君と見た空は一つの星しか見えなくて

黒百合

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第ニ章: 生徒会選挙

第16話: 喫茶アザレア

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 まだ日は暮れておらず若干な青空が広がっている。グラウンドでは部活をしている生徒がまだおり走り込みなどをしている。しばらくは早く帰れなくなりこの光景は見れなくなるだろう。
 校門を出て数分、共に下校している紫ノ宮さんがそっと俺の腕を引っ張って引き止めた。目を背けながら不安そうな表情で彼女は口を開く。

「柊くん応援演説ホントにやるの?」
「演説はするつもりはないけど協力はするつもりだよ。」
「柊くんは優しいから受け入れると思ってたけど。もとを辿ると私のせいでやることになっちゃった訳だし、協力出来ることなら私もしたいから。」

 ここまで言ってくれているのに協力を拒んだら彼女はもっと気負いしてしまうだろう。だったら少しでも協力してもらった方がいい。でも困っていることって言ってもな…。
そう言えば柏崎さんに生徒会室以外で話し合いの場を設けることを約束していたのだった。だけどコミュ障の俺にそんな場所は思いつかない。乃愛はそういうところは疎そうだし、恭介はなんか頼ると柏崎さんとの交流でしばらくいじられそうだから論外。となると一番頼りになる人は紫ノ宮さんだろう。

「生徒会室以外で話し合いの出来る場が欲しいと思っているんだけど紫ノ宮さんどこか無い?」
「うーん。私のバイト先カフェなんだけどお客さん少ないし、静かだから打ち合わせするとかには良いかもしれないよ?あ、でも学校内のほうがいいかな?」
「いやカフェなら良いかもしれない。案内頼めるか?」
「うん!いいよ…柊くんこれから時間ある?」
「おう。」

 紫ノ宮さんは嬉しそうに笑顔を浮かべると俺の腕を引いて、彼女のバイト先でもある喫茶店に向かう。気持ち嬉しそうに紫ノ宮さんは頬を緩めている。あからさまに顔に出てしまっているのが可愛らしい。
 住宅路地を抜けて街に出るとオシャレな店がたくさんある通りに出る。テレビでやっていた有名なケーキ屋などの店が並んでおり、人の行列が続いているのが見える。
 目に写る様々な店を気を取られながらも紫ノ宮さんのあとについていく。実は街まで出ることはあんまりない。と言うのもザ・パリピを象徴するブティック系が並んだりするいかにもっていうお店の通りはあまり得意ではない。頭の悪そうな学生がキャーキャー言いながらはしゃいでいる店は好きじゃないのだ。静かにお買い物はしたいのだ。ほらコミュ障だから店員さんから話しかけてくる店とかは嫌いなわけで。
 そんなこんなでオシャレなストリートの路地裏にそっと置かれた静かな外見のレトロな喫茶店にたどり着いた。暗い茶色の外装に、店頭のブラックボードには営業時間とおススメのメニューが書かれている。店長さんはきっと落ち着いた雰囲気の優しいおじさんだったりするのかな。などと想像が膨らむ。

「ホントに落ち着くところだね。」
「えへへ。私もちょっとここだけは落ち着くんだ。マスターに頼んで端の席とって貰うね。」
「なんかいろいろごめん。」
「私のバイト先なんだから任せて。」

 彼女は自信満々そうに喫茶店の扉へと続く三段くらいの小さな階段を駆け上る。勢いあまったのか少しつまずきかけて体勢を立て直すと彼女は振り返ってこちらを恥ずかしそうに見る。うん、可愛い。可愛い。
 紫ノ宮さんは喫茶店の扉を開くとカランカランと来店を知らせる鈴のような音がする。この音も先ほどの街の店通りに比べると優しくどこか落ち着く雰囲気を醸し出している。
 紫ノ宮さんに手招きされて店内に入るとすごくおしとやかそうな女性がコーヒーのカップを拭きながら待ち構えていた。内装も落ち着いておりアロマの程よい香りが店内には広がっている。天井から鳥かごのようなものに添えられた観葉植物が店内の雰囲気をより際立たせている。
 店員と見られる女性は拭いていたカップをそっとキッチンに置くとこちらに向かって歩いてくる。そして軽く一礼すると俺の方を見るなり微笑んだ。

「いらっしゃいませ。あなたがリナちゃんの彼氏さんね!」
「どうも。え?」

 なんでそんな些細な情報知ってるの。この店員さんまさかすごい人?いやそんなことないか。よくよく考えたら男女が一緒に喫茶店来たら高確率で家族か恋人だよね。紫ノ宮さんは俺の方を向いて店員さんの方に手を向けるとそっと紹介を始めた。

