スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第539話:霊魂の器

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 ☆間宮 零人sides☆


「この部屋よ!」

「レイト様! それに兄様も…」

「来たな、若者ども~。待ってたぜぃ」

「なっ…イゴール!? まさかお前まで…!」


 ここが、水晶玉を依頼したシュガーさんの家か…。

 演説で集まった連中への詳しい事情説明をイザークに任せ、俺たちはエドウィンと共にシュガー夫妻が襲われたという現場へ駆けつけた。

 リビングと思われるその部屋には、若い男女が二人、血を流して床に寝かせられている。
 彼女たちの応急処置を、残ったザベっさんとユニファが行なっていたようだ。


「あな…たは、マミ……? お願い…娘を…」

「こんにちは、奥さん。まずは治療が最優先だ。
 カーティス、持ってきた回復薬ポーションを準備しろ。
 モネ、お前は魔法でその補助を頼む」

「うん!」

「よしきた、任せて!」


 ☆☆☆


「うう…、ここは…?」

「おお、気が付いたかイゴール!
 まったく、ずいぶんと心配させてくれる…」

「イゴール…! ありがとう、皆さん」

「どういたしまして。いやー、念のためお薬持ってきておいて良かったねマミヤくん」

「だな。あとでシルヴィアに礼を言っとこう」


 それから手早く彼らの治療を行い、なんとか蘇生させることに成功した。

 オットー町で別れたシルヴィア…。
 万が一俺が試合でひでぇ怪我しちまった時に備えて、彼女が調合したお手製のポーションをキャラバンに積んでおいてくれていたのだ。

 用途は少し違ったが、役に立って良かった。


「…ハッ!? そ、そうだ! ヴェロニカ!
 あ、あの子を早く助けに…!」


 意識を取り戻したシュガー夫が立ち上がろうと急に足を踏ん張った。
 しかしそれは叶わず、近くにいるエドウィンへ倒れ込んでしまう。


「落ち着け旦那さん。事情はある程度、奥さんから聞いたよ」

「アンタは…!? マミヤの…」

「ここからは俺たちに任せろイゴール。
 戦士長の名にかけて、お前たちの娘は必ず助け出してみせる」

「エドウィン…」


 初めて一緒に闘った時のように、毅然とした眼差しで、旦那さんと約束するエドウィン。
 この二人は所属こそ違うが、気の置けない友同士だと、ザベっさんからさっき聞いた。

 ま、今はそんなことより、あのクソどもだ。


「まさか、作りかけの水晶玉が奴らに奪われたとはな…」

「ええ…しかも新しい『霊魂』が欲しいってためだけに、無関係の二人も…!」


 事件が起きたのは今から数時間ほど前。

 俺が依頼した例の新しい水晶玉を、奥さんのナターシャさんが夜通しで創っていてくれたという深夜帯。

 みんなが完全に寝静まっている深夜に、家の中から急に変な物音が聞こえてきたそうだ。

 不審に思い、ナターシャさんは作業の手を一旦ストップし、聴こえてきた物音を確認しようと、赤ん坊のヴェロニカちゃんが寝ていたこの部屋までやって来た。

 そこには、赤いほむらを浮かせたグスタフが立っていたと…。


「彼…グスタフはいつも乱暴者だったんだけど、どこかいつもと様子が違ったのよ…。
 まるで感情を失ったような、人形みたいな顔でそこに居て…!」

「安心してください、ナターシャ姉様。
 これ以上、あなた達に危害が及ばないよう全力でお守りいたします」

「お、俺たちより、あの子だ! ヴェロニカを…。
 こんなことになるなら、無理やりにでも寝室で寝かしつけておくべきだった…」

「いえ、それを言うなら私だって…!
 あの子をほっといたまま別室で仕事してたから…」

「おうおう、二人ともよしなって~。
 子育て反省するのはあとにしなぁ」


 ユニファが優しくフォローをするが、ナターシャさんもイゴールさんも激しく歯ぎしりをして…後悔の念を込めた拳を握っている。

 なんでもヴェロニカちゃんは、広いリビングじゃないと寝つけられないらしく、一日おきに奥さんと旦那さんで交代しながらこの部屋で寝ていたらしい。


「それにしたってひどいわよ!
 寝ている赤ちゃんに乱暴するなんて!」


 フレイが怒りを余すことなく露わにしている。

 突如家の中に現れたグスタフは、何を思ったか子育て籠で寝ていたヴェロニカちゃんをいきなりその手で掴み上げたらしい。

 何故そんなことをするのか、やめるよう訴えた彼女に返ってきた言葉はただ一つ。

『新たな霊魂の器が必要だ』

 ユニファ曰く、奴は『妖魂アニマ』を完成させるべく、俺が破壊した水晶玉の代わりを求めて、シュガー家を訪れたのかもしれないとのこと。

 当たり前だが、そんなもん母親なら到底容認できない。
 我が子を取り戻そうと、グスタフに挑んだナターシャさんだったが、あっけなく返り討ちに遭ってしまう…。

 ミアと旦那のイゴールさんは、そんな彼女たちの乱闘で目覚め、同じくこの部屋へ駆けつけるも、二人もグスタフに叩きのめされてしまった。

 ちなみに、不幸中の幸いというわけではないが、ミアのお袋さんはその日たまたま友人の家に厄介になっていたため、彼女だけ無事だったようだ。


「女子供相手に平気で手を上げるなんざ、人としてマジで有り得ねえ…」

「レイト殿。俺は奴をよく知ってるが、普段のあいつなら、いくらなんでもそこまではしない。
 おそらく、先ほども見た『妖魂アニマ』とやらの影響かもしれん」


 同じ所属だけあってか、さりげなくグスタフを庇うエドウィン。
 まさか、奴もアナタシアに操られているとでも言うつもりか?

 だとしても、村を支配しようとする族員の策略に自分から乗っかってんだから立派な共犯。
 洗脳、強盗、致傷…トリプル役満でブタ箱行き確定だ。

 そんなクズに掛ける情けなどない。


「グスタフはそのままヴェロニカちゃんとミアを攫って、どこかに消えたのね?」

「ええ…そうよ。みんな、お願い…!
 どうか娘とミアを助けてちょうだい!」

「それはもちろんだけど、肝心の行き先は…」

「さっき、別の部屋できかん坊の滅霊シャードの痕跡を見つけたぜぃ。
 その部屋の壁にぽっかり穴が空いててさぁ。
 方角的に、きかん坊が居るのはあたしのお社アジトだと思うぜぃ」


 無慈悲にも一家を襲ったグスタフはその後、別室にあった作りかけの水晶玉まで奪い、二人を抱えたまま壁をぶち抜いて逃亡した…。

 それが、今回の一連の流れだ。








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