婿入り志願の王子さま

真山マロウ

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トラブルメーカー

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 ロラン王子たちを監視するためライゴは当面、みくも屋に寝泊まりすることにしました。
 しかも自室や客間でなく、むかいの使用人部屋を利用すると言いだしたものですから、ロラン王子はたまりません。今夜のうちにこっそり例の少年と会って、ことによれば逃がしてやろうと考えていたのに、とんだお邪魔虫です。
 当然ながらロラン王子は不服申し立てをしましたが、ここはライゴの実家、厄介になっている身としては承諾せざるをえません。
 そのうえ、余計なことをするな主義のアルマンにも内緒、熟睡中のコルトも頼れず単独行動なため、敵の目が光るなか味方はゼロ。
 とはいえ、ここで諦めてしまっては少年が罰されてしまいます。それだけは、なんとしても回避したいのです。
 ロラン王子は粘りづよく待ち、深夜まんまと隙をついて、みくも屋を抜けだすことに成功しました。これまでお忍びライフで培ったスキルはダテではありません。
 花街の喧騒にまぎれ城をめざし、無事に塀を乗りこえ敷地内へ侵入。どのあたりの警備が手薄になるのかだって、経験上おおよその見当がつきます。
 ロラン王子は脇目もふらず、近衛兵の建物に向かいました。少年が捕らえられているなら、あの地下牢だと考えたのです。
 用心深く裏口へまわりこみ、ドアノブに手をかけます。
 が、そこで運のつき。先に扉が開かれ、近衛兵二人と遭遇してしまいました。
「くせ者ッ!」
 電光石火。抜刀した小柄な青年がロラン王子に切先きっさきをむけます。
「じゃなくて、ライゴの知りあいだってば! ほら、こないだ手違いで捕まった」
 両手をあげ無抵抗の意思表示。一緒にいた長身の青年が、しげしげとロラン王子を見おろします。
「そういや見た気がするな」
「でしょ。全然くせ者じゃないって」
 愛想笑いのロラン王子。青年たちが話しあいます。
「念のため早馬とばすか」
「それよりハクレン様に頼んだほうが」
 言うが早いか小柄の青年が疾風のごとく駆けだし、やがて返事をたずさえ戻ってきました。
「ライゴ、知ってるけど牢にぶちこんでいいってよ」
「はあ? なに言ってんのあいつ! じゃあ、ハクレンちゃんにもきいてみてよ。俺、あの子とも知りあいだから!」
「ハクレン様はもうお休みになられた。不用意に起こしてみろ、怒りくるって城中みんなネズミにされるぞ」
 ハクレンの睡眠を邪魔する者はたとえ女王陛下であろうと例外なくネズミにされる、というコルトしか喜ばないような情報を聞かされ、ロラン王子は地下牢へ。
「まさかの二回目……」
 投げ入れられた勢いでガクンとくずおれ、嘆き節です。
「こんなの母上が知ったら泣いちゃうよ。アルマンとチヨちゃんは絶対バカにするだろうし、コルトは……って、びっくりした!」
 蝋燭の光が届かない牢のすみ、うごめく塊に身構えます。けれども、よくよく目を凝らしてみると、それはうずくまったあの少年でした。
「よかった、きみに会いにきたんだよ! あ、おばあちゃんは俺たちが預かってるから心配しないで」
 ロラン王子の言葉を聞くやいなや、少年が血相を変えて掴みかかります。
「ばあちゃんをどうするつもりだ!」
「ご、誤解だってば! あのまま放っておくわけにいかなかったから、連れてっただけだよ。みくも屋っていう妓楼に」
「おまっ……、ばあちゃん八十五だぞ! なに考えてんだ、客とれるかよ!」
「そうじゃないよ! きみこそなに考えてんの!」
 経緯を説明。一応納得して態度をあらためた少年に、ロラン王子が持ち前の人懐っこさを発揮します。
「ともかく教えてよ、ミヤ姫の桜を折った事情。なにか力になれるかもだし」
「って言われても。自分も牢屋入ってんのにどうするんすか」
「大丈夫、味方はほかにもいるから。アルマンとコルトとチヨちゃんにモモちゃん。……ライゴは微妙。きみを連れてったとき偉そうにしてたやつ。知りあいだけど、なんか俺に厳しめなの。腹たつ!」
 あけすけなロラン王子に少年が失笑。つい気を許し、自分のことを話しはじめます。
 彼の名はトウヤ。十五歳。乳飲み子の時分、森で置き去りにされていたのを老婆に拾われました。
 当時、夫に先立たれたばかりの彼女は絶望に打ちひしがれていましたが、トウヤが生きがいとなってからは徐々に心の傷も癒え、明るさをとり戻していきました。
 庭にあった桜は、彼女が若かりしころに夫と植えたもので、子の授からなかった夫婦が、まるで我が子のように大切に育ててきたものです。
 それを知るトウヤも毎年、花が咲くのを楽しみにしていたのですが、なぜか昨年の秋あたりから木の様子がおかしくなったのです。
 トウヤたちは、貧しいながらも手をつくしました。けれど桜は無惨な姿になりはててしまい、それにともない老婆も急激に弱っていき、あのような状態となってしまいました。
 もう一度花が咲くのを見れば回復するかもしれない、と思ったトウヤは、悪いことだとわかっていながらも広場の桜を頂戴したのでした。目も頭も朦朧もうろうとしている彼女相手なら、うまくごまかせると考えて。
「俺バカだから、ほかに思いつかなくて。そんなの結局ばあちゃんを騙すことになるだけなのに……」
 しょぼくれるトウヤ。ロラン王子は溺れんばかりに大号泣です。
「でも、反省してるんだよね」
「はい。ちゃんと謝って、罪を償いたいっす」
「うん、それがいいよ。俺も減刑してもらえるよう、お願いしてみる」
「侵入罪っすよね。たぶん、そこまで重くないんじゃないすかね」
「いや、俺じゃなくて、きみの話だよ」
「俺の? どうしてロランさんが?」
 ぽくん、と殴られたような表情のトウヤ。ロラン王子も同じもので返します。
「どうしてだろ。……なんとなく?」
 あまりのフワッとした理由にトウヤが吹きだします。
「そんなんで人の世話やいてるんすか。ロランさん変人っすね」
「えーっ、どうせなら善人にしてよ」
「それはちょっと。俺が言うのもなんですけど、もっと考えて行動したほうがいいっす」
「わあ、初対面なのにすごい遠慮ない」
「すんません」
「いいよいいよ、そういうの大歓迎だから」
 地元ではいくらお忍びまくっても、有名人のロラン王子は毎度身元がバレていました。
 ひきかえ、ここではただの一般人。トウヤも真の素性を知りません。
 冷たくかたい石の床で横になるのは、体にこたえます。
 けれども、身分もなにも関係なく等しく並ぶことのできた初めての存在が単純に嬉しかったロラン王子は、そんなことも今はへっちゃらなのでした。
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