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惚れた弱み
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びしょ濡れになった卓上の始末をつけながら、モモが事情を話します。口と胸元を拭っていたロラン王子は、それを聞いてますます驚きました。
「じゃあミヤ姫は、ほんとはお見合い嫌がってるの?」
「はい。お相手であるフシェン様の国はそんなに大きくありませんが、先々代より軍事に力を入れてきたこともあり諸国をしのぐ勢いです。敵になると脅威ですが味方になるなら……。ニリオンのような小さな国が平和を保つには同盟を結ぶのが一番なんです。それも簡単には破棄できないような関係で」
「って、それ政略結婚じゃん!」
ロラン王子がぷんすか怒るのは内容もさることながら、布巾を握るモモの手に力がこもるのが見てとれたからです。顔見知りの女の子が二人もつらい目にあわされるのは、とても我慢のならないことでした。
「まさかチトセ女王がミヤ姫を大事にしてきたのって、そのためだったんじゃ」
「違います! お見合いは先日フシェン様が急に言いだしたことです。チトセ様はどうにか回避しようとなさいましたが、断りでもしようものなら、いつでも攻めいってやると脅されて……」
悲痛な面持ちで声を潤ませ、モモが土下座。
「お願いします! どうかミヤ姫を、この国を、助けてくださいっ!」
「そんなことしないでよ。もちろん俺はそのつもりだから」
姿勢を戻させ、ロラン王子がはたと気づきます。
「でも、どうしてモモちゃんが?」
「それは……」
口ごもったのを見て、これ以上モモを困らせたくなかったロラン王子は追及をやめました。そうして不安を感じさせないよう、さっぱりと承諾。
「まいっか。そもそも俺は、愛のない結婚断固反対派だしね。となると、アルマンたちにも協力要請だ。この際だから戻ってきてもらっちゃおう」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「全然。むしろいいキッカケになったよ。あんまり放っておくとアルマンたち、チトセ女王の家来になっちゃいそうだし」
わざとおどけるロラン王子に、モモの心も救われます。
「ありがとうございます。私にお手伝いできることがあればおっしゃってください。なんでもします!」
「なら、これからも美味しいごはんヨロシクね。モモちゃん飯があれば大抵のことは頑張れるから」
出会いから一月もたっていませんが、これが嘘やお世辞の苦手なロラン王子の本心だとわかるからこそ、彼女の目には光るものが。
「わわわ、泣かないで。モモちゃんに泣かれるのが一番困るよ」
「そういえば、最初にお会いしたときも泣いちゃいましたね」
「あれは俺が全面的に悪かったよね。大きな声だして」
話に花が咲き、こそばゆいようなときめきがロラン王子を弾ませます。
談笑のもれるみくも屋の庭では、来たる季節を予感させる夜風が葉桜の枝を軽やかになでてゆきました。
「――というわけだから、お願い協力して!」
翌日。アルマンの前には、昨晩のモモをはるかにしのぐクオリティーで、土下座をかますロラン王子の姿がありました。
「しかし、見合いを阻止するというのは。場合によっては近衛兵の方々と相まみえることになるかもしれません。お世話になっている手前、気がひけるんですが」
「それはそうだけど考えてもみてよ、女の子を泣かすほうがよっぽど罪だよ!」
力説するロラン王子。と視界のすみ、布団につっぷすコルトが映りました。
「ねえ、あれどしたの」
「弟子入りを断られつづけた結果です。ついに『ヘタクソにさく時間はない。二度と来るな』と言われたそうです」
婉曲とは無縁の説明に、コルトから「うぐぐぐ」と嗚咽のような声がもれます。ロラン王子はそばまでいって座りこみ、その肩に手をおきました。
「コルトの力もぜひ貸してよ。俺たち二人じゃ厳しいからさ」
同情をにじませ語りかけますが、うんともすんとも反応はありません。
「これで実力をみせつけることができたら、ハクレンちゃんの考えも変わるかもしれないよ」
