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東の果ての
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痛む肘をなでつつ、腹の虫のおさまらないロラン王子が、さかのぼって不満を口にします。
「それにしたって、こんな地味な格好じゃなくても。王子ってのを全面にだしたほうが、ミヤ姫も食いつきいいんじゃないの」
外遊の名目で出てきたのだから相応の格式で旅をしたい、というのが当初のロラン王子の主張でした。
ところが、アルマンはそれに反対。言葉たくみに説得し『小金持ちのせがれの物見遊山』という設定のお忍び旅行にさせたのでした。
そのためアルマンたちは出発以来、主人に対しいくらか砕けた口調で接するようにしており、それは身分の垣根をこえて仲良くありたいと思っているロラン王子には大歓迎なことだったのですが、もとが派手好みなため、シンプルないでたちや荷物が最小限なのはどうにも納得しかねていたのです。
身分を隠す第一の狙いは当然ながら身の安全です。しかし、それをありのまま伝えたところで危機管理能力の欠如したロラン王子には馬耳東風なので、アルマンはここでも覿面に刺さる言葉を心がけます。
「地位を利用して気をひくなんて、くそダサイですよ」
あえて強めの言いまわしをしたあと、味方に「ね」と同意を求めます。巻きこまれないようにしていたコルトでしたが、逃げられないと観念し遠慮がちに首を縦にふります。
「そ、そうですね。あまり好ましくないかもしれません」
「えーっ、そうなの?」
そしてアルマンの、とどめの一撃。
「そもそも、相手の身分に左右される姫君なんてロラン様にふさわしくありません。駆け落ちする可能性だってあるんですから、愛する者のためには貧しさもいとわない方でないと」
「たしかに! アルマン、そこまで俺のこと考えてくれてたんだねっ」
頬に感激をのせたロラン王子が、勢いよく拳をつきあげます。
「よぉし、平民としてミヤ姫に近づく作戦に変更だ!」
言うなり、今までのもたつきを挽回せんばかりに先を急ぎだしました。あとを追い追い、こちらに意識がむいていないのを幸いと、コルトがアルマンに耳打ちします。
「ずっと思ってたんですけど、ロラン様って……」
「うん、チョロくて助かるよ」
と、一足先に森をぬけたロラン王子がふり返り、二人の会話を中断。
「町が見えた! アルマン待望の俯瞰だよ、俯瞰!」
喜び勇んで覚えたての言葉をくり返すさまは、とても年相応とは思えません。応答するかわりにアルマンが「ただ、もう少し知性を身につけてもらう必要はあるかな」と独語しました。
握られた右手が視界のはしに入ったコルトは「あ、力ずくでわからせるんだな」と密かに心づもりをしたのでした。
「とりあえず、今日の宿を確保しないとね」
全体を見渡しおえた一行はロラン王子を先頭に下山、城下町に入ります。
「それもありますが、まずは詳しい地図を買いませんか。大まかなのしか手元にないので」
提案するアルマンの視線が自然、目をひくランドマークにとまります。この城郭都市は道が直交し碁盤の目にくぎられているのが特徴で、市街地の奥の小高い丘に王城が鎮座していました。
雪白の壁と漆黒の屋根のコントラストが、ぬけるような碧空を背景にくっきりと浮かびあがります。ロラン王子の居城であるステラシオン宮殿がとんがり頭のノッポなら、こちらは翼を広げた鳥のような横っぴろいつくりです。
「じゃあ、お昼食べるお店探しがてらにしようよ。お腹すいちゃった」
まだ右も左も把握していないのにずんずん進んでいくロラン王子に、アルマンが諌言。
「どうせなら中心をめざしましょう。一番栄えていますし」
「んもう、アルマンは素人だなぁ。こういうのは裏通りほどいいお店があったりするものなんだよ。日頃のお忍びで鍛えた俺の嗅覚、甘くみないでよね」
「調子にのって迷子になっても、俺は知りませんよ」
「心配ないって。たとえそうなったとしても、俺とミヤ姫の運命の糸がいい感じに導いてくれるから平気平気ぃ!」
意気揚々、ロラン王子が中心地区からそれていきます。
何度も道をおれるにつれ町なみは入りくみ、建物も古めかしいものが増えてきました。
真上から燦々と陽がさすため窮屈さや湿っぽさを感じさせず、ロラン王子も怖気づくことなく、奥深く入りこんでいきます。
が、順調だったその足が突如、ぴたりと停止しました。
「なにここ……」
細道をぬけてぶつかった往来は、ひらけているにもかかわらず一種異様な気配に包まれていました。
両側に並び連なる二階建てのうちに人の気配はありますが、あたりはまったくの無人。禽獣の影すらありません。
