり。
その行動力には目を見張るものがある。
間違いなくこの子は、僕ら中立派と王弟派を導く存在になるだろう。
「ユーリ、立てる?」
「けっ! よゆーだっつーの!」
ユーリは勢いよく地面に降り立った。
ふふっ、頭に葉っぱが付いてる。
そっと取って、愛おしさのなすままに頭を撫でた。
「っ! 何すんだよ!」
「ごっ、ごめん。つい……」
「ったく……ガキ扱いすんなよな!!」
悪い癖だな。
このぐらいの年頃の子を見ると、つい重ねてしまう。
殺された……いや、守れなかった弟妹達と。
「にしても、すっげぇとこだな~。田舎通り越して秘境じゃん。不便じゃねーの?」
「町の生活は性に合わなくてな」
「ああ、オッサン外人だもんな」
「まぁ、そんなところだ」
レイ殿は怒るでもなく、何でもないことのように答えた。
どれだけの差別と偏見の中で生きてきたんだろう。
想像するだけで、胸が痛んだ。
彼はデンスター王国の極東に位置する『ガシャム』と言う国の生まれだ。
巨大な砂漠に囲まれた国で、渡航は非常に困難。
王国でもほとんど見かけることがない。
そんなガシャム人の評判はというと……正直なところ、あまり良くない。
『野蛮だ』『怪しげな民族だ』と言われて、背を向けられてしまっている。
国力が乏しく、教育も行き届いていない所謂『後進国』であることに加え、催眠術や呪術といった奇妙な術の発祥地でもあるから。
「にーちゃん! 剣聖のにーちゃん!」
「っ! 何?」
「稽古つけてくれよ」
ユーリはそう言って、青い顔のまま剣を抜いた。
「今日はやめとこう。移動で疲れたでしょ?」
「こんなんへっちゃらだ!」
「でも――」
「付き合ってやれよ。晩飯は俺が作っておくから」
「えっ……? あ、じゃあ……ご飯が出来るまでね」
「おっしゃ! んじゃ、いっくぞー!!!」
レイ殿に促されるまま、ユーリの相手をしていく。
彼はとても熱心だった。
頼もしく思う反面、少し心配になる。
……自分の身を軽んじているような気がして。
「これで、どうだ――」
「飯、出来たぞ」
「はい、じゃあおしまい」
ユーリの攻撃を躱しながら、そう宣言した。
だけど、ユーリは構わず突っ込んできて。
「まだまだ――っ!」
その時、腹の虫が鳴いた。
「ぐぅ~」っと可愛らしい声で。
途端にユーリの顔が赤くなる。
「ふふっ、素直でよろしい」
「~~っ、うせえ!」
ぷんすか怒りながら小屋へと駆けていく。
僕も笑いながら、その後を追った。
テーブルの上には、湯気を立てるシチューが置かれていた。
でも、座席は二つ、置かれている器は二つだけだ。
「お前らはここ使え。俺は奥の書斎で――」
「オレがそっちに行く!」
「あ゛? っ! おい!」
ユーリは皿とスプーンを掴むと、そそくさと走っていってしまった。
「人見知りをするような子には、見えなかったんですけど……」
「あれは自衛だ。ああやって突っ張りでもしねえと、立ってらんねえんだろうよ」
ユーリもあの魔物と戦った。
けど敵わなくて、気を失っている間にすべてを失った。
家族も、友達も、村さえも。
悔しくて、申し訳なくて、仕方がないんだろう。
こんな僕でも、その気持ちは痛いほど分かる。
レイ殿も強く共感されているみたいだ。でも……。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「仇を取ったら、その後はどうするんですか?」
浅ましくも期待していた。
レイ殿は復讐に生きている。
だから、ユーリと違って未来がない。
僕と同じなんじゃないかと思って。
「猫を飼う」
「……えっ?」
「笑いたきゃ笑え」
「いえ、……そんな……」
「そういうアンタは?」
「え? ああ……。僕も猫を飼いたいかな」
「っは、テキトーこきやがって」
「本心ですよ」
「嘘だな」
そう。嘘だ。
僕にはその先のビジョンなんてない。
バカだな。何を期待していたんだろう。
同じなわけがない。
この人もユーリと同じ。
生きるために、仇を取ろうとしている。
僕だけが死を見ているんだ。
「ほんとはイヌ派ってオチだろ」
「ヤダな。僕もちゃんと猫派ですよ。実家では五匹も飼ってたんですから」
「……詳しく教えろ」
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僕は得意になって話を続けていく。
身勝手に抱いた寂しさを、覆い隠すように。
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