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三章:不器用なキミと、淫らな僕に愛されて
16.貴方と生きるために(★)
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熱くて冷たい。
痛くて気持ちいい。
それでいて、嬉しくて悲しい。
今日もまた行ったり来たり。
宙ぶらりんのまま貴方に抱かれる。
「んっ、……ぁ……んんっ……♡♡」
あれから二か月。
僕らはほぼ毎日体を重ねていた。
場所は地下室。
硬い床の上でただひたすらに抱き合う。
お蔭でウィルは出てこなくなった。
だけど、平穏は取り戻せずにいる。
別の問題に直面してしまっているから。
「お髭、ン……もう……すっかり元通り、ですね。素敵、です」
激しく前後に揺さぶられる中で、レイ殿のお髭を撫でた。
すると、途端に表情が険しくなる。
ここ二か月ずっとそうだ。
何を言ってもこの顔をされる。
笑顔なんてもう久しく見ていない。
そりゃそうだよね。
今の僕は嘘つきで、怠惰で、無責任。
……嫌われて当然だ。
このままじゃいけない。
いや、耐えられない。
だから、僕は何度となく関係の終わりを持ちかけた。
レイ殿にはこれ以上迷惑はかけない。
以降は、プロの方のお世話になると。
だけど、一向に信じてもらえない。
噛みつくようにキスをされて、そのままずるずると体を重ねる。
ずっとその繰り返しだ。
正直もう、僕にはどうしていいか分からない。
「顔色、良くないね。折角の美貌が台無しだよ」
はっとして顔を上げる。
そこには僕らのブレーン、ミシェル・カーライル様の姿があった。
重厚感のある執務机の向こうから、僕のことを案じてくれている。
そうだ。今は報告の途中だった。
慌てて頭を下げて謝罪をする。
ここはチャーリーと会うのに利用させてもらっていたお屋敷の中。
ミシェル様が所有する隠れ家の一つだ。
「レイと上手くいっていないのかな?」
ミシェル様にはすべてご報告している。
僕の病気のことも、レイ殿に協力して貰っていることも。
チャーリーとのことも、正直に伝えてお詫びした。
そうしたら、当たり前だけど彼との契約は解除になった。
手紙を預かってくれたけど、出来ればいつか彼に直接会ってお礼を言いたい。
彼と重ねた『夢見の日々』が、今の僕の心の支えになっている。
この支えがなければ、僕はもうとうに折れてしまっていただろうから。
「君の病について色々と調べてみたんだ。そうしたら、叔父上が残した日記に興味深い記述があってね」
「レイ殿の先生の?」
「そう。私と瓜二つと名高い、あのエルヴェのものだ」
ああ、そうか。
先生に似てるから。
だから、レイ殿は頭が上がらないのか。
「どうやら、レイの故郷ガシャムに快方のヒントがあるらしい」
ミシェル様はそう言って、机の引き出しから一冊の日記帳を取り出した。
エメラルドグリーンの表紙で、縁には金の蔦の装飾が施されている。
割と派手好きだったのかな。
お住まいは素朴な感じだけど。
「ふふっ、意外かい? あの聡明なレイがこの日記に思い至らなかったことが」
「あ、……確かにそうですね」
「理由は単純明快、彼はこれを読んでいないんだ」
「この日記の存在を知らずにいるから?」
「いいや。あるのは知ってる。けど読まない」
「……なぜ?」
「愛に飢えてしまうから」
「えっ……?」
「彼は『捨て子』なんだ」
「っ! まさか捨てられた時の記憶が……?」
「ああ。しっかりあるそうだよ」
どれだけ悲しくて、怖くて、苦しかっただろう。
想像するだけで胸が痛んだ。
「彼にとって愛されることは当たり前ではなかった。故に、否応なしに求めてしまう」
「けど……酷く慎重になってる。親に捨てられたことが、トラウマになっているから」
