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第一章: 天文部
第7話: 発覚
しおりを挟む翌日、ついに流星群まで残り三日となった。しかし天気はあいにくの大雨。部長は憂鬱そうに部室の窓から校庭を眺めている。恭介と乃愛と俺の三人は昨日のあった紫ノ宮さんの周りの事象について報告会を部室で行っていた。
昨日の一件を軽く報告する。好きってことは黙っておく。部長がいる手前でこういう恋話すると間違いなく数時間の拘束を食らいそうだからだ。
「で、この後図書館に謝りに行くつもりってわけ。」
「柊さんにしては前向きだな。だけど泣いてたのは何か引っ掛かるよな。でも泣いてたらぶっちゃけ俺もそういう風に聞いちゃうわ。」
「恭ちゃんは無神経過ぎなんだよ。あ、そうそう。あたしが紫ノ宮さんの周りの女子について掴んだことは同じクラスの溝口さんについてかな。」
恭介は不満そうに言葉をつづける。
「紫ノ宮さんとは真逆の性格って言っても過言じゃないよな。」
「そうね。溝口さんだけどこの前、紫ノ宮さんから金貰ってた。」
「お金?」
思わず乃愛の言葉を疑い、聞き返す。
「うん。昨日の朝に下駄箱でね。」
「直接見た情報ってことか。」
ウワサではない確証の取れた情報に思わず頭を抱える。これっていじめがあるってことの表れとも言えるだろう。
「本題。溝口さんが最近紫ノ宮さんに対してあたりが強いんだよね。体育の時間に起こった紫ノ宮さんのケガの真相も周りの女子に吐かせてみたんだけど…。」
吐かせたって言ったこの人?まさか脅しのような手を使ったのだろうか。暴力事件のウワサで乃愛は恐れられてるから他の女子に聞くだけで答えてくれそうな感じはあるけどお前がいじめに走ったら意味ないのよ?
「紫ノ宮さんさ。何事にも一生懸命な感じでさ。でもドジしちゃってるケース多くてね?溝口さんはそれでも笑顔を絶やさない彼女が気に入らなかったんだって。それで最近いじめに走ってるみたい。」
なるほどな。これで結び付いた。彼女は頑張って自分の気持ちを押さえ込んで暗い気持ちを、そっと作り笑顔で隠しているのだ。それが一人でかかえこめる量が限界に近づいているのは、昨日の痛々しい笑顔から聞かなくても分かる。
「そんなつまらないことで女子っていじめられてるのかよ…。」
恭介があからさまに嫌そうな表情で答えると乃愛は続けて語る。
「恭ちゃんが思ってるよりも女子のコミュニティってめんどくさいんだよ。で?柊は紫ノ宮さんをいじめから助けてあげるの?」
ふらっとめんどくさそうに流星群の資料を片手に取ると目を通しながら気だるそうに恭介が口を開く。
「でも柊が戦うにも相手が女子なら辛いんじゃねぇの?相手がクラスのカーストトップなら尚更だよな。」
「乃愛との約束はここまでだから大丈夫。心配してくれるのは嬉しいけどやれるだけやってみる。」
会話を切り上げて部室を後にする。いじめについては極力触れないでとにかく今は昨日のことを謝ることが最優先だ。かと言って俺が出来ることは限られている。それでも時間が無いのは良く分かっている。彼女の気持ちが崩壊する前に打つ手を考えなくてはならない。
部室を足早に立ち去り、最近通い慣れた図書館に足を運ぶ。
相変わらず図書館自体は空いているが本来の用途で図書館を利用していないことは本当に申し訳ない。昨日一悶着あった少女を探し、館内をうろうろしていると、その少女はカウンターで業務をしていた。まぁさすがに昨日の今日もあってかどこか落ち込んでいるようにも思える。
呼吸を整え、静かな口調で話しかける。
「紫ノ宮さん今ちょっといい?」
「え…柊くん?」
