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お仕事生活
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「どうしてお前らが」
聞きおぼえのある声に、ロラン王子の目線がチトセ女王から離れます。双方間で体をひねり、こちらを向いたのはライゴでした。
「お知りあいですか」
チトセ女王がたずねます。ミヤ姫よりもピンと張りのある言葉つきで、そういうところも兄を彷彿とさせ、ロラン王子の苦手意識を刺激します。
「私の実家で使用人をしている者たちです」
うやうやしく述べたライゴが横に退き、座っていた場所をハクレンに譲ります。彼女のほうが位が高いためです。
「現場にいたよ。一緒に来たいと言うから連れてきたよ。チトセ様と話がしたいってよ」
「では、報告を聞いたのちに。それでライゴさん、彼はなんと言っていますか」
「黙秘しており、動機は不明です」
「犯人なのは間違いありませんか」
「はい、あれが証拠です」
ロラン王子の持つ枝を見やったライゴに、チトセ女王が深く頷きます。
「わかりました。その少年は処罰することにしましょう」
決着をつけたチトセ女王が一同に目を移します。さっきまで顔をそむけていたロラン王子が、まっすぐに彼女を見すえていました。
「今の、ミヤ姫の桜を折った子の話だよね。なんでもう処罰することにしたのさ。理由を聞いてから決めてもいいんじゃないの。それで罪の重さが変わるかもしれないんだし」
挨拶も自己紹介もすっとばし、無遠慮な発言。アルマンたち以外はロラン王子の素性を知らないのですから(知っていたとしても礼を欠くことに違いありませんが)ありえないふるまいです。
しかし、チトセ女王は怒ることも動じることもなく冷静に対話します。そういうところも兄みたいで、ロラン王子の腸はふつふつと煮えていきます。
「いいえ、変わりません。その者が桜を折ったことに変わりがないように」
「でも、あの子がいないあいだ、誰がおばあちゃんのお世話するのさ。一人で生活していけないよ」
これにより少年が祖母と二人暮らしであると知ったチトセ女王は、彼が罪を償いおえるまで老婆を預かる場所を探すよう従者に指示をだしました。が、ロラン王子のいらだちは増すばかり。
「そうじゃないでしょ!」
「なにか問題でも」
「まずはあの子の話を聞いてよ。そうすれば処罰だとか大げさなことしなくても……」
「いかなる理由があろうと、罰を軽くするつもりはありません」
「なにこの人、全然融通きかないっ!」
ことごとく兄そっくりなチトセ女王に、つい声を荒げてしまった次の瞬間、
「いいかげんにしろ。無礼だぞ」
低く響いたライゴの声。気づけばロラン王子の喉元には、抜き身の刃先がそえ当てられていました。
ですが、そんな事態におののきもせず、ロラン王子は毅然と反論。
「いきなり刃物を突きつけてくるのも無礼でしょ」
「だったらお互いさまだ」
視線をおとすライゴ。脇腹には光る刃があてがわれていました。ライゴが動くと同時、ロラン王子の隣にいたアルマンがすばやく短剣を抜いたのです。
「ライゴさん」
「アルマンも」
各自、主人の声で刃をおさめます。
息がつまるような緊迫感。ハクレンは退屈そうにあくびをしていますが、コルトやほかの従者たちは気が気じゃありません。
「優秀な君主だって聞いてたけど、こんなに薄情だとは思わなかった。がっかりだよ!」
桜の枝をおき、ロラン王子が立ちあがります。
アルマンが会釈するなか、コルトの魔術で三人がその場から消えました。
チトセ女王がライゴへ向きなおします。
「彼らはチヨさんのところで使用人をしているのでしたね」
「はい、もとはあいつの知人です」
「名は?」
「無礼者がロラン、しかめっ面がアルマン、魔術師がコルトです」
「……あの方たちから目を離さぬようお願いします。なにかあれば随時報告を」
「承知しました」
頭をたれるライゴ。チトセ女王の唇は人知れず、かすかに弧を描いておりました。
「ほんと腹たつ。なにあの暴君!」
