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第2話:ガルドの村

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「さて、ようやく到着したわね。
レイト、ここで待ってて。
村の皆にあなたの事を説明してくるわ」

「おう」


フレイの住む村にようやく着いた
村の周囲は木の壁でバリゲートを建てており、意外と頑丈そうな見た目だった

上の見張り台の櫓に男の人が見える

やっぱりあの人もエルフなんだなー
…あ、やべ目が合った
すると彼は、少し驚いた様子でこちらを見た

そ、そんなに警戒しなくても暴れたりしませんよ…
ここまで色々あり過ぎて流石にクタクタですよ…

この位置からでも村の様子はある程度把握することはできた
この世界の現在時刻は分からないけど、だいたい夕方前くらいなのかな?

とても美味しそうなお肉の焼いた匂いが鼻腔を刺激してきやがる
グゥ、とお腹の虫が鳴った
そういえばおにぎりしか食べてないや
めっちゃ腹減った…

すると入口の門が開き、フレイが迎えに来た


「待たせたわね。さぁ、入ってらっしゃい」

「はーい。村の人達は俺の事何か言ってた?」

「まずはウチの村長に会って頂戴。
あなたに色々教えることがあるそうよ」

「おけ」


教えることってなんだろう?
まあ、何であれこれからこの村でお世話になる事だし、村長さんに失礼のないよう懇切丁寧に挨拶しないと

フレイの後ろを追従する形で村の中へ入っていく
外からでも中の喧騒は聞こえていたが、予想より人が沢山住んでるようだ

建物自体も住宅だけではなく、商店や食事処もあるみたいだ
村と言うより小さな町って感じだな

そして当然、住民は皆さん金髪碧眼のエルフだった
やはり、よそ者は目立つのだろう
すれ違った人達全員がこちらを見ている
ヒソヒソ声も耳に聴こえてくる

あー、もしかして俺、そんなに歓迎されていない?
ヘコむなぁ…

フレイはそんな俺を察したのか声を掛けてきた


「村の皆の反応なら気にしなくてもいいわよ。
あまりここにはお客さんとか来ない村だから珍しいだけよ」

「そ、そっか。少し安心したよ。
俺、エルフじゃないから村八分でもされるかと思ったぜ」

「そんな酷いことしないわよ…
あら、そういえばあなたの世界にもエルフはいるの?」

「いや、いないよ。
ただ、ゲームとか漫画とかでよく登場する種族だから知ってたんだ」

「げ、げーむ?まんが?何よそれ」


いろいろ話している内に大きな家の前…いや、小型の屋敷って言った方がいいかもしれない…に到着した
ひょえー…入口の扉も大きいなー

扉の高さがさっき戦ったドラゴンの片腕くらいはありそうだった
それに何だか重そうだし、村長さんって常日頃から鍛えてる人なのかな?


「さ、入るわよ」


そう言うとフレイは重厚そうな扉をいとも簡単に押して、中へ入っていった


「お、お前やっぱすげぇ力だな…
よくこんなでけぇ扉動かせること」

「そう?私ここにからあまり気にしたことないわね」


は?住んでる?
疑問が判明する前にその人物は突然前からやって来た


「よく来たな。人族の青年よ。
わしがこの村、ガルド・ヴィレッジを統治しているウィルム・シュバルツァーである」

「……(パクパク)」


で、でっか!
ここの村の人達はフレイも含めて全員背が高いなーと思ってたけど、この人はケタ違いだ!

身長は絶対2メートルは超えてる!
熊が歩いてきたと錯覚したぐらいだ

髪型はオールバックにしていて、サングラスでもかけたらそのスジの人にしか見えないほど厳つい顔つきだった

俺があんぐりとしていると横からコツンと肘で突っつかれた


「ちょっと、なに呆けてるのよ。
挨拶するんじゃなかったの?」


はっ!
そうだ、しっかり自己紹介しないと!


「は、初めまして!
僕は間宮零人まみやれいとと申します!
歳は20歳、現在は○○大学で心理学を専攻しています!」

ペコリ!

