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第ニ章: 生徒会選挙
第27話: Result …
しおりを挟む全校生徒に向けて挨拶をした柏崎さんは壇上に置かれている原稿用紙をそっと畳んだ。段差があるため全校生徒からはそれは分からないが後ろで見ている演説者のメンバー全員にはそれがはっきりと分かる。
それを見た凪沙さんの兄の翔さんは思わず俺のほうを見て笑いかける。彼女にとってそれが自滅行為のような気がしなくも無いのだが、まさか俺がアドリブで言ったからとかじゃないよね!?
「私は今回の生徒会選挙でいろんな人に助けて貰いました。だからまずはこの場をお借りしてありがとうを伝えさせてください。入院しながらも私のことを気にかけてくれた親友、こんな私でも応援してくれるクラスメイトのみんな、気を使わせちゃった可愛い後輩、そして…。」
柏崎さんは振り返ってこちらを見ると笑顔で俺の紹介をしてくる。
ちょっとそれは公開処刑の流れじゃん!?安心して廊下を歩けなくなるわ!
「口は悪いけどすごく優しい私の応援演説者さん。」
全校生徒の注目の的にされるとか完全にこれが仕返しならタチが悪い。しかも照れながら言われたらこっちも恥ずかしいんだからねっ!!男がやっても汚い反応だよねって前もどっかで言った気がする。
「みんなが居なかったら私はここに立つことすら難しかったと思います。私一人じゃ出来ることには限界があるから…それでも…私がもし生徒会長になれたなら、みんなで学校を良くしていきたい!そのためには、ここにいる全員に協力して欲しいんです。生徒会をもっと身近に感じて欲しいし、遠慮なく頼ってもらいたい………私がみんなに頼ってるのに矛盾してますかね…えっと…。」
原稿用紙を畳んだのが仇となったのかここであたふたし始める柏崎さんに対して、全校生徒のほうではざわざわが発生する。可愛いだのなんだのという声が辺りから聴こえてきて罵声では無かったことに安心する。
柏崎さんが言葉に詰まって沈黙が体育館に広がっていく。柏崎さんは必死に言葉を紡ごうとするが出てこない様子であった。
思わず頑張れと座りながらも念を送ることしかできないでいたとき、彼女は満面の笑みを全校生徒に対して向けた。そのまま彼女は深呼吸を一回して再び演説に戻った。
「私が生徒会長になったら目安箱を設置しようと思います!この学校の改善して欲しいところを紙に書いて投函してくれれば生徒会があなたの要望に出来る限りお答えします。私に出来るみんなへの恩返しはこれだって思ったので。…最後に私を支えてくれたみんなにありがとう…。これで私の演説を終わります!」
柏崎さんは最後に一礼して、自分の椅子へは気持ち早めに歩いて戻ってくる。
引っ込み思案だった少女がこれほど堂々と演説が出来たなら例え会長戦で負けてもやりきった感じはあると思う。見た感じ爪痕を残すことには成功していると言っても過言ではない手応えを今のところは感じている。
柏崎さんと入れ違いで翔さんの応援演説者が壇上に向かっていく。柏崎さんは戻ってくるなり、俺を見るなり何か言いたげにこちらを見つめてくる。
「なんだよ。」
「ううん…大したことじゃ無いんだけど…。」
妙に素直な柏崎さんを横目にただただ残りの時間を過ごす。自分の番が終わると案外時間の経過は早いようであっという間に生徒会選挙の演説は終了した。
このあとのクラス内投票を終えると選挙管理委員会の方々がその票を集め、集計すると言ったもので結果は本日の午後に生徒会室前の廊下に貼り出される。一回昼食を挟むのだが全く飯が喉を通らない。だって心配でしょ…柏崎さん本人もなんかソワソワしてるし。
教室に戻ると教室前の廊下で乃愛が飲み物片手に待っていた。手に持った飲み物をこちらに投げて渡してきたのでそれをキャッチしてお礼をいう。
「ありがとう。」