心身の疲労により食べるより眠りたいというコルト以外、食卓を囲みます。夕食時になってもロラン王子の怒りはさめやりません。
「もういいじゃないですか。そんなふうだと怖がらせてしまいますよ」
「あ、うそうそ。いっこも怒ってないからね。モモちゃんのごはん美味しいでしょ。遠慮せず食べてね」
アルマンに言われ、ロラン王子はすぐさま機嫌をとりつくろいます。隣では、あの老婆がモモの世話で食事をとっていました。
ロラン王子の強い意向で、彼女はみくも屋に連れてこられました。あんな女王に任せるわけにはいかない、とチヨに頼んで少年が戻るまで預かることにしたのです。
「で、なんできみも一緒に食べてんのさ」
とはいえ、むかいでモリモリ食すライゴには睨みをきかせます。
「俺の家だって言ったろ」
「知ってるけど、よく来れたよね。俺にあんなことしといて」
「お前もな。チトセ様の悪口、俺の前でよく言えるな」
「悪口じゃないですう、事実ですう」
「けどまぁ、このタイミングですから。なにかしら用事があっていらしたんでしょう」
アルマンの指摘にライゴはうろたえるでもなく、茶をすすりがてら答えます。
「お前らから目を離すなと勅命をうけた」
「は? そういうのってコソコソやるもんじゃないの」
理解できないといった表情のロラン王子にかまわず、ライゴが続けます。
「性にあわん。それと、とっ捕まえた小僧は明日処罰することになった」
「ちゃんと理由きいた?」
「いや、まだ黙秘中だ」
「はあ? そんなんで……!」
語気を強めようとしたロラン王子の意識を、アルマンが見事にそらします。
「ほら、怒らない。おばあさんが怯えますよ」
「っとゴメンね、おばあちゃん。怖くないからね。あ、デザートきたよ。美味しそうだね」
それを機に、会話はライゴとアルマンへ。
「随分と肩入れしているみたいだが、あの小僧とは知りあいなのか」
「いえ、まったく」
「だったらなぜ」
「さあ。ロラン様だからじゃないですか」
モモと二人で老婆を世話するロラン王子を、アルマンが眺めます。
その無表情な横顔を、ライゴは探るように見つめるのでした。
聞きおぼえのある声に、ロラン王子の目線がチトセ女王から離れます。双方間で体をひねり、こちらを向いたのはライゴでした。
「お知りあいですか」
チトセ女王がたずねます。ミヤ姫よりもピンと張りのある言葉つきで、そういうところも兄を彷彿とさせ、ロラン王子の苦手意識を刺激します。
「私の実家で使用人をしている者たちです」
うやうやしく述べたライゴが横に退き、座っていた場所をハクレンに譲ります。彼女のほうが位が高いためです。
「現場にいたよ。一緒に来たいと言うから連れてきたよ。チトセ様と話がしたいってよ」
「では、報告を聞いたのちに。それでライゴさん、彼はなんと言っていますか」
「黙秘しており、動機は不明です」
「犯人なのは間違いありませんか」
「はい、あれが証拠です」
ロラン王子の持つ枝を見やったライゴに、チトセ女王が深く頷きます。
「わかりました。その少年は処罰することにしましょう」
決着をつけたチトセ女王が一同に目を移します。さっきまで顔をそむけていたロラン王子が、まっすぐに彼女を見すえていました。
「今の、ミヤ姫の桜を折った子の話だよね。なんでもう処罰することにしたのさ。理由を聞いてから決めてもいいんじゃないの。それで罪の重さが変わるかもしれないんだし」
挨拶も自己紹介もすっとばし、無遠慮な発言。アルマンたち以外はロラン王子の素性を知らないのですから(知っていたとしても礼を欠くことに違いありませんが)ありえないふるまいです。
しかし、チトセ女王は怒ることも動じることもなく冷静に対話します。そういうところも兄みたいで、ロラン王子の腸はふつふつと煮えていきます。
「いいえ、変わりません。その者が桜を折ったことに変わりがないように」
「でも、あの子がいないあいだ、誰がおばあちゃんのお世話するのさ。一人で生活していけないよ」
これにより少年が祖母と二人暮らしであると知ったチトセ女王は、彼が罪を償いおえるまで老婆を預かる場所を探すよう従者に指示をだしました。が、ロラン王子のいらだちは増すばかり。