……………いかん
緊張しすぎて就職面接みたいな挨拶しちまった


「何言ってるのアンタ?」


訝しげにフレイが言ってきた
やっちまった…


「ハッハッハ!
お主、中々おもしろい青年のようだな!
娘がいきなり男を連れてきたので何事かと思ったぞ」


どうやら村長さんは大らかな人だった
良かったー…ん、『娘』?


「それじゃあ、私着替えてくるわね」

「ああ、フレデリカ。
帰ってきたらちゃんと手を洗うのだぞ?」

「はいはい。
今日は結構汚れたし、ついでに身体も洗ってくるわ」


はあぁぁぁ!?
この2人親子だったのかよ!聞いてねぇぞ!

再びあんぐりしていると村長さんはニッと笑った


「さぁ、レイト君。お腹は空いていないか?
今日は君の歓迎会だ。食事にしよう」

「あ、は、はい。
お腹はとても空いてるんですけど…
その『歓迎会』?
俺って何か歓迎される理由ありましたっけ?」


ここに来るまでの間、村の人からは特異な目で見られているのは自覚している
きっと悪い印象なんだろうなーって思ったけど…


「何を言う、娘から聞いたぞ。
お主、あの黒竜ブラック・ドラゴンを撃退したそうではないか。
奴に適うものは村の戦士でもそうはいない」

「え!
そんな、あれはただ運が良かっただけで…
それに娘さんにも怪我をさせてしまいました」

「案ずるな、戦いの傷は戦士の誉れ。
娘も大して気にしていなかったであろう?」


そう言わればそうだ。
フレイはドラゴンに殴られたことより、情けを掛けられたことの方に憤慨していた
なんかどんどん俺の中の『エルフ』というイメージが書き変わってきている…


「その戦いの話は歓迎会の時にゆっくり聞かせてもらうとして、レイト君。
娘から聞いたがお主は『魔法』を知らないのだな?」

「は、はい。
俺の世界には魔力マナ?でしたっけ?
そういう力は無いので」

「ふむ、それはそれで実に興味深い世界ではあるが、ここでは生活する上で魔力は欠かせなくてな。
色々と不都合があるだろう」

「というと?」

「魔法には大きく分けて3つある。
その中で主に使うのは2つ。
『生活魔法』と『戦闘魔法』である」

「生活と戦闘…ですか」

「うむ、『戦闘魔法』については娘が使ったと思うが、それは取り敢えず置いておいて、問題は『生活魔法』の方だ」

「それはどういう魔法なんですか?」

「その名のとおり日常生活を送る上で必要な魔法でな。
例えば部屋の掃除を行う時は『清掃クリア』、料理で火を使う時は『点火イグニ』、身体や物を洗う時は『洗浄ウォッシュ』…といった具合である」

「な、なるほど。
すごい技術…いや魔法ですね」


す、すげぇ!

中世ファンタジーの人達ってこんな感じで生活してたんだ!
ゲームしてるとそこら辺は詳しく分からないから、目からウロコが落ちた感じや


「だがお主は魔法を使えない…というより身体に魔力マナが存在していない。
その状態では日常生活を送るのはままならんだろう」

「そ、そうですね。
お話を聞く限りかなり厳しそうです…」

「そこでだ。
お主が滞在する間、わしの娘を傍に付けさせる。
思う存分コキ使ってやってくれ。」

「えええ!そんなことできませんよ!
フレイに迷惑かけますし…」

「いや、アレもそろそろいい年頃なのでな。
いい加減戦うこと以外の事も勉強させなくてはならん」

「は、はぁ」


たしかにフレイの様子をみるとドラゴンを八つ裂きしてやる!なんて言ってるあたり、常日頃から戦いに明け暮れているのだろう

けどなぁ…


「娘にはわしから言っておく。それより食堂へ移動しよう。
今日は腕によりをかけて作るから楽しみにしててくれ」


親父さんが作ってくれるのか!
これまた意外だ…筋骨隆々の見た目からは想像できないけど、どんな料理を作ってくれるのだろう?

