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三章:不器用なキミと、淫らな僕に愛されて
17.幼馴染であるはずのキミから(★)
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高窓から陽の光が差し込んでくる。
それらの光を受けて、石造りの廊下に置かれた様々な調度品がキラキラと輝き出した。
いずれも自然にまつわるものだ。
馬やリスの置物だったり、フォーサイス領に広がる雄大な自然を描いたものだったり。
この辺境の地を忌むのではなく、心から愛している。
そんな思いが見て取れて、何だかほっこりした。
「先生……っ」
「大丈夫だよ。信じて待ってて」
ユーリは小さな唇を引き結んで、こくりと頷いた。
『命にかかわるような病気じゃないよ』
症状は伝えられない分、その点はしっかりと強調しておいた。
だけど、それでもユーリはこんなにも心配してくれていて。
凄く嬉しい。それこそ言葉にならないぐらい。
正直なところ、関心すら持たれないんじゃないかと思ってたから。
「おい。それちゃんと被っとけよ」
「うっせーな。分かってるよ」
レイ殿にぶすっとした顔で答えながら、オリーブ色の帽子を目深に被る。
今日のユーリはいつもと違う。
帽子を被りつつ、特徴的な紅髪を黒のウィッグで隠している。
彼の存在は変わらず秘匿とされているから。
「行くぞ」
「ええ」
ハーヴィー様にユーリを預けて、用意していただいたお部屋に向かう。
そんな僕の隣に立つレイ殿もまた変装をしていた。
今回のレイ殿は『催眠術師の助手』という設定だ。
褐色の肌とお髭はそのままに、ゆったりとした薄茶色のローブを着て、頭には同じ色のターバンを巻いている。
当たり前だけどよく似合ってる。
あるべき姿に戻ったって言えばいいのかな?
そう思うと、何だかそわそわしてしまうけど。
このまま遠くに行ってしまうような……そんな気がして。
「やっぱりその……懐かしいですか?」
「ん? ああ、そうだな。これ見てっと変態共を思い出す」
「? それはどういう――」
「俺を買ってた野郎共のことだよ。ったく、反吐が出るぜ」
本当に体を売ってたんだ。
どれだけ怖くて、悔しかっただろう。
想像するだけで胸が痛んだ。
「あの……お部屋着いたら、服交換しましょうか?」
「はぁ? 何でだよ?」
「だって……お辛いでしょ?」
レイ殿は目をパチクリさせると、次の瞬間ふっと吹き出すようにして笑った。
予想外の反応に、僕は思わず瞠目する。
「バカ。いつの話だと思ってんだよ」
「でも……」
「ナメんなよ。んなヤワじゃねえよ」
「わっ……!」
頭を乱暴に撫でられた。
わしゃわしゃわしゃっと、犬や猫にするように。
「ほらっ、とっとと行くぞ」
レイ殿はすたすたと歩いて、部屋の扉を開けた。
先生が待っているお部屋だ。
表情……見損ねちゃったな。
どんな顔してたんだろう?
喜んでた? 照れてた? それとも怒ってた?
後悔は膨らむばかり。
だけど、切り替えなきゃ。
首を左右に振ってレイ殿の後に続く。
最初に飛び込んできたのは、白を基調とした石壁だった。
時を経た柔らかな陰影が心地いい。
窓辺には厚手の深緑色のカーテンが。
外の景色を遮りながらも、昼の明るさだけはしっかりと取り込んでくれている。
床には深みのある赤い絨毯が敷かれていて、足音をすっすっと呑み込んでいく。
どうやらここはゲストルームみたいだ。
部屋の奥には、赤のビロードの天蓋付きのベッドが置かれている。
「あ……」
「やぁやぁ、こんにちは。待ってたよ」
ベッドの対角線上に置かれた深緑色のシェーズロング。
その横には一人の老人の姿があった。
レイ殿と同じ褐色肌。
痩せ型で、ぎょろっとした大きな目をしている。
