上 下
61 / 114

第59話:竜ノ擬態

しおりを挟む
☆間宮 零人sides☆


ヴァイパーと冒険者たちは、大きな掛け声と共に『黒竜ブラック・ドラゴン』へ立ち向かって行った
どうやら俺の闘いが皆に発破をかけたようだ


「フレイ殿、セリーヌ殿。我々も加勢しよう。
モネはオズベルク殿の治療を手伝ってくれ」

「ええ!」

「ガッテンニャ!」

「おっけー!」


そして俺らのパーティーもまた、彼らに続いてドラゴンの元へ走って行った
こんだけの戦力があれば何とかなりそうだ…


「マミヤ君、キミは少し休んでいきなよ。
水回復アクア・ヒアル』掛けてあげる」

「サンキューモネ。
ほら、見ろよおっさん。
モネがあんたの魔法を…あれ?」

「……………」


おっさんは目を閉じて静かに眠っている…
え…まさか…死ん…


「よっぽど戦い疲れていたのでしょう。
僕が魔法をかけて間もなく、お眠りになられましたよ」


ほんとに眠ってるだけだった
脅かすなよ!


「寝かせてやれ、零人。
我々が知る限りダアトは2体のドラゴンと牙を交えたのだ。
さすがに疲れていても当然だ」

「そ、そうだな。
赤竜レッド・ドラゴンとも闘ったんだもんな」


ドラゴンと連戦なんて考えただけでも身の毛がよだつ
やっぱすげぇよ、このおじさん


「あ、あの!
少しだけでもいいので、貴方のお話を聞かせてもらえませんか!?」

「わっ!?へっ、いきなりなに?」


ヴァイパーの回復士ヒーラーの男の人がずいっと身を乗り出して興奮気味に言ってきた
え、この人と面識無いよな?


「ふむ、そういえば君は会議で話しかけてきた…零人のファンだったか」

「え!?」

「はい!貴方の武勇を噂で聞いた時からずっと気になっていたんです!
今日はお会いできて光栄です!」


まさかさっきキャラバンでルカが言っていた、俺の例の噂を知ってる奴って…この人!?
キラキラとした目を向けてくる回復士ヒーラーさん


「先ほどの闘い、素晴らしい立ち回りでした!
やっぱりレイトさんが巷で噂の『蒼の竜殺しドラゴンスレイヤー』なんですねっ!」

「ドラゴンスレイヤー!?
待って!俺そんなあだ名で呼ばれてるの!?」

「はい!あの恐ろしい竜達を、蒼い不思議な魔力マナでやっつける謎の剣士…
団長以外信じてくれませんでしたけどね」

「アハハハ!すごーい!
マミヤ君、とうとうあだ名まで付けられちゃったんだね!」


モネが半分バカにしたようにポンポンと頭を叩いた
この天パ…あとでみてろよ…!

そして回復士ヒーラーの彼はおっさんに魔法を掛けつつ、キョトンとした顔で見ていた
はあ、マジかよ…
ハルートのとはまた違う別の偽情報が拡がってるやん…


☆☆☆


それから彼に正しい情報を伝えたのだが、幻滅するどころかむしろさらに目を輝かせた

どうやら彼は戦闘が苦手で、回復魔法しか取り柄がなく、その影響から人の英雄譚や冒険譚を聞いたり、ヴァイパーの皆と任務に行くことが大好きらしい

な、なんだか可愛い奴に思えてきたな…


「む…ここは…」


あ、おっさん起きた
額を抑えながらブルブルと頭を振るわせる


「体調はどう?大丈夫?」


具合を聞くと、おっさんは俺を見るなりいきなり肩を掴んできた
え!なになに!?


「他の者は!?」

「え?フレイ達なら絶賛戦闘中だけど…」

「なに!?レイト…!
すぐに彼らを連れてここから退却するのだ。
さもなければ全員殺されるぞ…!」

「えぇ!?
でも、もう皆行っちまったし…
てかそろそろ俺らも参戦してくるよ」

「ダメだ!先ほど我輩は言ったはずだ…
奴は普通のドラゴンではないと」


おっさんは目を見開き、掴んだ手を強めた
なんだ…?
ここまで必死に食い下がってくるなんて…


「……?
それは奴が魔族であることではないのか?」

「違う…!
そもそも奴は『黒竜ブラック・ドラゴン』ではないのだ!」

「「「!!!」」」


な、なんだと!?
確かに俺が前に会った奴とは角の形状が少し違ったりはしてるけど…

でも、鱗の色合いはもちろん、すーぐ口開けて炎ぶっぱなしてくるとこなんか特に『黒竜ブラック・ドラゴン』に思える


「マミヤ君!ルカ君!
とっつぁんの言ってること…本当だよ!
いま、星の導きで教えてもらった!
あいつ、黒竜ブラック・ドラゴンに『擬態』してる!」

「なに!?」


いつの間にか水晶玉を出していたモネが血相を変え訴えてきた
こ、こいつまで言うってことはマジなのか?


