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第ニ章: 生徒会選挙
第15話: 学年二位の少女
しおりを挟む教室へと紫ノ宮さんに腕を引かれてやっとの末たどり着く。
ああ。関わりたく無い。相手は生徒会なのだ。真面目に朝の挨拶をやらされるコミュ障にとっては恐怖の仕事の象徴だ。知らないやつにまで挨拶するなど嫌でたまらない。
教室に先に戻っていた柏崎さんがこちらにそっと微笑みかける。目を合わしたら終わりだな。たぶん石にされて永久に生徒会の下、奴隷のように働かされる。神話で出てくるゴルゴンかな?カシワーゴンの視線を避けつつ自分の席につく。
紫ノ宮さんを助けたまでは良かった。それによる段階で踏んだ手順が不味かった。柏崎さんの何かに溝口さんへの言葉が刺さってしまったらしい。まぁ過去よりも未来だ。この先どうするかだ。いやどうしようもないな。そんな中、俺の様子を見るに見兼ねたクラスにいた親友が紫ノ宮さんに尋ねる。
「ねぇ。柊が難しそうな顔してるけど。どしたの莉奈。」
「乃愛ちゃん。柊くんね。柏崎さんの応援演説するかもって話が。」
「は?どういうこと。」
くそでかため息が止まらない。よし断ろう。向いてない。コミュ障の俺に応援演説は無理だ。よし。柏崎さんに断りに行こう。今はあの人は教室に…居るけど…。友達と仲良さそうに話してるしダメだよね。放課後に行こう。
午後の授業は基本眠たい。何もする気が起こらずただ適当にボーっと過ごすだけのはずが、今日は目が冴えている。放課後に断りにいくと言えど生徒会室がどうも苦手なのだ。あの真面目そうな雰囲気が漂う空間に一人放り込まれる恐怖。完全に逃げ場を失いそうな未来が見えるのである。
第一、柏崎さんの人選ミスなのは明白だ。きっと生徒会室まで行けば周りのメンバーは口を揃えて『うわぁこれが柏崎さんの応援演説者?何がいいの?』とか言ってくれるに違いない。何それ、それはそれでめっちゃ傷付いちゃうよ。こういうときの時間の経ち方は異常なほど早く、気づけば授業終了のチャイムが鳴っていた。紫ノ宮さんはチャイムがなり終わったあと目の前に来て不安そうな表情で話しかけてくる。
「柊くんなんか凄い疲れた顔してるよ。」
「あぁ…目の前に天使が。俺はもう死ぬのね。」
「死にませんよ!私も付き添おうか?何も出来ないと思うけど…。」
「気持ちは嬉しいけど巻き込まれるとロクなことにならなさそうだし、やめといた方がいいよ。」
問題が問題なだけあって紫ノ宮さんを巻き込むのは厳しいだろう。人前で演説とかは俺と同じでガラじゃないだろうからね。やらせたらそれはそれで気負いしちゃいそうで可哀想だもんね。
紫ノ宮さんと軽く談義していると、横からその発端の人物が手を小さく振りながらこちらを見ている。視線があったら死ぬ。無言の圧力ってこういうやつなんだろうな。そんな彼女から変な呼び名で呼ばれたようなのでそっと席を立ち、柏崎さんのもとに向かう。
「それじゃあ行こうか。りんりん。」
「それやめてくださいカシワーゴン。」
「カシワーゴンって何!?可愛くないよ!」
可愛ければいいのかよ。カシワーゴン…確かに可愛くはない呼び名だな。
そんななか不安そうにこちらを見ている紫ノ宮さんに一言をかける。
「はぁ。じゃあ紫ノ宮さんはまた後で。」
「うん。じゃあまた。」
柏崎さんに連れられ、生徒会室に向かう。なんか悪いことしたみたいですごく落ち着かない。パトカーまで連行される容疑者みたいだ。誰が好きでこんなヤバいところ行かされてるんだよ。などと考えていると先を歩いていた柏崎さんがくるりと振り返り楽しそうに話しかけてきた。