すごく楽しみだ


☆☆☆


村長さんに案内されて家の中の食堂へ着いた
部屋の中は長テーブルがいくつか連結されており、ちょっとした宴会会場のようだ


「それではここに座って待っていてくれ。
わしは食事を用意する」

「はい!」


椅子が引かれた所へ座る
あれ、ここって上座じゃね?いいのかな?
異世界だし、そんなに気にしなくてもいいだろう

じっくりと部屋を観察していると、上着のポケットから声が響いてきた


「おはよう、零人」

「ルカ!やっと目覚めたんだな!良かった…」

「大げさだな、私は死なんと言っただろう」


ピョンッと上着から飛び出して俺の目の前に浮かんだ


「本当に安心したよ!
あんなに喋ったのにまったく声が聞こえなくなったからさ…」

「心配するな。
活動に必要な当面のエネルギーは回復した。
またドラゴンと戦いでもしないかぎり大丈夫だろう…
それよりここはどこだ?
経緯を説明してくれないか?」

「ああ。
ルカが眠ったあとにフレイが来てね…」


俺は先程聞いた魔法の話も混じえつつ、村長の家に招待されるまでの経緯を説明した


「なるほど『5つの喋る宝石』、『スター・スフィア』か…
たしかにその本は重要な情報ソースのようだ」

「やっぱりそうだよな。
ご飯食べた後、フレイに本を貸してもらうことになってるから一緒に見ようぜ」

「ああ、そうだな。それにしても…」

…………

ん?どうしたんだろう?
急に黙ったぞ?


「ルカ?」

「零人。私が少し眠っている間にあの金髪娘とずいぶん親しくなったのだな?」

「そう?挨拶の時あいつと握手したら右手握り潰されたし、あまり好かれてないと思うけど…」

「だがもう愛称で呼んでいるではないか。
いつの間に口説いたのだ?」

「くど…?!口説いてなんかないわ!」

「ふん、別に構わんがな。
どんな者と恋愛しようと君の自由だ」

「だから違うって…」


なんだ?ルカの機嫌が少し悪い気がする
寝起きだからかな?
それならその気持ちは分かる
俺も休みの日の朝はゆっくり起きたいしな

そして噂をすればなんとやら、普段着に着替えたフレイが食堂に入ってきた
大きめのチュニック型ワンピースのシンプルな服装だ
彼女は背が高いためか、すらっとした美脚が下から伸びている

ちょっと目のやり場に困るな…


「待たせたわね!食事はまだできてな…ああ!
その子が例の『ルカ』ね!?」

「…っ!?あ、ああそうだが…
君がフレデリカ・シュバルツァーだな?
よろしく頼む」

「えっ待って!やばい、やばい!
私、宝石と本当に喋ってるんですけど!」


すっかりテンションぶち上げたフレイはとてもご機嫌なようだ


「なぁ、零人…
この娘はなぜこんなに興奮しているのだ?
私が何かしてしまったのか?」

「いや、ただフレイはさっき話した絵本の影響で、喋る宝石に憧れてるだけみたいだぜ」

「ふむ、憧れるのは結構だが些か疲れるな…」


大興奮のフレデリカさんをなだめていると、芳醇な香りが漂ってきた


「クンクン、なんかすんげぇ良い匂いする!」

「パパの料理は絶品よ~。
あ、私、近所の人たちを呼ぶように言われてるからちょっと出かけてくるわね」

「ああ、『歓迎会』だもんな…」


パタパタとフレイは食堂から出ていった
せっかくシュバルツァー親子が良くしてくれるのに、俺はあまり気分が上がらなかった


「どうしたのだ零人?君の『歓迎会』だろう?
もっと喜んだらどうだ」

「いや、たしかにあの黒いドラゴンと戦ったけどさぁ…
実際、俺1人じゃ何もできんかったし、そもそもルカの力が無ければ殺されてたよ」

「なんだそんなことか。
ふむ…丁度いい機会だ。
私の力を詳しく説明しよう」


ルカの力?転移テレポートじゃなかったっけ?