「零人。この2人が嘘をつく理由は皆無だ。
ここは従おう。戦闘を止めに行くぞ!」

「わ、分かった!モネ…と回復士ヒーラー君!
オズのオヤジのこと頼んだぜ!」

「は、はい!」

「早く行って!」

ブン!

俺は先ほどの座標に転移テレポートをした


☆ナディア・ウォルトsides☆


「おらぁぁぁ!!」

「はぁぁぁ!!」

「ギャアウ!!ゴアアア!!!」


ヴァイパーの爪と私たち冒険者達は、『黒竜ブラック・ドラゴン』へ総攻撃を掛けていた
先ほどマミヤ殿が視界を奪ってくれたお陰で、こちらの位置を掴めずに地面を転がり回っている


「よし!牽制は充分だ!
遠距離の『職業ジョブ』は頭部を狙え!
近接組は足元を狙うんだ!
上に飛ばれる前に機動力を奪うぞ!」

「「おお!!」」


本作戦のリーダー、マルクス殿が団員と冒険者たちへ的確に指示を出している
フッ、伊達に傭兵を率いているようだ


「よし!セリーヌ殿、私たちも行くぞ!」

「ガッテンニャ!
あたしは上から動きを拘束してみるニャ!」

「承知した!『召喚《サモン》』!」

ボウッ!!

セリーヌ殿が近くの岩盤に登り出すのを見送り、内に宿した『炎獣イフリート』の力を身に纏った
そして、私の得物の大剣を構える

幸か不幸か、オットー町での闘いを経て、炎獣イフリートの理解が深まり更なる力を得た

この力は私を助けてくれた者の為に…
マミヤ殿の為に振るう!!


「ハン!
なによ、アンタちょっと見ない間に強くなってんじゃない!?
雷光射ライトニングショット』!」

バシュッ!!

弓を引き絞り雷を宿らせた矢は放たれると、一直線に飛んでいき、黒竜ブラック・ドラゴンの額へ命中した


「ガアアアアア!!!」


眉間に当たった矢から激しく雷が迸る
どうやら腕を上げたのは私だけではないようだ
ただの付与エンチャントした矢があれ程の威力をほこるとは…


「その言葉、そのまま貴公に返そう。
だが、接近戦では私が上だ!」


炎獣イフリート』の力を大剣に乗せ、他の近接戦闘を得意とする者たちと共に駆け出す


「人族の姉ちゃん!
アンタエラい魔法使ってんな!
まさかそいつは召喚魔法なのかい!?」

「ああ!そうだ!
それよりも喋っていると舌を噛むぞ!
炎獣イフリート』のことならばあとで教えてやる!
今は攻撃に集中するんだ!」

「おもしれえっ!
なら、コイツぶっ倒したら一杯やろうぜ!」


調子のいい冒険者の1人が黒竜ブラック・ドラゴンの足にめがけて剣を振り下ろした

ガキンッ!!

「チッ、硬ぇ!」

「もっと体重を乗せて攻撃しろ!
炎斬撃フレイム・スラッシュ』!」


灼熱の魔力《マナ》を纏わせた大剣を渾身の縦振りで攻撃する

ザシュッ!!

「ギャアアアア!!!」


熱を帯びた大剣は、肉が焼け焦げる匂いを生み出しながら硬い肌を切り裂いた
通常、ドラゴンの鱗は耐熱性に優れているが、どうやら私の熱には耐えられんようだな


「おお!?すげぇ!
効いてるみてぇだぞ!」

「みんな!彼女に続け!!
コイツを転ばせるぞ!」

「「「おおお!!」」」


マルクス殿が号令を掛けると各々の武器を振るい、足に刃を突き立て、徐々に肉を削ぎ落としていった


「グガウウウ…!!人間ドモガ!!」


…!?
この魔物も言語習得をしているのか!
しかもマミヤ殿が潰した視力も回復したようだ…

傷つけられた片脚を持ち上げ、攻撃していた者達を潰そうと降ろしてきた!


「みんな退避しろ!潰されるぞ!!」

「「了解!!」」

ドズン!!

足が地面にめり込んだ瞬間、局所的に地震が起きたような振動が全身を襲った

ぐう!地上戦とはいえやはりこちらが不利か!


「うああああ!!!」


……!!
あいつはさっきの冒険者!!
振動に耐えられなかったのか脚がすくんでいる
まずい…!あのままでは!


「キサマラハ全員生カシテ帰サン!!」


今度は前脚にあたる巨大な手を開き、へたりこんでいる冒険者へ打ち下ろした!
くっ!間に合わ…

ドガッ!!


