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第一章: 天文部
第12話: 二人の時間
しおりを挟む勢いよく屋上の扉を開いて辺りを探す。そのとき屋上のおくの金網のフェンスに足を掛けている少女がそこには居た。間違いない紫ノ宮さんだ。
間に合うか分からないが一か八か。走ってフェンス目掛けて突っ込む。引きずり下ろしてでもフェンスを越えることだけはさせない。流星群の観測が死者が出たばかりの屋上でなどやりたくないし、ましてや死なれては困る。
ーーーーーーーー間に合え!!!!!
勢いでフェンスに足をかけていた紫ノ宮さんを抱き寄せる状態で引き剥がし、地面に倒れこむ。俺はさらに背中を強打し紫ノ宮さんの体重がさらに上から乗しかかり追い討ちを受ける。
会心の一撃。凛音は力尽きた。なに俺、棺の状態で彼女に返事するの?
紫ノ宮さんは慌てて俺の上から退くと意外そうな声を上げる。
「…柊くん!?」
「ちょっと…呼吸が……安定しな……ちょっと…待って…。」
こちとらもう人生でこんなに全力疾走することはないだろう。喋ろうと思うと息が上がってしまってしんどい。見た感じ強引に止めたけど彼女に怪我は無さそうでとりあえず安心する。
「大丈夫?柊くん…。」
彼女は仰向けで寝そべる俺を覗き込むと、俺の胸に頭を当てると安心したような表情で涙を浮かべながら、涙声で話し出す。至近距離での女の子の涙は正直心が苦しくなる。
「何…しに来たの…。」
俺の言葉を受け取った彼女は必死に泣きながら感情をぶつけるかのように泣きじゃくる。溜め込んでいた感情を全て吐き出すかのように。
「な…なんで私にそこまでしてくれるの?柊くんにとって私なんてただのクラスメイトじゃん…。意味わかんない!いじめられてる子なんか…相手にしないほうがいいのに…!」
必死に想いをぶつけている紫ノ宮さん。涙が止まらなく大粒の涙が彼女の頬を伝わりながら落ちていく。
「なのに…私の自殺まで止めて…。このままいじめられながら生きるの…やだよ…。私…死にたい。もう放っておいてよ!生きてる意味なんて私には無い!」
「俺は紫ノ宮さんの欲しい答えなんて分からない。正直、君を助けるのにも一人だったら何も出来なかったような人間だ。それでも人に優しく出来る紫ノ宮さんが一人で苦しんでいるなら助けてあげたいって思うのはダメかな?」
「そんなこと言わないで!私は結局…自分が限界だったから死のうとしてるんだよ?他人のためになんか考えられないよ。溝口さんが私以外の人に仕事を押し付けているときに私も一緒に遊んでた…そんなこともあったんだよ?」
「それでも俺は君に伝えないといけないことがあるからここに来たんだよ。」
紫ノ宮さんは涙を拭いながらこちらを見つめる。完全に予想してなかった言葉だったのか紫ノ宮さんは不思議そうな表情で目に涙を浮かべている。
「まず好きになってもらう資格って何。どうせ溝口かなんかに言われたんだろ。」
「いや…でもホント私なんかダメダメで…。みんなに迷惑ばっか…。」
「俺だってここまで来るのに乃愛や部長の手を借りたりしてる。友達って迷惑掛け合うくらい信頼してるってことでしょ。だからそれは悪いことじゃないよ。まぁ胸張って言えることじゃ無いけど…。」
彼女は静かに涙を目に浮かべて話を聞いている。少し落ち着いてきたようで先ほどのように取り乱すことはなさそうだ。そろそろ本題に入ろうかな。やばい緊張する。
「ここで本気で死のうって思ってるなら、紫ノ宮さんのこの先の人生…俺にくれませんか!」
「へ?」
朝のチャイムが校舎に鳴り響き、二人の空間に沈黙が広がる。
「いやいやいやいや人生くれませんかじゃない!もっと無難なやつ…えっと…。」
「だ…だよね!そうだよねプロポーズ…じゃないもんね!」
「紫ノ宮さん変なこと言わないで!恥ずかしい。」
「いやブーメランでしょ柊くん!人生くれって…。」
お互いに顔を見合わせると、ぷっ。と紫ノ宮さんが吹き出す。黒歴史として残っていくのでしょうね。告白のつもりがプロポーズっぽいセリフが出てしまうっていう黒歴史。今度はこっちが死にたい。
でも緊張は解れてぐだぐだとはいえ、彼女には涙ながらにも表情に少し笑みが戻ったような気がした。
「えっと紫ノ宮さん…。」
「は…はい。」
「このこと黙っててくださいね。」
紫ノ宮さんは顔を一瞬あげてうなづく。でもその目からは涙が溢れている。そしてまた紫ノ宮さんは顔を俯かせて言葉を続ける。どこか自信なさげで一言発するごとに涙声になっていくのが分かる。