「飲み物くらい飲んどけ。あと結果出たらみんなでファミレスでも行って打ち上げしよ?」
「やったー。乃愛の奢り?」
「たかるな。」
こんな馬鹿らしい会話さえも最近は出来ていなかったため嬉しく感じる。
そんな乃愛に連れられ、教室に入ると紫ノ宮さんに恭介が温かく迎え入れてくれた。さっきまで恭介には若干な殺意が目覚めていたが、なんだか部活に戻れたみたいでこのメンバーが何だかんだ落ち着いている自分がいる。まぁそれはそれだから許さないけど。
そんないつもの四人でのんびりと昼休みを教室で過ごす。無駄に演説でコミュ力を使ってしまったため、教室でグダグダする以外の選択肢は俺にはない。とは言え、選挙の結果発表も控えてるしあんまり休んだ気がしないんだが…。
ふとそこで思ったのだが柏崎さんを一時的に紫ノ宮さんに預けたとき、紫ノ宮さんはどんなことをしたのだろうか。その疑問をさらっとこぼしてみる。
「紫ノ宮さんさー。柏崎さん預けたときなんかしたの?」
「え。ああ…えっと…秘密…。」
なんかスゴイ焦った様子で隠蔽されたような気がする。そんな恥ずかしがるようなことしたのだろうか。
そこにタイミングよくなのか柏崎さん本人がこちらにきて俺を呼ぶ。それに釣られてか恭介も俺の後を追って付いて来る。
「あー、りんりん。結果発表一緒に見てくれないかな…?」
「構いませんけど…なんでお前はいるんだよ。」
「りんりんって何。柊りんりん。」
相変わらず謎のニックネームで呼ばれたことに疑問符を浮かべる恭介に対して、柏崎さんは若干引き気味で話を振る。
「…永峰くんはりんりんの付き添い?」
「そうですねー!今回うちの柊がお世話になったそうで!」
「いやいや。俺がお世話したほうだから。」
「そうそう。え?りんりん待ってよ。なんか酷くない!?」
普通に事実を述べただけなんだよなぁ。
悲痛な声を上げる柏崎さんに対し恭介は少し驚いたような対応をする。
「柏崎さんって結構静かなイメージだったんだけど結構喋るんだ…。」
「えっ…そんなイメージだったの?りんりんも?」
「そうだったら楽だったんですけどね。初対面でいきなり絡まれたから俺のなかでは恐怖の象徴っすね。」
「あれはホントの私じゃないっていうか…その……えっとー。」
なんかあわあわしている柏崎さんを面白いなとか内心思いながら恭介と笑い合う。
「柏崎さん、柊もそろそろじゃね?結果発表。」
「もうそんな時間か。」
「なんかあっという間だったね。」
「俺には長い一週間でしたよ。もう二度とやりたくない経験です。」
「あはは。じゃあ来年は会長は無理かな。」
冗談を言いながら、選挙管理委員会の集計結果の模造紙の貼り出しを待つ。
柏崎さんはそれでもソワソワは隠しきれていないようで目線があちこちに泳いでいる。そんな泳ぐ目と一瞬、目が合うと恥ずかしそうに彼女は目をそらして、そっと口を開く。
「りんりん…私たちって友達だよね?」
「お前、ここまでこき使っておいて友達では無いと?」
「そういうことじゃないよ!それで…よく紫ノ宮さんにモテたね…。」
「それお前の後輩にも言われたんだけど。」
「千夏が?あはは。さすが千夏!」
「叱っとけよ!?」
「はーい。…あと…凛音くんありがと。」
「…おう。」
貼り出された掲示物に目を通す。結果を見た柏崎さんはそっと俺のほうに向いて笑顔を向ける。俺もため息を一つして向き合う。
その結果はおそらくこの学校初となる高校二年生の生徒会長の誕生にて閉幕した。
安心したのも束の間、次の瞬間いきなり横からくる衝撃に何とか耐えて立つ。焦って横を見るとそこには泣き笑っている柏崎さんが飛びついてきていた。
「離れてくれ。苦しい。」
「ありがとう!凛音くん…私、勝ったよ!ありがとう…ありがと…。」
「聞いてた?柏崎さん。」
それを見ていた前年度の副会長『茅野翔』は微笑みながら拍手を柏崎さんに送る。柏崎さんは慌てて俺から離れて気まずそうに頭を下げる。翔さんの背後にはその妹である凪沙さんの姿もあった。翔さんはそっと笑いながら頭をかきながら口を開く。
