婿入り志願の王子さま

真山マロウ

文字の大きさ
21 / 40
トラブルメーカー

2

しおりを挟む
 翌朝。ロラン王子とトウヤは後手に捕縛され、地下牢から出されました。
 しゃくしゃくと踏みしめる草は雨が乾いておらず、葉先に雫を実らせます。
 明け方の冷気で眠れなかったロラン王子は、くったりしおれていました。
「むちゃくちゃ寒かった……」
「大丈夫っすか」
「トウヤ平気なの」
「そっすね、なんとも」
「すごいなぁ、若さかなぁ」
「そんな変わんなくないすか」
「七歳差はでかいよ。俺が百歳になったとき、トウヤは九十三なんだから」
「あんまピンとこないっす」
 雑談をかわしながら連れていかれたのは、建物の裏。すでにアルマンとコルトとライゴ、そしてチトセ女王が揃いぶみでした。
「二人ともありがと! 俺のために、わざわざ来てくれたんだね!」
 身内の姿でロラン王子に活気。ですが、アルマンは仏頂面に磨きがかかります。
「ライゴさんに言われてしかたなくです」
「またまた、そんなこと言っちゃって。ほんとは心配してくれたんでしょ?」
「あれを見ても同じことが言えますか」
 くいと親指をむけた先には「ハクレン様ハクレン様……」とあたりをキョロキョロするコルト。ロラン王子には興味がなさそうてす。
「……うん、コルトはそうかもって思ってたとこあるから、べつにいいんだけど」
「よくないですよ。ロラン様のお姿を魔術画におさめるために連れてきたっていうのに」
「えっ、やだよ、やめてよ、なんでそんなことすんの」
「もちろん、ロラン様が罪人になられた記念ですよ」
 くりひろげられる緊張感のない会話を、ライゴが咳払いで仕切りなおします。
「ハクレン様のお力で桜は元に戻った。だがそれは、あの枝がミヤ姫の桜だという証明でもある。俺たちはお前が犯人だと確信している。異論がなければ刑に処す。どうだ、なにかあるか」
「いえ、俺が犯人です。罰はうけます。あとミヤ姫に謝りたいっす」
 いさぎよく罪を認めたトウヤですが、その肩は小さく震えていました。どんな刑罰かもわからないのです、いくら覚悟したって恐ろしいに決まっています。
「待って! トウヤはおばあちゃんのために、あの枝を折ったんだ。悪意があったわけじゃない。それに、しっかり反省もしてる。桜は元に戻ったんだし、今回は許してあげたっていいでしょ」
 見かねて擁護するロラン王子。しかし、一歩前に出たチトセ女王はがえんじることなくトウヤに告げました。
「あなたには桜と同じ痛みをうけてもらいます。折られたのは人の体でいうと左腕あたりでしょうか。ライゴさん、彼の左腕を斬りおとしてください」
 誰しもの瞳が驚きに揺れます。
「はあァ? なにバカなこと言ってんの!」
 わめきたてるロラン王子にかまわず、ライゴが刀を抜きます。
「アルマンとめてよ!」
「これはこの国の問題です。俺たちは介入すべきじゃありません」
「じゃあコルト、斬られた腕すぐくっつけるか再生したげて!」
「再生なんて無理ですよ、トカゲの尻尾じゃないんですから。くっつけるのだって、私の技量では確約できません」
 らちがあかない、と矛先を変更。
「ライゴはそれでいいの! 命令だったら間違ったことでもするの!」
「俺はチトセ様が正しいと信じている」
 こちらも話になりません。
「トウヤも考えなおして! 腕がなくなったら大変だよ。おばあちゃんのお世話だって……それよりも命に関わることになったらどうすんの!」
 十五歳の少年に迷いが生じます。が、近衛兵らに押さえつけられ、いよいよ観念。
「すんません。もしものときは、ばあちゃんを……」
 ギュッと目をとじるトウヤ。ライゴの刀が振りかざされます。
「ダメだってば!」
 あらんかぎりに叫ぶロラン王子。
 直後、背中に強い痛みが走り、そのまま意識を失ってしまいました――。

「ああ、よかった。気がつきましたか」
 ロラン王子がまぶたを開くと、コルトの安堵した顔がありました。
「ここは、みくも屋です。わかりますか」
「ええと、俺は……」
 ぼんやりする頭で記憶をたどって心当たりに行きつくと、ロラン王子はとび起きました。トウヤをかばって斬りつけられたのを思いだしたのです。
 こわごわ背中を触ります。とくに異常はありません。
「コルトがなおしてくれたの?」
「私ではなく、ハクレン様が」
「そうなんだ。今度お礼言わなきゃ」
「モモさんにも。さっきまでロラン様のこと看ていました。おばあさんのお世話をしながら」
「そっか。あの子は本当に優しくていい子だね」
「それと、アルマンさんには謝ったほうがいいと思います」
「……怒ってた?」
「たぶん本気のやつです」
 そこに扉がノックされ、噂のアルマンが入室します。
 平生の表情でありながら一目でお怒りと見うけたロラン王子は、ただちに詫びようとしました。が、それよりも先に下顎を掴まれ、
「次、同じことをしたら、生きてても死んでてもカチ割ります」
 ぐぐぐ、とアルマンの指に力がこもります。やはり彼は、とってもお怒りでした。
「ふみまへんれしあ(すみませんでした)……」
 涙目で謝る主君に、ため息。手を離したアルマンは、ロラン王子が一番気にしていることを伝えます。
「トウヤさんは無事ですよ。ミヤ姫がチトセ女王に懇願してくださって不問となったんです。ロラン様の侵入罪も」
「えっ、そうなんだ! ……ミヤ姫にも迷惑かけちゃったな」
 反省心を見てとったアルマンが、お説教をとりやめたかわりにお風呂セットを渡します。
「さ、湯あみでもなさったらいかがですか。さっぱりしますよ。丸一日以上も寝てたんですから」
 なんだかんだ言っても準備万端、気をきかせてくれる世話係にジーンとして部屋をでたロラン王子。
 と、浴場にむかう廊下の先に、リボン頭の後姿をとらえました。
「モモちゃん!」
 呼びとめられ、モモがふり返ります。
「あら、ロランさん、もう大丈夫なんですかぁ」
「うん、ありがと。コルトに聞いたよ、俺のこと看ててくれたって。あと、おばあちゃんのことも。……って、どしたのソレ!」
 モモごしに見えた老婆は、車輪つきの木製椅子に乗せられていました。
「チトセ様がくださったんですぅ」
「うっそ、あの人が?」
「ああ見えてお優しい方なんですよぉ」
 嬉しそうに眉をさげたモモが、老婆が気に入っているらしい庭の桜を見にいくと言ってその場を去ります。
 遠ざかる彼女たちを見送るロラン王子のお腹からは健康の証、ぐううと大きな音が鳴りわたりました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

モモタロウと七人の鬼

もちもちピノ
ファンタジー
これは桃から生まれた変わり者が 12の仲間と共に旅をする物語 和風ファンタジー

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...