スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第149話:魔導エンジン

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「やっぱおめーもそー見えるか?コイツ」

「…うん。
 でも、カムとクランクに連動するプーリーが無い…。
 それに燃料送るための配管も見当たらない。
 あっ、てか吸排気管すら無えじゃねぇか…。
 これいったい機構どうなってんだ…?」


 壁の回転が止まったので、近くに寄って観察してみた。
 大きさは普通車のエンジンと大体同じ。
 金属的なツルリとした表面に、ベルトや各種配管類、電装システムが存在しないシンプル過ぎる形状…。
 まるでハイブリッド車のバッテリーをデカくしたみたい。

 所詮俺も車が好きとはいえ齧ってる程度で、バイト先の先輩方の知識には及ばないが、少なくともこんなエンジンは地球には無いはずだ。
 そう考えるとつまり…


「お前よくこんな物創れたな!?」

「は!? ち、ちげーよ!
 コイツは…あたいがガキん時からあったんだ。
 …ちっと長くなるがナシ聞いてくれるか?」


 子供のとき?
 俺が頷くとハルートは煙草を1本咥えながら、詳しく説明してくれた。


「『点火イグニ』。
 あたい達マキナはな、大昔から創作オーダーメイドが得意な一族なんだ。
 けど…、最近のマキナは顧客の要望をヘコヘコ聞いて、注文通りに設計された馬車の生産ばかり…。
 あたいはそれがどうも納得いかなかったんだ」

「………」


 その辺の話はザベっさんから軽く聞いている。
 ハルートに世代交代してから家が落ちぶれてしまったことも…。


「もちろんあたいは車が好きだ。
 だが、同じもんを何個も何個も創るなんざセンスに欠ける。
 あたいは…かつてのマキナのよーに、すげーもんを生み出したいんだ」

「何言ってんだ、ザベっさんと俺の武器創ってくれたじゃんか。
 あんな〝すげーもん〟見たことないよ」

「マミヤ…」


 決して世辞じゃない俺の正直な気持ちを伝えると、ハルートは少し照れくさそうにポリポリと頬を掻いた。


「へへ…サンキューな。
 けどな、もー1回言っとくがあたいは武具屋じゃねー。
 あれはこの〝機械〟を調過程で得られた副産物みたいなもんなんだ」


 調べた??
 俺が疑問を口にする前にハルートは説明を続ける。


「これはご先祖のマキナが遺したといわれているブツなんだが…、何の機械なのかそもそもどう使うのかもまるで分からねー。
 だからあたいは、ガキの頃からずっとコイツを研究してたんだ」

「…昔の人が遺したにしては随分テクノロジーが進み過ぎてないか?」


 俺が苦笑いで言うと彼女も同じ表情で応えた。


「ああ、その通りだ。
 あたいはコイツの正体を何か大きな物を動かすための〝動力ユニット〟だと睨んでいるんだ」

「そうするとやっぱりエンジンなのかな?」

「多分な」


 煙を吐きつつ、ハルートは機械に手を添えた。
 まるで愛玩動物のように撫でている。
 そして彼女は俺の眼を真っ直ぐ見つめると、何故か顔を少し赤らめた。


「じ、実はあたいには〝夢〟があってな…」

「ゆめ?」

「…わ、笑わないで聞いてほしいんだがよ…」


 彼女はピッと俺の後ろを指をさした。
 その矛先は…馬車…?


「コイツを…馬車に載っけて〝自走〟させてみてーんだ!」


………………………………………………………


「まさか…お前『自動車』を創りたいのか…?」


 おそるおそる聞くとハルートはコクンと頷いた。


「クルゥみてーな牽引魔物を使わない馬車…。
 そんなすげーもんまだ誰も創ってねーだろ?
 あたいがそれを創って、散々バカにしてきたマキナの親族どもを見返してやりてーんだ!」


 ……マジか。
 異世界で自動車だって…?
 もし実現すればハルートは地球で言うカール・ベンツになるのでは…?


「で、でもこの機械の正体まだ調べてんだろ?
 本当にそんなことできるのか?」

「いや、分からなかったのはガキん頃の話だ。
 コイツを〝起こす〟方法はもう分かってんだ」

「『起こす』?」


 ハルートは添えた手を離し、その場から少し後ろに下がった。
 俺もそれに倣い2,3歩バックする。


「『起動アウェイクン』」

ドゥルンッッ!!!

 ハルートが耳慣れない言葉を口にした瞬間、機械が〝声〟をあげた!

 ドッドッドッドッドッドッ…!!!