それでもめげずに続けていると、くぐもった声が返ってきました。
「……そうでしょうか」
「見こみがあるってわかれば違ってくるんじゃないかな」
起きあがったコルトが、なにごともなかったかのように襟を正します。
「及ばずながらお手伝いいたします」
「そうこなくっちゃ。よし、ミヤ姫のお見合い阻止するぞ作戦、みんなで頑張っちゃおう!」
コルトのえげつない豹変っぷりにも耐性ができたロラン王子は喜色満面。ですがアルマンだけは、いぜんとして渋っています。
「本当にわかってるんですか。この国の命運を左右する一大事。しくじれば戦争に発展するかもしれないんですよ」
「だからそうならないように、こっそりしっかりやるんだってば」
「なんですか、そんな大雑把な」
「大丈夫、俺にいい考えがあるから」
「だいたい俺たちが首をつっこむことじゃありませんよ。ミヤ姫だって王族に生まれついたんですから、そのくらいの覚悟はお持ちでしょう。それとも、そこまでしてミヤ姫と結婚なさりたいんですか」
「ていうか、嫌がるのを無理やりとかよくないよ。誰も幸せにならないじゃん」
アルマンの眉がピクリと動きます。これまでのロラン王子ならば、もっと別のセリフを返してきたはずだと違和感をおぼえたからです。当人はからきし気づいていないようですが。
「……わかりました。はばかりながら俺も協力しますよ。強者が弱者を思いどおりにしようっていう図式は虫が好かないですから」
「やった! 俺、アルマンのそういうとこ大好きだよ!」
抱きついてきたロラン王子を、うっとうしく払いのけるアルマン。その目には、なにかしら思惑がひそみます。
「それにしても、モモさんが隠しごとをしているのは許すんですね。俺のときとは違って」
「かわいい女の子と暴力ゴリラを一緒にするのはムリあるでしょ」
うむを言わさずアルマンの利き手が、ロラン王子の前頭部を握りしめます。
「痛い痛い! やめて壊れちゃう!」
「すみません、獣なので言葉がつうじないんです」
「なに言ってんの、ちゃんと会話成立してるよ!」
しばらくぶりの賑やかさに、コルトがこらえきれず腹を抱えて笑います。それは、のたうちまわるロラン王子にも移り、やがて手を離したアルマンの唇にも……。
こうして三人組は無事、元の鞘へとおさまることになったのでした。
「じゃあミヤ姫は、ほんとはお見合い嫌がってるの?」
「はい。お相手であるフシェン様の国はそんなに大きくありませんが、先々代より軍事に力を入れてきたこともあり諸国をしのぐ勢いです。敵になると脅威ですが味方になるなら……。ニリオンのような小さな国が平和を保つには同盟を結ぶのが一番なんです。それも簡単には破棄できないような関係で」
「って、それ政略結婚じゃん!」
ロラン王子がぷんすか怒るのは内容もさることながら、布巾を握るモモの手に力がこもるのが見てとれたからです。顔見知りの女の子が二人もつらい目にあわされるのは、とても我慢のならないことでした。
「まさかチトセ女王がミヤ姫を大事にしてきたのって、そのためだったんじゃ」
「違います! お見合いは先日フシェン様が急に言いだしたことです。チトセ様はどうにか回避しようとなさいましたが、断りでもしようものなら、いつでも攻めいってやると脅されて……」
悲痛な面持ちで声を潤ませ、モモが土下座。
「お願いします! どうかミヤ姫を、この国を、助けてくださいっ!」
「そんなことしないでよ。もちろん俺はそのつもりだから」
姿勢を戻させ、ロラン王子がはたと気づきます。
「でも、どうしてモモちゃんが?」
「それは……」
口ごもったのを見て、これ以上モモを困らせたくなかったロラン王子は追及をやめました。そうして不安を感じさせないよう、さっぱりと承諾。
「まいっか。そもそも俺は、愛のない結婚断固反対派だしね。となると、アルマンたちにも協力要請だ。この際だから戻ってきてもらっちゃおう」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「全然。むしろいいキッカケになったよ。あんまり放っておくとアルマンたち、チトセ女王の家来になっちゃいそうだし」
わざとおどけるロラン王子に、モモの心も救われます。
