君と見た空は一つの星しか見えなくて

黒百合

文字の大きさ
11 / 28
第一章: 天文部

第10話: さよなら私。

しおりを挟む



 その翌日、彼に声を掛けようとするも勇気が出ません。頑張って近付こうとしても足が動かない。そんな風にしているうちに放課後になってしまいました。私は俯いたまま再び死にたいと思いました。自分が悪いことをしたのに謝れない。
 それでも彼は私のもとに謝るためだけに来てくれました。それが何より私にとっては嬉しかったのです。暴言ではなく、優しい言葉を掛けてくれたことが何より救いでした。しかし幸せはすぐに崩れました。溝口さんが私を迎えに来たのです。初めての事態に私は焦りました。柊くんと話していた私を見ていた溝口さんは私に対して彼が帰った後に言いました。

「莉奈はあーいうのがタイプなわけ?」
「違う…柊くんとはそういう関係じゃ…。」
「お前、アイツに助け求めたんじゃねぇよな。」
「違うよ!柊くんとは何も…。やめてよ…私には何してもいいから柊くんには何もしないで。」

溝口さんは笑いながら私の髪を引っ張って耳元で囁やく。

「必死過ぎなんだよ。好きなのバレバレだよ莉奈。」
「痛い…やめてよ……。」
「何しても良いんでしょ?」

溝口さんが髪を離すと膝から崩れて私は地面に膝をつく。

「莉奈さぁ。自分のこと好きになってくれるやつが居ると本気で思ってる?」
「そんなの…」

分かんないよ…でも。こんな私…でも好きになって貰えるなら…そう望むのはダメだろうか。

「言っとくけどお前が人に好きになってもらう資格無いから。その手首の傷気持ち悪いんだよ。アイツがそれ知ったらきっと気持ち悪いって思うよ?嫌われちゃうね。あははは。」

 人に好きになってもらう資格がない…。どんな暴力や暴言よりも傷付く言葉でした。私の気持ちを見据えたように冷たい言葉を放った彼女は笑いながら友達と帰っていきました。悔しいですが何も言えません。確かに気持ちの悪い傷でしょう。嫌われる原因を自分で作ってバカみたい。自業自得だなぁ…。


 帰りの道中、自分の手首を見つめます。死に損なって付けたみっともない傷です。ワイシャツの長袖を伸ばして隠します。周りが笑っている気がするのです。気持ちの悪い女が来たと。
 それが嫌で…怖くて家まで走って帰ります。もう誰にも会いたくない。誰も私のことなんか助けてくれないんだ。
 家に入ると鏡に映る自分の顔を見つめます。もう作り笑いすら出来ないのです。私ってこんなにも醜かったんだ。死ねば解決するのかな、そうは考えましたが一つの感情がそれを拒むのです。彼に振られればこの気持ちに折り合いがつく。明日を私の最後の日にしよう。そう決めたのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そして今日その日を迎えました。
自分から彼に朝から話しかけるのは初めてだ。緊張はするけど今日は私の人生最後の日。神さま…私にちょっとの贅沢を許してください。
 彼の制服の袖を軽く引く。初めて触れられた。それだけで満足している自分がいるけど、今日私は嫌われるために彼の前に立っているんだ。いつもより大胆な行動に自分でも頰が火照っているのは分かる。こんなに好きなのに…私の気持ちは胸にしまわなきゃ。
 柊くんを先導して、人の通りの無い廊下に出る。ここまで来れば誰も居ないよね。振り返って彼を見つめて言葉をそっと吐き出す。

「昨日…ゆっくり話せなかったから…。ここならゆっくり話せるかな…なんて。」

 そっと笑顔を浮かべることが出来た。でも不思議と彼と話していると落ち着くんだ…。本題に切り出そうとしてもなかなか言い出すことが出来ない。すると彼が優しく質問をしてくる。

「昨日言いかけてたこと?」
「あ…うん。私…ちょっと嫌なことがあって…涙もろいんだ…。だから…ホントに……前に泣いてたのは何でもないの…。だから…柊くんも気にしないでほしい…。」

 分かってる。自分でも痛々しい理由だ。それでも私は彼に嫌われる選択肢を選び続けないといけないんだ。優しい彼に見捨ててもらえればいい。柊くんに溝口さんが何かしたら私は耐えられない。

「ああ。分かった…。」
「ありがとう。だから…私は大丈夫。」

深く言及しないんだね。良かった…。それでいい。私に関わらなければそれで…。

「その言葉は泣きそうな顔して言わないでよ紫ノ宮さん。」
「え。」

なんで…私…あれ。泣いちゃダメ…前も心配してくれたんだよ…ここで泣いたら…。

「そんな泣きそうな表情で必死に我慢して…見てられないんだよ…痛々しいし。」
「我慢…?私なにも…我慢なんて…」

『我慢』。私は彼に我慢をしていると言うことはあっただろうか。
その瞬間に理解した。ああ。そういうことか。私がいじめられていること…知ってたんだ。

「我慢か…じゃあ知ってるよね。私がいじめられてるのは…。なのに大丈夫?って。……大丈夫なわけ…無いじゃん…。もう…限界だよ!始めは…私が耐えれば他の子がいじめられなくて済むって…そう思ってた…。でも……日に日にエスカレートしていって…。」

 もういい。すべて吐こう。私はワイシャツの袖をめくって手首を見せた。リスカの傷跡を見た彼は唖然としている。そうだよね…溝口さんの言う通りだ。気持ち悪いよね…。

「…何回も死のうと思ったんだけど…ダメだった…。怖くなって……死のうと思うと…柊くんのこと思い出すんだ……少しの時間だけど…いつも…話してくれて…優しく接してくれて……。明日も…会えるかな…って。でも私なんて…可愛くないし…良いところなんて無い。私は…人に好きになって…もらう…資格なんて……ないから…。」

 止まらない涙を拭いながら言葉を続ける。ここまで言ったら私と二度と関わろうなんて思わないよね。

「柊くんには…知られたくなかったんだ…いじめられてるって…嫌われたくなかった…。…私が初めて好きになった人だから…でも私の恋はもうお終いだね…。もう……放っておいて…優しくしてくれてありがとう。……さようなら。」

 でも彼は私のいじめを知っていたから、動揺した私はまた逃げて。自分の胸に秘めた想いとさよならとだけを伝えて。
 私は誰からも好きになってもらう資格なんて無いんだ…。そう思うと楽だった。告白しても結果は知れてるから一方的な告白で十分だよね。
 行き着いた先は屋上。飛び降り自殺にはちょうどいい高さだ。ふと横を見ると天文部のテントがある。彼はここで活動してるのかな。もう私には関係ないけど…。
 屋上の風は風向き的にも私の背中を押している。金網のフェンスを乗り越えたら…死ねるんだ。私の足は自然と軽かった。死ぬのが怖くない。不思議な感覚に身を任せて歩みを進めていく。


ーーーさよなら、私。



 曇り空が広がる屋上。冷たい風が背中を押す。短かった私の高校生活が終わりを告げる。何もかも諦めて清々しい気持ちで終わるのだ。でも金網のフェンスに足を掛けようとしたとき…足が止まった。
 何も思い残すことはないはずなのに何で…。何で足が動かないのだろう。まだ何か思い残したことがあるというのだろうか。そんなことはないと自分に言い聞かせる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...