君と見た空は一つの星しか見えなくて

黒百合

文字の大きさ
12 / 28
第一章: 天文部

第11話: 部長の風格

しおりを挟む


 どこを探しても彼女が見当たらない。さよならってなんだよ。まさか本気で死のうとしてるんだとするなら笑えない。クラスに戻っていると考え、クラスの中を見てみるがやはり居ない。
仮に校舎の外に出ているとしたらもう手がつけられない…。急いで下駄箱まで走る。階段を二段飛ばしで駆け下り一階の下駄箱までの道のりを急ぐ。
 彼女の上履きがそこにあったら外まで行かなきゃいけない。彼女のことをほとんど知らない俺が校舎外で彼女を見つけ出すのは不可能に近しい。下駄箱に駆け込み、彼女の靴の場所を探す。こんな真剣に人の靴探すなんて思わなかった。分からん…どこだよ…。そんなとき横から鋭い視線を感じて横を見るとそこに居たのはことの発端。溝口朱音の姿だった。今はこいつに掛けてる時間なんてない。

「何してんのお前。」
「なんでもねぇよ。」

 冷たく蔑むような視線を向けて話しかけてくる彼女の言葉を流して紫ノ宮さんの靴の場所を探す。すると溝口は怪しく微笑みながら俺の耳元で囁く。

「莉奈と遊ぶなら私と付き合おうよ。あんな気持ち悪い子よりずっといい思いが出来るよ。」

 溝口は紫ノ宮を見捨てて自分と付き合おうと言っている。だがその真意は彼女の気持ちに気付いていて、俺を横取りする事で紫ノ宮さんを傷つけようというものであるのは悟った。
 溝口の言葉に正直限界が来ていた。ここで言わなきゃもう二度とコイツと一対一で向き合って話す場は無い。溜め込んでいた怒りが溢れていくのも分かったが止まらない。

「ふざけんなよ…お前のせいでどこまで紫ノ宮さんが苦しんでると思ってんだ!お前の都合で勝手に傷つけて自分は知らん顔かよ。人に助けを求めないで一人で我慢し続けたやつの気持ち考えたことが一回でもあるのかよ。それで自殺にまで追い込んで…お前の方がよっぽど気持ち悪いんだよ!」
「は。自殺…何それ。振り向いてもらうためにそこまでするんだアイツ。あはは。お前も災難だね、そんな女に好かれちゃってさぁ。そういうのがキモいからいじめられるのに理解しろって話よ。」

 相手が女子なのは分かってる。でもここまで殴りたいと思った異性も初めてだ。拳を握りしめ必死に耐える。ここで殴ったら紫ノ宮さんを助けられない。別の不祥事を起こしたら彼女のところへは…。

「歯食いしばれよ後輩。」

 そのとき横から現れた一人の少女は溝口に対してビンタをかます。容赦ない横からの攻撃に溝口は崩れ落ちて攻撃の方向を睨む。そこに居たのは顔馴染みでもある一人の先輩。枳殻藍葉で…。

「おはよう柊君。」
「いや…部長。それは…まずいといいますか…。」
「なんで君のほうが焦ってんのよ。で、後輩ちゃん。君がこれ以上いじめを続けるなら居場所は無くなるけれどそれでも言うことは無いのかな。」
「は?いじめた証拠がないのに退学とか出来ると思うの?第一アンタが私を叩いたことのほうが問題でしょ!」

溝口は怒りを浮かべて反論するが部長には表情に余裕を感じる。

「そうだね。あえて問題を作ったの。だってそうすればあなたも被害者として事情を聞かれる場を設けられる。そこで私は洗いざらい全てを話すし、証拠は無くてもここは下駄箱よ?証人ならたくさん居るでしょう。同じクラスの人ならあなたの力で言いくるめられたでしょうけど他学年も多いこの場所であなたには全員を言いくるめられるかな?」

 あたりにはこの騒動で人が集まってきている。周りを見渡した溝口は悔しそうに舌打ちしながら部長を睨みつける。その後細々と溝口は部長に言葉を返す。

「どうすれば黙っててくれるの?」

おそらく今まで媚びを売り続けていたものが一気に崩壊するのが彼女にとっては嫌なのだろう。部長は俺の方をチラッと見て微笑む。え、何?

「私は柊君の出す条件を後輩ちゃんが飲めばいじめの件言う気はないよ。あっでも柊君、条件って言ってもエッチなのはダメだからね。」
「誰が出すかそんなもん!」
「冗談だよ。で真面目な話どうするの?」
「そうですね…もう紫ノ宮さんのようないじめをしないと誓う。あとは紫ノ宮さんに謝る。その二点が守れれば俺は満足です。」
「後輩ちゃんそういうことだから。先輩との約束ね。」

 溝口は悔しそうに頷くと不機嫌そうに教室に向かって足早に歩いて行った。部長の初めて部長らしいところが見れて少し唖然としている自分がそこには居た。
 感謝の眼差しで助けてくれた部長のほうを見るとぐったりして地面に座っている。えー。せっかくカッコいいなとか思ってたのに台無しである。そんな先輩に手を差し出す。

「部長…立てますか?」
「私は嫁入り前の女子の顔を叩いてしまった…あの子明日から不登校にならないよね!?ああどうしよう。私はなんてことをしてしまったのぉ!」
「正直すごく助かりましたけどなんであんな無茶してくれたんですか。」
「部員のみんなは君に協力してるのに私だけ除け者にされるの悔しかったんだもん。」

 なんかちょっと拗ねてる…。
 先輩には悪いがそんなことより紫ノ宮さんの件が優先事項だ。溝口の問題を先に解決出来た以上は後々苦しむのはもう無い。あとは紫ノ宮さんを探すだけだが肝心の位置が分からない。彼女の下駄箱どこだよ。

「あー紫ノ宮さんの下駄箱ここだよ。柊君。」
「え。やっぱ…部長読心術使えるの?」
「いやそんなことだろうなと思ってね。それでこれから口説きに行くんだろう?先輩もついて行きたいなチラッチラッ。」
「ローファーがある以上、外ではないですね。となると…。」
「無視はやめようよ柊君。泣くぞ。」

 死のうとするならどこを選ぶ…校舎内で自殺を図れそうな場所。考えろ…同じ立場なら俺はどこに行く…。
正直、紫ノ宮さんが何を考えているのかなんて分からない。でも彼女が必死に伝えてくれた気持ちには答えたい。答えなくてはいけない。好きの一言でいい。伝えることができれば彼女の死を止められる。

「屋上か…。」
「おお絶好の告白ポイント!」
「ちょっと部長黙っててください。」
「はーい。」

 階段を急いでかけ登る。俺のことを好きといってくれた少女を救うために。。
いじめられっ子で、だけど他人に優しく心が傷つきやすくて…一人で抱え込もうとしている女の子。自分は好きになってもらう資格がないって言い出すようなバカでどうしようもない女の子。それでも、もう一度彼女の笑顔を見るためなら今は何があっても死なせない。
思いっきり屋上の扉を開いて屋上へと出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...