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惚れた弱み
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「ムリ。人生ムリ。ほんとムリ」
竹ぼうきを手にロラン王子が大息。数十分前より表の掃除しているのですが、同じ場所をなでるだけ。からきし進みません。
もちもち堂で衝撃ニュースを聞かされたロラン王子は、あくる日になってもこのザマでした。
「なんだい、その辛気くさい顔は」
ふいに叱咤してきたのは、町内会の寄合帰りのチヨ。みくも屋で過ごすときのように襦袢に室内着をひっかけたのとは違い、ぱりっとしたいでたちは見栄えがします。
「あ、おかえりチヨちゃん。早かったね」
「うちは客商売だ。たとえ営業時間外でも、そんなの店先にさらすんじゃないよ」
「しかたないじゃん。ミヤ姫がお見合いしちゃうんだもん。大目にみてよう」
情けなく萎びるロラン王子ですが、チヨはわざわざ慰めたりもしません。
「たしか隣国のやつだったね。知りあいじゃないのかい」
「ゴシップ誌で見たことあるくらい。二十四歳のモテまくりイケメン第三王子だってさ」
「そりゃあ勝ち目がなさそうだ」
「ていうか、なに特集されちゃってんのだよ。俺だってまだなのに。むかつく!」
憤慨のロラン王子に、化粧ばったチヨの目がむかれます。
「あんた、そんなのに載りたかったのかい」
「もっちろん! なんのために頑張って問題行動いっぱい起こしてきたと思ってんのさ。なのに、兄上が特集されたとき見切れた手首の写真が載っただけ! ぐやじい!」
「あきれた。しょせんはゴシップ誌だろう。執心するなんざ気がしれないね」
「わかってないなぁ、チヨちゃん。あのね、ゴシップロイヤルはね、扱う内容が王室専門とはいえ創刊以来、古今東西あらゆるゴシップを網羅してきたんだよ。ってことは、これに載ってこそ一人前の王族と認めてもらえたといっても過言じゃないの」
ふんぞり返って自身の愛読『ゴシップロイヤル』について熱く語りますが、いまいちチヨには響きません。
「そうかい。あんたが特集されたあかつきにゃ記念に一冊買ってやるよ」
「あー、信じてない! ほんとだよ、すごいことなんだよ、なんたって我が家は代々定期購読してるんだから!」
ロラン王子はムキになって言いますが、各国の王室情報が掲載されているといえど、つまるところは内輪で盛りあがっているだけの真偽不明な噂話。そういったものに興味がないかぎり、政治経済などを中心とするアルマン愛読の王室ジャーナルのほうが世間的にはよほど権威でした。
「だとするなら、なおのこと勝てそうにないね。どうすんだい」
「だから困ってんの。あ、そうだ。チヨちゃん翻弄して、ぺっこぺこにしてやってよ」
「ふぅん、あんたはそれでいいのかい」
「……やっぱダメ。友達にそんなことさせられないもんね」
「うちは、かまやしないさ。ただ、それがこうじてスキャンダルになれば、あんたより先にゴシップロイヤルに載るかもしれないがね」
「ダメダメ、もっとダメ!」
まともに相手にするのがバカらしくなり、チヨはロラン王子で遊びだします。
「まあ、そんなに悲観するこたないさ。見合いまでに、あんたがミヤ姫をおとしゃいいんだから」
「だからムリだって。来週なんだもん」
「なあに、恋におちるのなんざ一瞬あれば充分さね」
「あのね、誰しもがチヨちゃんみたく即惚れしてもらえる人種じゃないの」
「うちはそういう稼業だよ」
一笑にふしたチヨが、ぐぐっと体を寄せます。
「それよりアルマンたちとはどうなってんだい。うちの連中が、コルトがいないと張りあいないって嘆いてるよ」
「ちゃんと戻ってもらう予定だけど、昨日のコルトの話だと、アルマンはライゴと仲良くなって近衛兵の訓練に特別参加してるし、コルトはハクレンちゃんに弟子入りしようと連日城に突撃してるしで、二人とも忙しそうなんだよね」
アルマンたちが出ていったのにあわせ、ライゴも宿舎に戻っていました。ロラン王子の素性と目的が判明したことでチトセ女王からの監視命令がとかれ、とどまる理由がなくなったためです。
「こっちに帰ったら、そんな暇なくなるだろうし。たまには好きなことさせたげたいよね」