顎には入道雲みたいな、白くてふわふわなお髭を生やしていた。
お召しになっているのは、レイ殿と同じガシャムの民族衣装。
ゆったりとした紫色のローブに、頭には同じ色のターバンを巻いている。
「術師のナジームじゃ。ほっほっほ、よろしくね」
「こちらこそ。ウィリアムです。ご足労をいただきありがとうございます」
そっと握手を交わす。
しわくちゃでとても温かい手だった。
浮かべている笑顔もやわらかくて、緊張の糸がするすると解けていくのを感じる。
「お前さんが儂の護衛じゃな」
「ああ。レイモンドだ。万一コイツが暴れるようなことがあれば、俺が止めてやるよ」
「頼もしいの~。おまけに同胞ときたもんじゃ」
「悪いが、ローカルネタには付き合えねえぜ。こっちの国の方が長いんでな」
「それはそれは。よもやガシャム語も?」
「ああ、とうに忘れたよ」
「薄情な奴じゃの~」
ほっとした。物凄く。
これから先も国に戻るつもりはない。
ずっとここにいてくれるんだって、そう思えて。
「まぁ良い。では、ウィリアム君。まずはそこのソファに寝転がってもらえるかな」
僕は促されるまま深緑色のシェーズロングに寝転んだ。
やわらかなベルベットが僕の体を包み込む。
気持ちいい。何だか無意味に手足を動かしたくなるな。
気を抜いたらすぐに寝ちゃいそう。
「これからお前さんに暗示をかけさせてもらう。ただ漠然と儂が言うイメージを、頭の中に思い描いていっておくれ」
「それだけ……?」
「ああ、それだけでお前さんは自分の潜在意識に潜ることが出来る。儂にしっかりと命綱を握られた状態でな」
「凄い技術ですね」
「ただ……お前さんを引っ張り上げるのには、ルートの確保が不可欠じゃ。故に色々と、隅々まで覗かせてもらうぞい」
好奇心やちょっとした悪意すらも感じられない。
先生はプロだ。そう確信した。この人になら安心して任せられる。
「はい。構いません。よろしくお願いします」
「ほっほっほ! これはこれは中々肝の据わった患者じゃの。儂も励まねば」
「おい、ウィリアム」
不意にレイ殿が話しかけてきた。
何だろう? パチクリと瞬きをしながら先を促すと、レイ殿は罰が悪そうに唇を波立たせた。
「その……何だ。あんま無茶すんなよ」
途端に頬が緩む。
それ逆効果ですよ。
どんな無茶をしてでも治したくなる。
「……返事しろよ」
「善処します」
「テメェ……」
「ほっほっほ」
「あ゛? おい、ジジイ。テメェ何笑って――」
「別にぃ~?」
「にゃろ……っ」
「さて、名残惜しいがそろそろ始めるとするかの」
レイ殿は大きく舌打ちをして、顔を下向かせてしまった。
心配してくれてるんだと、都合よく解釈してゆっくりと目を閉じていく。
「まずは緑の草原を思い浮かべるんじゃ」
「緑の……草原……」
言われるまま緑の草原を思い浮かべていく。
次は小さな小屋。
そのまま扉を開いて中へ。
木の甘い香りを感じながら、奥へ奥へと進んで地下室へと続く扉を開ける。
するとそこには――海が広がっていた。
「あっ」と声をあげる間もなく波に呑まれる。
苦しい。藻掻く内に気付けばふっと楽になっていた。
ここは……海じゃない。暗闇の中だ。
なのに、自分の姿はハッキリと見て取れた。
服は着てる。チュニックにパンツ、ブーツまでしっかりと。
だけど、サーベルはない。
素手でも戦えなくはないけど、あんまり経験ないんだよね。
「……っ」
ダメだ。気をしっかり持て。
僕は決めたんだから。
レイ殿と生きるって。
「はっ、よく言うぜ」
聞き覚えのある声。
まさか……?
「っ!」
直後、黒い床の上に倒れ込んだ。
重い。圧し掛かられている。
振り返ると、案の定そこには僕の幼馴染の姿があった。
「ゼフ……」
銀色の甲冑姿。
目尻が垂れ下がった切れ長の目。
腰まで伸びる薄茶色の髪は一つ結びにしている。
間違いない。ゼフだ。
けど、どうしてここに?