「君はこの世界へ来る前、私に触れたのだろう?
その事は憶えているか?」

「うん、そしたらピカーって蒼く光ったよ」

「おそらく、その瞬間に君と私は『契約』したのだ」


契約?なんだろうそれは


「『契約』とは私の力を行使する上で、必要な『儀式』のようなものでな。
触れた瞬間、君が私のパートナーになったという訳だ」


パートナーとな
なんだか、『契約』だの『儀式』だの結婚の話をされてるみたいだ…


「だが、触れただけでは、まだ『契約』は完全に終わっていない。
君が私にを行なって初めて力が使用可能になる。
なんだか分かるか?」

「え?んー、おにぎりを食わせること?」

「それは力を得てからのことだろう!
君は私をペットとでも勘違いしてるのか…?
私の名前は誰が決めたのだ?」

「あ!『名付け』か!」

「そうだ。『名付け』が終わった後、転移能力をお披露目したな。
だが、私の力は転移能力だけではない。
何かわかるか?君もその力を使っただろう」

「もしかして…『同調シンクロ』?」

「正解だ。
黒いドラゴンと戦った時に初めて使用したあの力だ。
『契約者』と『同調《シンクロ》』で繋がり、戦うのが本来の私の力なのだ」


んー言ってることは理解したけど、結局はルカの力でドラゴンに勝ったんだよ…

俺の力じゃない


「それならやっぱり評価されるのはルカの方だよ。
俺は足引っ張ってばっかだったし…」

「ハァ…ここまで説明しても分からんとはな。
いいか?私の力は契約無しでは使用不可能、つまりただの石ころなのだ」


グイッとルカは俺の至近距離に詰めてきた
近い近い!


「君のおかげで私は力を得た。
そしてその力を有効的に使ったのは紛れもなく、君だ。
君の勇気が勝機を見出したのだ。
自信を持て、零人。
君の力で、あのドラゴンに勝利したのだ」

「……」


そこまで言われると悪い気はしない
だけど訂正しないといけない言葉がある


「ルカ、やっぱり違うよ。
ドラゴンに勝てたのは俺とルカ、『2人の力』だ。
だから、ルカも歓迎会の料理たらふく食ってやろうぜ!」

「……!君は…いや、そうだなその通りだ」


ルカのお陰で少し元気が出た
やっぱりこの姉さんは頼りになるな


「零人」

「ん?」

「その…ありがとう」


彼女は蒼い石だ
表情が分かるはずがない…なのになぜか優しく微笑んだのが伝わってきた


☆☆☆


フレイが出ていってから数分後、俺だけポツンと席に座ってて寂しい食堂にあれよあれよという間に続々と村の人達が入ってきた

食堂はまるでBBQを開催してるかのような活気を見せ始めていた

そして俺はというと数人のエルフ達に囲まれてしまった…

しかもその人達は村長さんに負けず劣らず、厳つい顔つきとムキムキのボディを有していた
十中八九、村の戦士はこの人達なんだろう


「おぅ、お前さんが黒竜ブラック・ドラゴンをぶちのめしたマミヤ・レイトっつーもんか?」

「は、はいぃぃ!そうです!」


やべぇ、その道を極めし者に絡まれてるみたいになった!
どうしよう、俺はただの一般人バンビなんですぅぅ!

こういう人達にはくれぐれも調子に乗ってると思われてはいけない
慎重に言葉を選ばなければ…!


「おめぇやるじゃねぇか!あのクソドラゴンにはオレらも煮え湯を飲まされていたんだ!
フレイさんからも少し聞いたが、その戦い、俺も見てみたかったぜ」


あ、あれ?意外と好印象のようだ
だけど炎で焼かれそうになったり、空中から顔面着地とケツ着地を決めたり、結構ダサい戦い方だったんですよ…
フレイのやつそこら辺は言わなかったのか