とくにアルマンには、とつけ加えませんでしたが、自分の世話で誰よりも苦労しているのをロラン王子が申し訳なく思っているのはチヨにもわかっていることでした。
「滞りさえしなけりゃ仕事をするのは誰だっていいけどね。さあ、早くすませちまいな。まだ残ってんだろう」
「だからほら、そこは大目に……」
「働かざるもの食うべからずだよ」
実際に尻を叩き、チヨが店へ入っていきます。
たわいない語らいで気がまぎれたのは、かりそめ。遠くに見える城に嘆息のロラン王子は、とほうに暮れるばかりでした。
みくも屋が開店するころ、夕食後のまったりタイムをすごしていたロラン王子はアルマンたちとの和解について、モモに相談していました。
「ふんぎりつかないんだよね。邪魔するのも悪くて」
「ロランさん、お友達思いなんですねぇ」
彼女は優秀な話し相手で、いつもいい具合に嬉しい相槌を挟んでくれるものですから、ロラン王子も我しらず多弁になります。なので、
「そういえばコルトさんに、ロランさんはアルマンさんの攻撃、本当はよけられるのにそうしないって聞いたことありますけど、どうしてですかぁ?」
といった、普段なら「受けてなんぼなとこあるよね」とちゃかして終わりにしそうな話題にもきちんと答えます。
「アルマンなりに気をつかって、俺のためにわざと『身分とか気にしてません』って態度とってくれてるんだと思うんだよね。……いや、もしかすると単に趣味でやってたり、騎士団に戻れない恨みを晴らしてんのかもだけど。でも、どんな理由にしても、よけるのなんかもったいなくて」
「だからロランさんは、威力を殺しつつ受けとめてるんですねぇ」
「そんなことないよ、たまに本気で対処できないのくるし。って、それは誰に聞いたの。バレてたとか恥ずかしい」
みんなモモちゃんに喋りすぎだよね、と自分をさしおいて文句をたれるロラン王子。隣では、そっとモモがいずまいを正します。
「じつは、おりいってロランさんにお願いがあります」
口調もぴしっとしていて、ただごとでないのは明白ですが。
「いいよ。俺にできることならなんでも」
突然のことにも動じず二つ返事でひきうけ、ロラン王子が湯のみをとります。意をけっしたモモが、膝の上で袂を握りしめ言いはなちました。
「ミヤ姫のお見合いを阻止してほしいんです!」
とたんにブハァッと咳こんだロラン王子。口からは、含んだばかりのお茶が盛大なしぶきをあげ、勢いよく噴きだしました。
竹ぼうきを手にロラン王子が大息。数十分前より表の掃除しているのですが、同じ場所をなでるだけ。からきし進みません。
もちもち堂で衝撃ニュースを聞かされたロラン王子は、あくる日になってもこのザマでした。
「なんだい、その辛気くさい顔は」
ふいに叱咤してきたのは、町内会の寄合帰りのチヨ。みくも屋で過ごすときのように襦袢に室内着をひっかけたのとは違い、ぱりっとしたいでたちは見栄えがします。
「あ、おかえりチヨちゃん。早かったね」
「うちは客商売だ。たとえ営業時間外でも、そんなの店先にさらすんじゃないよ」
「しかたないじゃん。ミヤ姫がお見合いしちゃうんだもん。大目にみてよう」
情けなく萎びるロラン王子ですが、チヨはわざわざ慰めたりもしません。
「たしか隣国のやつだったね。知りあいじゃないのかい」
「ゴシップ誌で見たことあるくらい。二十四歳のモテまくりイケメン第三王子だってさ」
「そりゃあ勝ち目がなさそうだ」
「ていうか、なに特集されちゃってんのだよ。俺だってまだなのに。むかつく!」
憤慨のロラン王子に、化粧ばったチヨの目がむかれます。
「あんた、そんなのに載りたかったのかい」
「もっちろん! なんのために頑張って問題行動いっぱい起こしてきたと思ってんのさ。なのに、兄上が特集されたとき見切れた手首の写真が載っただけ! ぐやじい!」
「あきれた。しょせんはゴシップ誌だろう。執心するなんざ気がしれないね」
「わかってないなぁ、チヨちゃん。あのね、ゴシップロイヤルはね、扱う内容が王室専門とはいえ創刊以来、古今東西あらゆるゴシップを網羅してきたんだよ。ってことは、これに載ってこそ一人前の王族と認めてもらえたといっても過言じゃないの」
ふんぞり返って自身の愛読『ゴシップロイヤル』について熱く語りますが、いまいちチヨには響きません。
「そうかい。あんたが特集されたあかつきにゃ記念に一冊買ってやるよ」
「あー、信じてない! ほんとだよ、すごいことなんだよ、なんたって我が家は代々定期購読してるんだから!」
