婿入り志願の王子さま

真山マロウ

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はじまりはじまり

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 数分後、ロラン王子の前には純白のローブをまとった少年の姿がありました。
「魔術師のコルトと申します」
 片膝をつき、さげていたこうべを戻します。きりりとした太眉とまっすぐな瞳がきまじめな印象。信頼するアルマンの紹介ということもあり、ロラン王子はいっぺんで心を許します。
「いいって、そういうの。かたくるしいの苦手だから楽にしちゃってよ」
「ですが……」
「ほんと全然。アルマンなんて、さっき俺のこと普通に痛めつけたくらいだし」
 笑いとばし、ロラン王子が椅子をすすめます。王族から対等に扱われたことのないコルトはかたくなに拒みますが、この人に遠慮は無用というアルマンの後押しでようよう着席しました。
 コルトにも同柄のカップがおかれ、お茶がそそがれます。リラックス効果のある柑橘の香りが漂っても、緊張しきりの彼にはあまり効き目がありません。
「コルト、年いくつ?」
「じゅ、十七になります」
「へえ、若いね。アルマンより年下じゃん」
「そ、そうですね、三つほど」
「旅の途中なんだっけ?」
「あ……はい、そうです」
 気さくに話しかけるロラン王子ですが、コルトはどぎまぎしどおしです。
「いつアルマンと知りあいになったのさ」
「三か月ほど前です。手持ちが心許なくなって城下で便利屋まがいのことをしていたら、噂をお聞きになったアルマンさんが声をかけてくださいまして……」
「そんな前から? 俺、知らなかったんだけど」
 ロラン王子が不服げに隣を睥睨。
「なんで紹介してくんなかったのさ、アルマン」
「そのころ殿下は花屋の娘さんに夢中でいらしたでしょう」
「それはそれ、これはこれでしょ」
「だったらなおさら。私は私、殿下は殿下ということで」
「つれない!」
 言葉づかいは敬意をはらっているていでも、身分の差を感じさせないどころか逆転しているのではと思われる二人に、コルトが相好を崩します。それを見てとったロラン王子が話を核心へ。
「で、ニリオン国までどのくらいかかりそうかな」
 人懐っこいほほえみもあり、コルトのこわばりはしだいに緩和。ぎこちなかった唇も上手に動くようになります。
「私の魔力ですと、恥ずかしながら途中に休息をいただきたいので数日は必要かと」
「そんなにすぐ着いちゃうの!」
 まん丸に目をむき、ロラン王子が身を乗りだします。
「もしかしてコルトって偉い魔術師?」
「とんでもない! 私はまだ未熟者です。上級の使い手なら、もっと短期間で移動できます」
「でも数日でいけちゃうんでしょ。すっごいじゃーん!」
 諸手をあげて称賛したロラン王子が、そのままウーンと伸びをします。
「そんなんだったら、もう馬車いらないじゃん。てか、なんで今までうちの城、魔術師いなかったのって話じゃん。いくら希少な存在でも、王家なんだから一人や二人いてもよくない?」
「いますよ。国王陛下にも王太子殿下にも、それぞれ専属が」
「なっ……なにそれ初耳なんだけど!」
 ロラン王子が魔術師を抱えようものなら必ずろくなことにならないだろう、という国王判断のもと知らされていなかったのですが、それを正直に告げるわけにいかないアルマンは、もっとも効果的な回答を瞬時に弾きだします。
「殿下には私がいるでしょう」
「え、ちょ、いや……そ、そうだけど、やめてよ、そんな急に言うのとか」
 照れくさそうに頬をそめたロラン王子。アルマンのもくろみどおり、すっかり気をとりなおし元気よくテーブルを打ちます。
「よし、そうと決まれば準備しないと! あ、父上とかに話つけるのよろしくね、アルマン」
「承知いたしました」
 誰の目にもあきらか手のひらで転がされるロラン王子に、コルトが袖のかげでアルマンにささやきます。
「無礼を承知で申し上げるんですが、もしかして殿下って少し……」
「うん、あまり賢いほうじゃないよね」
「い、いいんですか、そんなこと言って」
「悪いと思う?」
 つと視線をあげたコルトの瞳に映るのは嬉々とするロラン王子。「待っててミヤ姫、すぐ会いにいくからね!」と、いっさん城へ戻るさまは無邪気そのものです。
「……あまり問題ないように思います」
「じゃあ、それでいいんじゃないかな」
 小さくなっていく背中が完全に見えなくなったころ、先ほどまでロラン王子のいた場所にアルマンが着席しました。
「ともかく助かるよ。コルトの協力がないと、かなり困難な計画になるとこだったから」
「いえ、私はそんな……」
 自分用のカップにお茶をそそぐアルマンに対し、コルトが自然と俯きます。
「本当に大丈夫なんですか、こんなことして」
「心配ないよ。今のところすべて順調に進んでる」
「でも……」
「それに俺たちには味方もいる。とびきり心強いのがね」
 不敵な笑みを見せられたコルトは、それ以上なにも言えなくなってしまいます。
「一息ついたら俺たちも準備しよう。すぐには帰ってこれそうもないから、そのつもりで」
 そう言ってカップに口をつけるアルマン。濃灰色の癖毛がふわりと風に揺れます。
「……そうですね」
 ならい、コルトもカップをとります。琥珀色の水面みなもに映りこむのは、どうにも不安げな面持ちでありました。
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