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第一章: 天文部
第4話: 再び日常に戻りつ
しおりを挟む流星群の到来まで残り五日。
天文部の活動は忙しさを増す。天体望遠鏡のテストも無事に終わり、あとは天体観測の活動レポートを部活全体で作らなくてはならない。部活勧誘も正直しなくてはいけないが天文部の活動レポートも実のところかなり重要で、これを出さないと昨日の屋上での活動が屋上で遊んでいたと見なされてしまい、今後の屋上での観測に響いてしまう。早ければ五日後の流星群観測が出来なくなってしまうのだ。
そのため、今日のシフトは特別体制が引かれており、天体観測レポートの作成を部活用パソコンで行うのが部長と恭介。流星群の資料作成を図書館にて行うのが俺と乃愛という配分になっている。部活用パソコンの数に限りがあるため図書館に配置されたパソコンを数台拝借して俺らは行う。
午後の授業が終わると俺と乃愛は急いで教室を飛び出し、図書館まで向かって走り出す。何と言っても今日はチーム別々の活動であるため早く終わったチームは即座に帰宅が許される。という暗黙の了解がある天文部のホワイトな仕事の日だからだ。
「やっぱり空いてるな…。」
「むしろ好都合じゃない?混んでると面倒だし。ささっと終わらそうよ。」
安定の好き具合にもう慣れた。これで三日連続で図書館だからだ。
問題の流星群の資料といっても概要をまとめたりするだけで良い。なぜならこれは五日後の活動の報告書をまとめるのをサポートするだけの資料だからだ。あとは直接見たものとの比較などが出来ればいいので、こちらの資料作りは思いのほか早く終わりそうだ。俺らよりも大変なのは昨日の活動レポート作成班だろう。
空いていたパソコンとしばらく向き合い作業を行う。横で作業をしている乃愛もある程度終わりの目通しがついたみたいで少し腕を伸ばしたりしてストレッチしている。俺も資料を軽く作り終わったし、とりあえず今できる作業はこんなところだろう。
最近適当に活動してたから、もしかしたら久しぶりにまともに仕事したんじゃないの俺。褒めて褒めて。
そんななか時計が四時半ちょい過ぎを示しているのを見てふと最近図書館で会うことの増えたクラスメイトの姿が見当たらないことに気付いた。ここ数日立て続けに会っていたこともあり、何か習慣的なものでも感じていたのかもしれない。
毎日真面目に勤務してたら大変だろうけどね。俺も毎日真面目に活動してたら過労死しちゃうよ。バカにできない問題なのよ過労死。
つまらないことを考えながらボーッとしていると一段落ついたのか乃愛が口を開く。
「どうした誰か探してんの?」
「あ、いや。何でもない。」
「紫ノ宮さんだったら今日の体育で怪我してたから病院行ったんじゃない?」
怪我?普通に体育の後も授業にも出てたような気がする。
「病院?」
「あ。でもそんなたいした怪我じゃなかったみたいだけど…いや何でもない。」
乃愛が言葉を濁した気がした。都合の悪いことだったりするならあえて聞かないほうがいい。でもよくよく考えると昨日紫ノ宮さんは『明日もここに来る?』と俺に尋ねたのだ。つまりは彼女が今日も来る予定だったと考えられなくもない。
言葉を濁されたこともあり、怪我には何か裏があるように思えてならなかった。聞いたところでどうにか出来る問題じゃないのは分かってる。だけど…。
全く違うことを考えながらも作業は進める。そこから三十分ほどパソコンに向き合い、キーボードをひたすら打つ作業。お給料が出てもいいのでは無いかと思うほどの仕事を片付けて深呼吸を一つ。
流星群の資料をある程度まとめられた俺たちはパソコンの電源を落とし、図書館を後にする。
「ねぇ柊。このあと空いてる?」
「空いてるけど?」
「じゃあちょっと付き合ってよ。話したいこともあるから。」
天文部の活動がいつもより早く終わった乃愛と俺は少し寄り道をして帰ることにした。乃愛とは家の方向が同じであるため帰りは割りと一緒になることが多い。
部活に入る前は恭介とともにカラオケに行ったり、ファミレスで軽食を取ったり、ゲーセンに寄ったりなど高校生らしいこともしていた。別に特別優等生でもない俺らは部活の無いときは帰りに遊んだりは割りと当たり前のようにしている。
今日は俺と乃愛だけなのでゲーセンで遊ぶことにして、最寄り駅周辺のゲーセンに足を運ぶ。乃愛は実家暮らしに不満があるようですぐには家に帰りたくない反抗期真っ盛りであるため寄り道は貴重な時間らしい。
本人に反抗期とか言うと恐らく絞められるので言いません。命は大切にしないとね。
ゲーセンは駅近なこともあり、そこそこ混んでおり俺らのように学校帰りによっている学生もそう少なくはない。乃愛は真っ先に二人プレーの可能なシューティングゲームに百円を二枚投入し銃型の機械を握る。正直これ苦手なんだよね。
「久しぶりじゃない?柊とこれやるの。」
「最近部活忙しかったからな。仕事とか少し忘れて遊ぶかー。」
「足引っ張んなよ?」
「そんな得意じゃないんだけどこれ…俺のこと誤射しないでね。」