「ご名答」
高圧的な態度や、醜聞はある種のフィルターなんだろう。
そういうのに惑わされない人とだけ親交を深めていく。
僕は信頼してもらえてたんだと思う。
でも、裏切ってしまった。
軽率な嘘で、彼のトラウマを刺激してしまったんだ。
「~~っ、僕は何ってことを……」
挽回したい。
傷付けてしまった分、有り余る愛で貴方を包みたい。
そのためには、まずは真っさらにならないと。
きちんと病気を治して、今の関係を清算する。
その上で、もう一度チャンスを乞うんだ。
「僕の病気を治すヒント、教えていただけますか?」
「喜んで。さあ、こっちにおいで」
言われるままミシェル様のお傍へ。
机の上に置かれた日記帳に目を向けた。
「催眠術?」
「潜在意識にアプローチして、ストレス、不安、トラウマ、心身症などの治療を行うらしい」
「っ! もしかして、ウィルと対話することも?」
「ああ。叶うかもしれないね」
期待に胸が膨らむ。
僕は鼻息荒くあれこれと訊ねていった。
――帰宅後、お夕飯の席でレイ殿に報告をした。
ユーリはここにはいない。
変わらず、書斎で食事をしている。
「術師の方はもう手配していただきました。来週にでも、治療が始まるかと思います」
「急だな」
「善は急げかなと」
「耐えられるのか? 記憶まで消して、逃げに逃げまくってきたお前が」
「やりたいことを見つけたんです。だから、きっと頑張れる」
「…………」
レイ殿がじっと見つめてくる。
僕も……ちょっと照れ臭かったけど、じっと見つめ返した。
背中がむずむずして擽ったい。
それはレイ殿も同じみたいで、居心地悪く大きく咳払いをした。
「ざっ、残念だ。マジでお前のこと、筋金入りの猫好きにしてやろうと思ってたのに」
ぎこちない上に、頬まで緩んでる。
僕はこれを『期待してくれているんだ』と、都合よく解釈することにした。
――必ず治す。
これから先も、出来ることならずっと貴方と共に生きていきたいから。
痛くて気持ちいい。
それでいて、嬉しくて悲しい。
今日もまた行ったり来たり。
宙ぶらりんのまま貴方に抱かれる。
「んっ、……ぁ……んんっ……♡♡」
あれから二か月。
僕らはほぼ毎日体を重ねていた。
場所は地下室。
硬い床の上でただひたすらに抱き合う。
お蔭でウィルは出てこなくなった。
だけど、平穏は取り戻せずにいる。
別の問題に直面してしまっているから。
「お髭、ン……もう……すっかり元通り、ですね。素敵、です」
激しく前後に揺さぶられる中で、レイ殿のお髭を撫でた。
すると、途端に表情が険しくなる。
ここ二か月ずっとそうだ。
何を言ってもこの顔をされる。
笑顔なんてもう久しく見ていない。
そりゃそうだよね。
今の僕は嘘つきで、怠惰で、無責任。
……嫌われて当然だ。
このままじゃいけない。
いや、耐えられない。
だから、僕は何度となく関係の終わりを持ちかけた。
レイ殿にはこれ以上迷惑はかけない。
以降は、プロの方のお世話になると。
だけど、一向に信じてもらえない。
噛みつくようにキスをされて、そのままずるずると体を重ねる。
ずっとその繰り返しだ。
正直もう、僕にはどうしていいか分からない。
「顔色、良くないね。折角の美貌が台無しだよ」
はっとして顔を上げる。
そこには僕らのブレーン、ミシェル・カーライル様の姿があった。
重厚感のある執務机の向こうから、僕のことを案じてくれている。
そうだ。今は報告の途中だった。
慌てて頭を下げて謝罪をする。
ここはチャーリーと会うのに利用させてもらっていたお屋敷の中。
ミシェル様が所有する隠れ家の一つだ。
「レイと上手くいっていないのかな?」
ミシェル様にはすべてご報告している。
僕の病気のことも、レイ殿に協力して貰っていることも。