「柊くんに紹介するね。こちらは店長のモカさん。」
「初めまして私は百目木モカ。『喫茶アザレア』の店長をしています。」

 店長。落ち着いた雰囲気の優しいおじさんじゃない!?見た目の若い二十代くらいの女性はにっこりしながらこちらを見ると視線を紫ノ宮さんに移した。そしてニヤッとした笑いを浮かべて紫ノ宮さんに話を振る。

「リナちゃんはこういう男の子がタイプだったのかぁ。そりゃ色気ついて髪も染めてイメチェンしたくなる訳だよね。」
「ちょっモカさん!」
「うふふごめんね。初々しくてつい。柊くんもゆっくりしていってね?」

 紫ノ宮さんはもう!と恥ずかしそうに膨れると店の奥に俺を連れて入っていく。店長さんはニヤニヤしながらこちらを見つめてくるため少し落ち着かない。
 席につくと店長さんはカップに入れた出来立ての紅茶を二杯持って出してくれた。

「ふふっこれは私からのサービス。可愛い妹が彼氏を連れてきたみたいな感じでお姉ちゃん嬉しいなぁ。リナちゃんも大人になったんだね。」
「モカさん。柊くんの前で変なこと言わないでくださいね…?」
「はーい。柊くんはリナちゃんのどこが気に入ったのかな?お姉ちゃんに話してみ?」
「もう!モカさん…。柊くんごめんね?」
「いやぁこういうのは機会があるときに聞いとくべきだよリナちゃん?」

 完全に紫ノ宮さんが店長さんのペースに飲まれてる。でも心なしか紫ノ宮さんは嫌そうではなく店長さんに対して心を開いているように見える。溝口のときとは対応が明らかに違うからだ。見ていると本当に姉妹のようで見ているこっちまでほっこりしてしまう。
百目木さんは紅茶をテーブルに置くとそっとキッチンに戻る際に俺に耳打ちする。

「柊くんもリナちゃんのことよろしくね…危なっかしい女の子だから守ってあげてね。」

 勘違い男子を生んでしまいそうな対応に少しときめきかけたが俺には紫ノ宮さんがいる。裏切れないものがある。彼女居なかったら正直片想いして告ってフラれるまであった。
 店長さんは小走りで走ってバーの中に入るとのんびりとオープンキッチンに立ってカップを磨いている。店長さんなんかずっとカップ磨いてそう。
 確かにここであれば落ち着いて話し合いが出来そうだ。店長の百目木さんも優しそうだし、ふと目に止まったメニューも良心的なお値段だ。ただメニューの一番上に書かれた『百目木スペシャル』五千円は除く…。何それ何がスペシャルなの…?めっちゃ気になるけどぼったくりの香りがする。
 向かいに座る紫ノ宮さんは紅茶を口にするが熱かったのか舌を少し出して冷ます。そのあと彼女は紅茶を再び一口飲むとホッとしたようにこちらに話しかける。

「柏崎さん凄いよね…二年生なのに生徒会長狙うなんて。私じゃ無理だから尊敬しちゃうな。」
「普段って柏崎さんってあんなに積極的だったか?」
「どうだろう…私が言うのもあれだけど結構大人しいイメージだったかな…。だから今回は少し驚いてる。」

 柏崎さんの言っていた台詞が引っかかっている。
『私ずっと内気で一歩踏み出すのが怖かった…クラスでもこんなに積極的に接するのは凛音くんが初めてなんだよ?』
 それが真実であったとして、俺が応援演説をしていいのか本気で考えているのは皆の前で話すのが嫌だからだけではない。ごく僅かな可能性で柏崎さん本人が当選したとき彼女はそこから先を見ていないのだ。
 親友の凪沙さんに自分は一人でも大丈夫と伝えること。それが柏崎さんの目的でありゴールだ。だが話を聞くに積極的に接するのが彼女の本来の性格で無ければ彼女はこの先、俺だけでなく周りの全校生徒の前で積極的に接していくことに苦しむことになる。生徒会の仕事でキャリアが一年あるとはいえ、得手不得手は当然存在する。下手をすれば無責任に柏崎さんを苦しめる道に導くことになるのに俺は手を貸しても良いのだろうか。
 考えごとをしていると前から手が伸び、俺の頭を軽く撫でる。俺の心配とは裏腹に優しく静かにその手は俺を包み込む。その手から伝わる温かい熱にホッとしてしまう。
 今はまだ考えすぎなのかもしれない。それでも柏崎さんの必死な行動には嘘がなかった。いや関係ないか。ただでさえ俺は巻き込まれただけだ。彼女の満足の行くまで付き合えばいい。たとえ結果がどうであったとしても。
 静かな店内には壁掛け時計の時を刻む音が広がる。生徒会選挙。今までは気にも止めていなかったイベントが俺にとっての重大イベントとなって刻一刻と迫っているのだった。
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