「角度的に当たらないから平気だろ。」
角度的に当てられるなら当てられてたってことですか!?とまぁこの手のシューティングゲームといっても座ってやる形のゲームで、襲ってくるゾンビを撃って倒していくようなゲームだ。ゾンビに遭遇すると震動が来るように設計されており、ケツへの刺激が強い。屁が出てしまう危険性まであることと横が仮にも女子ということからもう一つのものと戦わなくてはならない。
そもそもこういうのは女子とやると『キャー怖い』などと甘えてきたりするが乃愛は残念ながらその類いではない。
銃を構えた彼女は素早い反応速度で敵の脳天を綺麗に撃ち抜いていく。怖がるどころか積極的に楽しそうな表情を浮かべながら倒していっている。可愛いというより凛々しいと言うものだろう。
「柊!大物来るよ!」
「うわぁ…怖い。俺…乃愛さんが怖い…。」
「銃の角度がもう少し傾けば良かったな。」
「初めてこのゲームの機械設計した人に感謝している自分がいる!」
いわゆるボスゾンビも酷い有り様で乃愛の放つ弾丸を脳天に直撃させられて瀕死目前だ。俺はときどき思うのだ。一番怖いのは幽霊などより人間であると。乃愛さんは敵に回さないようにしたい。その後、ボスゾンビは打つ手なく沈んでいった。相手が悪かったんだよ。
「はー。すっきりした!付き合ってくれてありがとね柊。」
「ストレス発散になったなら良かったです。」
「なんで敬語なのか分かんないけど。」
静かに笑うと彼女は言葉を続ける。
「紫ノ宮さんのこと。柊がどう思っているのか教えてくれないかな。」
「どうって…普通にクラスメイトで。」
「そうじゃない…気にしてるのはあたしだって同じ…。」
「それは俺のこと好きってこと?」
乃愛は顔を赤くしながらグーを構える。あ、殴られる!
「は?なんでそうなるのよ!気持ち悪っ。ありえないから!バーカ!」
「冗談だってごめんなさい殴らないでください。」
乃愛は構えた拳をそっとしまうと落ち着いた口調で話を始める。
「紫ノ宮さんと最近親しいみたいだから…紫ノ宮さんにあったこととか知らないほうが柊にとっても紫ノ宮さんにとっても良いのかなとか考えてて…。」
お見通しだったとは思わなかったけど案外表情に出てたのかも知れない。気になっているのは紫ノ宮さんの怪我だ。紫ノ宮さんの怪我の件で体育に関しては盲点だった。女子と男子とではやってるものが違うのでそもそも俺一人では得られない情報だったから。
「聞いたところで俺は彼女に何かしてあげられると思うか?」
「どうだろうね。柊がちゃんと自分のなかで紫ノ宮さんのことどう思っているのか。はっきりしたらそれは自ずと分かるんじゃない?」
紫ノ宮さんをどう思っているか。そりゃ数回話したことしかない女の子で優しくて可愛いとは思う。けど面倒なことには関わりたくない。増してやその怪我がいじめだったら尚更だ。でも知ってて助けないのは違う。だったら知らないほうが…。でも!
「紫ノ宮さん…いじめにあってるの…?」
「もしかしたらいじめかもしれない。今日の怪我だってどう見ても故意だよ…。」
「だって溝口かなんかに逆らわなかったらいじめには合わないんじゃないのかよ!」
「あたしだって分かんないよ…。ただ紫ノ宮さん今日はずっと一人だった。そこにきて今日のバスケの試合で溝口の取り巻きに突き飛ばされてたし…。」
突き飛ばされたって…少しプレーが熱くなってしまっただけってことも…。
「ごめん…乃愛は悪くないのに少しキツく当たっちゃったな。」
「いいよ。ただこれだけでいじめって決めることは出来ないよね。」
「男子の俺が調べるには無理なところも多いからもう少し乃愛が調べてくれないか?」
「直接守るのは無理だよ。あたしはウワサのこともあるし…かえって紫ノ宮さんに恐い思いさせちゃうかもしれないし…それでもいいなら調べて見るけど。」
「無理のない程度でいいよ。というかなんで乃愛が紫ノ宮さんを気にかけてんの?」
「いや…悪い子に見えなくてさ。周りに気配りは出来るし…でも今日の紫ノ宮さん無理して笑ってる感じがすごいしたんだよね。痛々しいっていうのかな。さすがに可哀想に思ってきちゃって…。」
乃愛の話を聞いて昨日話した時の紫ノ宮さんの様子を思い出す。昨日は普通に話してて元気そうだった。だとするならあの後に何かがあった?
「柊さ。マジで自覚ないの?」
「え。何の。」
ふと乃愛の問いかけに疑問符を浮かべる。
「自分のことじゃないのにさっきちょっと当たりが強かったよね。それが紫ノ宮さんに対する自分の気持ちなんじゃないの?枳殻先輩の言ってたことまさか本当だったとはね。」
「それホントやめてくれよ。」
冗談だよと乃愛は笑って共にゲーセンを後にする。正直根も葉もないとは思っているけど。
なんでこんなに紫ノ宮さんを気にしているのか分からない。俺はたかだか二回くらい話しただけの女の子に対して何を想っているのだろうか。今は何も分からない。
いじめにあっていたら可哀想だなという哀れみだろうか?
ーーーーーそれとも…。
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