「マ、マジかよおい!!?」


 まるで脈打つ心臓の鼓動アイドリング…。
 力強い重低音を奏で始めたその機械は神々しい金色の光を宿らせる。
 まさかこれエネルギーなのか…?
 あまりにも衝撃的な光景に空いた口が塞がらない…。


「すげー魔力マナだろ?
 おめーの世界の〝車〟を教えてもらって、やっとコイツの名前が決まったよ。
 これからは『魔導エンジン』って呼ぶことにしたんだ」

「ま、魔導エンジン…」


 たしかにその名前がピッタリだ。
 しかし、このエネルギーはいったい…?
 なぜか初めて見る気がしないような…親近感が湧くような…とにかく変なエネルギーだ。


「そんでさっきの『単語』は幼い頃に死んだ曾じいちゃんから教わった言葉でな。
 じいちゃんはクソ生意気なあたいを可愛がってくれて…色々な物創りや言葉を教えてくれた」

「おじいさんはこの魔導エンジンの事、なにか知らなかったのか?」

「さーな。
 あたいがコイツの存在を知った時にゃ、じいちゃんはもう病気でおっんじまってたし…。
 今となっちゃ聞けずじまいさ」


 さっきの〝言葉〟をハルートに教えたっていうなら、何かしら知ってるはずだけど…。
 既に故人なら仕方ないか…。


「『停止フィニス』」

 ヒュウウンン……

 ハルートが再び耳慣れぬ単語を呟くと、魔導エンジンのアイドリングが止まった。
 と、とんでもない物を見せられちまった…。
 この剣と魔法が溢れる異世界にエンジン…、明らかにオーパーツですやん!

 しばらく放心していると、ハルートが煙草を片付けて俺の両肩を掴んできた。


「マミヤ…おめーに頼みがある」

「え…?」

「時間があるときでいい…。
 魔導エンジンで自動車を創る作業、おめーも手伝ってくれねーか!?」

「はあ!!?」


 なっ、何言ってんだ!?
 俺なんかがそんなこと出来るわけないだろ!?


「ムリムリムリ!!!
 エンジンぶち込む作業なんてした事ないよ!
 …仮にこのエンジンを馬車に載っけられたとしても、あの程度の強度じゃフレームがぜってぇ歪む。
 いや、そもそも車体を動かすにしても足りない機械が多過ぎる!
 変速機トランスミッション差動装置デファレンシャルも無いんだぞ!?
 いったいどうやってパワーを車輪に伝えるつもりなんだ?」


 俺がまくし立てるように言うと、ハルートは肩から手を放して、再び魔導エンジンに手を添えた。


「コイツの魔力マナはどうやら無機物をコントロールする力が秘められてるみてーなんだ。
 だからどーにかあたいが創作オーダーメイドでそいつを制御する魔道具アーティファクトを開発できれば、きっと車体を動かせるはずだ」
 
「開発って…じゃあお前は俺に何をさせたいんだ?
 とてもじゃないけど俺にそんな技術無いよ?」


 もし本当にあのエネルギーにそんな効果があるならハルートのプランは妥当だ。
 けど、それに関しては俺が手伝えることなんてないと思うけど…。


「んなことは分かってる。
 けど、おめーは異世界とはいえモノホンの自動車を見たことも触ったこともあんだろ?
 あたいにはその経験と知識が無い…。
 だからおめーが知っている範囲でかまわねー。
 あたいに自動車の仕組みを教えてほしい」
 
「う、うーん…」


 どっちかつったら、俺は車を弄るよりも走らせる方が好きだったしな…。
 どこまで俺の知識が役立つか…。


「もちろんタダとは言わねー。
 引き受けてくれたら、おめーの『仕込み鎧手ヒドゥントレット』のメンテ代をチャラにして、あと…フレデリカだったか?
 あのデカエルフの武器も創ってやるぜ」

「えっ! マジで!?」

「マキナに二言はねー」


 むう、そう来たか…!
 ザベっさんの武器のメンテ代からして、かなり高額のはずだ。
 金が掛からないのはもちろん助かる。
 しかもフレイの武器も創ってくれるってなら、ウチのパーティー戦力も向上するし…。

 
「……よし、分かった。
 ただ、俺達は『紅の魔王』を追ってることは知ってるよな?
 基本的にそっちを優先してもいいってなら、喜んで手伝うよ」


 そう言って右手を差し出すと、ハルートの表情がパァァと明るくなった。
 …う、ちょっとドキドキする。


「…! そーか! ああ、もちろんだぜ!
 よろしくなマミヤ!」

「ま、どうせやるんだったら、かっちょいい車創ってやるか!」

「おーともよっ!」


 俺とハルートは固い握手を交わして、『契約』を結んだ。
 異世界の魔導エンジンで車造りか…。
 上手くいくかは分からないけど、ハルートの熱い想いに当てられたせいか、俺もマキナ印の〝自動車〟を見てみたくなってしまった。









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