君は死んだ。間違いなく。
僕は看取った。君を守れなかったから。
期待と不安に揺れる僕を見て、ゼフはにっこりと微笑んだ。
そして、ゆっくりと身を屈めて僕の耳元で囁く。
「このクソビッチが」
「えっ……?」
「お前はさ、誰でもいいんだよ。『真実の愛』とやらに酔えるのならな」
「そんなわけ――っ!」
僕のお尻が勝手に持ち上がる。
顔は依然、黒い床に突っ伏したままだ。
「あっ……! はぁ……っ」
お尻が、お腹が、痛い。
それに熱くて……苦しい……っ。
この感覚……まさか……っ。
「思い出したか? 俺とのこと」
「何……言ってるの? 思い出すも何も、君とは何も――」
「くっくっく、しょーがねえな。なら思い出させてやるよ」
「やっ、やめ――あ゛っ!!?」
貫かれる。
幼馴染であるはずの彼の昂りに。
それらの光を受けて、石造りの廊下に置かれた様々な調度品がキラキラと輝き出した。
いずれも自然にまつわるものだ。
馬やリスの置物だったり、フォーサイス領に広がる雄大な自然を描いたものだったり。
この辺境の地を忌むのではなく、心から愛している。
そんな思いが見て取れて、何だかほっこりした。
「先生……っ」
「大丈夫だよ。信じて待ってて」
ユーリは小さな唇を引き結んで、こくりと頷いた。
『命にかかわるような病気じゃないよ』
症状は伝えられない分、その点はしっかりと強調しておいた。
だけど、それでもユーリはこんなにも心配してくれていて。
凄く嬉しい。それこそ言葉にならないぐらい。
正直なところ、関心すら持たれないんじゃないかと思ってたから。
「おい。それちゃんと被っとけよ」
「うっせーな。分かってるよ」
レイ殿にぶすっとした顔で答えながら、オリーブ色の帽子を目深に被る。
今日のユーリはいつもと違う。
帽子を被りつつ、特徴的な紅髪を黒のウィッグで隠している。
彼の存在は変わらず秘匿とされているから。
「行くぞ」
「ええ」
ハーヴィー様にユーリを預けて、用意していただいたお部屋に向かう。
そんな僕の隣に立つレイ殿もまた変装をしていた。
今回のレイ殿は『催眠術師の助手』という設定だ。
褐色の肌とお髭はそのままに、ゆったりとした薄茶色のローブを着て、頭には同じ色のターバンを巻いている。
当たり前だけどよく似合ってる。
あるべき姿に戻ったって言えばいいのかな?
そう思うと、何だかそわそわしてしまうけど。
このまま遠くに行ってしまうような……そんな気がして。
「やっぱりその……懐かしいですか?」
「ん? ああ、そうだな。これ見てっと変態共を思い出す」
「? それはどういう――」
「俺を買ってた野郎共のことだよ。ったく、反吐が出るぜ」
本当に体を売ってたんだ。
どれだけ怖くて、悔しかっただろう。
想像するだけで胸が痛んだ。
「あの……お部屋着いたら、服交換しましょうか?」
「はぁ? 何でだよ?」
「だって……お辛いでしょ?」
レイ殿は目をパチクリさせると、次の瞬間ふっと吹き出すようにして笑った。
予想外の反応に、僕は思わず瞠目する。
「バカ。いつの話だと思ってんだよ」
「でも……」
「ナメんなよ。んなヤワじゃねえよ」
「わっ……!」
頭を乱暴に撫でられた。
わしゃわしゃわしゃっと、犬や猫にするように。
「ほらっ、とっとと行くぞ」
レイ殿はすたすたと歩いて、部屋の扉を開けた。
先生が待っているお部屋だ。
表情……見損ねちゃったな。
どんな顔してたんだろう?
喜んでた? 照れてた? それとも怒ってた?
後悔は膨らむばかり。
だけど、切り替えなきゃ。
首を左右に振ってレイ殿の後に続く。
最初に飛び込んできたのは、白を基調とした石壁だった。
時を経た柔らかな陰影が心地いい。
窓辺には厚手の深緑色のカーテンが。
外の景色を遮りながらも、昼の明るさだけはしっかりと取り込んでくれている。
床には深みのある赤い絨毯が敷かれていて、足音をすっすっと呑み込んでいく。
どうやらここはゲストルームみたいだ。
部屋の奥には、赤のビロードの天蓋付きのベッドが置かれている。
「あ……」
「やぁやぁ、こんにちは。待ってたよ」
ベッドの対角線上に置かれた深緑色のシェーズロング。
その横には一人の老人の姿があった。
レイ殿と同じ褐色肌。
痩せ型で、ぎょろっとした大きな目をしている。
顎には入道雲みたいな、白くてふわふわなお髭を生やしていた。
お召しになっているのは、レイ殿と同じガシャムの民族衣装。
ゆったりとした紫色のローブに、頭には同じ色のターバンを巻いている。
「術師のナジームじゃ。ほっほっほ、よろしくね」