「うん…。好きになってもいいの…君のこと?」
「おう。」
涙ながらに紫ノ宮さんは言葉を続ける。
「私…いじめられっ子だよ…?すぐ泣いちゃうし…甘えちゃうよ?そんな私でも…。」
「どんな紫ノ宮さんでも受け入れるよ。」
その答えを返したとき腕の中に柔らかい感触が突如入り込んでくる。それが彼女が咄嗟に抱きついてきていると気づくまでは時間がかかった。腕の中で泣き崩れている彼女は涙を拭いながら頭を俺の胸に当てる。
「好き…好きです……柊くん…。」
「一人でずっと辛かったよね。」
「うん…。」
泣き続ける彼女の頭を泣き止むまでそっと撫で続けた。今までは本音で話せる人がいなかったから辛かったのかもしれない。
彼女は両手を俺の胸に当て子供のように泣きじゃくる。でもどこか安心しきった彼女の表情を見てこちら側もひと安心する。とりあえず自殺は諦めてくれたようで一件落着か。
子供のように泣き疲れた彼女は落ち着くなり顔を赤らめそっと俺の耳元で囁いた。
「人前でこんなに泣いちゃったの初めてだから…秘密だよ…。」
「誰にも言わないよ。」
「約束してくれるなら…私の人生捧げてあげるね。」
「紫ノ宮さん!俺のことバカにしてるよね!?」
彼女は涙ひとつ無い笑顔でこちらにとびきりの明るい笑顔で笑いかける。その笑顔は曇りのない澄み切った笑顔で雲ひとつ無い空に一つだけ輝く一等星のような輝きを放っていた。この笑顔を見るために奔走したと思えば今回の報酬としては十分だろう。
そういえばさっきチャイムがなってたような…。そう思って時計を見ると一時限目はもう既に始まっておりとてもじゃないが今さら戻れる状況じゃない。そうだ。乃愛に連絡を入れて…そのとき気づいたのだった。紫ノ宮さんを救うのに必死でバックは廊下に置いてきたことを。スマホもその中だ。紫ノ宮さんもそのようでバックは手元に無い。放課後の罰そうじ確定である。
仕方ないので紫ノ宮さんとともに屋上にある天文部用のテントで冷たい外の風を凌ぐ。だって校舎内で今教師共に見つかる方がめんどくさいし。そこで数日前に乃愛の言っていたことを思い出して紫ノ宮さんに提案する。正直、溝口が条件を守ってくれればここまでしなくていいのだが。
「紫ノ宮さん天文部入らない?」
「分かりました!入ります。」
「兼部出来るくらい暇な部活なんだけど。はい?」
いや自分から誘っておいてなんだけど即決すぎない?茶道部の存続とやらはどうなったのよ。
「今の私は君が居なかったらここには居ないから…君のお願いとかは出来る限り応えたいの。」
いや待って純粋すぎる…くっ計算高い。
「かーっ卑しか女ばい!」
「それ嫌です。やめてください。」
初めて怒られてしまった。
でもそんな忠義を尽くします、みたいな対応されたら困る。何も見返りを求めて動いた訳では無いのに。
少し呆れ気味の紫ノ宮さんは軽くため息をつくとはにかみながらそっと呟いた。
「だから…君に釣り合うくらい立派な女の子になったら…よろしくね?」
「お…。おう。」
「せめて外見だけでも変えようと思ってるんだよね。私は上京して一年だから似合う服とかそろそろ髪とかも染めてみたいの…でも勇気がなくて。柊くんはどんな髪色が好き?どんな服が好き?」
紫ノ宮さんは立ち上がり、テントから出ると屋上の手すりに手を乗せて校庭を眺めている。そのあとを追うように俺もテントから出て横に並ぶ。
「柊くんは桜とか好き?」
「綺麗な色の花だよね。でももうそろそろ見れなくなると思うと寂しいかな。」
「…そっか。私も好きだよ桜。えへへ。」
他愛のない会話をしながら彼女とともに屋上で時を過ごしていると、気づけばあっという間に昼で乃愛が俺と紫ノ宮のスクールバッグを持って屋上まで上がってくる。
「はぁー。柊さぁ。携帯をバッグの中に入れたまま行動しないでよ!あたしだって紫ノ宮さんのこと心配だったから電話したのにバッグに携帯入ってるし!どこにいるか知らないし!先輩に聞かなかったら場所分からなかったんだからね。」
「いや悪い。ホント感謝しかない。」
適当な返しを乃愛にしつつ、バッグを受けとる。紫ノ宮さんも乃愛に近づいて申し訳なさそうにバッグを受けとる。
「私のバッグ。神崎さん…ありがとう。」
「うん。紫ノ宮さん…えっと莉奈のほうがいい?」
乃愛は恥ずかしそうに手を後ろで組みながら紫ノ宮さんに優しく話しかける。正直、好意的な乃愛の珍しい対応に少し唖然としている自分がいるのだ。だっていつも蹴られたり絞められたりしてるんだもん!
