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第一章: 天文部
第5話: 失われたエガオ
しおりを挟む流星群の到来まで残り四日となった。朝は学校に来てもまだ眠たい。
今日はいつもに増して眠い。いろいろ考えていたら寝不足になってしまった。
下駄箱であくびをしながら上履きを取り出し地面に落とす。気だるそうにローファーを拾って下駄箱に押し込む作業も数年やっていると思うとだるく感じる。いつかこういうのが懐かしく感じる日が来るものなのかね。
「柊おはよう!」
元気よく朝からわざわざ俺に話しかけてくる物好きは恭介くらいだろう。
「おぉ恭介か。おはよう。お前は朝から元気だね…。」
「柊さんは相変わらず無気力だな。酷い顔してるぞ。」
「あいにく寝不足でな。」
「お、紫ノ宮さんのことか?」
ここまでバレてると、もはや隠す必要すら感じない。
恭介とくだらない会話をしながら教室に向かう。教室につくと自分の席に座っていた紫ノ宮さんとふと視線があった。恭介はニヤッとしながらそそくさ早足で自分の机へと行ってしまう。恭介のやつ後で覚えておけよ。部活での仕事倍に増やしてやる。
「紫ノ宮さんおはよう。」
「あ…うん。おはよう柊君…。」
図書館で話したときにしていた優しい笑顔はあまりなく、どこか影のある笑顔で気のない返事。いじめの文字が頭の中を掠めたので慌ててそうではないとかき消す。そうではないと…願って。決めつけるにはまだ材料が足りないから。共通の話題は…。
「今日委員会居るの紫ノ宮さん?」
「うん…一応…活動日だから…。」
「そっか。えっと…怪我のほうは大丈夫?」
勇気を出して聞いたその質問は彼女の目に動揺を映す。
「え…知ってたんだ。うん…大丈夫。ありがとう。」
何か焦っているような口ぶりで会話が途切れてしまう。昨日はごめんね。と軽く笑う彼女の元気のない表情に微かに口元が緩んで微笑む。
そのとき胸が締め付けられるような何かを感じる。誰が見ても辛いことを隠して必死に笑っているようにしか見えないその笑顔は痛々しくまともに見ると可哀想でならない。それでもそんな表情を見ても俺はいつも通りに彼女に接してあげることは出来るのだろうか。
その数分後、乃愛はイヤホンで音楽を聴きながら教室に入ってきてカバンを自分の机に軽く置くと俺のところに来る。端から見たらホントにガラの悪いギャルなんだよなぁ。
それはそうと紫ノ宮さんの周りの調査を今日から乃愛とやるつもりだが正直いじめが発覚したところでどうしようかまでは考えついていない。ただ今日、元気がないだけならそれでいい。ただあんな表情されたら、嫌でも気になってしまう。
乃愛はしばらく紫ノ宮さんの近辺の女子を探ってくれると言ってくれたので正直俺としては助かる。そのかわりに俺は紫ノ宮さんをどう思っているのかという答えを出すというのが乃愛の出した条件だった。それを考えたが分からず挙げ句の果てには寝不足の始末だ。
そんなこんなで退屈な授業を乗り切り、あと数分で一日の授業の半分が終わろうとしている。しかし肝心の紫ノ宮さん身辺は何も起こらない。むしろ良いことなのかもしれないが、依然として紫ノ宮さんは元気無さそうである。
昼のチャイムが鳴り、俺、乃愛、恭介は昼を持って屋上に上がる。ここ最近は天文部で屋上に集まり、昼を食べるようにしているのだ。流星群の到来も忘れてはいけない大切な活動の一つのため準備を兼ねてというのが建前だがぶっちゃけ人が居ないので快適なのだ。
今日の朝のことを含め、屋上の金網にもたれている乃愛に疑問を投げかける。
「乃愛はなんで紫ノ宮さんが元気無いと思う?」
「昨日の今日だったらまだ元気って訳じゃないだろ。」
「でも外傷は無さそうだったし。」
「せっかくだし本人に柊が聞いてみたら?今日の放課後紫ノ宮さんって委員会なんでしょ?」
ベンチに座りながらコーヒー缶を飲んでいる恭介が横から口を挟む。
「今日活動あるか朝聞いてたじゃん柊。」
「だったら図書館寄ってから行くから今日の部活遅れるぞ。」
「しっかし柊さぁ。どうしてそんなに紫ノ宮さんを気にしてるんだよ?」
「分からん。最近割と話してるから。」
「溝口がどうも裏で糸を引いてそうな気がすんだよな。二人は溝口本人との接触は避けたほうが良いんじゃね?情報収集で大切なのは逃げ足でもあるからな。」
何お前。スキャンダル写真狙う記者か?
「逃げるかは置いておいて関わらないのは恭介の言う通り、吉だろうな。」
「参考にはする。でもあたしは自分なりに探り入れてみるよ。」
恭介はコーヒーを飲み終えると缶を揺らしながら部活の方の活動について語りだした。
「となるとお前らが欠けてる間に俺まで欠けたら天文部での先輩への負担が大きくなっちゃうな。俺はお前らの分も天文部で働いとくよ。」
「乃愛。恭介がらしくないこと言ってるんだが。」
「恭ちゃんはそんなこと言わないよ。」
「お前ら俺を何だと思ってるの!?」
冗談を交わしつつ、放課後に乃愛と俺はそれぞれ別に紫ノ宮さんの周囲を探る予定を立てて動くことにした。
俺は紫ノ宮さんのことをどう思っているのだろうか。この感情は今まで持ったことの無い感情だった。今朝の痛々しい笑顔が目に焼き付いて消えない。あの笑顔に影があるのは言うまでもなかった。
昼休みの終わりを告げる予鈴が校舎の屋上にまで響く。慌てて教室に向けて一斉に俺らは走って向かう。
屋上を後にするとき、ふと見上げた空はどこか暗く、風は肌を刺すような冷たさだった。
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