「見つかって良かったよ応援演説者。」
「あ…えっと…。」
「大丈夫。サポートは全力でするから。」
自信満々に彼女は語るがそういう問題じゃなくて…
「俺はやるとはいってないですよね。」
廊下が一瞬で静かになったのが分かる。柏崎さんはその場に立ち尽くして黙り込んでしまう。その様子がいつもクラスで過ごす柏崎さんの印象と重なる。だが彼女は言葉を寂しそうに声を上げる。
「あはは…ごめん。そうだよね、私一人で喜んでただけだったんだ。あー気にしないで?りんりんが悪いわけじゃないし…その。勝手に期待してた私がいけなかったんだ。ホント…ごめん。」
さすがにこの状況で逃げようと思うほど無神経ではない。単純だが可哀想だなと思う節が無い訳ではない。応援演説してくれるはずの友達が入院してしまったのが原因だって聞いてるし。もし本当にそうだったら話くらいは聞いてみるか。絶対演説はやらないけどな。
「その…なんだ。一方的に言われてもあれだからいくつか聞かせてほしいんだよね。」
「うん…良いけど生徒会室じゃダメ?」
「逃げ場が無くなりそ…違った。いや俺生徒会じゃないですし入るのは悪いかなと。」
「へぇ。りんりんは逃げようとしてるんだね?」
「いや…話聞くから…それによっては…やるから。」
何度も言うが絶対やらないけどな。
「じゃあ屋上とかで話そうか。誰も居なさそうだもんね。そこならりんりんはオッケー?」
「生徒会室と職員室以外ならオッケーです。」
「そんな徹底的に逃げ場を無くそうとしないよ!?私そんなに信用ないの!」
悲痛な声を上げる柏崎さんを横目に屋上に向かう。屋上への立ち入りって一般の生徒禁止なはずだよな…生徒会の柏崎さん自らそこを選んでいいの?とか思いつつ階段を上がって屋上を目指す。後ろから付いてくる彼女の様子を見ると笑顔はあるものの少し影がある。それが紫ノ宮さんと重なってしまって気にしてしまう。
とりあえず行き先を変えて屋上まで来た柏崎さんと俺はフェンスにもたれてそれぞれ情報交換を始める。風が少し冷たく肌を刺すため早めにここを去りたい。柏崎さんは口早に選挙についての概要を説明するために口を開いた。
「まず選挙なんだけど私が目指す役職はどこだか知ってるかな?」
「会長でしたっけ?」
軽く彼女は頷くと言葉を続ける。
「本来は応援演説をやって貰うつもりだった友達が入院しちゃってね。」
「クラスの仲のいい友達にやってもらうって考えは柏崎さんにはなかったんですか?」
「あはは…考えたよ。この人だ!って思える人が居なくてさ。こう見えて結構君には期待してるんだよね私。」
「過大評価ですよ。俺は人前で話すの嫌いですし、俺の応援演説だと負け試合ですよ。」
彼女は少し寂しそうな顔をしながら顔を俯けており、手はスカートの裾を握っており微かに震えてるのが分かる。彼女は必死そうな声で俺の手を握って訴えかける。もう後がないみたいで正直見ていて可哀想にも感じてしまう。知りたいのは彼女がどうしてそこまでしてまで会長になりたいのかだ。
「りんりんはどうやったら私の応援演説やってくれる?私に出来ることなら…」
「どうしてそこまで柏崎さんは二年生で生徒会長をやりたいんですか?その理由はまだ聞いてないです。第一、三年生を差し置いて二年生が会長になんてなったら…良いウワサはされないでしょうし。」
「あはは…そうだね。一緒に戦ってって頼んでるのにそれを言わないのはだめだよね。えっと…私が小さいときから凪沙…入院してる友達にずっと助けてもらってばっかりで…。だから今回の選挙はね。凪沙が居なくても私だってちゃんと出来るんだよって…証明したい。凪沙を安心させたい…。」