驚いたような表情を一瞬浮かべた彼女は、瞬間的に目をそらして俯いている。慌てて手元で作業をしている素振りを見せたりと明らかに動揺させてしまっているようだ。そりゃ昨日のことだし話しづらいだろう。俺から切り出さないと。
「昨日はごめん!」
紫ノ宮さんは俯いた顔を上げてこちらを上目遣いで見つめている。目がふと合うとあたふたしながらも必死に言葉を繋いでいる。
「なんで君が謝るの…むしろ逃げたのは私…心配してくれたんだよね?なのに…私のほうこそ謝らないといけない…ごめん。こんな私でも…前みたいに話してくれる?」
「ああ。それはもちろん。」
「うん!ありがとう。私…」
彼女の表情が少し明るくなり紫ノ宮さんが何かを言いかけたのも束の間、横から鋭い声が入ってきた。その瞬間にそれが誰の声なのかを察知した。ダークブラウンの髪色に染めた短髪が特徴でいつもクラスで女子を仕切っている女子のカーストトップ。乃愛の言う溝口だろう。
「莉奈誰それ?」
「溝口さん…えっと同じクラスの柊くんだよ。」
やっぱりとは思っていたけど認知されていなかった。
「ふーん。莉奈と付き合ってんの?」
紫ノ宮さんは咄嗟に俯いてしまう。彼女の目には少し涙が浮かんでいるのが分かる。彼女は溝口さんに対して怯えているのは誰が見ても分かる惨状だった。
「まぁどっちでもいいけど。莉奈貰うから。」
「溝口か。お前人を物みたいに言うのはどうかと思うけど?」
溝口の顔が明らかに引きつっているのが分かる。溝口さんはこちらを軽く睨み付けると紫ノ宮さんの手を引いて、行くよと言わんばかりの強引さで連れていく。
「柊くん…。またね。」
「あぁ。」
冷静になると何もしないほうが良かったかもしれないが間違いなく紫ノ宮さん自身は怯えていた。彼女にとって溝口さん自体は彼女を縛る鎖のようなものなのだろう。
外から来る背筋を凍らせるような冷たい空気感が自分の中を抜けていく。図書館に広がる静寂が緊張や不安をより増幅させていく。
外の大雨がより一層強さを増してきて、図書館の窓を殴り付けるかのように強く降り注ぐ。その雨は彼女の心を反映したものだったともとれるくらい不安を駆り立てる。
紫ノ宮さんの言い残した言葉をずっと考えながら図書館を後にする。もしあれがSOSだったのならどうすれば彼女を救えるのだろうか。
家に帰って、かばんを放り投げベッドの上に仰向けに寝転がると頭の中では今日のことを考える。
紫ノ宮さん自身が誰かに助けてって言うことは無かったけれど紫ノ宮さんの目に浮かんでいたのは助けてほしいというサインなのではないだろうか。それなら助けなきゃいけない。でもどうやって。俺にできることはあるのだろうか。
優しく人当たりが良い彼女が、気配りに何より気を使う彼女が、人の目の前ではなく誰もいないところで泣いていたのは誰にもバレないように一人で必死に頑張っているからだ。それを否定するような真似だけはしたくはない。
まともに溝口と勝負するにも人脈の無いこちらとカーストトップとでは結果は分かりきっている。では端っからまともにやりあわない選択を取るしか無い。使える手は何であろうと使う。であれば溝口の痛いところを狙うしかない。溝口の痛いところそれは何だろうか。
紫ノ宮さんの気持ちの崩壊は近い。だったらそれまでに敵を知るしか無い。俺のような空気とカーストトップが話し合える場をなんとかして作らなくてはいけない。それが問題だと思っていた。
時計を見るともう日付は変わっていたため、慌てて就寝する。難しいことは明日続きを考えよう。
だって今日は紫ノ宮さんにも謝れたんだし今日のノルマは達成したも同然だろう。そんな風に思っていた俺はタイムリミットがもうそこまで迫っていたことにこのときは気付かなかった。
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