ロラン王子はムキになって言いますが、各国の王室情報が掲載されているといえど、つまるところは内輪で盛りあがっているだけの真偽不明な噂話。そういったものに興味がないかぎり、政治経済などを中心とするアルマン愛読の王室ジャーナルのほうが世間的にはよほど権威でした。
「だとするなら、なおのこと勝てそうにないね。どうすんだい」
「だから困ってんの。あ、そうだ。チヨちゃん翻弄して、ぺっこぺこにしてやってよ」
「ふぅん、あんたはそれでいいのかい」
「……やっぱダメ。友達にそんなことさせられないもんね」
「うちは、かまやしないさ。ただ、それがこうじてスキャンダルになれば、あんたより先にゴシップロイヤルに載るかもしれないがね」
「ダメダメ、もっとダメ!」
まともに相手にするのがバカらしくなり、チヨはロラン王子で遊びだします。
「まあ、そんなに悲観するこたないさ。見合いまでに、あんたがミヤ姫をおとしゃいいんだから」
「だからムリだって。来週なんだもん」
「なあに、恋におちるのなんざ一瞬あれば充分さね」
「あのね、誰しもがチヨちゃんみたく即惚れしてもらえる人種じゃないの」
「うちはそういう稼業だよ」
一笑にふしたチヨが、ぐぐっと体を寄せます。
「それよりアルマンたちとはどうなってんだい。うちの連中が、コルトがいないと張りあいないって嘆いてるよ」
「ちゃんと戻ってもらう予定だけど、昨日のコルトの話だと、アルマンはライゴと仲良くなって近衛兵の訓練に特別参加してるし、コルトはハクレンちゃんに弟子入りしようと連日城に突撃してるしで、二人とも忙しそうなんだよね」
アルマンたちが出ていったのにあわせ、ライゴも宿舎に戻っていました。ロラン王子の素性と目的が判明したことでチトセ女王からの監視命令がとかれ、とどまる理由がなくなったためです。
「こっちに帰ったら、そんな暇なくなるだろうし。たまには好きなことさせたげたいよね」
とくにアルマンには、とつけ加えませんでしたが、自分の世話で誰よりも苦労しているのをロラン王子が申し訳なく思っているのはチヨにもわかっていることでした。
「滞りさえしなけりゃ仕事をするのは誰だっていいけどね。さあ、早くすませちまいな。まだ残ってんだろう」
「だからほら、そこは大目に……」
「働かざるもの食うべからずだよ」
実際に尻を叩き、チヨが店へ入っていきます。
たわいない語らいで気がまぎれたのは、かりそめ。遠くに見える城に嘆息のロラン王子は、とほうに暮れるばかりでした。
みくも屋が開店するころ、夕食後のまったりタイムをすごしていたロラン王子はアルマンたちとの和解について、モモに相談していました。
「ふんぎりつかないんだよね。邪魔するのも悪くて」
「ロランさん、お友達思いなんですねぇ」
彼女は優秀な話し相手で、いつもいい具合に嬉しい相槌を挟んでくれるものですから、ロラン王子も我しらず多弁になります。なので、
「そういえばコルトさんに、ロランさんはアルマンさんの攻撃、本当はよけられるのにそうしないって聞いたことありますけど、どうしてですかぁ?」
といった、普段なら「受けてなんぼなとこあるよね」とちゃかして終わりにしそうな話題にもきちんと答えます。
「アルマンなりに気をつかって、俺のためにわざと『身分とか気にしてません』って態度とってくれてるんだと思うんだよね。……いや、もしかすると単に趣味でやってたり、騎士団に戻れない恨みを晴らしてんのかもだけど。でも、どんな理由にしても、よけるのなんかもったいなくて」
「だからロランさんは、威力を殺しつつ受けとめてるんですねぇ」
「そんなことないよ、たまに本気で対処できないのくるし。って、それは誰に聞いたの。バレてたとか恥ずかしい」
みんなモモちゃんに喋りすぎだよね、と自分をさしおいて文句をたれるロラン王子。隣では、そっとモモがいずまいを正します。
「じつは、おりいってロランさんにお願いがあります」
口調もぴしっとしていて、ただごとでないのは明白ですが。
「いいよ。俺にできることならなんでも」
突然のことにも動じず二つ返事でひきうけ、ロラン王子が湯のみをとります。意をけっしたモモが、膝の上で袂を握りしめ言いはなちました。
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