チャーリーとのことも、正直に伝えてお詫びした。
そうしたら、当たり前だけど彼との契約は解除になった。
手紙を預かってくれたけど、出来ればいつか彼に直接会ってお礼を言いたい。
彼と重ねた『夢見の日々』が、今の僕の心の支えになっている。
この支えがなければ、僕はもうとうに折れてしまっていただろうから。
「君の病について色々と調べてみたんだ。そうしたら、叔父上が残した日記に興味深い記述があってね」
「レイ殿の先生の?」
「そう。私と瓜二つと名高い、あのエルヴェのものだ」
ああ、そうか。
先生に似てるから。
だから、レイ殿は頭が上がらないのか。
「どうやら、レイの故郷ガシャムに快方のヒントがあるらしい」
ミシェル様はそう言って、机の引き出しから一冊の日記帳を取り出した。
エメラルドグリーンの表紙で、縁には金の蔦の装飾が施されている。
割と派手好きだったのかな。
お住まいは素朴な感じだけど。
「ふふっ、意外かい? あの聡明なレイがこの日記に思い至らなかったことが」
「あ、……確かにそうですね」
「理由は単純明快、彼はこれを読んでいないんだ」
「この日記の存在を知らずにいるから?」
「いいや。あるのは知ってる。けど読まない」
「……なぜ?」
「愛に飢えてしまうから」
「えっ……?」
「彼は『捨て子』なんだ」
「っ! まさか捨てられた時の記憶が……?」
「ああ。しっかりあるそうだよ」
どれだけ悲しくて、怖くて、苦しかっただろう。
想像するだけで胸が痛んだ。
「彼にとって愛されることは当たり前ではなかった。故に、否応なしに求めてしまう」
「けど……酷く慎重になってる。親に捨てられたことが、トラウマになっているから」
「ご名答」
高圧的な態度や、醜聞はある種のフィルターなんだろう。
そういうのに惑わされない人とだけ親交を深めていく。
僕は信頼してもらえてたんだと思う。
でも、裏切ってしまった。
軽率な嘘で、彼のトラウマを刺激してしまったんだ。
「~~っ、僕は何ってことを……」
挽回したい。
傷付けてしまった分、有り余る愛で貴方を包みたい。
そのためには、まずは真っさらにならないと。
きちんと病気を治して、今の関係を清算する。
その上で、もう一度チャンスを乞うんだ。
「僕の病気を治すヒント、教えていただけますか?」
「喜んで。さあ、こっちにおいで」
言われるままミシェル様のお傍へ。
机の上に置かれた日記帳に目を向けた。
「催眠術?」
「潜在意識にアプローチして、ストレス、不安、トラウマ、心身症などの治療を行うらしい」
「っ! もしかして、ウィルと対話することも?」
「ああ。叶うかもしれないね」
期待に胸が膨らむ。
僕は鼻息荒くあれこれと訊ねていった。
――帰宅後、お夕飯の席でレイ殿に報告をした。
ユーリはここにはいない。
変わらず、書斎で食事をしている。
「術師の方はもう手配していただきました。来週にでも、治療が始まるかと思います」
「急だな」
「善は急げかなと」
「耐えられるのか? 記憶まで消して、逃げに逃げまくってきたお前が」
「やりたいことを見つけたんです。だから、きっと頑張れる」
「…………」
レイ殿がじっと見つめてくる。
僕も……ちょっと照れ臭かったけど、じっと見つめ返した。
背中がむずむずして擽ったい。
それはレイ殿も同じみたいで、居心地悪く大きく咳払いをした。
「ざっ、残念だ。マジでお前のこと、筋金入りの猫好きにしてやろうと思ってたのに」
ぎこちない上に、頬まで緩んでる。
僕はこれを『期待してくれているんだ』と、都合よく解釈することにした。
――必ず治す。
これから先も、出来ることならずっと貴方と共に生きていきたいから。
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