乃愛の対応に紫ノ宮さんもおどおどしながらも頑張って話をしている姿にはとりあえず安心させられる。このまま溝口と絡ませ続けるのも不安だし、乃愛と一緒に居てくれた方が俺の不安は削がれる。
「うん。莉奈でいいよ。神崎さんは…えっと…。」
「友達になるのに神崎さんはやめてよね。乃愛でいい。」
「うん…乃愛ちゃん。」
「“ちゃん”か…まぁ良いけど。っておい。お前ら笑うな!」
思わず俺と恭介は慣れないちゃん付けされる乃愛に笑いを浮かべる。恭介は日頃のお返しのように乃愛を煽る。てかお前いつからいたの?
「乃愛チャン。乃愛チャン。」
「やめろ恭介殺されるぞ。」
煽る恭介を引き止めたが顔には笑みが浮かんでいる。
「とりあえず莉奈も連絡先とか交換しておこうか?せっかく柊とも付き合うことになったんでしょ?」
「え…なんで知ってるんですか!」
「あ、やっぱりそうなんだ。」
そこは黙っておけばバレなかったんですよ紫ノ宮さん。恭介は俺の弱みを握ったかのようにニヤニヤを浮かべながら俺を見る。率直にウザかったのでやつのふくらはぎを蹴飛ばす。恭介は悲痛な声を上げて地面に膝をつく。すると何かを思い出したかのように恭介は顔を上げる。
「柊と紫ノ宮さんは午後から授業出るの?」
「俺は出ようかな。」
恭介は購買で買い込んできた大量の食料の中からパンを取り出し噛りながら聞いてくる。それ全部お前のパンかよ。拝借しようとこっそりとやつのパンへと手を伸ばす。パンを掴んだとき彼にはたき落とされる。ちぇっ。
様子を見ようと紫ノ宮さんは恭介のほうを向くと明るい笑顔で微笑みながらはっきりと語る。
「はい。もう大丈夫です。もう一人じゃないですから。」
こちらに優しく向けられた視線からは絶対の信頼を感じる。俺の今までの行動に意味があったことの表れなのだろう。
そんな屋上に午後の予鈴が鳴り響く。午後の授業が始まるまで残り五分であることの知らせだ。乃愛と恭介は荷物やパンを持つとその場から立ち上がる。恭介は振り返ると俺に対して声をかける。
「俺ら先に戻ってるけどイチャイチャして授業遅刻すんなよ。」
「いやいやしないから。」
恭介はニヤッと笑うと屋上の扉を開けて乃愛とともに入っていく。先ほど煽ったのが原因だろうが蹴られているのが見える。いつものありふれた日常に戻ったことが何より感じられる風景に安心する。地面に座っている紫ノ宮さんとふと目を合わせると彼女は顔を赤くしながら手を差し出す。手を掴み彼女を引き上げる。
「これからずっとお願いしますね。凛音くん。」
「ああ。こちらこそ。」
その日の空は雲ひとつない青空で清々しいものだった。二人の約束は桜の花吹雪の舞う屋上の上で密かに結ばれた。ひとまず彼女を縛る鎖は取り除いたのだ。
でも俺はまだ知らない。これがきっかけで新たな問題に巻き込まれていくことを。それでもこの日を俺が忘れることは無いのだろう。一人の少女の命を天文部で繋ぎ合わせたこの日を。
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