「まさか今年も副会長にされるなんて思わなかったよ。それに柊くんの応援演説を聞いてから様子が変わったからちょっと嫌な予感はしてたんだよな。でもおめでとう。柏崎会長。」
「そんな…ごめんなさい。先輩にとっては最後の高校生活なのに…。」
「そういうのは無しって言っただろ?」
何このイケメン対応。それを見た恭介があからさまにつまんなそうな顔してる。
そんな翔さんの的は次に俺に向けられる。
「柊くん。君は柏崎さんのことをよく分かっている。だから生徒会に入らないか?」
生徒会に入れと…。それなら答えなら決まっている。そう言われたときに答えるとそう決めていたものがあるのだ。柏崎さんとここ数日仕事をこなすようになって生徒会の仕事の多くを見て、経験を重ねてきた。
だからこそ、こうすると決めたのだ。俺の答えは…。
「丁重にお断りします。」
部室に一人の親友の嬉しそうな声が響き渡る。それを見た乃愛は冷たい視線を彼に向けている。紫ノ宮さんは部室に置いてある茶器でお茶を作ってくれているが彼とは一定の距離を取っている。
「柊さんさすがだわ!あのイケメン副会長のやつ!お前に断られたときにいい顔してたぞ!あはははは!」
「恭ちゃんクッソ性格悪いよ。自覚あるよね?」
「いやいやあれは滑稽だね!」
「俺だって生徒会はもうこりごりだよ。労基に引っかかるブラックだよあそこ。」
「いや引っかかんねぇから。」
乃愛は自然なツッコミを入れながら紫ノ宮さんの入れたお茶を口にする。紫ノ宮さんはお茶を全員にお茶を配って俺の横の席に着席する。
ふと久しぶりに部室を見渡すと見慣れないものが一つ置かれている。その扉を開け閉めして中から出てくる冷気を感じて本物でなおかつ新品であることを悟る。やな予感しかしない。
「乃愛、お前さ。これ知ってた?」
「部長が夏を乗り切るために部費で落としたコンパクト冷蔵庫。」
「いやその理由通らないでしょ。」
するとさっそく部室の扉がノックされて開けられる。そこに来ていたのは柏崎さんだった。手に持っている書類から何となく訪ねてきた理由を察する。咄嗟に冷蔵庫の前に立って原因物質を隠す。
「りんりん。部長さんって今居ない?」
「あー居ないねー。さっそく仕事してるの?」
「うん。会長とは言え私が動かないと!りんりんなら分かるかな?部費から引き落とされてるこれ何?」
彼女の持ってきた書類を覗き込むとそこに書かれていたのは『夏を乗り切る必要経費 五万』の文字。間違いなく部長の書いた申請書だろう。合宿費とかで誤魔化せないだろうか。
そこで何かを察した恭介が冷蔵庫からプリンを取り出して、柏崎さんを椅子に座らせる。連携して紫ノ宮さんもお茶をお出しする。どうやら完全に共犯にするつもりらしい。紫ノ宮さんも乗らなくていいのよ?
「永峰くんも莉奈っちもありがとう!このプリン冷えてて美味しいね!なんでこんなにひんやりなの?」
「柏崎…アンタの食べたプリンはこれで冷やしたものなのよ。」
「え。神崎さん。もしやこれが夏を乗り切る必要経費…。」
唖然としている柏崎さんの肩を軽く叩いてお願いをする。これは合宿費の一部ってことにしてもらおう。
「柏崎さん、これ合宿費ってことに…。」
「りんりん。それはダメ。」
新たな生徒会長は必死に部員四人の嘆願により今回は折れてくれた。その理由としては今回の選挙の俺に対するお礼という形だった。なんか身を粉にして動いても自分への見返りがほとんどない。
しばらくはのんびりと学校生活を送りたい。窓から見える青空に映える太陽の眩しい光に嫌気を感じながらため息をつく。生徒会選挙で忘れていたがぼちぼち中間試験がそこまで迫っている。
落ち着いた日々を求めるが面倒ごとはまた一つとして現れていくのだった。
“二章 完結”
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