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第一章: 天文部
第13話: 天文部ここに結成
しおりを挟む全ての時間割りが終了したとき、担任の小淵沢から俺と紫ノ宮さんにはプール掃除の罰掃除が言い渡された。ある程度覚悟はしていたのだが紫ノ宮さんは怒られ慣れていないようで緊張が見て取れる。
職員室を出ると紫ノ宮さんはホッとしたのか安堵のため息を吐いてこちらを見るなり頭を下げて深々と謝る。こういう律儀な態度から彼女の育ちがなんとなく良いような感じがする。
ほっこりしながら彼女を見つめていると後ろから背中を軽く叩かれ、振り返ると心配そうな表情の親友が二人そこにいた。乃愛は紫ノ宮さんの頭を軽く撫でながら安心したような表情を浮かべている。恭介は俺の肩に手を置くと何回かうなづく。何その…分かってるようんうんみたいな対応。全く分かってないよね。
遅刻した罰は与えられたが別に怒られることはなかった。それは小淵沢自体があまりにも関心が無さそうに見えるというか関心が無いからだ。ただ変なあだ名をつけるとチョップされるし、何かと罰も理不尽だ。今回はプール掃除だからあまり悪い罰では無いと思っていたのだが……。
プール掃除といっても範囲は広かった。小淵沢の指示で水の抜かれたプールは掃除するには広く少しめんどくさいように感じる。泳ぐときは短く感じる距離も今ではとてつもなく長い距離に感じる。あまりの面積にさすがの紫ノ宮さんも滅入っちゃうよね。そう思って彼女を見ると彼女はプール掃除用の長いブラシを片手にプールの床を擦り始めている。真面目かよ…。
俺の視線を感じたのか紫ノ宮さんはこちらにブラシを一本差し出す。制服の袖をめくった肌の白い彼女を変に意識してしまい、顔を反らしてブラシを受け取る。靴下を脱いだ彼女の細く繊細で綺麗な脚にも変な意識をしないように視線を向けないようにする。ただの裸足だと言い聞かせて手を動かす。
そっと後ろから足音とともにふわっとした柑橘系のような良い香りが来る。良い匂いに油断しているとその香りに包まれた。それが彼女が優しく抱きついてきているのだと気付いて咄嗟に振り返ると彼女は表情は赤く染まった頬が可愛らしく映えている。自分からしといてずるいよ…。
「なんでこっち向いてくれないの…私のせいで柊くんもこんなことさせられてるから?」
不安そうな彼女の手からは微かな震えを感じる。俺に嫌われることをあれだけ恐れていたのだ。ちょっとの些細な行動でも不安になってしまうのかもしれない。
「いや…違うんだけどその…可愛すぎて直視出来ないといいますか…。」
面と向かって言うのは恥ずかしいし、なんかいい匂いするし。落ち着かないんだがこの体制。早く乃愛さんたち来て助けてくれ。
慌てて手を離すと彼女は両手を頬に当てて縮こまる。頬を赤くした彼女は落ち着かない様子でおろおろしている。
「そうなの…?私…可愛いの?」
「えっと…そうだね…可愛いと思ったから付き合っている訳で…。あの言わせないでください。恥ずかしすぎて死んじゃう!」
一度目を閉じてから彼女は何かを決意したように口を開く。そうして彼女の手に持つブラシが彼女の手から滑り落ちたと思った刹那、彼女は俺との距離をそっとつめて目の前に立つ。目を潤目ながら…。
「嫌なら避けてね…?」
「避け…?」
次の瞬間、唇に柔らかな感触が触れる。優しく甘い感触が触れたと思えば離れていく。少女は背伸びしていたようで、かかとを地につくと悪魔っぽく微笑む。
「私の初めてです。」
「それは…俺もだけど…。」
「えへへ…変な汗かいちゃった…。早く掃除しちゃおっか…。」
時々思い切ったことをする彼女の行動にこちらも心が落ち着かない。それでいて恥ずかしそうに振る舞う彼女の態度にこころがどきどきする。この感情を世間ではこころがぴょんぴょんするというらしい。まさしくそれだ。
彼女の胸元をパタパタ手で仰ぐ行動を見ておもわず胸元の大きな膨らみに目がいってしまう。汗をかいている彼女の白いワイシャツの下からは薄緑色の生地が薄っすら透けている。見てはいけないと目をそらしたのも束の間、突然横から大量の水がホースから吹き出て俺に直撃した。紫ノ宮さんの方とは逆方向からだ。
「熱々で火事になりそうだったので柊を鎮火!」
ホースを構えていたのは自分の顔馴染み。と言ってもこんなことしてくるのは一人しかいない。
「恭介テメエ畜生!」
「柊くんびしょびしょだよ…タオルで拭かなきゃ風邪引いちゃうよ。」
「紫ノ宮さんも濡れ…」
さすがに横にいた紫ノ宮さんも被弾しない訳がなく制服が濡れて下着が透けてしまっている。直視出来ないって。いやいや彼女になったとはいえ、さすがにそういう目で見るのは良くない。
「どうしたの柊くん?タオルあるから拭くよ。」
てか紫ノ宮さんそこそこ胸あるよね。そうじゃない!気付いてないのかな…とりあえず…こう…さりげなく教えないと。
「まずは自分を拭いたほうがいいよ。風邪引いちゃうし…ね?紫ノ宮さん。」
「いや柊くんのほうが水食らってるんだもん。柊くんのほうが先だよ…」
「だから…その…緑の…あっいや…」
「緑?…み…見た?見ましたね!」
その反応やめてなんかもうごめんなさい。次の瞬間紫ノ宮さんにホースを構えられ戦慄する。え?何。俺また濡らされるの?
「柊くんのバカ!」
ほぼゼロ距離からの水を食らってもう着替え不可避の状態にされたがその後、ホースの水を使って水を掛け合う水の掛け合いに発展した。そのときの紫ノ宮さんの表情は明るく今を全力で楽しむ年相応の女子そのものの姿だった。全力で遊んだ後、俺らは水の抜かれたプールの中で寝そべりぐったりしていた。
仰向けで見た空には一つの輝く点が見えた。紫ノ宮さんは不思議そうに俺と恭介に疑問を投げかける。
「昼間に星なんて見えるんだね…あれって星なの?」
「分からん。柊分かるか?」
「俺に天体に関する知識はない。けど部長が望遠鏡を使えば昼間でも条件が整えば一等星は見えるって言ってたような気がする。だからこうして肉眼で見えるのはありえない…のか?」
「不思議な現象なんだな。じゃあ写真でも…あれ…星は?」
そのとき空に光る点は姿を消していた。それがなんだか分からないが直感は良いことが起こりそうだと言っている。紫ノ宮さんには笑顔が戻り、どんなものより眩しい。それは摩訶不思議に見えた一等星の輝きよりも俺には輝いて見えたのだった。
“一章 完結”
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