「こちらこそ。ウィリアムです。ご足労をいただきありがとうございます」
そっと握手を交わす。
しわくちゃでとても温かい手だった。
浮かべている笑顔もやわらかくて、緊張の糸がするすると解けていくのを感じる。
「お前さんが儂の護衛じゃな」
「ああ。レイモンドだ。万一コイツが暴れるようなことがあれば、俺が止めてやるよ」
「頼もしいの~。おまけに同胞ときたもんじゃ」
「悪いが、ローカルネタには付き合えねえぜ。こっちの国の方が長いんでな」
「それはそれは。よもやガシャム語も?」
「ああ、とうに忘れたよ」
「薄情な奴じゃの~」
ほっとした。物凄く。
これから先も国に戻るつもりはない。
ずっとここにいてくれるんだって、そう思えて。
「まぁ良い。では、ウィリアム君。まずはそこのソファに寝転がってもらえるかな」
僕は促されるまま深緑色のシェーズロングに寝転んだ。
やわらかなベルベットが僕の体を包み込む。
気持ちいい。何だか無意味に手足を動かしたくなるな。
気を抜いたらすぐに寝ちゃいそう。
「これからお前さんに暗示をかけさせてもらう。ただ漠然と儂が言うイメージを、頭の中に思い描いていっておくれ」
「それだけ……?」
「ああ、それだけでお前さんは自分の潜在意識に潜ることが出来る。儂にしっかりと命綱を握られた状態でな」
「凄い技術ですね」
「ただ……お前さんを引っ張り上げるのには、ルートの確保が不可欠じゃ。故に色々と、隅々まで覗かせてもらうぞい」
好奇心やちょっとした悪意すらも感じられない。
先生はプロだ。そう確信した。この人になら安心して任せられる。
「はい。構いません。よろしくお願いします」
「ほっほっほ! これはこれは中々肝の据わった患者じゃの。儂も励まねば」
「おい、ウィリアム」
不意にレイ殿が話しかけてきた。
何だろう? パチクリと瞬きをしながら先を促すと、レイ殿は罰が悪そうに唇を波立たせた。
「その……何だ。あんま無茶すんなよ」
途端に頬が緩む。
それ逆効果ですよ。
どんな無茶をしてでも治したくなる。
「……返事しろよ」
「善処します」
「テメェ……」
「ほっほっほ」
「あ゛? おい、ジジイ。テメェ何笑って――」
「別にぃ~?」
「にゃろ……っ」
「さて、名残惜しいがそろそろ始めるとするかの」
レイ殿は大きく舌打ちをして、顔を下向かせてしまった。
心配してくれてるんだと、都合よく解釈してゆっくりと目を閉じていく。
「まずは緑の草原を思い浮かべるんじゃ」
「緑の……草原……」
言われるまま緑の草原を思い浮かべていく。
次は小さな小屋。
そのまま扉を開いて中へ。
木の甘い香りを感じながら、奥へ奥へと進んで地下室へと続く扉を開ける。
するとそこには――海が広がっていた。
「あっ」と声をあげる間もなく波に呑まれる。
苦しい。藻掻く内に気付けばふっと楽になっていた。
ここは……海じゃない。暗闇の中だ。
なのに、自分の姿はハッキリと見て取れた。
服は着てる。チュニックにパンツ、ブーツまでしっかりと。
だけど、サーベルはない。
素手でも戦えなくはないけど、あんまり経験ないんだよね。
「……っ」
ダメだ。気をしっかり持て。
僕は決めたんだから。
レイ殿と生きるって。
「はっ、よく言うぜ」
聞き覚えのある声。
まさか……?
「っ!」
直後、黒い床の上に倒れ込んだ。
重い。圧し掛かられている。
振り返ると、案の定そこには僕の幼馴染の姿があった。
「ゼフ……」
銀色の甲冑姿。
目尻が垂れ下がった切れ長の目。
腰まで伸びる薄茶色の髪は一つ結びにしている。
間違いない。ゼフだ。
けど、どうしてここに?
君は死んだ。間違いなく。
僕は看取った。君を守れなかったから。
期待と不安に揺れる僕を見て、ゼフはにっこりと微笑んだ。
そして、ゆっくりと身を屈めて僕の耳元で囁く。
「このクソビッチが」
「えっ……?」
「お前はさ、誰でもいいんだよ。『真実の愛』とやらに酔えるのならな」
「そんなわけ――っ!」
僕のお尻が勝手に持ち上がる。
顔は依然、黒い床に突っ伏したままだ。
「あっ……! はぁ……っ」
お尻が、お腹が、痛い。
それに熱くて……苦しい……っ。
この感覚……まさか……っ。
「思い出したか? 俺とのこと」
「何……言ってるの? 思い出すも何も、君とは何も――」
「くっくっく、しょーがねえな。なら思い出させてやるよ」
「やっ、やめ――あ゛っ!!?」
貫かれる。
幼馴染であるはずの彼の昂りに。
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