「は…!?ヴァ、ヴァイパーの旦那!?」

「うおおお…っ!!い、今の内に早く!!」

「あ、ああ!」


間一髪、マルクス殿が両脚を踏ん張り、ドラゴンの一撃を全身で受け止めた!!
し、信じられん…!
人種が違うとはいえ、ただの人間がドラゴンと力比べをするなど…!


「ヒトノ身ノ分際デ…!
コノママ押シツブシテクレル!!」

「そうはいかないニャ」

「ムッ!?ナンダキサマハ!」

「…!セリーヌ殿!!」


なっ!ドラゴンの頭の上に登っている!?
いつの間に…


「これだけ周りに障害物が入り組んでいるならあたしの環境フィールドニャ!
レイト君と考えた新しい技、受けてみろニャ!
鉄線拘束ワイヤー・バインドばーじょんつー』!」

シュルルル!!

両手から伸びている鉄線を引っ張ると、『女蜘蛛アラクネ』の糸の如く、一瞬にして押しつぶそうとしていた腕ごと上半身に巻きついた!

敵に巻き付けるだけではなく、それに連なり周囲の岩盤にも同じように鉄線が張り巡らせている
なるほど、敵が簡単に拘束を解けないように…
先ほどから姿が見えなかったのはこのためか!


「ゴアアア!!コノ…ムゥ!?」

「我がヴァイパーの妙技、味わうがいい!
戦斧進撃アクス・ラッシュ』!」

ガガガガガガ!!!

マルクス殿は両手を解放させると同時に、怒涛の連撃を黒竜ブラック・ドラゴンの頭部へぶつけた
…2人ともなんという技だ…


「団長!!さすがですぜ!」

「おい!てめぇら!
おいしいとこあの二人に持ってかれちまうぞ!
俺らも行くぞ!」


よし…私も負けてはいられない!

再び武器を握って目の前の巨大なドラゴンへ向かう瞬間、異変は起きた


「オウウウウウウウウ!!!!」

「フニャア!?」

「なんだぁ!?」

「みんな!離れろ!様子が変だ!」


突然、雄叫び声をあげると、黒竜ブラック・ドラゴンの全身が紫の光に包まれた!

これは…まさかセリーヌ殿やオズベルク殿が使っている魔物の『人化魔法』か!?

しかし、今さら人に変わったところで状況は変わらんと思うが…
むしろ人型の方が仕留めやすい


「…?紫の光を放つドラゴン…
まさか…!ナディ…」

いつの間にかこちらへ来ていたフレイ殿が何かに気づいた
それと同時に馴染みのある独特の音が鳴り響く

ブン!

「ああ!クソ、遅かった!」

「マミヤ殿!?」

「レイト君!?」


こちらもまた突如、蒼の残滓を散らしながら、ルカ殿と合体をしているマミヤ殿が現れた
その視線は紫の光を放つドラゴンへと釘付けになっている


「レイト!ねえ、あれってもしかして…!」

「フレイ…おい、みんな!
今すぐこっから逃げろ!
こいつは『黒竜ブラック・ドラゴン』じゃねぇ!」

「なに!?」

「おいおい、ここまできてそりゃあねぇぜ!」

「てめーまさかビビったのか!?」


あまりにも唐突過ぎるマミヤ殿の発言にヴァイパーも冒険者も双方が反抗的な態度になった
たしかに、もうすぐ討伐できそうだが…


(…ディア。ナディア。聞コエルカ)

「!?」


頭の中に聞き覚えのある声が届いた
炎獣《イフリート》!?


(マミヤレイトノ言ウ通リニシロ。
アノ魔物ハ汝ラデハ敵ワンダロウ)

「な、何を!?」


しばらく口を聞いていないと思えば…!
私をみくびるか!


「レイトさん!後ろだ!下がれ!」

「な!?」


マルクス殿が叫ぶと、いつの間にか紫の光を纏ったドラゴンがその姿を現していた


「あ……ああ……!!」

「おい…なんだ、コイツは…!」

「見たことねぇぞこんな魔物!」


ドラゴンの体つきが以前とは違う…
翼はどこかへ消え、代わりに後脚が巨大化し、まるで『地竜グランド・ドラゴン』が二本足で立っているような形態だ


「なにこれ……恐竜?」

「違う。この魔物は…」

(ナディア。アノ魔物ハ…)

ルカ殿の声と炎獣イフリートの声が同時に被さった


「(『悪魔竜デビル・ジョー』)」




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄であなたの人生狂わせますわ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,767pt お気に入り:49

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85,952pt お気に入り:2,535

ヒヨクレンリ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:884

悪役令嬢の慟哭

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:188

【R18】【続編】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,465pt お気に入り:299

ちょっと復讐してきます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:33

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,646pt お気に入り:23,938

処理中です...