村のマッチョ達と会話しているとテーブルに次々と料理が運ばれてきた
どれもこれも見た事がない品々で、匂いだけで昇天しそうなくらい美味しそうだ


「零人!見てみろ、この食べ物はなんだ!?
味を確かめなければならんな!」

「俺もこの世界に来たばっかりなんだから分からんて!
けど、たしかに美味そうだな!」


俺達の前に運ばれてきたのは骨付き肉にサラダボウル、熱々のスープ、そしてこれはパン…いやサンドイッチかな?
腹が減ってる分、全ての料理がキラキラ輝く宝石に見えた

俺とルカが料理にヨダレを垂らしていると、隣に村長さんがやって来てパンパンと手を打った


「さて、皆の衆。既にある程度知れ渡ったと思うが、今日は新しい仲間を紹介する。
ここにいるマミヤ・レイト君は、なんと!
あの黒竜ブラック・ドラゴンを撃退したのだ!」

「「「おぉぉ!!!」」」


場は一気に盛り上がり、歓声と拍手が鳴り響いた
お、おう、初めての経験だ
どう反応すればいいんだコレ?


「さて、レイト君。何か一言挨拶を」

「あ、は、はい!」


村長さんに背中を押され、場の中心へ立つと皆の視線が一斉に注がれた
やっば、この感じ久しぶりだなー…


「えーと、ご紹介にあずかりました、間宮 零人です。
本日はこのような会を開催して下さり、ありがとうございます。
自分はこの世界へ来てまだ日が浅いこともあり、皆さんにはいろいろご迷惑をかけるかと思いますが、助けて頂いた分を精一杯お返し出来ればと思います。
これからよろしくお願いします!」


言い終えるとパチパチパチと再び拍手が鳴り響いた

よ、よかった…
バイトの歓迎会で挨拶した時の言葉を少し改造したやつだけど、ちゃんと通じて安心したぜ

再び村長が来て下がるように合図された
ふう…

トントンと肩をフレイに叩かれた


「あんた良くあんなスラスラ言葉が出てくるわね。
ああいうの慣れてるの?」

「まぁそうだな。
俺の世界で暮らしていくにはああいう台詞も覚えとかなきゃいけないんだ。
これでも結構緊張したんだぞ?」

「ふーん、そうは見えなかったけど」


大勢の前に立つのは誰だって緊張するだろうよ
フレイはこういう事には慣れてなさそうだ
言うとキレそうだから黙ってるけど

村長さんの挨拶が終わり、いよいよご飯にありつく瞬間がやってきた!


「さぁ、今宵は宴だ!
我らガルド流のもてなしをレイト君に存分に堪能してもらおうではないか!」

「「「おおお!!!」」」

「杯を持て!
新たなる出会いにぃ、乾杯!!!」

「「「かんぱぁぁぁい!!!」」」


ゴクゴクゴクとジョッキに注がれたお酒を乾いた喉にぶち込む

くぅぅぅぅ!!!

フルーティーなうえに爽快感あってめっっちゃうめぇなコレ!
あとでフレイに何の酒か聞いてみよ

そこから先は俺とルカは初めて食べる料理に舌鼓を打った

やべぇ、何を食べても何を飲んでも美味しい…

数時間前に死にかけたせいもあるが、『生きてて良かった』、心からそう思えた
結構ハイペースで食べているつもりだけど、俺以上にルカがとんでもなかった


「む!この肉はとてもジューシーだ。
おお!このスープはなんとも言えないコクがあるな!」


テーブルに載せられた食べ物がシュポンシュポンと次々と消え失せる
ちゃんと味わって食ってんだろな?