「そうじゃないでしょ!」
「なにか問題でも」
「まずはあの子の話を聞いてよ。そうすれば処罰だとか大げさなことしなくても……」
「いかなる理由があろうと、罰を軽くするつもりはありません」
「なにこの人、全然融通きかないっ!」
ことごとく兄そっくりなチトセ女王に、つい声を荒げてしまった次の瞬間、
「いいかげんにしろ。無礼だぞ」
低く響いたライゴの声。気づけばロラン王子の喉元には、抜き身の刃先がそえ当てられていました。
ですが、そんな事態におののきもせず、ロラン王子は毅然と反論。
「いきなり刃物を突きつけてくるのも無礼でしょ」
「だったらお互いさまだ」
視線をおとすライゴ。脇腹には光る刃があてがわれていました。ライゴが動くと同時、ロラン王子の隣にいたアルマンがすばやく短剣を抜いたのです。
「ライゴさん」
「アルマンも」
各自、主人の声で刃をおさめます。
息がつまるような緊迫感。ハクレンは退屈そうにあくびをしていますが、コルトやほかの従者たちは気が気じゃありません。
「優秀な君主だって聞いてたけど、こんなに薄情だとは思わなかった。がっかりだよ!」
桜の枝をおき、ロラン王子が立ちあがります。
アルマンが会釈するなか、コルトの魔術で三人がその場から消えました。
チトセ女王がライゴへ向きなおします。
「彼らはチヨさんのところで使用人をしているのでしたね」
「はい、もとはあいつの知人です」
「名は?」
「無礼者がロラン、しかめっ面がアルマン、魔術師がコルトです」
「……あの方たちから目を離さぬようお願いします。なにかあれば随時報告を」
「承知しました」
頭をたれるライゴ。チトセ女王の唇は人知れず、かすかに弧を描いておりました。
「ほんと腹たつ。なにあの暴君!」
心身の疲労により食べるより眠りたいというコルト以外、食卓を囲みます。夕食時になってもロラン王子の怒りはさめやりません。
「もういいじゃないですか。そんなふうだと怖がらせてしまいますよ」
「あ、うそうそ。いっこも怒ってないからね。モモちゃんのごはん美味しいでしょ。遠慮せず食べてね」
アルマンに言われ、ロラン王子はすぐさま機嫌をとりつくろいます。隣では、あの老婆がモモの世話で食事をとっていました。
ロラン王子の強い意向で、彼女はみくも屋に連れてこられました。あんな女王に任せるわけにはいかない、とチヨに頼んで少年が戻るまで預かることにしたのです。
「で、なんできみも一緒に食べてんのさ」
とはいえ、むかいでモリモリ食すライゴには睨みをきかせます。
「俺の家だって言ったろ」
「知ってるけど、よく来れたよね。俺にあんなことしといて」
「お前もな。チトセ様の悪口、俺の前でよく言えるな」
「悪口じゃないですう、事実ですう」
「けどまぁ、このタイミングですから。なにかしら用事があっていらしたんでしょう」
アルマンの指摘にライゴはうろたえるでもなく、茶をすすりがてら答えます。
「お前らから目を離すなと勅命をうけた」
「は? そういうのってコソコソやるもんじゃないの」
理解できないといった表情のロラン王子にかまわず、ライゴが続けます。
「性にあわん。それと、とっ捕まえた小僧は明日処罰することになった」
「ちゃんと理由きいた?」
「いや、まだ黙秘中だ」
「はあ? そんなんで……!」
語気を強めようとしたロラン王子の意識を、アルマンが見事にそらします。
「ほら、怒らない。おばあさんが怯えますよ」
「っとゴメンね、おばあちゃん。怖くないからね。あ、デザートきたよ。美味しそうだね」
それを機に、会話はライゴとアルマンへ。
「随分と肩入れしているみたいだが、あの小僧とは知りあいなのか」
「いえ、まったく」
「だったらなぜ」
「さあ。ロラン様だからじゃないですか」
モモと二人で老婆を世話するロラン王子を、アルマンが眺めます。
その無表情な横顔を、ライゴは探るように見つめるのでした。
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