必死にその友達…凪沙さんのことを語る彼女の言葉に嘘は感じられない。彼女は悲しそうに笑いながら口を開く。
「凪沙ね…私がこの高校行くって言ったら自分の行きたい高校諦めて私に合わせてくれて…私よりホントは頭良いのに…もっと良いところ行けたはずなのに…このまま行けば大学まで私に合わせちゃう。そんなことになったら凪沙は自分の夢まで諦めなきゃいけない!それだけは…それだけはダメなの!私がしっかりしてないから…。」
彼女いわく凪沙さんは柏崎さんが心配で柏崎さんよりワンランク上の高校の受験を諦めてこの高校に進学することを決めたらしい。
でも友達と同じ高校に行こうと考えるのは別に不自然じゃないと思う。ただ柏崎さん自身はすごく責任を感じているのも事実だ。つまり…。
「柏崎さんは三年生に選挙勝ち抜いて生徒会長になることで凪沙さんを安心させたい。そういうことだよな?」
「そうだよ。私ずっと内気で一歩踏み出すのが怖かった…クラスでもこんなに積極的に接するのは凛音くんが初めてなんだよ?だから私、変わりたいの!お願い…凪沙だけには頼りたくないの。」
いきなり名前呼びを受けて少し動揺する。だがそれはそうと問題は彼女を勝たせることが出来るのかどうか。それはおそらく難しいし当選確率はかなり低いだろう。上級生を差し置いて会長になった事例は聞いたことがない。
「協力はします。でも演説は考えさせてください。」
「ホント?じゃあ明日から準備するから生徒会室が嫌なら別のところで話し合わない?」
「分かりました。探しておきます。」
「ありがとう…よろしくね。じゃあ私は生徒会室行くから!」
柏崎さんは小悪魔っぽく、ふふっと笑うと室内に戻っていった。そして逃げられなくなった。高カロリーを消費して応援演説をしなくてはならない結果になりそうな気がする。
屋上をあとに階段をかけおり、部室に向かうと天文部は今日は早く終わっていたようで、みんな帰宅済みであった。ただ窓際付近に配置された椅子には待ち合わせをしていた紫ノ宮さんが腰を掛けて読書をしていた。
「ごめん待たせちゃった?」
「柊くん。ううん今さっき部活も終わったところだよ。だから大丈夫。」
「じゃあ帰るか。」
「そうだね。」
部室の鍵を紫ノ宮さんから受け取り、部室の鍵締めを行う。その後は鍵を職員室の鍵置き場に持って行くのだがホント職員室嫌いなんだよなぁ。てかここの教師があんまり好きじゃないんだよなぁ。
紫ノ宮さんと共に職員室に入り、鍵を返却すると担任である小淵沢と鉢合わせた。まぁ悪いことじゃないんだが。
「柊お前。柏崎の応援演説やるんだってな。」
「やらされるってのが正しいです。」
「まぁ適当に頑張れ。」
「てかなんで知ってんの?」
「口の聞き方には気を付けろ。俺とお前は友達じゃねぇんだわ。」
小淵沢は人の頭を軽くチョップすると書類を持って職員室の奥へ行ってしまった。体罰。今の体罰だよね。そんなくだらない思考を頭のなかでしながら職員室をあとにして紫ノ宮さんと共に下駄箱へ向かう。
応援演説する話がここまで早く広がったのも柏崎さんの仕業だろう。とことんまで逃がすつもりは無いらしい。本気で覚悟を決めて準備をしていかないとダメなようだ。無関係だと思っていた生徒会選挙が俺にとって最悪の行事となった瞬間であった。
「やーい。体罰教師。」
聞こえないように小声でつぶやき、チョップされた部分を片手で撫でる。脳細胞がいくつか死んだって言えば慰謝料請求出来ないかな。
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