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ep2
しおりを挟む「月のそばで眠る」
遠野の腕の中で、は小さく息を吐いた。
涙をこらえたせいか、喉の奥がじんと痛い。
「……もう、大丈夫」
そう言いながら、そっと体を離そうとした。
けれど、遠野はすぐに手を離さなかった。
「無理はしなくていいですよ」
低く穏やかな声が、耳元に落ちる。
「泣きたくなるのは、仕方のないことですから」
奏来はぎゅっと拳を握った。
「……泣きたくなんて、ない」
そう言ったつもりだった。
けれど、震える声が、まるで子どものように弱々しく響く。
遠野は、それ以上何も言わなかった。
ただ、静かに腕を回し、奏来の背中をゆっくりと撫でた。
その優しさに、心が少しずつほどけていく。
「……ありがとう」
やっとの思いで言葉を絞り出すと、遠野は小さく微笑んだ。
「どういたしまして」
そのまましばらく、二人は夜の街の片隅で寄り添っていた。
◇
翌日、大学の講義が終わったあと、奏来は人気のない廊下を歩いていた。
遠野とは、あれからちゃんと話せていない。
顔を合わせるのが、少し気まずかった。
「……」
昨日、あんなに甘えてしまったのに、何事もなかったように接していいのか分からない。
そんなことを考えながら角を曲がると、前から見覚えのある姿が歩いてきた。
遠野だった。
「……」
奏来は思わず足を止めた。
目が合う。
遠野は、一瞬だけ表情を和らげると、そのまま奏来の前で立ち止まった。
「先輩」
優しく名前を呼ばれ、胸の奥がわずかに熱くなる。
「昨日は、ちゃんと眠れましたか?」
問いかけられた瞬間、奏来は無意識に視線を落とした。
──眠れなかった。
昨日のことを思い出すたび、胸が締めつけられて、どうしようもなく心細くなった。
でも、それを正直に言うのは恥ずかしかった。
「……普通に寝た」
そう答えると、遠野は小さく目を細めた。
「そうですか」
それ以上は何も言わず、ただ穏やかに微笑む。
でも、なぜかその表情が「嘘だと分かっている」と言っているような気がして、奏来は小さく息を飲んだ。
「……本当に?」
「……」
問い詰められているわけじゃないのに、逃げ出したくなる。
「……っ」
無意識に拳を握ると、その瞬間、遠野がふっと息をついた。
「よかったら、今日の夜……うちに来ませんか?」
「……え?」
「一人で眠れないなら、一緒に寝ましょう」
の心臓が、大きく跳ねた。
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