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第一章: 天文部
第11話: 部長の風格
しおりを挟むどこを探しても彼女が見当たらない。さよならってなんだよ。まさか本気で死のうとしてるんだとするなら笑えない。クラスに戻っていると考え、クラスの中を見てみるがやはり居ない。
仮に校舎の外に出ているとしたらもう手がつけられない…。急いで下駄箱まで走る。階段を二段飛ばしで駆け下り一階の下駄箱までの道のりを急ぐ。
彼女の上履きがそこにあったら外まで行かなきゃいけない。彼女のことをほとんど知らない俺が校舎外で彼女を見つけ出すのは不可能に近しい。下駄箱に駆け込み、彼女の靴の場所を探す。こんな真剣に人の靴探すなんて思わなかった。分からん…どこだよ…。そんなとき横から鋭い視線を感じて横を見るとそこに居たのはことの発端。溝口朱音の姿だった。今はこいつに掛けてる時間なんてない。
「何してんのお前。」
「なんでもねぇよ。」
冷たく蔑むような視線を向けて話しかけてくる彼女の言葉を流して紫ノ宮さんの靴の場所を探す。すると溝口は怪しく微笑みながら俺の耳元で囁く。
「莉奈と遊ぶなら私と付き合おうよ。あんな気持ち悪い子よりずっといい思いが出来るよ。」
溝口は紫ノ宮を見捨てて自分と付き合おうと言っている。だがその真意は彼女の気持ちに気付いていて、俺を横取りする事で紫ノ宮さんを傷つけようというものであるのは悟った。
溝口の言葉に正直限界が来ていた。ここで言わなきゃもう二度とコイツと一対一で向き合って話す場は無い。溜め込んでいた怒りが溢れていくのも分かったが止まらない。
「ふざけんなよ…お前のせいでどこまで紫ノ宮さんが苦しんでると思ってんだ!お前の都合で勝手に傷つけて自分は知らん顔かよ。人に助けを求めないで一人で我慢し続けたやつの気持ち考えたことが一回でもあるのかよ。それで自殺にまで追い込んで…お前の方がよっぽど気持ち悪いんだよ!」
「は。自殺…何それ。振り向いてもらうためにそこまでするんだアイツ。あはは。お前も災難だね、そんな女に好かれちゃってさぁ。そういうのがキモいからいじめられるのに理解しろって話よ。」
相手が女子なのは分かってる。でもここまで殴りたいと思った異性も初めてだ。拳を握りしめ必死に耐える。ここで殴ったら紫ノ宮さんを助けられない。別の不祥事を起こしたら彼女のところへは…。
「歯食いしばれよ後輩。」
そのとき横から現れた一人の少女は溝口に対してビンタをかます。容赦ない横からの攻撃に溝口は崩れ落ちて攻撃の方向を睨む。そこに居たのは顔馴染みでもある一人の先輩。枳殻藍葉で…。
「おはよう柊君。」
「いや…部長。それは…まずいといいますか…。」
「なんで君のほうが焦ってんのよ。で、後輩ちゃん。君がこれ以上いじめを続けるなら居場所は無くなるけれどそれでも言うことは無いのかな。」
「は?いじめた証拠がないのに退学とか出来ると思うの?第一アンタが私を叩いたことのほうが問題でしょ!」
溝口は怒りを浮かべて反論するが部長には表情に余裕を感じる。
「そうだね。あえて問題を作ったの。だってそうすればあなたも被害者として事情を聞かれる場を設けられる。そこで私は洗いざらい全てを話すし、証拠は無くてもここは下駄箱よ?証人ならたくさん居るでしょう。同じクラスの人ならあなたの力で言いくるめられたでしょうけど他学年も多いこの場所であなたには全員を言いくるめられるかな?」
あたりにはこの騒動で人が集まってきている。周りを見渡した溝口は悔しそうに舌打ちしながら部長を睨みつける。その後細々と溝口は部長に言葉を返す。
「どうすれば黙っててくれるの?」
おそらく今まで媚びを売り続けていたものが一気に崩壊するのが彼女にとっては嫌なのだろう。部長は俺の方をチラッと見て微笑む。え、何?
「私は柊君の出す条件を後輩ちゃんが飲めばいじめの件言う気はないよ。あっでも柊君、条件って言ってもエッチなのはダメだからね。」
「誰が出すかそんなもん!」
「冗談だよ。で真面目な話どうするの?」
「そうですね…もう紫ノ宮さんのようないじめをしないと誓う。あとは紫ノ宮さんに謝る。その二点が守れれば俺は満足です。」
「後輩ちゃんそういうことだから。先輩との約束ね。」
溝口は悔しそうに頷くと不機嫌そうに教室に向かって足早に歩いて行った。部長の初めて部長らしいところが見れて少し唖然としている自分がそこには居た。
感謝の眼差しで助けてくれた部長のほうを見るとぐったりして地面に座っている。えー。せっかくカッコいいなとか思ってたのに台無しである。そんな先輩に手を差し出す。
「部長…立てますか?」
「私は嫁入り前の女子の顔を叩いてしまった…あの子明日から不登校にならないよね!?ああどうしよう。私はなんてことをしてしまったのぉ!」
「正直すごく助かりましたけどなんであんな無茶してくれたんですか。」
「部員のみんなは君に協力してるのに私だけ除け者にされるの悔しかったんだもん。」
なんかちょっと拗ねてる…。
先輩には悪いがそんなことより紫ノ宮さんの件が優先事項だ。溝口の問題を先に解決出来た以上は後々苦しむのはもう無い。あとは紫ノ宮さんを探すだけだが肝心の位置が分からない。彼女の下駄箱どこだよ。
「あー紫ノ宮さんの下駄箱ここだよ。柊君。」
「え。やっぱ…部長読心術使えるの?」
「いやそんなことだろうなと思ってね。それでこれから口説きに行くんだろう?先輩もついて行きたいなチラッチラッ。」
「ローファーがある以上、外ではないですね。となると…。」
「無視はやめようよ柊君。泣くぞ。」
死のうとするならどこを選ぶ…校舎内で自殺を図れそうな場所。考えろ…同じ立場なら俺はどこに行く…。
正直、紫ノ宮さんが何を考えているのかなんて分からない。でも彼女が必死に伝えてくれた気持ちには答えたい。答えなくてはいけない。好きの一言でいい。伝えることができれば彼女の死を止められる。
「屋上か…。」
「おお絶好の告白ポイント!」
「ちょっと部長黙っててください。」
「はーい。」
階段を急いでかけ登る。俺のことを好きといってくれた少女を救うために。。
いじめられっ子で、だけど他人に優しく心が傷つきやすくて…一人で抱え込もうとしている女の子。自分は好きになってもらう資格がないって言い出すようなバカでどうしようもない女の子。それでも、もう一度彼女の笑顔を見るためなら今は何があっても死なせない。
思いっきり屋上の扉を開いて屋上へと出た。
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