「ありがとうございます。私にお手伝いできることがあればおっしゃってください。なんでもします!」
「なら、これからも美味しいごはんヨロシクね。モモちゃん飯があれば大抵のことは頑張れるから」
出会いから一月もたっていませんが、これが嘘やお世辞の苦手なロラン王子の本心だとわかるからこそ、彼女の目には光るものが。
「わわわ、泣かないで。モモちゃんに泣かれるのが一番困るよ」
「そういえば、最初にお会いしたときも泣いちゃいましたね」
「あれは俺が全面的に悪かったよね。大きな声だして」
話に花が咲き、こそばゆいようなときめきがロラン王子を弾ませます。
談笑のもれるみくも屋の庭では、来たる季節を予感させる夜風が葉桜の枝を軽やかになでてゆきました。
「――というわけだから、お願い協力して!」
翌日。アルマンの前には、昨晩のモモをはるかにしのぐクオリティーで、土下座をかますロラン王子の姿がありました。
「しかし、見合いを阻止するというのは。場合によっては近衛兵の方々と相まみえることになるかもしれません。お世話になっている手前、気がひけるんですが」
「それはそうだけど考えてもみてよ、女の子を泣かすほうがよっぽど罪だよ!」
力説するロラン王子。と視界のすみ、布団につっぷすコルトが映りました。
「ねえ、あれどしたの」
「弟子入りを断られつづけた結果です。ついに『ヘタクソにさく時間はない。二度と来るな』と言われたそうです」
婉曲とは無縁の説明に、コルトから「うぐぐぐ」と嗚咽のような声がもれます。ロラン王子はそばまでいって座りこみ、その肩に手をおきました。
「コルトの力もぜひ貸してよ。俺たち二人じゃ厳しいからさ」
同情をにじませ語りかけますが、うんともすんとも反応はありません。
「これで実力をみせつけることができたら、ハクレンちゃんの考えも変わるかもしれないよ」
それでもめげずに続けていると、くぐもった声が返ってきました。
「……そうでしょうか」
「見こみがあるってわかれば違ってくるんじゃないかな」
起きあがったコルトが、なにごともなかったかのように襟を正します。
「及ばずながらお手伝いいたします」
「そうこなくっちゃ。よし、ミヤ姫のお見合い阻止するぞ作戦、みんなで頑張っちゃおう!」
コルトのえげつない豹変っぷりにも耐性ができたロラン王子は喜色満面。ですがアルマンだけは、いぜんとして渋っています。
「本当にわかってるんですか。この国の命運を左右する一大事。しくじれば戦争に発展するかもしれないんですよ」
「だからそうならないように、こっそりしっかりやるんだってば」
「なんですか、そんな大雑把な」
「大丈夫、俺にいい考えがあるから」
「だいたい俺たちが首をつっこむことじゃありませんよ。ミヤ姫だって王族に生まれついたんですから、そのくらいの覚悟はお持ちでしょう。それとも、そこまでしてミヤ姫と結婚なさりたいんですか」
「ていうか、嫌がるのを無理やりとかよくないよ。誰も幸せにならないじゃん」
アルマンの眉がピクリと動きます。これまでのロラン王子ならば、もっと別のセリフを返してきたはずだと違和感をおぼえたからです。当人はからきし気づいていないようですが。
「……わかりました。はばかりながら俺も協力しますよ。強者が弱者を思いどおりにしようっていう図式は虫が好かないですから」
「やった! 俺、アルマンのそういうとこ大好きだよ!」
抱きついてきたロラン王子を、うっとうしく払いのけるアルマン。その目には、なにかしら思惑がひそみます。
「それにしても、モモさんが隠しごとをしているのは許すんですね。俺のときとは違って」
「かわいい女の子と暴力ゴリラを一緒にするのはムリあるでしょ」
うむを言わさずアルマンの利き手が、ロラン王子の前頭部を握りしめます。
「痛い痛い! やめて壊れちゃう!」
「すみません、獣なので言葉がつうじないんです」
「なに言ってんの、ちゃんと会話成立してるよ!」
しばらくぶりの賑やかさに、コルトがこらえきれず腹を抱えて笑います。それは、のたうちまわるロラン王子にも移り、やがて手を離したアルマンの唇にも……。
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