☆☆☆


夢のような時間を過ごしていたが、円もたけなわでそろそろお開きになった


「レイト、ルカ。
あなた達の部屋を案内するわ。
ついて来なさい」

「あ、うん。
けど片付けは手伝わなくていいのか?
こんなにご馳走様してもらったし…」

「あんた生活魔法が使えないんでしょう?
逆に足手まといになるわよ」


そう言われ周りを見てみると


「『清掃クリア』!
まったく今日も派手に散らかしてったもんだねぇ」

「ホントよねぇ。
節度を持って飲みなさいってのよね。
洗浄ウォッシュ』!」


おばちゃん達が魔法を使ってせっせと飲んだ酒瓶やゴミを纏めたり、何も無いところから水が出てきて一瞬で皿やテーブルを綺麗にしていった

………異世界パねぇ


「さ、分かったならとっとと行きましょ。
絵本の約束もあるでしょ?」

「そうだな。
俺たちにとってはそれがいちばんのメインディッシュだ」

「ああ。シュバルツァー、暫く厄介になるぞ」

「ええ。こっちよ」


トントンと階段を上がり廊下の突き当たりの部屋へ来た


「ここよ」


ガチャっと扉を開け入ってみると部屋の中は8畳くらいの広さで、わりと綺麗な状態のテーブルを挟んでソファが2対、そしてベッドが置かれていた

結構手入れがされてある部屋だな…
見回しているとある物が目についた


「なあ、フレイ。これってドレッサーだよな?
誰かの部屋なのか?」

「ええ。ここは元々、ママの部屋なのよ」

「!」


やはり、そうか

そして今日その人に会わなかったという事は…


「ママはね、10年前に病気で亡くなったの」


シュバルツァー家に到着した時に薄々予想はしていたが、そうか…


「ママが亡くなった時、私はまだ10歳の子供でね…
それを受け止められずにいたわ」

「フレイ…」


可哀想に…
10歳ならまだまだ甘えたい年頃だろうに


「私は生活魔法は嫌いで滅多に使わなかったけど、ママの部屋だけは掃除をがんばっていたわ。
いつかママが帰ってくる…そう信じて、ね」


あかん、やばい…
来ちゃう…


「だけど、私ももう大人だしいい加減気持ちを切り替えないとね。
じゃないと天国のママに笑われ…ってどうしたのよ!?」

「グスッ!うぅぅ~…!
お前、そんな話聞いてこの部屋を使えるわけないだろ!
俺は野宿する!」


涙がチョチョギレて止まらなくなった
ダメなんだよ、俺こういうの!

部屋を後にしようとするとフレイが腕を掴んだ


「はぁ!?何言ってんのよ!
バカな事言ってないでこっちへ来なさい!」

「だって、だってよぉぉ!!うあああん!」


涙腺ダムがとうとう決壊いたしました
もうお水がダバダバ状態です


「零人!落ち着け!
まさか君がこんなに涙脆いとは…」

「ど、どうしようルカ?
私、大の大人が泣いてるのって初めてなんだけど…」

「とりあえず泣き止むまで泣かせるしかないだろう…
おそらく、酒の影響もあるはずだからな」

「そ、そうね!私、お水持ってくるわ!」


 ☆☆☆


「まったく、散々だったな…」

「ええ、少しは落ち着いたレイト?」

「ヂーン!ああ、ごめんよ2人とも…」


ティッシュをもらい鼻水と涙を拭き取る
ルカとフレイに慰めてもらい、ようやく冷静さを取り戻すことができた
俺が完全に泣き止むまで30分くらい掛かったらしい

ああ…この悪い癖、治ったと思ったのに…


「それで、レイト。これが約束の本よ」


ソファに座っている俺の向かいで、フレイが例のブツを渡してきた


「『スター・スフィア』…
見た目はただの童話の絵本って感じだな」

「レイトの世界ではどうか分からないけど、こういう絵本ってね、できるだけ実話をモデルにしてるストーリーが多いのよ。
だから信憑性はあると思うわ」

「ふむ、ますます興味深いな。
早速読んでみるか」


俺とルカが本を開こうとした時フレイが待ったをかけた


「せっかくだし私が朗読してあげるわ。
レイト、ルカ、こっちへいらっしゃい」

「あ、うん。ありがとう」


いそいそとフレイの隣に座る
彼女は腕と腕がくっつきそうなくらいに近づいてきた

わーなんかいい匂いがする…
ぽけーっとしてるとルカが目の前にギュンっと現れた


「零人?何やら邪な気配を感じるな?」

「は、はぁ!?そんなことねぇし!」

「ほら2人とも!読むわよ!」


そして、フレデリカ・シュバルツァーの朗読劇が開幕した
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