耳朶にふれるのは白昼にあたためられた風の音だけ。空間全体が息をひそめ、まるでなにかを待ちかまえている不気味な夢の腹に誘いこまれたような心地です。
「それにしたって、こんな地味な格好じゃなくても。王子ってのを全面にだしたほうが、ミヤ姫も食いつきいいんじゃないの」
外遊の名目で出てきたのだから相応の格式で旅をしたい、というのが当初のロラン王子の主張でした。
ところが、アルマンはそれに反対。言葉たくみに説得し『小金持ちのせがれの物見遊山』という設定のお忍び旅行にさせたのでした。
そのためアルマンたちは出発以来、主人に対しいくらか砕けた口調で接するようにしており、それは身分の垣根をこえて仲良くありたいと思っているロラン王子には大歓迎なことだったのですが、もとが派手好みなため、シンプルないでたちや荷物が最小限なのはどうにも納得しかねていたのです。
身分を隠す第一の狙いは当然ながら身の安全です。しかし、それをありのまま伝えたところで危機管理能力の欠如したロラン王子には馬耳東風なので、アルマンはここでも覿面に刺さる言葉を心がけます。
「地位を利用して気をひくなんて、くそダサイですよ」
あえて強めの言いまわしをしたあと、味方に「ね」と同意を求めます。巻きこまれないようにしていたコルトでしたが、逃げられないと観念し遠慮がちに首を縦にふります。
「そ、そうですね。あまり好ましくないかもしれません」
「えーっ、そうなの?」
そしてアルマンの、とどめの一撃。
「そもそも、相手の身分に左右される姫君なんてロラン様にふさわしくありません。駆け落ちする可能性だってあるんですから、愛する者のためには貧しさもいとわない方でないと」
「たしかに! アルマン、そこまで俺のこと考えてくれてたんだねっ」
頬に感激をのせたロラン王子が、勢いよく拳をつきあげます。
「よぉし、平民としてミヤ姫に近づく作戦に変更だ!」
言うなり、今までのもたつきを挽回せんばかりに先を急ぎだしました。あとを追い追い、こちらに意識がむいていないのを幸いと、コルトがアルマンに耳打ちします。
「ずっと思ってたんですけど、ロラン様って……」
「うん、チョロくて助かるよ」
と、一足先に森をぬけたロラン王子がふり返り、二人の会話を中断。
「町が見えた! アルマン待望の俯瞰だよ、俯瞰!」
喜び勇んで覚えたての言葉をくり返すさまは、とても年相応とは思えません。応答するかわりにアルマンが「ただ、もう少し知性を身につけてもらう必要はあるかな」と独語しました。
握られた右手が視界のはしに入ったコルトは「あ、力ずくでわからせるんだな」と密かに心づもりをしたのでした。
「とりあえず、今日の宿を確保しないとね」
全体を見渡しおえた一行はロラン王子を先頭に下山、城下町に入ります。
「それもありますが、まずは詳しい地図を買いませんか。大まかなのしか手元にないので」
提案するアルマンの視線が自然、目をひくランドマークにとまります。この城郭都市は道が直交し碁盤の目にくぎられているのが特徴で、市街地の奥の小高い丘に王城が鎮座していました。
雪白の壁と漆黒の屋根のコントラストが、ぬけるような碧空を背景にくっきりと浮かびあがります。ロラン王子の居城であるステラシオン宮殿がとんがり頭のノッポなら、こちらは翼を広げた鳥のような横っぴろいつくりです。
「じゃあ、お昼食べるお店探しがてらにしようよ。お腹すいちゃった」
まだ右も左も把握していないのにずんずん進んでいくロラン王子に、アルマンが諌言。
「どうせなら中心をめざしましょう。一番栄えていますし」
「んもう、アルマンは素人だなぁ。こういうのは裏通りほどいいお店があったりするものなんだよ。日頃のお忍びで鍛えた俺の嗅覚、甘くみないでよね」
「調子にのって迷子になっても、俺は知りませんよ」
「心配ないって。たとえそうなったとしても、俺とミヤ姫の運命の糸がいい感じに導いてくれるから平気平気ぃ!」
意気揚々、ロラン王子が中心地区からそれていきます。
何度も道をおれるにつれ町なみは入りくみ、建物も古めかしいものが増えてきました。
真上から燦々と陽がさすため窮屈さや湿っぽさを感じさせず、ロラン王子も怖気づくことなく、奥深く入りこんでいきます。
が、順調だったその足が突如、ぴたりと停止しました。
「なにここ……」
細道をぬけてぶつかった往来は、ひらけているにもかかわらず一種異様な気配に包まれていました。
両側に並び連なる二階建てのうちに人の気配はありますが、あたりはまったくの無人。禽獣の影すらありません。
耳朶にふれるのは白昼にあたためられた風の音だけ。空間全体が息をひそめ、まるでなにかを待ちかまえている不気味な夢の腹に誘いこまれたような心地です。
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